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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase3-21『最後の晩餐』

Phase3-21 23/04/30 投稿

 聖域の最期を説明し終えた後、神父へ文句を言いに教会に行ったものの不在。教会のテーブルには、

『明日詳細は話すので悪しからず』

 とだけ書かれた置手紙が。もちろんみんな腹を立てたが、こうなってはどうせ見つからないと各自解散。皆バタバタと戦闘準備を進めるのだった。

 そして最終日、俺はもはや日課になってしまったアクセサリー造りの手伝いに来ている。

「よし、引き揚げろ」

「はい――――ッ」

 熱処理された銀を引き上げ、仕上げを彫っていく。かりかりとメリハリが付くよう細やかに、丁寧に。仕上げて顔を上げると満足そうな表情でドドが見下ろしていた。

「ふん、上出来じゃな。

 一週間でよもやここまで出来るとは思わんかったぞい」

 ドドは銀を扇いでゆっくりと冷ましながら右から左からとじっくり観察したかと思うと数回頷き、火箸で他の完成品のところに並べた。

「さて、片づけをしようかの」

 そのままぐっと背筋を伸ばして片づけを始めようとする。

 その小さな背中に俺は改めて向き直った。

「師匠」

 俺がそう言うと驚いたように振り向くドド。俺はそのままゆっくりと頭を下げた。

「ありがとうございました」

 終わった達成感と充足感をそのまま感謝をの言葉にする。

 顔を上げると嬉しそうな、それでいて困ったような、微妙な表情をしていた。

「なに、礼なぞいらん。

 なんせ仕事を手伝わせただけじゃからな。

 ほれ、最後じゃ、はよ動け」

 想像通りの返事に俺は苦笑しながら「はい」とだけ返事をしてそのままてきぱきと片づけていく。

 一つ一つ、手触りを確かめるように道具を片づける。たった一週間に満たなかったというのに、やけに濃い経験だった。

「片付いたな。いやぁ、あっという間じゃった」

 やれやれ、と腰かけながらドドがため息を吐く。

「初日はそんなに出来るもんか心配じゃったが、よくここまで努力したもんじゃ。

 これなら売り物にも出来るかのう」

「適当言って。

 おだてたってなにも出ないぞ」

 今までにないほど褒め倒され照れくささに鼻を掻く。

「そうじゃったな。

 むしろ渡す方じゃった、ほれ」

「……あ」

 そう言ってテーブルの上に置かれたのは初日に見た銀細工と……。

「アルタ――――キエラ」

 見覚えのあるその剣に目を見開く。ユグドラシルの麓で投げ捨てた剣が、何故ここに。

「なんじゃ、お前さんの剣だと聞いとったんじゃが違うんかの」

「や、俺のだけど……じゃなくて、えっと、これは……俺じゃ相応しく、なく、て……」

 声もうまく出せず、思わず顔を伏せてしまう。手放した時よりもなお清廉な輝きが今の自分には眩しすぎて。

「やれやれ。どういう経緯かは知らんが、それで手入れがされておらんかったんじゃな。

 預けられた時錆がひどくての、鞘から引き抜くのすら一苦労じゃったわい」

 説明しながらすらり、と、鞘から剣を半分ほど引き抜いて見せる。

「―――――は、い」

 ダイアスレフを殺した時の記憶がちらついいて胸に蝋のようなどろりとした感情が渦巻く。言葉を発しようとぱくぱくと口元だけ動いて、声が出てこない。

 そんな俺を見て、どう思ったのか、ドドは剣を鞘に仕舞うと、まるで夕食の内容を尋ねるような気軽さで、

「これで何人殺したんじゃ」

 そう、訊いてきた。

「ひと、り……」

 ふぅん、と感心無さそうに返事をすると、ドドは無造作に立ち上がり、俺の方まで歩み寄ると雑に頭を撫でてきた。

「辛いな、そして苦しかろう。

 ……じゃがな、その思いがお前さんを抉ったとしても、その心を忘れてはいけないよ。

 それはお前さんがお前さんの心を持っている証なのじゃから」

 そう言って剣を渡してくる。

「これを、ずっとか。厳しいな……」

 それを受け取ると俺はぐっと胸に抱いた。

 自分は今酷い顔をしているだろう。眉間に力が入ってしまっているのがわかる。

「なんて顔をしておるんじゃ。

 これは正当な報酬なんじゃから、胸を張りなさい胸を」

「……うん」

 返事をして、背筋を伸ばす。

 自分はひとつひとつ精いっぱい判断をしてきて、心を自制してこれていたつもりでいたけど、こんな言葉で救われた気になってしまうくらい、まだ未熟だったようだ。

「よろしい。

 さぁ、ワシの仕事は以上じゃ。少し早いが戻って明日の事をしっかり話してきなさい」

 そう言って立ち上がるドドにつられて立ち上がる。

「そうする。

 ありがとう、また明日」

 なんの意識もしていなかった言葉に、ドドが困ったように、呆れたように笑いかけてくる。

「また明日な」

 今更はっとなってその言葉の重さを理解した。そうだ、明日この聖域は無くなるのだ。

 そのまま背を向けるドドの背中を見ながら自分も踵を返す。

 明日、必ずドドを救うのだと自分の胸に近いながら俺はショップを後にした。


―――――†―――――


「さて、それでは明日のことを打ち合わせようか」

 教会に揃ったラウンドナイツと向かい入れた神父が食堂のテーブル越しに向かい合う。

「いや、しれっと話を始めようとしてるけどさ、その前にお前いうことあるんじゃない」

 ブレイドが腕を組みながら見下すように顎を上げている。なお、背が低いため様にはなっていない。

「はて、何のことかな」

 わざとらしく首を傾げる神父にブレイドの堪忍袋の緒が切れる。

「ふざけんなよお前、聖域が明日ぶっ壊されるなんて大事なこと黙ってて知らんぷり決め込んでんじゃねぇッ」

 がーっとまくしたてるブレイドを涼し気な表情で受け流す神父。

「言おうと言うまいと出来る準備は限られているし、そのあたりは全てこちらで整えておいたからね。

 だとしたら知らないで聖域を楽しんでもらった方がいいだろう」

 ほら、と神父が指さす先には俺を除くラウンドナイツメンバーの武器が整備されて置いてある。

「フロクレスの面倒を見てくれていた職人がきちんと手入れをしておいてくれている。

 封石も人数分あるから持っていきたまえ」

 その手際の良さにブレイドがぐぬ、と口を噤む。そんなブレイドにやれやれと首を振りながら今度はバーンが口を開いた。

「戦闘用の装備品については感謝するが、住民の避難はどうする。

 ここを破壊するほどの規模だ、このまま残っていては死傷者も出るのではないか」

 バーンも不満があるだろうに、その気持ちを押して冷静に質問をしている。

「答えよう。

 今残っている住民は聖域が滅ぶと知ってなお残る『避難の必要が無い住民』たちだ。

 理由は様々だが、彼らは梃子でも動かないよ。私の説得も効果が無い」

 それを聞いてバーンが何かを言おうとしたがなにを理解したのか『わかった』とだけ言って目を閉じた。

 数秒静まり返ったが、シールがそろりと手を上げて言い難そうに口を開いた。

「その、この食事はもう食べていいんでしょうか」

 会話が始まる前からずっと置かれている食事はガーデンに来てから最も豪華だ。サラダ、パン、教会的にいいのか肉もある。

 大体の話が済んでいる俺としては早く食べたかったのでこの質問は非常に助かる。

「もちろんだとも。そのために残った人たちが準備してくれたのだからね」

 どうぞ、と手でジェスチャーすると先ほどまでの剣吞な雰囲気はどこへやら、各々が食器を手にした。

 他のメンバーもなんだかんだ食事が楽しみだったらしい。

「こんな量の肉やら野菜やら、久しぶりに食うんだけど」

 ブレイドがどれを取ろうかと料理と睨めっこしている。

「最後の晩餐だからね、俺の」

 神父の言葉に全員が凍り付く。

「すっげぇコメントし辛いんだけどなんて言ったらいいんだそれ。

 おめでとうなのか、それともご愁傷様か」

 ブレイドが眉をハの字にして尋ねる。

「ふふ、軽いジョークだよ。

 冷めないうちに夕食を済ませながら話そう」

 ……全てを知る神父どうやら上手にジョークを言えないようだ。

 血の気が引いたが、本人がいいと言っているのだからお言葉に甘えて食べさせてもらおう。

「さて、それでは早速だけど、明日の行動方針を決めよう。

 まずは今回の戦況から。

 相手は二組、明日正午にヴェルスター=ハイルロードが聖域を破壊するのを皮切りにサクリファイスとレダルキアから時間差で攻撃を受けることになる。

 南からはサクリファイスのクラーキィ=ワンとメビウス=トゥワイス。

 東からはアズラ=シザーフラッグ率いるレダルキアの一個魔術小隊、三十名ほどから攻撃を受けることになる。

 南からの攻撃に対しては俺とフロクレスが防衛に当たるから他のメンバーにはアズラ=シザーフラッグと小隊を押さえてもらいたい。できるかな」

 明日の状況から対処法まで一息で説明される。

「そこまでわかってて、聖域を破壊するのは止められなかったのか。

 あんたも逃げる選択肢があっただろうに」

 バーンの質問は当然だろう。これだけの事象を知り得るのだから止める方法なり避ける方法なりあったのではないだろうか。

「フロクレスにも言ったが破壊は防げない。

 あらゆる手を尽くした。引き延ばせる方法は全て使った結果が明日だ。

破壊しに来るヴェルスター=ハイルロードはキリアリスを超える火力と戦闘力を持っている、それを止めることはこの世界の誰にも出来はしないのさ」

 神父は目を閉じると、一度頷いてゆっくりとバーンに向き直る。

「それと逃げないのは残りたいと言ってくれている人たちを……きちんとその最期を見届けたいからだよ。

 あとは、素直に言うと悔しいからハイルロードに一矢報いたくてね。

……そのために君たちラウンドナイツの力が必要だ、力を貸してくれるかい」

 神父が尋ねるとラウンドナイツのメンバーが顔を見合わせる。

「ま、こんな旨いもん食わせてもらったら仕方ないよな」

 と、肉を加えながらブレイド。

「うん、私にできることは少ないけど、それでもちゃんと恩には報いるよ」

 シールも優しい笑顔で言って、バーンの方に視線を送った。

「そんな大事な戦いならなんでキリアリスがいない時期にラウンドナイツを招集したかは謎だが……まぁ、命令だからな。

 出来ることはやってやるさ」

 ふん、とバーンが鼻を鳴らす。

 長いようで短かった聖域での生活、それも明日で終わる。

 ……神父は全てを知りながらも結果を伝えない。それは意図してのものか、それとも――――。

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