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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
7/72

プロローグ7

プロローグ7分の7

来週から本編が始まります。

――――――――――†―――――――――――


Original perspective by Flare


 早足で三十分程度、たどり着いた大樹は自分の想像していたものより何十倍も大きかった。

 夜中で暗いから、というのももちろんあるのだろうが、幹の端がに視界に映っていない。

 根も非常に太く、幅が自分の身長ほどもある。根と根の間に入ってしまえばすっぽりと隠れてしまえる。

「これは、結界の起点を探すだけでもかなり骨が折れそうだ」

 しかし、泣き言は言っていられない。今こうしている間にも、もしかしたら部下たちは戦っているかもしれないのだ。

「────Search.」

 感知の魔術を応用して魔術の起点を走査する。これを移動しながら繰り返すだけ、地道な作業だ。

 根から根へ飛び移りながらひたすら繰り返す。そうして一時間近く経ったころだろうか、魔力がひときわ濃いところを見つけた。

「ここか」

 見たところ、魔法陣のようなものは見当たらない、そもそも魔力の濃い部分は樹の幹の中にあるようだ。

だが、その程度であれば想定の内。俺はあらかじめ準備していたカラの封石を数個取り出してその力の源に一番近いところに置いた。

 あとは起動してやればあたりの魔力を吸い始めるため、魔力で構成された大樹はある程度削れるだろう。

「……それにしても、これ以上ないタイミングで来たね、セイ」

 ゆっくりと振り返る。

 そこには息を切らせながらこちらを見るセイの姿があった。

「そのあたりだと巻き込まれる、離れたほうがいい」

 巻き込まれる危険性など皆無だがそう言うことで封石に触れないようにさせるのが目的だ。

「嫌だ、ここで引き返せば絶対に後悔する」

 そう言ってこちらを睨みながらセイはゆっくりと剣を抜いた。

「それに、俺はクックフェトさんに話を聞いて来いと送り出された。

 なんの真意も知ることもないまま帰るなんて、死んでもしない」

 なるほど、セイだけがここに来た理由はそれか。相変わらず俺の部隊のメンバーはみんな甘い。

 ────本当に、本当に素晴らしい。やはり俺は恵まれている。

「いいだろう、ならばその剣で訊いてみろ」

 聖剣『アクタリール』を抜く。構えられたから応じた、というのもあるが何より、彼が本気を出したとしたらどう戦うのかを見たかった。

「───Physical effect/flat───」(身体強化/起動)

「───Physical effect───」(身体強化)

 重なる詠唱、視線が交差した瞬間、お互いがお互いに向けて駆け出した。

 セイの初手は逆袈裟。斜めに切り上げられる刃を立てた剣で受ける。

 弾ける火花、なるほどアルタキエラという名前は伊達ではないのか、軽めの剣の割に斬撃が非常に重い。おそらく、剣にも魔力が通るのだろう。

「なんで大樹を壊すんです。この国のシンボル、それを無くすことに何の意味があるっていうんですかッ」

 右から二連、さらに早い。

「これはこの世界を閉じ込めている。

 もっと広い世界が、大地の向こうがあるんだよセイッ」

 それをいなし後ろへ一歩、剣を引いて右から袈裟に切りつける。

「だれが作ったのかは知らない、だが、誰にだって世界を閉じ込める権利なんてないだろう」

 セイはそれを鍔本で受けると、そのまま競り合ってくる。

「それ…でッ。

 それで悲しむ人がいて、あなたは胸を張ることが出来るのか、フレア=ダイアスレフッ」

 がりがりと鍔迫り合う剣をこちら側に押しのけて剣を左下に切り払われる。

 そのまま切り返してさらに早くなるセイの剣戟。

 いくら軽めに作られているとはいえ、木剣よりだいぶ重いそれを、木剣より早く振るってくる。正確に、そして────命を奪う位置ではなく、動きを制限する部位へ攻撃してきている。

「セイ、君は知らない。この大樹があるから」

 それを切っ先で払い、再び一歩下がる。

「魔力を使える人間が多く生まれること、そして魔力を持たない他国との争いが絶えないことをッ」

 そのまま距離を利用し軽く飛んでから勢いを乗せた強めの斬撃で畳みかける。

「───うぐっ」

 ひときわ大きな金属音が響く。セイは剣を斜めに受けたようだが、うまく衝撃を殺しきれず、二歩下がって、俺の着地を狙う突きを放ってくる。

「この大樹の力を我が物顔で振るう、兵士の命を使い捨てるアルキリオの腐った頭を更生させるにはこの大樹と結界を消す他ないんだッ」

 突きをくぐるようにして懐へ、強く踏み込んで肩をセイの胸にぶつけに行く。

「────/Stack──ッ」

「──……ッ」

 セイは焦ったように詠唱すると肩と胸の間に左腕を差し込むようにして防御してきた。

 なるほど……強化を腕に重ね掛けして早く動かしたのか。確かに、彼は詠唱無しでそれをやっていたのだから詠唱込みでもできないことはないだろう。

「君こそなぜ大樹を庇う、こんなものが、魔力なんてものがなくても努力する人間は努力するし、落ちぶれる人間は落ちぶれる」

 威力を殺しきれなかったセイが若干後ろに飛ばされあとじさる。しかしすぐに剣を構えなおしてこちらをじっと睨みつける。

 おおよそ七メートルというところか。一足の間合いが二人の間に開く。

「むしろキリアリスのようになんの努力もなく聖槍に見初められただけで戦場を我が物顔で闊歩する人間がいる、その事実がッ。

 生まれながらにして不平等が敷かれるこの世界の方が遥かに歪んでいるッ」

 今まで胸に秘めていた言葉が次々とこぼれていく。

「何より憎い。あんな罪人が、なんの制限もなくのうのうと街を歩く姿が、苦しんでいる俺の、心も、知らずに生きているその現実がッ」

 まるで叫ぶような慟哭。左頬に伝う感触で、自分が涙を流していることに気付いた。

「だから、俺はこの大樹を、結界を消すんだよセイ。

 セイ=ディリブ・フロクレス」

 涙をぬぐうこともせず、正面に剣を構える。

「魔法名か、君がなぜその名を冠したのかは知らない、『フロクレス(選定者)』とは、君の名付け親が誰かは知らないが悪趣味な名前を付けたものだ。

 君も、それで苦労してきたに違いない」

 選定者。神に選定された者という意味でつかわれ、本物の聖剣、聖槍に認められたものの総称だ。例えばキリアリスのような人物を差す。

 間違っても俺みたいに人工の聖剣を持つものやセイのようにそもそも魔術を使いこなせていない人間を指す名前ではない。

「そうだよセイ。

 魔力さえなくなってしまえば、選定者も居なくなる。君がその名前に苦しむ必要は無くなるんだ」

 そう言うと、セイの顔からこわばりがふっと消えた。何を思ったのか、一度瞼を閉じてゆっくりと開く。

「ありがとうございます、ダイアスレフ隊長。

 でも俺は、このアルキリオに来るまで名前の意味を知らなかったですし、困ったこともない。

 それに、これから苦労するとしてもこの名前は間違いなく祝福あれとつけられた名前です。

 感謝こそすれ、憎むことは絶対にない」

 セイは今、アルキリオに来るまで、と言ったのか。ということは彼は……。

「そうか」

 なるほど、それならば国境付近でキリアリスに拾われた理由も、魔力がこの国の人間らしからぬほどに少ない理由も、納得がいく。

 セイはゆっくりと息を吸い込むと『/Stack』と詠唱した。どの部位に魔力を込めたのか、少なくとも次で決める気だろう。

『───Physical effect/Boost』(身体強化/高出力)

 対する俺は重ね掛けではなく出力の上昇でそれに応じる。

「────来い」

「────行きます」

何の駆け引きもなく真っすぐ突っ込んでくるセイ。俺は剣の動きを悟られないようゆらりと剣先を揺らした。

「……シッ」

しかし、揺れた剣先に惑うこともなく、セイは剣の先を的確に弾き懐に飛び込んでくる。こちらから見て弾かれた剣は左、セイはやや右側へ。

 俺は飛び込んできたセイを迎え撃つべく弾かれた剣をゆらり、と引き寄せ払うように切った。

「──あッ」

辛うじてそれを払ったセイが大勢を崩したようにさらに右に流れる。

獲った。と、確信した。

 こちらに視線すら送れていないセイ。

 上方からセイの背中に剣を振り下ろす、これを振り切れば間違いなく────殺してしまう。

 気付いた時には遅かった。思わず速度を緩めてしまった。

 いつぞやの訓練の焼き増しだ、振り下ろした剣は空しく地面を叩き、

「────ッ」

 すれ違いざまに加速したセイは今までのものが嘘だったかのような速度で、まるで独楽のように身体を回転させ、俺の足を狙い、

「うぁああああああっ」

 怒号と共に一閃した。

 時間が停止したような感覚に陥る、よくもまぁ、ここまで成長したものだ。俺が『殺せない』こともきちんと念頭に置いて、しかし正々堂々と打ち倒しに来たその気概。

 自分の教えた人間がここまで成長したことに俺は感謝しつつ。

「────遅いッ」

 訓練の時よりはるかに高い威力、早い速度でセイの胸を全力で蹴り上げた。

「────あッ」

 みしみしと肋骨を蹴り砕く独特の感触が足に伝わってくる。

 宙に舞い上がったセイが石ころのように地面に背中から落下し、転がった。

「かっ、は……ぁ……」

 胸から、そして背中からの衝撃で呼吸がままならないのだろう、剣を右手に立ち上がろうとするがふらふらと頭が揺れるだけで立ち上がれずにいる。

 満身創痍のセイにゆっくりと歩み寄り、左手を差し出す。

「私の勝ちだ、セイ」

 そう言うとセイは悔しそうに表情をゆがめながらぼろぼろと涙を流した。

「くっ、そ、俺は……止められ、なかった」

 言いながら力なく伸ばしてくるセイの左手を掴んでゆっくりと引き上げた。

 そのまま脇に剣を置くと、強化を解いてセイを背負うように支えた。

力が入らないのか、割と重く感じる。

「ありがとう、セイのその気持ちは本当にうれしい。

 俺が少しでも間違いがないように、胸を張れるようにと思ってくれているのがとても」

 うれしいんだと、息を吐くように言った。

 するとセイは呻きながらはは、と、苦笑した。

「悪いが、もうあとは俺がやることを見ていてくれ。

 頼むから無理をするなよ、間違いなく肋骨は折れているだろうし、それに」

 そう言って横目で見たセイの顔は静かにほくそえんで────。

「本当に良かった、あなたが優しくて────」

『/Stack』と聞こえ、まずいと思ったときにはもう遅かった。

「────がッ、あ」

 右手が飛ぶ。文字通り、手首から先が切り落とされた。

 セイの強化が解かれていない。

 どんなに鍛え上げた人間でも、強化を解いた状態で強化状態の相手をするのはさすがに難しい。それが、それなりに鍛えた相手ならばなおさらだ。

「───Physical(身体) ef───」

 詠唱を言い切る前にどすん、と、衝撃と共に胸に痛みが走る。

 何をされたのか、そうか、俺は胸を、貫かれたのか。なんの、ためらいもなく。

「はぁ────」

 終わった。と呟いてセイは俺の胸から剣を引きぬく。零れ落ちる自分の命を見ながら俺は力なく膝から崩れ落ちた。

 心臓はぎりぎり外れているようだが、肺に穴が開いているのだろう、呼吸をするたびこぷと、口から血がこぼれていく。

「────な、ぜ」

 辛うじて保たれた意識にはその疑問だけだった。

 駄目押しか、セイが俺の剣を手の届かないところへ蹴り飛ばす。

「俺はここに、ユグドラシルまで来たかったんです。

合法的に、そして怪しまれないように」

 そう言われ、薄れゆく意識の中で様々な疑問がつながっていく。

 年齢のわりにおかしいくらいの聖人性、素直さ、我慢強さ。それがもし、たった一つの目的の為に耐えていたというのなら。

 自分が絶対に届かないであろう場所にたどり着くための布石だったのだとしたら。

「まさか、ずっ……と」

 騙されていたのか、騙していたのか。理解と共に湧いてくる絶望に生きる意志を失っていく。

「改めてありがとうございました」

 にこりと微笑みながらぶちぶちと何か防護服のようなものをはぎ取るセイ。あれは、たしか何処かで見たような。と、思い出そうとするが意識がまとまらない。

「この剣は手向けとしてお返ししますね」

 消えかけた視界、剣を振り下ろすセイ。殺されるというのに、不思議と湧いてこない憎しみ。

 だって、疑問が多く残っている。

 例えば、もし騙していたとして、彼の発言のどこからどこまでが真実で、どこからどこまでが嘘だったのか。

 あぁ、どちらにしろ俺にはもう関係のないことか。首にめり込んでくる剣の感触。

 あぁ、俺を利用したのが真実だとして。

 セイ、なんで君はそんなつらそうな顔で泣き笑っているんだい。

 星明りに輝く涙は儚く。無念があるとすれば、やはり、彼にそんな顔をさせるこの世界を正せなかったことだろうか。

 そう思ったところで自然と瞼が落ち───

 ────もう二度と開かれることはなかった。


――――――――――†――――――――――


another prespective by keith…


 ほぼ同時刻、待機所。

「やだ、まっ……」

「レイアッ……く、っそ……」

 目の前で首を飛ばされたレイアを見ながらキースがぐっと踏ん張って立ち上がる。

 身体はもうボロボロで、怪我をしていない場所を探す方が難しいほど。

「一時間半、か、よく粘ったな」

 ふむ、と星空を背にキリアリスがキースを見下ろしている。

「────」

 キリアリスは黙ったまま。剣戟がキースを襲う。

「ぐぅ、くっ、貴様、なんだ、それは」

「────さぁ、なんだろうな」

 そう、飛んでくるのは剣戟である。

 先ほどまででいうのなら矢も槍戟も飛んできていた。

 明らかにおかしい、キリアリスと言えば『グングニルのオーディン』が座右のはず。

 グングニルといえば誰もが知るところであろう『神槍』である。

 もちろんキースを含むショートエッジ全員がグングニルの能力は知っているのでその対策も万全に講じてきていた。だというのに。

「なぜ、その剣が貴様の手にあるッ」

「────さぁ」

 なんでだろうね、と言わんばかりの飄々とした表情、興味のなさ。何が訳が分からないかといえば剣戟を放っている間もキリアリスはその場から一歩たりとも動いていない。

 何の神秘か、剣が槍が空中で踊っている。

 しかも、そのうちの一本は軍ならだれもが憧れるであろう、アルキリオの聖剣『ティアレイン』である。

 かつて、第一親衛隊の副隊長アルバ=カリンが愛用していたとされる聖剣の中の聖剣だ。

「まさか、お前は──がっ」

 問い詰めようとしたところでキースの足に槍が突き刺さる、追って矢と、膝を付いたところで目の前にはティアレインが迫っていた。

「個人的な恨みはないが、俺も叶えたいことがあるんでな。

 恨むならセイを恨んでくれ、じゃあな」

 もう、訳が分からない。セイを恨む、あいつの何を恨めというのか。

 自分が誰のどういう思惑の中にいるのか理解も出来ないまま、他のメンバーと同様、キースは首を飛ばされた。


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