Phase3-28『俺の守りたかったもの』
Phase3-28 23/06/19 投稿
another prespective by Primevald…
遡ること一日と少し前。
「あれは―――」
レダルキアと聖域の中間地点で、プライムヴァルド=シュレイドヒルトは高速で滑空するヴェルスターを発見した。
視界に映ったのはおおよそ数秒。ヴェルスターと面識がないプライムヴァルドだが、それでもその手に持つ武器は見紛うことは無かった。
「―――グングニル」
たった一本で国を相手取り、滅ぼす力。アルキリオを守護する神槍……自分が仕留め損ねた後悔の在処。
プライムヴァルドは数秒の逡巡ののち、聖域へと戻ることにした。今から戻っても手遅れかもしれないが、それでも聖域に対して出来ることをやらないのは義にもとる。
それから数時間、自分の嫌う炎熱の魔術で出来得る限り高速で聖域へ戻った。
それでも聖域から離れてしまった数十キロは長く、戻れたのは翌日。聖域を破壊された直後。
更地になったそれを見て、プライムヴァルドは歯を噛んだ。
「なんという、ことだ」
いったいどうすればこのような事態に陥るのか。自分の最高出力の魔術でもこうはいかないだろう。
息を飲む。今代の神槍継承者はここで潰さなくてはならない。
東端でレダルキア兵が撤収準備をしているのを後目に脇の瓦礫の中をすり抜け、中央部へ。
そこで、駆け出したセイを見つけた。
何をしていたのかと見に行くと、見知ったショップの主人が息絶えていた。
状況を見るに、助けられなかったのだろう。
なんだ、非道な人間だという物言いをしていたが随分と甘いことだ。
プライムヴァルドは嘆息すると、セイが走っていった方を追跡するように走っていった。確証はない。だが、彼を追った先に神槍継承者がいる気がする。
そして、それは間違っていなかった。
「『Flame vision.』(視界強化)
―――――いた」
おおよそ五百メートルほど先、セイと神槍継承者が戦っているところを発見。物陰に隠れながらそれを観察していた。
「なぜ、セイと戦っている。
そして、なぜ魔術を使わない」
両者の剣戟を見ながら首を傾げる。先ほど聖域を消した時と同様神槍継承者が何かしているのか……だとしたらそれはそれで神槍継承者が魔術を使わない理由が見当たらない。
セイの援護をするべきだろうかと思ったのもつかの間、あっという間に制圧され、胸を掴み上げられてしまう。
これでは援護のしようがない。こちらが手を出した瞬間にセイが殺されて終わりだ。
どうするか、と武器を構えなおした時、それは起こった。
セイが伸ばした掌を握り込んだ途端神槍継承者の胸から血が噴き出したのだ。
プライムヴァルドは恐怖を覚えた。
何やら話していたようだが、まるで心臓を掴みだしたかのような所作で行われた魔術。
当然ではあるが身体の裡側から人体を破壊するのは非常に難易度が高い。炎などの無機質なものと違い、身体の中身は繊細で、自身ならまだしも魔術に多少なりとも抵抗力の他人の中身をいじるなど神業に等しい。
それをやってのけた。それも、神槍継承者に。
自分と戦っていた時、セイは本気ではなかったということだろうか。
真意はどうあれ、あんなことが出来る魔術師を放っておくわけにはいかない。
プライムヴァルドは目をつむり、腰から剣を引き抜いた。
「ここで共々滅ぼす。
『My left arm has no righteousness and crawls on the ground screaming in pain.(我が左腕は不義に地を這い苦痛に叫ぶ者。)』」
左腕に魔力を流し、強化する。セイと戦って使ったものと全く同じだ。ただし強化に使用する魔力量はあの時の比ではない。
ちりちりと肌が鳴り、指先から感覚が焼け落ちていく。
『a cursed sword that tears and condemns oneself.(自身を引き裂き断罪する魔剣)』
剣があっという間に溶け、溶けた端から光に変換されていく。
―――――炎熱光の剣。
四年前に失敗した神殺し。その時に掛けられた言葉を思い出す。
『出来るかはわからない。
だが、君にしかできないんだプライムヴァルド。
私はね、どうにかしてキリアリスを、アルキリオを止めたいんだよ。
わかってくれるね』
わかっている。
俺が止めなくてはならなかった。
あの時止められていれば同胞も国も亡びることはなかったのだ。
もうそんな後悔はしたくない。全力を以てあれを排除するのみ。
「不義の少年、君を一方的に詰るつもりはない。
だが、魔を使う者は須らく滅ぶが必定。
我が魔を以て、神槍と共に滅ぶがいい」
既に感覚の無くなった左腕を掲げる。
ちりちりと左耳と髪が焼ける匂いがした。痛い、熱い、歯を食いしばって前を見る。
すると、視界の端に、英雄の姿が見えた。
「――――ぁ」
一瞬躊躇した。この位置では英雄も巻き込んでしまう。しかし。
「―――――」
こちらに気付いていた英雄は俺にしっかり視線を合わせて、こくり、と一度頷いた。
……それで、覚悟は決まった。
『―――――――tering aurora.(極光、大斬撃)』
極限まで肥大化した光の剣が振り下ろされた。
射程一キロ強、熱量測定不能。触れれば骨すら残さず焼き尽くすそれは振り下ろされた瞬間地面を焼き、扇状に爆炎を広げた。
多少広がったところで魔力で強化された熱量は下がることなく、周囲のものを巻き込んでいく。
生き残る術などない。
永遠に続くかと思われた地獄は、その実数秒で終わり、舞い上がった砂埃が風に運ばれ晴れていく。
「はは、今度こそ、はははは……」
残っていた左腕も焼失し、焼け野原になった周囲一帯を確認したプライムヴァルドは数秒笑ったのち、突っ伏すように地面に倒れた。
―――――†―――――
another prespective by Vellstar…
まさか、自分が庇われるとは思いもよらなかった。
親友の背中に、出会った時のことを思い出した。
―――――それは、八歳の夏の事だ。師匠を脅して日本に渡った俺は、様々な図書館を渡って魔術の知識を集めて回った。
五大元素と六属性の魔術、そのうちの一つとして俺には人生の属性を持つ『透涯の魔眼』があった。
視線が合っている間、相手の人生を覗き視ることが出来る魔眼だ。
それは過去未来関係なく、その人間が何を成すのか、何を成したのか。どういうものを得てどういうものを失っていくのかを見ただけ知ることが出来る。
もちろん、詳しく知りたいのであればそれだけ長い間視線を合わせていなくてはならないが、それはそれ。
俺はそれで自分を視て自分の人生の偉大さを知った。誰にも手が届かないような、世界を左右するほどの力を手に入れ、偉大な魔術師になる。そして、その道すがら極東の日本にて大切な友人と出会う、と。
心が躍るじゃないか。
大切な友人、どういう人間だろう。まぁもしかしたら今回の旅行では会えないかもしれないが……それはそれ。せっかく行けるのだから会いに行ってしまおう。
と、思い立っていった旅行先。
一か月ほどの滞在になっていたのだが最初の一週間目で俺は誘拐された。
まぁ、手で撫でてやれば死にそうな人間ばかりだったので脱出は容易だったのだが、師匠から『傷害、物損などで騒ぎは起こすな』と釘を刺されていた為、大人しく連れていかれることに。
車のトランク内は揺れで最低だし、これも壊しちゃいけないのかな、と思うとため息が零れた。
アジトについて拘束されて閉じ込められて。牢屋も壊しちゃまずいのかなぁ。と、途方に暮れていた。
それもこれも不意を突かれた俺が悪い。今回は授業料と思って師匠の助けをのんびり待とう。と、横になった時だった。
アジトのそこかしこから大人のうめき声が聞こえ始めた。師匠が助けに来たのかな、なんて思って体を起こすと、やってきたのは何と自分と同い年の少年だった。
牢屋の鍵を開け、俺の手錠を外した少年は息を切らせて、よく見れば体中ボロボロだった。
「……逃げよう」
伸ばされた手、ぶつかる視線。
普段数秒かかるはずなのに、俺の透涯の魔眼は一瞬でその事実を読み取った。
―――――こいつが主人公なんだと。
俺を倒して、劇的に彩られた人生を生きる。
「―――――あぁ」
取った手は震えていて、でも視線は真っすぐ俺を見ていた。
後から聞いたところによると、図書館で一般人にはわからない魔術書を開いていた為俺の事が気になっていたことや、追跡は親に持たされていたGPSを車にこっそり投げ込んだらしいこと、大人たちを倒したのは強化の魔術を使用したということなどを聞いた。
が、そんなことはどうでもよかった。
出会ってから二週間、ロンドンに帰る一週間前。
「篝、俺と一緒にロンドンに来ないか」
そう言っててを伸ばす俺に目を輝かせた少年は。
「うんっ」
文字通り二つ返事で頷き、手を取った。
そして一週間後、セイと名前を変えてロンドンまでついてきてくれた。ついてきていたんだ。
あれからだ。あれから今まで、あいつはずっと俺の背中を追ってきて。
―――――背中越しに真っすぐと振り下ろされる光の剣を見据える。
おおよそ十秒かからないだろう、それを防げるだけの魔力が俺にはない。
……だが、目の前にいる親友くらい助けられないのでは、俺がここに居る意味なんてない。
『chant cancelation.(詠唱破棄)』
魔術を起動する為の思考リソースを確保する為に胸の魔術を解いた。瞬間、あふれ出る血と、一秒後、俺と周囲の時間の流れが変わった。ここまで二秒。
周囲の時間は止まっているが、俺の時間は血と一緒に刻一刻と無くなっている。
……関係ない。
『I hinder reason and providence.(私は理、原則そのすべてを阻害する)
Avoid what blocks you, the pulling force does not reach, and hinder his whereabouts.(遮るものは避け、引く力は届かず、彼の居場所を阻害する)』
魔術を順番にセイに掛けていく。
左目の視力が無くなった、おそらく血が届いていないのだろう。
魔術を掛け終わるなり、俺は世界との時間齟齬を解いた。
「セイ」
きっと必死で聞こえていないのだろう。振り向く様子はない。ぐらりと、自分の身体が倒れていくのがわかった。
「お前を愛してる」
あぁ、簡単なことだったんだ。
そりゃ殺せないわけだ。だって、自分だけならゆうに逃げられるこの状況で、自分の命を投げうってでもこいつを救いたいと思っている。
倒れる直前、セイの背中に手を当てた。
「え、ぁ――――――ッ」
瞬間、はじけ飛ぶようにセイが北方向へ飛んでいった。
阻害の魔術で抵抗力を無くし、引力を消し、斥力でセイを打ち出した。これで光の剣からは脱出できるだろう。まぁ、停止までは面倒見てやれないけど……多分どうにかなるさ。あいつ主人公だし。
「はぁ……―――――」
深くため息を吐いた。
視界が光に満たされていく。まるで時間を飛び越えたときのよう。
あぁ、今まで心に妙な空白があったけどなるほど、認めるだけでこんなに簡単に埋まるんだな。隙間って。
死ぬ前に気付けて良かったな―――――。
ヴェルスターは目を閉じ、満足げに笑った。




