Phase4-2『私の名前は』
Phase4-2 23/7/10 投稿
Original perspective by Sei
マクラウドへの謁見後、俺は監視役の女性に連れ出されるまま町の中を進んでいた。
「…………はぁ」
車いすの上で押されるままひたすら進んでいる。いったいどこに向かっているのか……まぁ、先ほどの治療施設かもしくはレダルキアの仮住まい何だろうが……。
「なぁ、あんた名前はなんていうんだ」
首だけで振り返って相手の顔を見上げながら尋ねる。
「――――――」
しかし音沙汰は無し。まるで俺の言葉が聞こえていないかのように淡々と進んでいる。
「やれやれ。
まぁいいや、とりあえず食事出来るところに連れて行ってくれるか。
もしくは調理できる材料があるところ」
俺がそう言うと相変わらず口も開かずに淡々と道を曲がった。
監視役の淡々とした行動に大丈夫なのだろうかと不安を覚えたが……それも数分しないうちに掻き消えることになる。
「わぁ、思ったより色々あるんだな」
商店街、と言っても差し支えないだろう。
果物、野菜、奥の方には食事処だろうテーブルも見える。
「なぁ、アンタのおすすめを教えてくれないか」
「――――――」
駄目元で尋ねてみるが相変わらずの無言にやれやれと首を振った。
どうやら本格的に俺とは会話をするつもりがないらしい。
「こんにちは。
おや、坊主この辺で見ない顔だな。
どのあたりに越してきたんだ」
と、総菜屋だろうか、香ばしい匂いをさせた店から店主がカウンター越しに声を掛けてきた。
「えっと、こんにちは。
俺は……どこに住むんだろ。
ちょっとまだ新居に行ってないからわからないからわかんないんだけど」
助けを求めようと後ろを振り返ってみたものの、監視役は相変わらず俺と目も合わせようとしない。
「はっは、そうか。
とりあえず飯だな。買ってくんだろ、金は持ってんのか」
そう言っておいしそうな総菜パンを差し出してくる店主。
せっかく声を掛けてくれたのだ、別にあてがあって回っていたわけでもないしこのまま勢いで買うのも悪くないだろう。
「あぁ、少しだけど持ってるよ」
そう言って袋の財布を取り出し、通貨を適当に渡して見せる。
銀貨を混ぜておいたので足りないことはないと思うが……さすがに出しすぎたかもしれない。
どうだろうかと顔色を窺うと、店主の顔色がみるみる変わっていく。
「坊主、お前、アルキリオの人間か」
「え……」
そう言われ、意味を理解したときにはもう遅かった。
「おい、お前ら、アルキリオだ、アルキリオが来たぞッ」
一瞬でざわつく商店街。次々とやってくる人に俺は車いすから動けずにいた。もちろん監視役も逃げようとする様子はない。
「ちょ、まって、話を……」
何か言い訳をと思うがとても話を聞いてくれそうな雰囲気ではない。しかも各々で武器を持ち『何の用だ』『殺してやる』『仇だ』などと怒鳴りつけてきている。
非常にまずい、このままでは文字通り公開処刑だ。誰かが号令を発すれば俺は一瞬で八つ裂きに違いない。
魔術を使えばどうにか切り抜けられるか、と思案して手足に魔力を通し……。
「待ってッ」
商店街中に響くほどの大声。何も出来ずに座ったままだった俺の目の前に、青年が一人庇うように立ちはだかった。
「あァ、おい、コイツ庇ってただで済むと思ってんのかオマエ」
先ほどの笑顔はどこへ消えたのか、店主が酷い形相で青年を睨みつける。
「落ち着いて、こいつは私の知り合いなんだ。
聖域で一緒に住んでて、な」
青年が振り返って俺を見つめる。
「あ、あぁ」
何故助けてくれるのかはわからないが、とっさに返事をして話を合わせた。
「さっきの銀貨も聖域で少し通貨として出回ってたから……私が加工しなおすから今回は見逃してくれ、この通り」
そう言って青年が店主に歩み寄り……周りから見えないように銀貨を握らせた。
「……チッ、今回だけだぞ。
お前ら、勘違いだったみたいだ、解散だ解散ッ」
店主が言うと商店街中がどよめき、数秒後みな呆れたようにまばらに解散していった。
「ありがとう。
……いくぞ」
店主に礼を言うとここぞとばかりに青年が俺に声を掛けた。
「え、あぁ。
……頼むあの人についていってくれ」
俺は監視役に掛け、少年の後を追った。
そこから数分、居住区の方へ進んでいく。
「助けてくれてありがとう。
けど、アンタは、いったい……」
恐る恐る尋ねると、青年は足を止め振り返り、俺の、ある一点を見つめた。
「私の名前はドド。
お前が付けてる左手の小手に用があって助けた」
ざわ、と、背筋に冷たいものが通り過ぎたような感覚。
揺らぐ視界、胸に落ちる確信。映る青年の姿は確かに―――――。
―――――†―――――
another prespective by burn
レダルキア及びアルキリオ国境間、サクリファイスアジト内。
「――――」
ほとんど光の刺さない洞窟の建物内でバーンは静かに覚醒した。
どういう状況かと身体に力を入れようとして、両手両足の感覚が無いことに気付く。切り落とされたのかと一瞬不安になり視線を落とすと足がきちんと付いていて安心した。
太もものあたりにはおそらく自由を奪っているのであろう針が一本ずつ刺さっている。
おそらく後ろ手にも同じように刺さっているのだろうか。
「目を覚ましましたか、騎士様」
「―――――」
いつの間に近付いてきたのか、視線だけ声がする方へ動かすと、入れ墨を彫った顔がバーンを見下ろしていた。
「流石に警戒してらっしゃいますねえ。
そんなに警戒せずとも、大丈夫ですよ。いくつか質問に応えてくださればきちんと開放しますから」
にやりと邪悪に嗤う男をバーンが睨む。
「俺が知っていることはさほどない。
訊くだけ無駄だ」
バーンが切って捨てると男は大げさにため息をついて見せた。
「そうですか……。
まぁ、それはそれで結構ですよ、貴方が応えられなかっただけ、後ろの二人が痛めつけられるだけですからね。
申し送れました、私の名前はクラーキィ=ワン。
サクリファイスのメンバーです。
貴女のお名前を教えていただいてもよろしいですか」
バーンの後ろに視線を送る男。位置的に見えないがおそらくそこにシールとブレイドが居るのだろう。
「バーン」
さすがに二人に手を出されるのは困る為、バーンは大人しく答えた。しかし。
「……フルネームで、答えなさい」
何か気に障ったのか、クラーキィは目を細め、敵意を顕わにした。
「ファミリーネームはない。俺はバーンだ」
何が不服なのかはわからないが、バーンは繰り返し伝えた。
「やれやれ……」
呆れたようにため息を吐くと、クラーキィはナイフを取り出し、バーンの後ろに視線を送った。
「待て、本当なんだ。俺は……」
「一応、教えて差し上げあげましょう」
抗議するバーンの言葉をクラーキィが遮る。
「魔術に於いて名前は重要なファクター。アルキリオでは一定の単語、名称を個人の名前として濫用しない暗黙のルールがあるのですよ。
使えるのは一部の貴族、名家のみ。例えばそちらで転がっている二人の『ブレード=ナイツ=ライン』『シール=ランサー』ほかに賢士の『クラウド』、騎士名家で言うのであれば『フレア』『フォルデフォル』『ブラウン』『ウィン』など、まぁ割と多いのですが。
あなたのその名前『バーン』も使用すべきではない、名前なんですよ。
騎士に入隊する前ならいざ知らず、そういった名前を持っていた場合、入隊と同時に変えられることもざらだ。
それが、名字も持たないあなたに与えられるなんて、あるはずがない。認められない」
ぎり、と奥歯をかみしめるクラーキィ。
「改めて訊きましょう、貴女のお名前は」
努めて冷静に、しかしその眼には隠しきれない怒りを込めて。
鋭い眼光に射竦められるも、言っている意味が解らないバーンは動けないまま、見上げたままで声を荒げる。
「本当に、知らないんだッ。
俺は数年前までの……ナハトっていう村でキリアリスに拾われる前の記憶がないんだッ」
バーンの言葉にクラーキィがはっと口元に手を当てる。
「ナハト村の、バーン……」
そのままぶつぶつと何か呟いたかと思えば納得したように数度、ゆっくりと頷いた。
「なるほど、辻褄は合うわけですか。
……いいでしょう。
偶然でしたがなるほど、メビウスは良い拾い物をしてきたようだ」
ぱちん、とナイフを仕舞い、目の前にひざまずくとクラーキィはバーン顎をくい、と引き上げ。
「改めて名乗りましょう。私の名はクラーキィ・フォール・バーン……。
貴女と同じ、『バーン』の名前を冠する者です……」
そう、自分の本当の名前を告げた―――――。




