Phase3-25『英雄VS魔王』
Phase3-25 23/5/29 投稿
another prespective by unsigned…
鋭い金属音と同時に火花が散る、散る、散る。
切れ目なく、ひっきりなしに打ち合わせられるその熱と衝撃はまるで錬鉄場のよう。
「ハッ、歳のわりにいい動きすんじゃねぇか似非神父ッ。
魔力無しで俺の槍をここまで受けきるなんて―――なッ」
戦況はヴェルスターの優勢、圧倒的な手数で神父に反撃の隙を与えない。
「お褒めに預かり光栄だ。
今代の神槍の担い手にそう言ってもらえるならここに立った甲斐があるというものだッ」
見えているのかいないのか、神父はせわしなく足を動かしながら左の片手剣と右手の小手で刺突をひとつひとつ丁寧に受け流していく。
―――――その実、魔力を使わずに受け流している、というのは正しくない。神父はこの瞬間の為におおよそ一年を費やし、戦ったことも無いヴェルスターの槍をずっと啓示で学んでいた。
どういう動きをするのか、癖があるのか、自分がどう動けば生きられるのか、死ぬのか。何百回、何千回、何万回と未だ見ぬ敵を未来に睨みながらずっと同じ動きを身体に染みつかせていた。
効果があるかなどわからない。ただやらなければ一分と持たずに死ぬだろうという啓示を受けていた為、やる以外の選択肢が無かった。
結果は上々。神父の啓示は予想外の動きやセオリー外のものにはいささか弱いのだが……。
「シ……ッ」
突きを捌きながら神父が感心する。さすがハイルロード、完璧な動きだ。
なんの躊躇もないその動きは啓示で予測した動きと寸分違わぬ最強の担い手そのもの。
「なるほど、全てを知る権利を持つってのは伊達じゃないってことか」
ヴェルスターが槍を止め、神父の目を覗き視る。その視線を真っすぐ返しながら神父が口を開く。
「『透涯の魔眼』だね」
その眼は目が合った人の生涯を垣間見る。
見ている時間が長ければ長いほど相手の人生のはっきりとした流れを知ることが出来るというもの。
神父が啓示を使えることを知ったからだろう、ヴェルスターは戦いが始まってから視線が合う限りずっとこちらの人生を読み込んでいた。
……フロクレス曰く『ヴェルスター=ハイルロードは阻害の魔術以外戦闘で使わない』らしいがそれは間違いだ。
彼は相手が炎を使えば使うし、氷を使えば氷を使う。ただ二十世紀のロンドンではそれを使うほどの相手もおらず、ヴェルスターの力を知ったうえで挑んでくる人間もごく一部で、恒常的に模擬戦をしていたフロクレスは阻害の魔術師か使わない為、必然的に阻害の魔術を使っていただけに過ぎない。
ようは合わせ鏡。彼は己が使われた魔術かもしくは同質のしか使わないのだ。
「面倒くさい縛りを持っているね、ハイルロード」
「………」
神父の言葉に無反応のヴェルスター。
反応しないのであればそれはそれでいいと納得して言葉を続ける。
「俺は知っているよ、その経緯と、君の心の裡を」
ぴくり、とヴェルスターの眉が揺れる。
刺突の雨が激しさを増す。神父も正念場と必死に抑えるが頬、肩と少しずつ傷を負っていく。
「君は、生まれてからずっと、自分が他の生物と比べて逸脱した性能を持っていることを知っていた。
物心つく頃には鏡の中にいる自分の眼を視て己がこの世界で最も優れた人間だと理解しただろう。
望めばなんでも出来る知性、身体性能、そして他を圧倒して余りある魔力……」
「…………なんだよ、俺の力がそんなに羨ましいか。聖域の元支配者さんがッ」
ぶん、と感情に任せて槍を振るう。
「いい突きだ」
それを紙一重で避けながら神父は淡々とヴェルスター=ハイルロードの物語を聞かせ続ける。
「両親が優れた魔術師になるようにと師をあてがったときも、その師がろくに魔術を教えなかった時も君には特に思うところは無かった。
なぜなら君は与えられなくても自分で得ようと思えばあらゆるものを手に入れられたのだから。
君は、ずっと思っていたに違いない。
『あぁ、自分こそがこの世界の主人公だ』とね」
「残念だな。俺はそこまで傲慢でも、高慢でもないッ」
三連の突きの後踏み込みながらの薙ぎ払い。神父は雑なその攻撃をくぐって避けるとぐっとヴェルスターの懐に入り込んだ。
「おや、そうかな。
まぁ君が言うとおりだとして……ハイルロード、君は極東の地へ渡った。渡ってしまったね。
運命の地、神秘の特異点、行くべきではなかった出会いの道へッ」
「……チッ」
懐に入ってきた神父を槍の柄で追い払い距離を取る。
もしも、神父が初手で魔術を使っていればこうはならなかっただろう。ヴェルスターはセイと同様『無詠唱での身体強化』を行うことが出来、詠唱さえ済んでしまえばたとえ鉄や石であろうと豆腐のように素手で握りつぶすことが出来る。そうなってしまえば神父の先読みなど意味をなさず、『知っていたところで回避も防御も不能』の攻撃を受けて瞬く間に殺されていたに違いない。
だが、それを知っている神父はそうしなかった。結果魔術を使用しない者同士、ただ身体能力だけで戦うことになっている。
神父はここまでしてもヴェルスターを倒すことが出来ない。決定打がなく、防戦するしかない。そして倒せないと知りながらなお、ただ懸命に片手剣を振るう。
「君はその地で彼と出会う、出会ってしまう。
そう、彼だ。
セイ。セイ=ディリブ・フロクレス。
『伊勢 篝』(いせかがり)少年にッ、君はッ、出会ってしまった――――ッ」
「煩いッ」
「ぐっ」
雑で、しかし強力な薙ぎ払いに思わずたたらを踏む神父。その隙で潰してしまおうとまたも雑にヴェルが槍を縦に叩きつける。
ずどん、という鈍い音と同時に土埃が舞った。
「心が乱れているよ、ハイルロード。
なにか知りたくないことでも語られそうなのかな」
「――――ッ」
ぎり、と歯を噛み締めるヴェルスター。神父の人生を視れば視るほど何故攻撃が読まれるのかわからなくなっているようだ。
神父が出来ることは啓示を受けてから様々なことを知ること。リアルタイムで知ることも出来るが、知ったところでその瞬間の攻撃に身体が付いていかない。
……が、神父は都度啓示を受けて動いているのではなく、あらかじめ聞いたヴェルスターの動きを暗記している。
その事実がおおよそ『努力』を知らないヴェルスターには思いつくことが出来ない。
そのうえこの無駄話だ。気が散ってしょうがないが神父が話す以上『意味がないはずがない』と考えてしまう。
この状況、ヴェルスターにとって一番の懸念はセイがこの話を聞くこと。
この結末はヴェルスターが何年も笑顔の下にずっと隠し通してきた感情だ。だから。
「君は見た、フロクレスの目を。確かに見てしまったのだ。
彼が、間違いなく『主人公』であるということを――――」
「――――――ッ」
ここまではいい、セイも知っている。だがこれ以上先は喋らせてはいけない。
ここまで、ここまでは予想通りだ、と神父は歯を食いしばる。
刺突も薙ぎ払いも衝撃は完全に打ち消せず、貫通してくるダメージは逃れようがない。
今にも膝から崩れ落ちそうだが、それでも神父は必死に立って余裕の表情を続ける。
「フロクレスの人生には、『ヴェルスター=ハイルロードを倒す』という偉業が大きく刻まれていた。
君は悩んだね、『誰にも犯せない完全性』を持っていたはずの君が、『ただの少年に負ける』という事実に。
もしも負けなければ、それはそれで君のその魔眼の不完全性を認めざるを得なくなる、そうだろうッ」
初めて神父から斬りかかるが、ヴェルは危なげなくそれを柄で受け止める。
「ハッ、完全性だと。
そんな人間、居るはずが無いだろうが」
振り払うように槍で押され、神父が足の痛に奥歯を噛み締める。もう、時間はそう残されていない。
「冗談だろう、君が、君こそが誰よりも自分の完全性を信じ、そしてその優れた能力に裏切られた。
耐えられなかったんだろう、だからこそ相手の使った魔術師か使わないなんて馬鹿げた制約を自分に設けた。その魔眼を、フロクレスに使わない言い訳を得るために。
呪ったろう、悔やんだだろう、彼という存在を。
主人公、『セイ=ディリブ・フロクレス』をッ」
――――啓示が聞こえる。もう、終わりだぞと。神が耳元で囁くのを、今にも泣きそうな心を奮い立たせる。
これで最後だ、と、悟った神父が右手の小手を前にかざし突撃する。
「死んでしまえばいいと、消えてなくなればいいと、心の中で叫び、何度その命を絶とうとしたのか、答えてみろ、ヴェルスター=ハイルロードッ」
槍で右腕を貫かれる。が、貫いてきた槍を右掌で思い切り握り込み、そのまま貫通させるように距離を詰め、左手の片手剣でヴェルスターの首を狙う――――。
「―――――煩い、俺はァッ」
槍から手を離し、だん、と割れるほど右足で地面を踏みしめ、左足で神父の短剣を腕ごと蹴り上げる。
上空を舞う片手剣、砕けた左腕。もはや動く体力の残されていない
ヴェルスターは右手を突き出し、”素手”で神父の脇腹を貫いた。
「―――――は、想像以上に速いじゃないか」
交差する視線、満足げに笑う神父と、絶望に顔を歪ませるヴェルスター。
――――――からん。
空しい結末。打ち上げられた片手剣が落ちる乾いた音が心に響くようだった。




