Phase3-19『ラウンドナイツⅡ』
Phase3-19 23/4/16 更新
another prespective by Round knights…
翌日。聖域へ来て五日目、ラウンドナイツ宿泊施設、庭。
「ふぅ……ッ」
ブレイドとシールが戦闘訓練をしている。
「せいやッ」
その高い身長に任せ槍を大胆に振るシールの攻撃をブレイドが木剣の柄で器用にいなしていく。
「その調子。
ブレイド、今持ってるのは大剣じゃないんだ、しっかり小回り利かせて踏み込め。
シールは近づかれたら終わりだぞ、しっかり距離を保っていけ」
「はいっ」
少し距離を置いたところからバーンが二人に的確にアドバイスをかけていく。
「ふ……ッ」
しかし褒めたのもつかの間、踏み込んだ瞬間ブレイドが身体を使った大振りでシールに斬りかかる。シールはと言えば距離こそ取るものの体格を生かすことなく腰を引きながら槍の柄を横に構えて防御の態勢。
二人の戦闘スタイルはなかなか矯正されることは無く、バーンが呆れたようにやれやれと頭を掻いた。
小柄で小回りの利く戦いをすれば伸びるのではないかと思われるブレイドと、その身長と長槍を以て大胆な戦いが向いていそうなシール。
二人もなんとなくわかっているのか返事こそいいものの、改善される兆しも見えない。
そんなことをしなくても両者が強いのは解っているのだが……これから激化していく戦い、不利を押し付けられた時にしのげるくらいにはしておいた方がいいだろう。
「よし、じゃあ一旦やめて。ここからは俺が相手してやろう」
バーンが言いながら手を叩く。するとシールとブレイドが動きを止めて武器を納めた。
「今日の得物は……練習だし俺の得意な武器でいいか」
そう言って二本の片手用木剣を取り出すバーン。シールとブレイドは二人して頷き合うとバーンに向き直った。
『よろしくお願いします』
二人が声を合わせて言うと、バーンは一度頷き先に斬りかかった。
狙うのはブレイド。もちろん細かい動きで対応させるよう、こちらも出来るだけ小さな動きで斬りつける。
「づ、う……ッ」
両側から交互に斬りつける剣戟を器用に防いでみせる。
「はっ」
斬り合いをしているところに横からシールが大振りで仕掛けて来る。
その動きを視線を送って確認し、迎撃するべく距離を取ろうと後ろへ下がる、が。
「逃がすかッ」
すかさずブレイドが距離を詰めて来る。
いい連携だ、とバーンは感心する。まだ思考が入る余地があるからか、二人とも指示通りの動きが出来ている。
ここから少し思考を揺らしてやるべく左手の木剣を“ブレイドに向けて投げた。”
「い……っ」
慌てて止まりながら剣で弾き飛ばすブレイド。しかし視線をバーンに戻すころには既にバーンはシールの懐に居て、懐に飛び込まれ場シールはわたわたと慌てて槍を引き戻すところだった。
これで終わり、あとはぱかん、とシールの頭に一本と、残ったブレイドを一対一で下すだけ。だと、思っていたのだが。
「なっ……」
ブレイドの右腕が、なんとバーンの木剣とシールの頭の間に滑り込んできて、そのまま体勢を崩したブレイドは間を通過して派手にすっころんだ。
「どぶ、ってぇッ」
転んだ拍子にブレイドの木剣が建物の方へ飛んでいき、びっくりするほどの音を立ててガラスを貫通した。
「なんて、どゆことだよ」
何が起こったのかわからずバーンが困惑する。今のは明らかに間に合うような距離ではなかった……だというのにブレイドは攻撃を止めるどころか突っ切っていった。
バーンがどういうことかとブレイドが走ってきたであろう場所を見てみると、黒く焦げた跡。
「なるほど」
二人は訓練をする前に強化を済ませていた。おそらくブレイドは踏み込んだ際に強化をブーストさせたのだろう。
自分の強化も異質だがブレイドの底力も捨てたものではないな、とバーンが考えていると。
「あぁっ、ブレイドッ。
ガラス、ガラス割ってるッ」
現状をやっと把握したシールが声を上げた。
「あー……まずいな」
バーンも思わず頭を抱える。
丸形のガラスならまだしも、平面のガラスは非常に高価である。技術者も少なく、早々作れるものではない。
見ればサイズがサイズだ。扉と同程度、装飾も無いほぼ透明のもの。もしかしたら家一軒くらい建つ価格かもしれない。
「えぇ……ど、どうしよ……」
ブレイドが起き上がって顔を真っ青にさせている。そりゃそうだろう、下手したら自分の給与が数年分すっ飛ぼうとしているのだから。
「今戻りました……って、何を騒いでいるんだ」
と、午前のお勤めを終わらせたのか、セイが帰ってきた。
連日重労働なのだろう、疲れ切った表情をしている。
「ブレイドがガラスを割っちまったんだよ。
このサイズ……俺もさすがにどのくらいの金額するのか想像も出来ん」
「あー……この時代だとまだろくな精製技術ないもんな……これは高そうだ」
セイがまた何かよくわからないことを言っているがいつもの事なので聞き流すことにする。
「えぇ、どうしようこれ。
俺もしかしてアルキリオに帰れなかったりするのかよ……」
ガラスを集めながらブレイドが声を震わせる。シールもまぁまぁ、と言いながら一緒に集めてあげているようだ。
「あー……神父が初日に言ってた『窓の事は気にしなくていい』ってこのことじゃないか」
セイがため息をつきながら言って、三人はきょとんと顔を合わせた。
「え、どういうことだ」
最初に口を開いたのは当事者のブレイド。
「ゆっくりでいいから思い出せ。初日に聖域に来たばかりの時、荷物の事と一緒に説明されただろ」
「あ―――……」
思い返してみるが言われたような気がするだけではっきりと覚えていない。
ブレイドとシールも似たようなものではてと首を傾げている。
「ってことは何か、あの時点でブレイドがガラスを割るってわかってたってことか」
「まぁ、そう言うことだろうな。
ブレイド、ガラスは素手だと危ない。下手したら死ぬから箒で掃こう。物置から持ってきてくれるか」
心底気だるそうなセイ。
「えっ、あ、おう。わかった」
弁償しなくていいことに安心したのか、セイの指示にも関わらずブレイドは素直に物置の方へ歩いていく。
バーンはと言えば口元を押さえて少し考えこんでいた。
「神父はどこまでお見通しなのか」
「……なにに驚いてるのかと思ったらそうか、バーンたちは聞いてなかったのか。
あの神父『全てを知る権利を持つ者』らしいぞ」
セイはどうでもよさげな表情で重大なことをさらっと告げ「もう部屋戻っていいか」と、続けた。
「いや、部屋に戻るのは別にいいけど……いや、ちょっとまて、今の話聞かせてくれるか」
バーンが慌てて問いただすもセイが頭を抱えて首を振る。
「ごめん……今さすがに疲れで眠気がひどいから無理。それじゃ、おやすみ……」
ひらひらと手を振って去っていくセイ。
「あら、セイもう部屋に行ったのか。
連日大変そうだな、あいつも」
入れ違いでブレイドが帰ってきてガラスを片づけ始める。
「そうだな」
呟いてバーンはセイの消えていった方を睨む。
セイの事。ラウンドナイツに無理やり入隊させたこともそうだ。もともと何かがある人間だとは思っていたがここに来て理解できないことが一つ増えてしまった。
自分の直感は彼を危険ではない、と言っている。だが、間違いなく何かが動こうとしているこの感覚にバーンは一抹の不安を覚えるのだった。




