Phase3-24『時の選定者/ディリブ・フロクレス』
Phase3-24 23/05/22 投稿
Original perspective by Sei
「はぁ、はぁ、はぁッ」
瓦礫の山を走り抜ける。この一週間、毎日通った道を。知っている/知らなくなった道を走り抜ける。
大丈夫、大丈夫だ。神父は俺が一人救うと言った。間に合わないと辻褄が合わない。
『さよならは君が聞くべきだ』
認めない。そんな終わりは認めない。
またなって、また明日って言った。はにかみながら、困ったように、寂し気に。
「/stack.」
身体強化を最大まで重ね掛ける。痛覚も重力も抵抗力も、邪魔するものは出来る限り阻害して走る。
―――――それでも遅い。
もどかしい。もっと俺が、ヴェルみたいに上手に、強力な魔術を使えれば。
予感がある、間に合わない。辿り着いても、絶望するだけだとわかる。わかってしまう。
でも、足は一向に諦めてくれなかった。
その結末が、これだ。
「はぁ、はぁっ……。
あ、あぁ……―――師匠ッ」
絶叫に近い声を上げながら近づき膝を付く。
壁にもたれかかって力なく顔を上げるドドの顔は、血だらけだった。
「おや、また来たのか」
ふっと何事も無かったかのように優しげに笑う。その左腕は肘から先がひしゃげて……それでも懸命に生きようとしているのだろう、付け根に止血用の布がきつく巻かれていた。
『―――いつかできる大切な人を受け止める為の手なんじゃ』
ドドの言葉が胸に刺さる。汚れて、固くて、でも優しかったその手が、ない。
「なんちゅう顔をしとるんじゃ」
はっと顔を上げる。自分はいったいどういう顔をしてしまっていたのだろうか。
「けが人を前に助ける側が暗い顔をしてどうする。
気持ちはわからんでもないがの、こういう時は無理にでも明るく振舞うんじゃよ」
そう言って呆れたように/いつものように笑うドド。その笑顔に、俺は、耐えられなかった。
「……むり、だよ。
だって、こんな、怪我……師匠が死んで、しまう……ッ」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。影になって見えにくかったが、明らかに致死量の血が広がっていて、ドドの顔も明らかに血色が悪い。
助けたくても俺の阻害の魔術で痛みを和らげる程度で治療魔術を持ち合わせていない。
「やれやれ、まいったのう。
……なぁ、お前さんの名前を教えてくれるか」
「え……」
忘れてしまっていたがきちんと名乗れていなかったんだった。だが、何故このタイミングなのか。
意図を汲みかねているとドドがやれやれと肩を竦めた。
「神父に聞くなと止められていての。
さすがにもういいじゃろ」
言いながら微笑みかけてくるドド。なるほど、それであの時名乗りを邪魔してきたのか、と得心し、俺は涙を拭いた。
「セイ=ディリブ・フロクレス」
出来るだけ真っすぐ、目を見ながら告げるとドドは一瞬驚いたように目を見開き、納得したように深く、深く頷いた。
「なるほど、なんとなくわかってはおったがお前さんが。
……セイ=ディリブ・フロクレス。
『時の選定者』とは重苦しい名前じゃの」
「時の……選定、者……」
視線を落とし記憶を思い返してみる。選定者、とは前に聞いたが時の選定者とは、いったい何なのだろうか。
いや、そんなことより今はドドの事だ。何か、何か手は無いか考えて……。
「セイ、もういいんじゃよ。ありがとう」
はっと顔を上げた先には、少し困った表情で笑う顔。口を開くが言葉が続かない。
「お前さんに大きな流れを変えるような大それた力は確かにありゃあせん。これからも足掻いて、苦しんで、悲しんで。たくさん間違っていくのじゃろう。
じゃが、それでいいんじゃ。
お前さんの今を必死に生きることに何も間違いなんてないんじゃから。この先どうなるかなんて結局のところあの英雄にすらわかりゃせん。
“過ちは、過ぎたからこそ過ち”なんじゃ」
いつものように、俺の為に諭す言葉。
だというのに何か違和感を覚える。胸の中によぎる、この焦燥感はいったいなんだ。
「師匠……何を……」
問いかけにドドは首を振ると懐から何かを取り出した。
「今は考えんでいい、胸に仕舞ってやるべきことを片を付けてきなさい。
……それと、これは看取りに来てくれた礼じゃ、受け取ってくれ」
取り出されたのは右手用の手袋だ。
俺は看取りに、なんて縁起の悪いことを言うなと、反論しようとして、ドドの目にもう自分が写っていないことに気が付いた。
「……ありがとう。
大切に使わせてもらう」
ドドが頷く。
俺は後ろ髪をひかれながらも立ち上がり、背を向けるとそのまま走り出した。
―――――†――――
another prespective by Dodo
「行ったかの……」
視界もなく、音も聞こえなくなった。不思議と痛みも感じない。
刻々と近付いてくる死の感覚にドドはなぜか満足げだ。
「いやはや……」
過去の自分を追想する。あれだけの悪事を働いた自分にはもったいないほどの人生だった。
まさか死に際まで見届ける人間が居ようとは、何とも不公平な話だ。こういうものはきちんと正しい生を送った人間にこそ与えられるべきだろうに。
だが、せっかく満足いく終わりを与えてもらったのだ。感謝して、のちの世代に祈りをささげよう。
見えなくなった目を閉じる。恐怖は無い。
「――――少しは報いることが出来ましたかのう、師匠……」
老人は呟くと、そのまま息を引き取った。
まるで明日に希望を持った子供のように、最後まで、笑顔のまま―――――。
―――――†―――――
another prespective by burn
少し遡り、ヴェルスターが聖域を破壊した瞬間。東側の戦況は混沌と化していた。
爆音と閃光に包まれる世界。誰もが動きを止める中、真っ先に行動に映れたのはバーンだ。
「―――――広がれッ」
逃げるならここしかない、と、残りの魔力をほぼ全て使って魔力を発動した。
――――彼女は詠唱を必要としない、持ち得ない。ある奇跡によって彼女は常に一つの魔術が掛かった状態にある。
それは体に呪文が刻まれている、とでも言うべき状態だ。魔術をいくらキャンセルされたところで刻まれた文字が消えることは無く、再び魔力を流せば自動で魔術が発動する。
『lightning ruler(無音の雷鳴)』
誰が名前を付けたのだったか、そう呼ばれている彼女のそれは、彼女が望んだ形状の雷を使用した魔力規模で出力するというもの。
空気抵抗の関係で専ら強化にしか使用しないそれは相応の魔力を使用することによって、出力することが出来る。
なお、彼女の魔力は、キリアリスにこそ劣る者のアルキリオの国内でもトップクラスの量を誇る。
「ガ……ッ」
周囲十数メートルを、雷鳴が駆け巡る。
ギリギリ人が死なない程度、雷なので指向性は無く、シールとブレイドを巻き込む形で周囲一帯の人間の行動の悉くを封殺した。
そのまま身体強化、諸共動けなくなったシールとブレイドを抱え、ティスの下へ突っ切って行く。
「なっ……」
驚くティスに予想通りだ、とバーンが口元を釣り上げた。
武器の性能は驚くほど精度が高かったが判断力が明らかに低い。おそらく戦闘員ではなく、兵器開発者か、それに準ずる魔術師か何かなのだろう。
ティスが構えた銃を蹴り上げる。ついでに杖を構えようとした左手を口に咥えた片手剣で切り払った。
「きゃぁッ」
杖を取りこぼすティス。咥えた片手剣で器用に首に斬りつけようとして――――その表情にバーンは剣を振り切れなかった。
「……や――――いや、痛いよ……ぅ……」
斬られた手の小さな傷を押さえ、へたり込むティスを見てバーンは何を思ったのか逡巡するように目を閉じるとそのまま踵を返しその場を立ち去ろうとし。
「ぁ―――――ッ」
まるで落とし穴に落ちるかのように、シールとブレイドを抱えたまま―――――突如現れたその泥とも闇ともつかない空間に“落ちて”いった。
バーン達が落ちたその数秒後、その空間はしゅん、と静かに閉じ、なにやら札のようなものだけそこに残るのみだった。




