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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase3-26『ずっとそこに』

Phase3-26 23/6/4 投稿

another prespective by Vellstar…


 ずるりと腕を引き抜き、神父を引きはがす。

 神父はうっ、と呻きながらも詠唱し、穴の開いた脇腹を治療し始めた。

 ヴェルスターは『まぁ脅威にならないしいいか』と嘆息するとそのまま見逃すことにした。

 ぽたり、ぽたりと指先から滴る血の不快な感に顔を顰める。

 不意を突くためとはいえ、やはり素手で相手の身体を抉るのはやめておいた方がよさそうだ。

 ……らしくないな、と先ほどの戦いを反省する。相手のことを過大評価してしまっていたらしい。最初から言葉に耳を貸さなければもっとスマートな勝ち方が出来ていたに違いない。

 とはいえ、あそこからもし仮に『円卓の剣』で不意打ちされていたとしても切り返せていただろう。

「さてと」

 ざり、と後ろから音がしてゆっくりと振り返る。

 そこには、待ちわびた親友の姿。

「セイ、よく来たな。

 その顔……聞こえてたのか」

 セイは眉間に皺を寄せたまま目を逸らすと、ヴェルスターの足元の神父へ駆け寄った。

 思わず不服に奥歯を噛み締める。

 ここまで来て別の事に意識を割く余裕があるのか。

「大丈夫……じゃなさそうだな」

 セイが神父の身体を優しく起こしながら声を掛ける。

「あぁ、啓示通り何も出来なかったよ。

 一応延命はしたが……ぐっ……まぁ、死ぬだろうな。

 だが、君がハイルロードを倒すところはどうにか見れそうだ、適当に距離取って見てるから倒してしまいなさい」

 ほら、と明らかにやせ我慢をしつつ身体を引きずるように離れていく神父。

 唇をかみしめるセイの表情にやはり殺してしまえばよかったと思ったが後の祭りだ。今から殺すのはそれはそれで自分の理に反する。

「ヴェル、その傷」

 セイがヴェルスターの胸を見ながら言った。はて、と思い自分の胸に目をやって理解する。

「あぁ、これな。

 この疵全然治らなくて。あの時のままでさ、多分心臓も結構傷ついてると思うんだけど、なんでか生きてる。

 まぁ安心しろよ、魔力は少し持ってかれてるけど回復量を超えるほどじゃない。この程度じゃ俺の戦闘力は落ちやしないさ」

 ふふん、と余裕の表情を見せる。事実、その程度の魔力消費があったところで結果が変わることはほとんどない。

「そうか、そうだよな」

 言いながら剣を裡から取り出し、構える。

 見慣れない剣にヴェルスターはまじまじとそれを観察した。見ただけでわかる、刃の研ぎ澄まされた銀の剣。柄の根元には‟Altachiara„と彫られている。

 なるほど、虚構品のレプリカとは。

「いい剣だ。けど、こっちにきて数か月の人間が手に入れられる代物じゃなさそうだけど、どうしたんだよそれ」

 さく、さくと自分からゆっくりと距離を取るセイに問いかけると、彼は十メートルほど離れたところでゆっくりと振り返った。

「買ってもらったんだ。

 そのあと、殺した」

 つまらなさそうに言い捨て、ぶんと剣を振る。その言いように、ヴェルスターは胸をざわつかせた。

 確かに手段を択ばない奴だったが、あくまでそれはヴェルスターが『そうするように仕向けた』からで、セイ自身は割と義に厚く情に脆いタイプの人間だったはずだ。

「お前こそどうした、ヴェル。

 神槍なんてらしくないんじゃないか。

 お前はその手の武器嫌いだと思ってたんだけど。大体それに刺されたはずなのに、心臓をぶっ刺されておかしくなったんじゃないか」

 わかりやすい挑発。

 だが、事実その通りだ。性能の高い道具で勝ったなんて思われるのは心外だし、あの時俺の心臓を貫いたのは間違いなく『グングニル』である。

 さすがにあからさまだが、このままではしゃべるだけで一向に戦いにならない。

 この辺で火蓋を落としてやるべきだろう。

「はっ、なんだよ、相変わらずキレてる挑発の仕方してくるじゃねぇか。

 数か月じゃあんま変わんねぇかッ」

 だん、と蹴り砕かんばかりの跳躍で開いた十メートルをひとっとびで埋めるヴェルスター。それを真っすぐに睨みつけるセイ。

「そうでもない、おかげさまで嫌な経験ばっかりだ。

けどなッ」

 振り下ろされる槍、セイは数歩下がりそれをやり過ごすとヴェルスターの首めがけて真っすぐ剣を突き出した。

 それを槍の柄でいなしてほくそ笑む。もし仮に自分で防がなかったとしても物理攻撃は全て『グングニル』が自動で止めてしまう。

どんなにセイに策があろうが、攻撃が届くことはない。だがそんなことはどうでもよかった。

 セイが自分を殺しに来ている。

「ここでお前は、俺が――――倒す、絶対ッ」

 先ほどの神父と違い懐に踏み込んで斬りつけるセイ。だが、どうやら魔術を使うつもりはないらしい。

「はっ、それは、楽しみだな。

 けどその戦い方は神父がもうやったぞ、セイッ」

 眉間、左肩、右足への三連撃。槍先と柄で牽制する。

「―――――ッ」

 近づこうとしていたセイはたたらを踏みながらもわずかに距離を開けて三撃を全て捌いて見せた。

 じっとセイの剣技を観察する。確かに、わずか数か月で剣の型はきちんと出来るようになったようだ。だが、その程度。

 素人に付け焼刃の技量を与えたところで、継続しなければたいした脅威になり得ない。この程度であればヴェルスターの技量だけで片手間にでも打ち合うことが出来る。

 それではつまらない。倒すと言った以上、セイにもなにがしかの決め手があるはずなのだ。早くそれを出させて上から叩き伏せてやらなくては。

「さっきの話、聞いてたんだろ。

 俺がッ、ずっと、ずっとお前に消えてほしかったってッ」

 剣を大振りで弾き、左肩を槍の柄で打つ。

「ぐっ……」

 刃側であればもう左腕は無いぞ、と言わんばかりの攻撃に、セイが顔を顰めている。

「消えてほしかった、死んでほかった、いや、違うな。

 お前は『この手で殺してしまいたかった』んだ、ずっと、ずっと、ずっとォ」

 一度堰を切ってしまった感情が溢れているのがわかる。何年も、何年も黙っていたどす黒い膿。

「―――――ぐ、―――ッ」

 身体の至るところを殴打されながらもセイは諦めることなく向かってくる。何度も、何度も。

「あの時、出会ってからッ」

 思い返すのは過去の記憶だ。日本で助けてくれた/必要なかった/ときのこと。

「模擬戦をしている最中も」

 セイにとって最適な戦い方を一緒に/やりたくもないのに/延々と探し続けた。

「同級生に、からまれていたのを庇ったあの時も」

 俺と同室で同位の魔術師だからとやっかまれてからかわれていた時に/死んでくれればよかったのに/助けたときも。

「―――――ぅッ」

 セイの足がよろける。

「ずっと、ずっとだセイッ」

 胸元を拳で一撃。

「か、は……」

 肺を強打され前にのめりそうになるセイの胸倉を掴んで引き上げた。

上げようとする剣を槍で押さえつける。

「けどもう俺は視てしまったからな。

 お前が俺を倒す結果を。

 それが変えられないなら、遅らせるだけだ」

「ぎ……ぐぅ……」

 開いた左手で何とか俺の手を胸から引きはがそうとするものの、かりかりとひっかくだけで何の効果も無い。

 ヴェルスターは終わりだな、とため息をついて話を続ける。

「お前は殺さない、いつか俺を倒すんだろうけど、それは今じゃない。

 ずっと、ずっと先の話だ。

 俺の完璧の為に、お前はずっとこのまま生きていてもらう」

 その言葉にセイは目を見開くと、手をゆっくりとヴェルの手から放して歯を食いしばって視線を落とした。

 そして、数回口をぱくぱくと開けては閉じを繰り返したのち、ゆっくりと一言。

「―――――知ってたよ」

 ぽろぽろと涙を零しながら言った。

「……なに」

 信じられない、と言わんばかりの目で睨むヴェルスターを真っすぐと見返すセイ。

「知ってるって言ったんだ。

 お前が俺を殺したいって思ってることくらい“何度も何度も何度も”気付いた。

 その様子だと、気付けてたのは隠せてたみたいだな、ヴェル」

 ゆっくりとセイの左手が上がる。

 銀の小手を付けた手がヴェルスターの方へ向けられるとヴェルは何をするのかと剣を抑えたまま身構えた。

「ここからは全部の清算だ。

 俺がどう頑張ったところで俺の力だけじゃお前に勝てないことの証明で、お前が完全性を取り戻すための儀式だ」

 何を言っているのか、と、訝し気に眉を顰めるヴェルスターを他所に、セイが詠唱を始める。

『終わりを告げる風と

 始まりの鐘は

 全てを超える為

 過去(いつか)の彼方へ』

 それはいつか聞いた日本語の詠唱だ。

 その詠唱を聞いてセイの狙いがわかったヴェルスターは高嗤う。

「はは、ははははっ。

 “時間遡行”か、あの時と同じように、どこまで飛ぶんだ、セイ。

 いいぜ、何度でもやり直せよ、俺は何度でもお前の前に立ちはだかってやるからさ」

 なるほど、と、得心した。何百、何千と繰り返せばそのうち一度くらいは俺に届くかもしれない。そして、どこかの時間軸でセイが俺を倒せばなるほど、眼の予言は当たったことになるわけだ。

 そう、結論付けヴェルスターが今回の勝利を確信し。

『終わらない未来(さき)

 戻らぬ過去(いつか)

 果たされた願いへ

 永遠の幸福を』

 詠唱が違う、と気付いた時にはもう遅かった。

 ヴェルスターが驚いたように目を見開くと、ふっと優しく微笑んだ。

 あぁ、なるほど。この世界に来る前から、ずっと俺を守っていてくれたのはセイ、お前の魔術だったのか。

 ヴェルスターは爆ぜるように飛び散る自分の胸を見ながら、ようやくそれを、理解した。



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