Phase3-22 『ブレイカー』
Phase3-22 23/5/8 投稿
another prespective by azra…
「はぁ、めんどくせェ……」
聖域よりやや東側、レダルキア寄りの森に潜むのはアズラ=シザーフラッグ率いる騎士隊、総勢三十名ほど。
「ほんとにいるのかなァ、もう帰った跡じゃないのかァ」
ラウンドナイツが聖域に向かったって報告を聞いてから数日、なんの動きも無い状況に少年はだるそうに木に寄りかかった。
「マクラウド様の情報であればラウンドナイツのセイと他数名が聖域に向かったとのこと。
間違いはないと思われます」
騎士の一人が傅きながら報告する。
「そうかァ、はぁ……。
客将の女はどうしたァ、変なことしてないだろうなァ」
「はっ。
今は特におかしな動きもなく、こちらもマクラウド様から危険は無いと保証をいただいております。
おそらくは危険も無いかと」
それを聞いてアズラは眉を顰めた。
「そうは言うけどなァ。
他所の国から来た人間をはいそうですかって信用できるわけもねぇだろうがよぉ……。
魔術師としては未熟でもあの武器は確かに強力だからせいぜい役に立ってもらうかなァ。
ま、いいや。お前は下がりなァ」
「はッ」
部下を下がらせ自らが見張りを続ける。
聖域に派遣され、小隊で到着するまでにおおよそ三日、それからさらにもう五日。
アズラを含める隊員の疲れが見え始めている。馬車があるとはいえ帰りの体力もそれなりに取っておかねばならない、馬の食糧の問題もある。
まだ十七歳ではあるが彼も一部隊を任される隊長、この辺で本国への撤退を指示しなくてはならないだろうか、と思案し始めていた。
「セイ=ディリブ・フロクレスは俺の手で始末したかったけど、これは仕方ねぇかなァ……」
つまらなさそうに聖域を眺めるアズラ。しかし不意にその口元がゆっくりと吊り上がる。
「ひひ……来たなァ」
木陰に身を顰めながら目を細める。聖域から出てきたのは三つの人影。巡回か偵察か、各自武器を既に手に持っている。
「女が二人と、小僧が一人。
容姿からしてラウンドナイツのメンバーかァ」
そいう言って探知の魔術を走らせる。
彼、アズラの得意魔術の一つだ。
「周囲に俺ら以外の魔術師は居ないなァ。
セイ=ディリブ・フロクレスはまだ中かァ。
まぁいい、あいつらを殺せばそのうち出て来るだろうしなァ」
ぱちん、と指を鳴らすと、先ほど報告をしてきた騎士が森の奥からアズラの隣に静かに駆け寄った。
「ラウンドナイツが出てきたんだなァ。
部隊を三つに分け挟み討つ、俺の部隊は中央。
客将の女を含めた部隊は北から、他が南だ、部隊分けは任せていいかなァ」
「御意に、二分で配置を済ませます」
アズラが言うと騎士は小声で返事をし、そのまま森の奥へ消えていった。
「さぁて、お手並み拝見だなァ、はは」
アズラは自分の後ろに騎士が九名配置されたのと、一分半の時間経過を確認。
森から出て、話をしているラウンドナイツメンバーへ近づいていく。
……ここでは奇襲をしない。
あくまで陽動だ。堂々と、正面から包囲するように近付いていく。
「――――――」
無言のまま一番正面に立って構えるのは女。容姿からしてバーンという副隊長だったか。と、アズラは記憶を呼び起こす。
右の小さいのがブレード=ナイツ=ライン、そして左の大きいのがシール=ランサー。
厄介なのは副隊長のバーンだが……警戒すべきは大規模な攻撃を仕掛けられるブレードという小僧だろう。
『指先は冷たく、凍える吐息は大気に混ざり霜を落とす。切っ先に触れるものすべて、その法則を奪う』
最初に詠唱を始めたのはシール。
アズラは口元を釣り上げると呼応するように詠唱する。
『全てを飲み込む混沌。
我は死神、地を這う泥。姿を見たものを全て闇に落とす者』
身長を超える巨大な鎌を裡から取り出し、身体の重心を前に落として、踏み込む姿勢のまま。
「やれェッ」
ラウンドナイツの両後ろに回り込んだ部隊に総攻撃の指示を出した。
アズラがいる位置を六時方向として二時と十時方向から十名ずつに振り分けられた兵士が迫る。
距離はおおよそ五十メートル、まるで津波のような勢いで距離を詰めて来る。
詠唱は済んでおり、しかも完全な挟撃態勢。その人数が五秒と掛からず攻撃が届く。
武器こそ取り出しているものの、詠唱が済んでいるのはシールのみ。
後ろの二人が慌てて振り返って――――アズラは視線どころか意識を後ろに向けないバーンにはっと目を見開いた。
「避け――――」
『吠えろ、火淵の皇帝“グラン=フィーガス”』
止める声とほぼ同時、ブレード=ナイツ=ラインの斬撃がレダルキア兵の右半分を薙ぎ払った。
「―――ちぃッ」
慌てて大鎌を振りバーンに斬りかかるブレイド。
「貴様ら、“奇襲が来るのがわかってた”なァッ」
腰に付けた二対の双剣のうち、二本を引き抜きバーンが鎌を受け流す。
「ご名答、案外早く、気付いたなッ」
剣戟で弾けた鎌と剣の間に電撃が走る。
「クソが、詠唱済ませてりゃそりゃ後ろを心配する必要もねぇよなァッ」
激高するアズラの身体から黒い霧が溢れ出す。腸が煮えくり返る。既に武器を持っていた理由、慌てて詠唱をしなかった異様な冷静さ。いずれかでおかしいと気付くべきだった、と鎌に魔力を込めながらぎり、と歯を噛んだ。
崩れた包囲とに対してシールとブレイドの綺麗な連携。瞬く間に一人、また一人騎士が倒されていく。自分が動ければ、とも思うが……。
「―――――ふっ」
「てめぇ……ッ」
詠唱も無しに次々と雷撃を飛ばしてくるバーンにアズラは完全に釘付けにされてしまっていた。
「お前さえ動けなけりゃそんなに強い人間は居ないって聞いてる。
形勢逆転だな、混沌」
バーンは無理に勝たなくていい、ただただアズラがこの場から動けないように一定の距離を保って攻撃していればいい。
対してアズラは時間が経つにつれ戦力を削られ、このままでは最終的に三対一になるのが明白だ。
最悪その前にブレイドの大規模な魔術を使う隙が出来ればそれで終わり。
事前に情報を全て貰っていたラウンドナイツが一歩も二歩も先を見据えた戦いを出来ている。
このままであればラウンドナイツの勝ちは確定だっただろう。
―――――乾いた破裂音が戦場を引き裂く。
「え、なん……」
激痛に顔を顰めるブレイドの右肩には数センチの穴。
音のした方を睨みつけると、そこにはショートカットの少女が片手で煙を上げる“それ”を構えていた。
――――しかし、それは全てを知る権利を持つ英雄が、『知りうる情報を全て、確実に伝えていられれば』の話だ。
神父が伝えられるのは自分が知り得るもののみ。もし神に啓示を受け、情報を得ていたとしても、説明できないのであれば伝えることは出来ない。
そう、例えば――――数百年の後、世界を席巻し人々の畏怖の象徴となったインスタントキラーの危険性など、伝えられるはずがない。
「全員、死にたくなければ降伏しなさい」
拳銃『コルトM1911』そして、その所有者ティス=メディアが戦場を支配する―――――。
―――――†―――――
another prespective by thys…
銃声と共に戦場が静まり返る。
「全員、死にたくなければ降伏しなさい」
レダルキアの兵士に取り囲まれた三人の騎士は動けず、肩を打ち抜かれた少年は傷を押さえながら膝を付き、少女は周りを警戒しながらも少年を心配そうに何度も見ている。
リーダーの女性はアズラと対峙してなお隙を見せない。
杖を右手に、左手で銃を構えながらティスは続ける。
「このまま投降の意志が見られないようであれば遠慮なく銃撃させてもらうわ。
死にたくはないでしょう。さぁ、返事を」
威圧的な言葉を発し精いっぱい睨みつける。
ティスのその言葉は終始„はったり„だ。人を撃つのでさえ忌避感を覚える彼女には人の命を簡単に奪えない。
その証拠に震えないよう全身は強張り、もしラウンドナイツの誰かが攻撃してきたとしても全く反応できないだろう。
「……はっ、いいねェ。
わけわかんねぇ武器だとは思っていたが、俺でも攻撃が全く見えなかったぜ。
ほらァ、ラウンドナイツ。
早く投降しないと、風穴がもう一つ開くぞ、いいのかなァ」
楽し気に口元を釣り上げながらじりじりと距離を詰めるアズラにティスが舌打った。
ティスとしてはあまり攻撃目標と近づかないでもらいたい。オートで照準が出来るとはいえ、その目標の前に味方がいれば巻き添えは必至だ。
魔術戦は腐るほどやってきたが銃撃戦の経験は今回でまだ二度目。素人もいいところなのである。
駆け引きなど出来るはずがない。
「…………燃えろ……づっ」
ブレイドは呟き自身の傷を焼くとゆらりと立ち上がった。
「それで騎士が止まるとでも」
大剣、グラン=フィーガスを両手で構える。左手で強く握りしめ、力がはいっていないのであろう右手は添えられているだけだ。
「―――――ッ」
ティスは息を飲んで覚悟を決める。殺したくはないが、撃ちたくないではもう済まされない。
「愚かね、ならここで死になさいッ」
引き金を引く。狙いは左肩。さすがに両肩撃ち抜かれれば止まらざるを得ないだろう。
残り二人も手負いがいるとなれば戦闘を継続することが難しくなるはず。
正直な照準。再び響く乾いた銃声。
その銃声をかき消すように、雷鳴が鳴り響いた。
「―――な、」
ブレイドの左肩をカバーするように、バーンが短剣で守りに入っていた。
なんて出鱈目。
拳銃というものを知っているのならまだしも、知らない人間が弾丸が目視でとらえることなど出来るはずがない。それに狙われる個所がわかっていなければあのような防御が出来るはずがない。
何より、今バーンはおおよそ三メートルほどの距離を”ティスに見えないほどの高速”で詰めた。
「……くっ」
焦って二発目、三発目とバーンの肩口めがけて打ち込むも双剣で難なく防がれてしまう。
「シール、ブレイドッ、アレは俺が出来る限り防ぐ。
切り抜けるぞッ」
シールとブレイドが目を合わせて頷く。
「させるわけねぇよなァッ。
客将、援護しろ、ここでラウンドナイツを仕留めるから、なァッ」
アズラが大鎌でバーンに切り込む。
他の兵たちもそれに呼応するようにシールとブレイドに襲い掛かった。
「……なんで、もうっ」
今ので何故戦いを止めてくれないのか、シールはかちかちと歯を震わせながら銃身をラウンドナイツに向ける。
狙うは腕、足、行動を制限するための射撃。
対するラウンドナイツは非常に苦戦を強いられることになった。
彼らはティスが”殺せない”事を知らない。
銃撃は常に全力で止めにいかなければならないし、現状止められるのはバーン一人。
「ぐっ、く……」
結果直撃は免れても肩や足に掠めてしまい、強化した剣士たちに一方的に攻撃され続ける状況となった。
「大人しく死ねよ、ほらほらァッ。
『My lungs get old from the poisonous air, and I wash my dirty body with the water of chaos.』(歪んだ呼吸に肺は朽ち、穢れた肉体は混沌で洗え)
ははは、はははははァッ」
ごん、ごんと巨大なハンマーを打ち付けるようなアズラの攻撃に加え、敵味方関係なくまき散らす魔術にラウンドナイツの身体が少しずつ蝕まれていく。
「―――ぐっ、指先の感覚が……ッ」
バーンは拳銃に意識を削がれ、既に双剣の一対を取りこぼし、残った双剣で防御するものの、それもあと数分持つかどうか。
「ぜぇ、ぜぇ、『Braze braze braze brazere』(燃えろ、燃えろ燃えろ燃えろォッ)」
ブレイドは傷を焼きながら限界を超えた強化で少しずつ身体が火傷を負っていく。
「う、うぅっ。
『Cold fingertips, frozen breath, this heart is loved by Shiva.』(冷たい指先、凍る吐息、我が心はシヴァ神が愛し賜う)」
シールは太ももに弾丸を受け、膝を付きながら魔術で応戦する。
もしも、第一射でティスがブレイドを撃ち殺していればこうはならなかっただろう。守る対象が一人であればバーンはシールと共に逃げ切れたであろう可能性が高い。
もう息も絶え絶えのラウンドナイツを見て、ティスが撃ち切ったコルトのマガジンを付け替える。
……マガジンは今入れ替えたもので最後、弾丸は七発。
魔術での自動照準はまだ効いている。
終始戦場を支配し続けた拳銃を握りしめる。
ティスは深呼吸をして覚悟を決めると、バーンの額に照準を合わせた。
―――――リーダーは間違いなく彼女だ。
それを撃てばこの戦闘は少なくとも終わる。終わってほしい。
アズラの攻撃をいなし、バーンが地面を踏みしめながら一瞬硬直した。
―――――今だ。
チャンスを見つけ、シールが引き金に指を掛ける。バーンは気付くものの腕が上がらない。
絶好の勝機、決着がつく寸前……あたりは光に包まれ、一切の音が消えた――――。
―――――†―――――
Original perspective by Sei
「……来たか」
聖域の南側、近付いてくる人影を睨む。
……神父はいない。
なんでもやることがあるから少し遅れて合流する、とのことだ。
それまで俺は無理せず時間を稼いでくれればいい、とのことなのだが。
「相手が悪いんだよな……」
近付いてくる人影は間違いなくあのプリベッタだ。すたすたと淀みのない足取りでこちらに近付いてくる。
「やあ、こんなところに一人でどうしたんだい」
五メートルほどの距離で止まるとプリベッタが気さくに声を掛けてきた。
「ここで見張りをするよう頼まれた。
アンタこそ、馬車はどうしたんだ」
言って辺りを見回して見せる。もちろん、何もない。
「最近物騒ですからね、森の奥の方に隠してるんですよ。
そんなことより、この聖域だと見張りしてても何もないから退屈じゃないですか。
馬車に軽食を置いてるから一緒に食べましょう」
こっち。とプリベッタがジェスチャーして見せる。
「それはいいな、じゃあご相伴に預かるよ、ありがとプリベッタ」
俺がそう言うとプリベッタは笑顔で頷いて背中を向け、「こっちだ」と、そのまま森の方へ歩き出す。
その無防備な後姿、一週間前に別れた時と何ら変わりない所作に、俺は目を細める。
そして、五メートルの距離を一気に踏み込むと……その首めがけてアルタキエラを振り抜いた。
―――――無詠唱の身体・武器強化、周囲の音の阻害を同時に使用しての一撃はしかし。
「不意打ちとは、騎士らしからぬ恥ずべき行為ですね、セイ=ディリブ・フロクレス。
私が後ろを見えていたからよかったものの、気付いていなければ首が落ちていましたよ、怖い怖い」
ひらりと、まるで蝶のように優雅に躱されてしまった。
殺してしまえれば手っ取り早いと思ったのだが、さすがに一筋縄ではいかないようだ。
「俺はラウンドナイツに入れられただけで別に騎士を目指してない。
『Physical effect』(身体強化)」
手早く身体強化を自身に施し、剣を構えなおす。
「いやはや、それは失礼。
それにしても不可解だ。口調から所作まで完璧な擬態だったと自負しているのですが、どこでバレたんでしょうか。
多少おかしいと気付いてもあの短時間で偽物と断定して首を落としに来るなんて正気の沙汰ではない。
理由、教えてくださいませんか」
ひゅん、とレイピアを構えるプリベッタ……の姿をした別人。
俺は説明をしようかと口を開いたが、必要ないなとため息をつき、口を噤んだ。相手の情報を神父から大体聞いている、聞き出す必要もないし、なにより彼の顔で、彼の口で好き勝手されるのは気に食わない。
「話す気は無さそうですね。
はぁ、自分の落ち度を知ることが出来ないのは少々癪ですが仕方ない」
死んでいただくとしましょう。
『We play in a duet, creating beautiful sounds together.』(二重奏を奏でましょう、美しく楽しい音色を届けましょう)」
言うが早いか、プリベッタの流麗な動きとは似ても似つかない豪快な踏み込みでレイピアを突き出してくる。
今の詠唱は強化の魔術か、先ほど回避したときよりも踏み込みが早い。そして―――詠唱はやはりプリベッタのものとは違った。
『/stack.』
強化の重ね掛けで相手の攻撃を凌ぐ。
プリベッタの魔術は精霊を使った攻撃的なもの。小細工が通用しない為相性が悪いと思っていたが……彼の魔術は使えないようだ。この感じなら凌げるかもしれない。
レイピアを切り払いながら相手の情報を思い出す。
――――クラーキィ=ワン。
身体を乗っ取り、操る憑依の魔術の一種を使う。媒体はアダマンタイト鋼の針と絹の糸。
それはもともと医療を目的とされたものだ。疵を縫い、切断された部位を生かす為にあったそれは彼の手により刺した相手の神経から侵食していき最終的に脳の偏桃体に針を突き刺しその身体を奪うというものに変わってしまっている。
奪われた者は脳を殺され、残った身体も数日利用されたのち捨てられる。
――――ひどい話だ。
救うために作られたそれは今や、命をただの消耗品としてつかうものになり果てている。
プリベッタの身体から数十本の糸がちらちらと見えている。
「ふっ……」
下から切り上げるように右腕を切り落とす。しかし右腕は地面に着くことなく、しゅるしゅると数本糸が伸び、ぴたりと元通りにくっつくとそのままレイピアを突き出してきた。わずか数秒の出来事。
俺はそれを丁寧に捌いて距離を保つ。
「……なるほど。
私の魔術をご存じ、というわけですか。
彼が言っていたことも信憑性を帯びてきましたね」
不意打ちじみた攻撃に俺が何の反応も示さなかったからだろう、距離を詰めずにこちらを睨めつけてくる。
「小細工は意味が無い、と。ふむ。
身体は出来るだけ傷つけずに捕まえたかったのですがやむをえません。
『We play in a trio, layering intense sounds.』(三重奏を奏でましょう、激しく強い音色をぶつけましょう)
さあ踊りなさい、セイ=ディリブ・フロクレス」
ばっと両腕を広げ、針が二本左右に展開する。
よく見れば絹の糸が針に括られており、それで操っているようだ。……神父の情報によればあと一本、針を隠し持っているはず。
遠隔操作しているのだろう身体は俺を倒せるほどの剣技を使えない。
何より俺は時間を稼げればいい……。
「/stack.」
強化魔術を重ね掛けし、針とレイピアを交互に弾く。
先ほどの再生を見るにおそらく、針の糸を切ったところですぐ繋がれて終わりだ。
「はぁ、何とも。
手の内がばれているというのは気持ちが悪いものですねぇ」
不服そうに眉をひそませるが関係ない。このまま神父が来るまで付き合ってもらう。
……そう、思って一歩後ろに下がった瞬間。
「づ…………ッ」
急に右足の自由が利かなくなった。
何事かと思い慌てて右足を見ると、くるぶしの上あたりにアダマンタイト鋼の針が。
「いつ、のまにッ」
膝を付くことも出来ず慌てて地面に手をついた。
「そりゃあ本体から投げたに決まっているでしょう。
まったく、一本だけ本体に残していてよかったですよ」
サク、サク、とプリベッタの右後方から仮面の男が一人。
「はじめまして。
その様子ですとご存じかもしれませんが、私の名前はクラーキィ=ワン。
犠牲を生み出す間違った秩序に仇為す者。
サクリファイスのメンバーです、それでは――――」
針をプリベッタから受け取り、俺の方に歩いてくるクラーキィ。
しかし、俺の意識はもうクラーキィの方に向いていなかった。
「――――ヴェル」
遠目でも一瞬で分かった。いったい時速何百キロで跳んできているのか。
「――――――」
表情すら読み取れないほどの距離だというのに、視線が合ったことがわかった。
きっと、彼は笑っている。俺を見つけ、満足げに口元を釣り上げているに違いない。
「いったい何を見て……」
俺が意識から外したことを不服に思ったのだろう、クラーキィが何か言いかけた瞬間。
―――――あたり一帯が光に包まれた。
―――――†―――――
another prespective by Vellstar…
「はは、やべぇやべぇ、遅刻遅刻」
レダルキアから聖域間。寄り道に休憩とさんざん時間を使ったヴェルスターは最後の最期で居眠りをして約束の時間に遅れている。
正午を回って既に十分が経過、
時速は大体三百キロを超えたところ。音速まではぎりぎり出ていない。
「リリース」
グングニルを自分の裡から展開する。
いつも役に立っていないのだ、今回くらいは使ってもばちは当たらないだろう。
と言っても、ただ固い槍として使うだけなのだが。
「『I hinder reason and providence.』(私は理、原則そのすべてを阻害する)
『I deny magic, do not allow magic power, and hinder it by my command.』(魔法を否定し、魔力を許さず、私の命令によって阻害する)
『Make way, there is no need to resist my triumph.』
(道を開けるがいい、私の凱旋に喧騒は不要である)」
聖域が視界に入る。あと数秒で射程圏内。
―――――その時、視界にセイの姿が入った。
強化している俺と違い、見えるはずがないというのに真っすぐこちらを射止める視線。
――――背筋が這うようにざわついた。
思わず槍に力が入る。
知らず口元は吊り上がり、動悸が抑えられなくなっている。
「ふふ、ふふ、ははははッ。
『――――vanishing magic.』(神秘を喪失せよ)」
眼下に聖域。その頂点に位置した瞬間、ヴェルスターは神の槍を放った。
それはまるで霹靂のように、一瞬で周囲から全てを奪った。
――――激しい光で視界を。
――――認知量を超えた轟で音を。
そして、彼の阻害魔術によって周囲一帯からあらゆる魔術が消失した――――。




