Phase 4-1『もう一人の――』
Phase 4-1 23/07/03 投降
another prespective by thys…
レダルキア軍事医療施設内、目覚めたセイは説明を受けた後困ったように眉を顰めていた。
「何よ、小難しい顔しちゃって。
まさか助けられたのが不服だとか言い出すんじゃないでしょうね」
そんなことは無いだろうと思いつつもティスは尋ねた。
ロンドンで喧嘩を売った時といいセイの性格は逆鱗の位置から地雷の場所まで全くと言っていいほどわかっていない。
しかし、そんなティスの心配をよそにセイはふっと笑った。
「はは。いや、別に不服とかじゃない……ティスってテンション上がるとカッコつける癖あるなって笑い堪えてた」
「―――――んな」
顔が熱くなるのがわかる。確かに説明中ちょっとだけオーバーリアクションだったが、命の恩人に対してそれを言うかコイツ。
「よし、元気そうだからアンタに掛かってる治療系の魔術全部解くわね」
「いや、ごめん、悪かったから勘弁してくれ……いてて」
わたわたと慌てながら顔を顰めるセイ。
「あまり無理しないことね。
傷が開いたら命の保証は出来ないわよ」
言いながら、服の下に隠れているセイの怪我を思い出す。
骨折、裂傷、打撲に出血。魔術で維持されているとはいえ彼の全身は致死レベルの怪我だらけ、あのまま治療を行わなかったら死んでいただろう。
「あぁ、助けてくれたんだな、ありがとう」
彼も魔術師の端くれ、自分に掛かっている魔術の繊細さを知ったのだろう、素直に頭を下げてきた。
「結構よ、これは借りを返しただけだから」
ティスがふん、と鼻を鳴らす。
少々不謹慎ではあるが、今回の怪我は都合がよかった。
未来での借り、戦闘でも捜索でも何の役にも立たなかった自分への落ち度、それをここで返すことが出来たのだ。
「あぁ、アレか。
お前ってほんと律儀だよな」
困ったように笑うセイ。
「律儀ついでに一つ貸してくれないか」
「なによ」
「この国の状況を知りたい。
もちろんわかる範囲、言える範囲で構わないから……頼む」
再び頭を下げるセイ。
それにティスは嘆息すると「貸しておくわ」と言って話を始めた。
「まず、この国の状況。
殺気も言ったけど、もともと魔術を含む魔という魔を排斥していたようね。
それを変えたのが元帥のブロフ=マクラウド。貴方の命を救った人ね」
言ってセイの顔色を窺うと、こちらの意図が伝わったのか、一度だけ頷いて見せた。
「詳しい時期は判らないけど十年以上前からコツコツと魔術を浸透させていたようで、ブレイクスルーは五年ほど前にあった戦闘『アバートの神罰』ね」
「なるほど、今回もあったプラムヴァルドの一撃、か。
あれを見せつけられれば確かになりふり構っていられないから……」
セイの言葉に頷いてみせる。
「そ、この国でも軍に魔術を取り込む動きが一気に活性化したってワケ」
セイの反応を見てティスは感心した。
どうやら彼はこの国の歴史に随分と詳しいようだ。おそらくアルキリオで拾われてからも歴史関係を勉強したに違いない。
「まぁ、その歴史を変えるような一撃を自分で見ることになるとは思わなかったけど。
アズラが撤退を指示していてよかったわ。
もし戦場に居座っていれば私たちもあの土地と一緒に蒸発してたもの」
やれやれ、と肩を竦める。
「大けがをしたとはいえ、貴方も巻き込まれなくて良かったわね」
「……ああ、本当に、助かった」
そう言ってセイは寂しそうに目を伏せた。
何か思うところがあるのだろうかとも思ったが、話が逸れてしまいそうだったのでそのまま無視して続けることにした。
「現状の戦力はほぼ全員が強化の魔術を使用できるようになっている時点で相当強化されているでしょうね。
それに加えて、もともと排斥されていた魔術の家系の人間がちらほらと軍の上層部に配置されたカタチね。
何の恨みを買ったのかは知らないけれどアンタの事を追っかけまわしてたアズラ=シザーフラッグなんかもそうね」
その名前を聞くなりセイは目を泳がせた。
「う、キリアリスを守った時に追い払ったから、だろうな……。
もしかしてまだ俺の命狙っているのか」
恐る恐る訪ねて来るセイ。
「いえ、とりあえずはマクラウドがやめるように言い聞かせたみたいよ。
セイの治療中もワンワン吠えてたから本当に煩かったわ……」
あれは本当に参った。繊細な魔術を使っているときに集中力を欠いてくるものだから思わず撃ち殺してしまいたくなったほどだ。
「話を戻しましょうか。
魔を滅ぼす為に魔術を使う。そして、滅ぼした暁にはこの全てを手放す、と。
マクラウドが掲げているマニュフェストはそんな感じね。ま、実際のところ戦争が終わったところでこれだけ浸透したも便利なものを人々が簡単に手放せるとは思えないけど。
それはそれとして戦争の準備は着々と進んでいるようね。
素人目に見てもなんだかんだすぐに戦争出来そうな練度はあったわ。数も書物で知る限りおそらくアルキリオの数倍はある。
もう開戦してもいいのでしょうけど、タイミングでも見計らっているのかしらね。
マクラウドの考えることはわからないわ……と、こんなところだけど何か質問あるかしら」
ティスが一息に説明しきる。
わかりやすく説明したつもりではあるのだが、伝わっているだろうか。当の本人は口元に手を当て何か考え込んでいるが……。
「ティスは、どうするつもりなんだ」
「私は……マクラウドに助けてもらったし、この国の勝率が高そうだからとりあえずこの国に居ようと思ってるわ。
……ただ戦いは役に立たなそうね。前回の戦い、試しに出てみたけどちょっと手を切られただけで何も出来なくなっちゃったのよ……情けないことにね」
言いながらティスは自分の掌を見ながら斬られた瞬間の事を思い出した。
二人も抱えたまま真っすぐに走り込んでくる女性、咥えられた短剣と、殺意に溢れた表情。
怪我こそたいしたことなかったが、恐怖と斬られた手の痛みで何も出来なかった。
大勢の兵が死んで、セイですらあんなにボロボロになるまで戦っていたというのに。
悔しさにきり、と歯を噛んだ。そんなティスの心を知ってか知らずか。
「情けないわけがないだろ、もともと戦士でもなんでもないんだから、ティスは」
ティスがはっと顔を上げる。
「普通の女の子はフォークでちくっとされただけでも痛くてびっくりするんだ。
斬られて平気な奴なんてそっちの方がどうかしてるだろ」
「え……」
さも当然のように言い切るセイに、思わず目を丸くさせてしまう。
「ふふ、そうね、その通りだわ」
自然と肩の力が抜けていくのがわかった。
どうやら思い出しながら緊張してしまっていたようだ。
「むしろよくこれだけの治療が出来たな。
確か医療魔術は専攻してなかっただろ」
「まぁね。これでも天才って言われるくらいには色々出来るのよ。
ヴェルスターほどじゃないけどね」
得意げに言ってみせる。この国ではなかなかいい顔をされなかったためなりを潜めていたが自分が人生を捧げた生粋の魔術師であることをやっと実感できた。
「と、いけない、そうだった。
セイ、悪いんだけどそのまま少し寝て待っていてくれるかしら」
くるりと背を向けながら言うとセイがはて、と首を傾げる。
「いや、むしろ動けって言われても動けないけど、なんでだよ」
ベッドに横になるセイを確認したティスは扉に手を掛ける。
「マクラウドから、貴方が起きたら呼ぶように言われてたのよ」
「―――――え」
驚くセイの顔を見てくすりと笑うと、ティスはそのまま病室を後にした。
―――――†―――――
another prespective by MacLeod
レダルキア城内、王の間。
ティスに押されながら車いすで登場したセイ。
「やぁ、高いところから失礼。
セイ君、久しぶりだね」
正装し、玉座に深々と腰かけているのはマクラウドだ。その表情はアルキリオの森の中の時と全く変わりない。
「あぁ、王様。ご機嫌麗しゅう」
そんなマクラウドに臆面もなく面倒くさそうにため息を吐くセイ。
「セイ、失礼な態度はよしなさい。
あと王様ではなく総帥よ」
ティスが呆れたように叱咤する。
「あぁ、構わないよ。
人払いは済ませてあるから肩の力を抜いて。一応ゲイル……親衛隊長が入口で控えているが、彼も私の命が無ければ余計なことはしないし、言わないからね。安心してくれたまえ」
マクラウドは二人が緊張しないよう努めて柔らかい物腰で話した。
「いやぁ、聖域も綺麗に吹き飛んでしまったようで、調査する手間が省けたけど非常に残念だったよ」
しかしそんな努力も知ったことかとセイが気だるそうに目を細める。
「前置きはいい、何の用だ」
「ふっ、相変わらずだね、君は」
セイの物言いにマクラウドは嘆息すると、佇まいを直して真面目な表情で向き直った。
「要件は一つだけだ。
セイ君、我が軍門、レダルキアに降りなさい」
真っすぐ言い放つ。相手によっては脅しにお取れるそれを、セイは真っすぐ見返すと。
「断る。
だいたい俺みたいな雑魚が軍門に降ったところでなんの役にも立たないだろ。
とっととアルキリオに突っ返した方が無駄が無くていいと思うけど」
セイはやれやれと首を振った。横からティスが「もう少し考えて物を言いなさい」と叱咤を飛ばしている。
「構わないよ、ティス。
セイ君、私はそうは思わない。
強さとは何も戦力としてのみを指さないだろう。
君の精神力の強さと、間の良さ……運がいいと言った方がわかりやすいかな、私はそこをとても評価している」
それは本心からの言葉だ。セイが強くなれないことを知っていた。知っていたがゆえにダイアスレフを倒した時には心底驚いたものだ。
どういう倒し方であれ、格上を倒せる可能性を秘めるその計画性、性格は真っすぐ向かってくる力と同じくらい恐ろしい。
それが敵に回ってしまうくらいならば、自分で囲ってしまうのが一番手っ取り早い。
「何より君を害せばヴェルが黙っていないだろう。アレが本気になればこの国なんて三日と持たずに滅ぼされてしまう、それは良くない。
何より私は先日彼に『次目が合ったら殺す』と言われていてね、出来るだけ遭遇したくないんだよ」
そう言うとセイは若干目を泳がせた。
なんだかんだ彼も思うところがあるようだ。
「私の目的はアルキリオを滅ぼしユグドラシルを手中に収めること。
その後は君にも調査に協力してもらえればと思っている。
君の目的とも合致するだろうし、どうだろうか。
アルキリオに思い入れがあるわけではないだろう。悪い話ではないと思うんだが」
機嫌を伺うように尋ねると、根負けしたのかセイは諦めたようにため息をついた。
「少し、考えさせてくれ」
マクラウドが口元を釣り上げる。
悩む要素があっただけで重畳だ。考えれば考えるほどアルキリオに戻る理由が無いことにセイは気付くだろう。
そう言う人間だということを、マクラウドはよく知っている。
「あぁ、ゆっくり待つとも。
ただティスも忙しいし、対外の目もある。セイ君には申し訳ないが世話役と兼任で監視の目をつけさせてもらう」
「―――――わかった」
さすがのセイも断れず、その条件を飲んだ。
マクラウドは頷くとパチンと指を鳴らし、王室前に居るゲイルに合図を送った。
数分後、一人の女性がセイの隣に歩いてきた。
その姿勢は軍関係の人間であると一目でわかるほど隙が無く、美しい姿勢をしていた。
「彼女は居ないものとして扱ってくれて構わない」
無言でセイの方を向く女性。
「短い間だとは思うがよろしく」
「――――――」
セイが右手を差し出すものの、女性は何のリアクションも示さなかった。
数秒のち、セイが諦めたように手を下げると女性はティスの代わりに車いすの後ろについてハンドルを握った。
「あとで病室に最低限の生活用具を届けるように手配しておこう。
では、君の結論、楽しみにしているよ」
マクラウドがそう言うと、女性は軽く会釈をし、セイを王室の外へと運んでいった。
「やれやれ。
まだ何か隠しているな、セイ君。
まぁ、それもじき教えてくれるだろう、なんせ―――――私と君に争う理由がないのだから」
王室で独り。マクラウドは口元を釣り上げながらひとりごちた。




