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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
68/72

Phase 3-End『ようこそ』

Phase3-End 23/6/26 投稿

Original perspective by Sei


「え、ぁ―――――――ッ」

 背中に何か触れたと思った瞬間、視界がノイズのようなものに覆われ、重力を感じない両手足は空を掻いた。

 何が起こったのか理解できずにもがくこと数秒、ゆっくりと明けていく視界に自分がヴェルに“打ち出された”ことを理解した。

 ――――現在おおよそ、二百メートル強、というところだろうか。重力と空気抵抗を阻害されている為、いまだ斜め方向に上昇を続けている。

 初速はいったいどの程度だったのだろうか、現状でもゆうに百五十キロを超える速度で滑空している。

 自分が打ち出された方向を見た。

「――――――」

 先ほどまで自分が居た場所は光の剣に焼き尽くされ、その被害範囲はさらに広がっていっている。

 もしあそこにいたのなら数秒持たずに蒸発していたことだろう。

 こんな雑な方法で打ち出さなければならない程、ヴェルも余裕が無かったのか。あいつは果たして無事なのか。

「……違う」

 首を振って意識を切り替える。気にしたいのはやまやまだが、今は自分の事。このままでは落下の衝撃でミンチだ。

 助けられたのにむざむざ死ぬなんて冗談じゃない。

『obstruct speed and shock.(速度、衝撃阻害)

 physical effect.(身体強化)』

 単純で、詠唱が不要になった自分に出来るささやかな強化。

 阻害を重ね掛けたことにより多少速度が落ち高度が下がっていく。

 あとは落下場所、このままであれば森に着陸することになるが……大丈夫なのだろうか、枝などに刺さったら串刺しオブジェになるのでは。

「悩んでも、仕方ないか……ッ」

 出来るだけ幹を避けるよう、空気阻害で方向を整え、腕で顔をガードするように、膝を曲げて突っ込む。

 痛覚阻害は……痛みに気付けない、という危険性があるため使わない。

 ―――――木が迫る。

 目は、出来るだけ閉じない。木に捕まるなりして減速しなければならない。

「―――――ッ」

 最初の衝撃。前面に出している腕や膝に小さな木の枝が刺さっていく。その激痛に歯を食いしばって耐え、速度が落ちるよう、位置を調節できるよう太い幹を叩いて落下していく。

 そうして数秒耐えたのち、地面に血だらけになって転がった。

「が……は……」

 痛覚を少しずつ阻害しながら怪我の状況を鑑みる。ぶつけた右腕の肘の先が折れ、幹を殴った左手は指が打撲。膝と脛には無数の木の枝が刺さっている。

 そのうえ、地面に着地したタイミングで肋骨をやったか、呼吸するたびに脇腹が痛む。

 ともすれば、ガーデンに来て一番危険な状態かもしれない。

『obstruct bleeding.(流血阻害)』

 師匠の魔術を簡素化した魔術を自分に行使する。あの魔術は性能が非常に高いが、消費魔力が多すぎて俺には維持できない。

「ぐ……うぅ……」

 そして、痛覚阻害は使用することを諦めた。正しい手順で詠唱を行い、定着した魔術は魔力が有る限り意識していなくても勝手に解除されることはない。もちろん、必要ないと解除する意思があればその限りではないが。

 だが肝心な魔力が俺には圧倒的に足りていなかった。

 ここから歩いてアルキリオまでいったい何日かかるのか知らないが、俺の魔力ではこの魔術だけでも丸一日維持するだけで精いっぱいだ。

 残り一つの封石を使えば多少は持つだろうが……例え倍に伸びたところで二日、足りるはずがない。

「ぐ、ぁ……………」

 森の中、激痛に身をよじる。こんなところで倒れていては野犬の格好の餌だし、レダルキアの人間に見つかった日にはそれどころの話ではない。

 多少なりとも身を隠せる場所を探さなくては……。

 そうして、這うように少しずつ移動し、少し外れたところにある大きな木の幹に背中を預けた。

「はぁ……、はぁ……っ、つぅ……」

 ここで、とりあえず動ける程度の体力を回復しなければ。

「あぁ……なんっか落ちてきたなって見に来てみれば、いいもん落ちてんじゃねぇかァ、セイ=ディリブ・フロクレス」

 はっと顔を上げると、いつか見た少年の顔。そうだ、確かガーデンに来た日、キリアリスを襲ってきたレダルキアの少年。

「前回は名乗り損ねたからなァ、先に教えておいてやる。

 アズラ=シザーフラッグ。お前の首を落とす混沌の名前だァ……」

 そう言ってずるりと、どこからともなく巨大な鎌を取り出すアズラに、俺は立ち上がることも出来ず歯を食いしばりながら見上げるだけ。

「運がわるかったなァ、ここで終いだァッ」

「ま、て、俺は……」

 適当に誤魔化せればとも思ったが聞く耳を持たないアズラ。

 ――――――鎌が振り下ろされる。

 あぁ、せっかく救われた命もここまでか、と目をつむって覚悟を決めたが。

「――――待ちなさい、アズラッ」

 振り下ろされた鎌は、済んでのところでその動きを止めた。

「なんで……アンタがここに居る」

 口を開いたのはアズラだ。あぁ、口惜しいが俺も全く同じことを思った。なぜ、コイツがここに居るのだろう。

 アズラを制止した男は、つかつかとこちらに歩いてくると。

「はぁ、はぁ、はぁ……、ふぅ。

 やあ、セイ君。間に合ってよかった」

 近づくなり、アズラの事を見もせずけがの状態を確認するのは。

「マク……ラウド……」

 アルキリオの人間が、何故。しかもレダルキアの兵士を制止出来るのはいったいどういうことだ。

「酷い怪我だね、ティスを呼ぼう。

 彼女なら治療の魔術も何某か使えるだろうから……」

「おい、どういうことだァ総帥サマ。

 そいつは俺の獲物で、ここの全権は俺に預けるって、アイツに言われてるんだがァ」

 ぎろり、とアズラがマクラウドを睨む。

「あぁ、ゲイルが全権を委ねていたのか、彼もなんだかんだ弟には甘いね。

 だが申し訳ないアズラ、彼は今殺すわけにはいかないんだ。

 殺した日にはレダルキアも聖域と同じ未来を歩むことになる」

 そう言ってマクラウドが消えた聖域を一瞥すると、アズラは舌打ちをして武器を仕舞った。

「結構。

 というわけだ、セイ君。悪いが君の身柄はレダルキアでしばらく預からせてもらう」

 訳が分からない。血が抜けて、頭に酸素が回っていないのだろう。ぼうっとしてきた。

「ヴェル……」

 視界がだんだんと狭まっていく。

「む、急いでティスを呼んできてくれ。

 馬車を――――――」

 何やらマクラウドが焦っているが俺はそんなことよりも、ヴェルがきちんと逃げられただろうか、なんて、夢みたいなことを考えながら気を失った。


 ―――――†―――――


 ―――――ロンドン ディアンの工房内、魔術実験室。

「んん、ちっとも上手くいかないな……」

 衝撃に対する阻害魔術の訓練をしている。

「最初からそんなにうまくいく奴なんていないよ、さ。もう一回もう一回」

 ヴェルは、いつもこうだった。身体的にも魔術的にも才能のない俺に、挫けることなくずっとついていてくれた。

 だからこそ俺はここまで迷わずに進めたのだと思う。

 ……恵まれている。師にも、兄弟子にも、四肢もすべて揃っているし、五感も正常だ。

「ヴェルは……何回くらいで成功したんだ」

 だが、そんな俺でもやっぱり嫉妬はする。隣にこれだけ完璧な人間が居れば当たり前だ。

「んー、五回か、六回か、そのくらいは失敗したんじゃないか」

 ヴェルはそう言うが、俺はこいつの失敗したところを見たことがない。授業でも師匠に教わった時でも普通に初見で言われた通りに魔術を行使出来ていた。

 今のは俺に対する気遣いなんだろう。自分でも失敗することはあるんだよ、と。

「試しにもっかい詠唱してみようぜ、同じ魔術をずっと繰り返し使うんだ。

 何度も、何度も。覚えてしまえばもうお前のもんだろ」

 にっと笑ってみせるヴェル。

 実際この方法でいくつもの魔術を詠唱無しで使用できるよう習得してきた。

 そのたび心が折れそうになって、でもそのたび何度もヴェルが励ましてくれた。

「実際、お前は俺より遥かに繊細に魔力を使えてるよ。

 俺は詠唱部分を魔力量でこう、無理やり行使してるところあるけど、お前は違う。

 詠唱無しの魔術を模擬戦中に詠唱魔術と同等の性能で使うって俺から言わせたら正気の沙汰じゃないからな」

「でも、ヴェルも出来るじゃん」

「だぁかぁらぁ……」

 やれやれ、と首を振るヴェル。

 何度も言われていることだ。わかっている。根本から違うのだ。普通魔術師は節約なんてことを考えない。効率が悪いから。

 でも俺はそれでも節約しなければならないほど魔力が少なかったし、使える魔術の幅が狭かったから精度を上げるしか出来ることが無かったのだ。

「何度も言うけどさ、お前の魔術はすごいよ。

 詠唱無しでも詠唱したときとほぼ同じ魔力量、精度で使えるんだから。

 まぁ、詠唱挟まないから固定化は出来ないけど」

「固定化……」

 俺が首を傾げるとヴェルが説明する。

「そ、固定化。

 無詠唱の魔術は意識してないと消えちゃうんだ、絶対。

 でも詠唱をすると魔力が切れない限りずっと残すことが出来る。本人の魔力じゃなくてもな」

「あぁ、そう言えば」

 それどっかで聞いたな。と、思い出そうとして、これが夢であることに気付いた。

 真っ先に思い出したのがヴェルの胸の流血阻害の魔術だったから。

「セイ。俺はお前がすごいと思うよ。

 皮肉に聞こえるかもしれないけどさ、俺みたいに出来るってわかってることや採算が取れることをやるんじゃなくて、お前のそれは『ゴールの見えない闇をずっと歩く』ようなもんじゃん」

「え……」

 おかしい、こんなことを言われた覚えは、ない。

「俺は正直それが出来る自信がねぇよ、負ける相手に何度も立ち向かい続けることがどれだけ怖いか想像も出来ない。

 でも、お前はやり遂げたんだからさ」

「ヴェル、俺は――――」

 違う、心が折れなかったのも、立ち向かえ続けたのも、全部。

「だからこれからの事なんてお前には全部たいしたことねぇよ。

 だって、俺より強い奴なんてこの世のどこにもいないだろ――――――」

 優しく微笑むヴェルの表情は遠く。


―――――†―――――


「ヴェル―――――ッ」

 俺は天井へ手を伸ばして、叫んでいた。

「はぁ、は……っ……」

 額には汗が滲んでいて、全力疾走でもしたのかというくらい動悸が激しい。

「アンタ、私が見張りの時間じゃなかったらただの恥ずかしい人になってたわよ」

「え……ティス、なん……いっつぅ……」

 聞き覚えのある声に、思わず身を起こして体の激痛に顔を顰めた。

「安静にしてなさいよ、アンタ一週間寝たきりだったんだから。

 私の看病なかったら死んでたんだからね」

 まったく。と、嘆息するティス。

 一瞬ロンドンに返ってきたのかと思ったが、室内の医療設備を見て状況を把握した。

「お前も、飛ばされてきてたんだな」

「えぇ、私はレダルキアって国の近くにね。

 正直飲食だけでも死ぬほどしんどかったからここの総統様に拾われたときは本当に助かったわ。

 貴方は……アルキリオらしいわね。ヴェルはサクリファイスでしたっけ。

 全員別れるなんて、因果なものね」

 総統。と聞いて、気絶する前の事を思い出す。確か、この国の総統はマクラウド……らしいが、どういうことなのだろうか。

 アルキリオに居たからてっきりあちらで暗躍していると思っていたのだが。

「ってことはここは……レダルキア……」

「ご明察」

 ティスが立ち上がって両手を広げる。

「ようこそ、セイ。

 ここが“忌避魔術国家レダルキア”

 総統マクラウドによって魔を滅ぼすために魔術を使用するようになった矛盾の国よ」

 にっと笑ってこちらを見るティス。

 俺はノートにあったレダルキアとあまりにも異なった説明に戸惑いを隠せなかった。

 たった一つの目的を失ってしまい次はいったいどこへ向かうのか。進むべき道もわからない俺に、現実は立ち止まってくれることはない―――――。

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