Phase3-18『ブロフ=マクラウドⅠ』
Phase3-18 23/04/10 投稿
another prespective by Vellstar…
空を滑り、流れていく。
速度はおおよそ音速を倍ほど超えてなお加速中。それだけの速度、空気の壁に殺されかねない状況でなおヴェルスターの顔は涼し気で、三つ編みにされた長髪がゆらゆらとはためく程度だ。
「―――――つまんないな」
呟いた声が付いてこれずに後方へ流れていく。生まれてから初めてここまで速度を上げてみたが何の高揚感も無い。というのも、槍の加護か彼には自己を害し得る一切の物理的干渉を受けなくなっている。空気の摩擦抵抗などもそれに該当するようで、彼の好きだった風を切る感覚もそよ風程度にしか得られなくなってしまっている。
それは槍を自分の裡に格納した状態でも変わることは無かった。
「そのくせ魔力はいっちょまえに食うんだよな」
一般的に破格な性能を持つ槍も現状彼にとっては必要のないものばかりだ。
彼的には早々に契約を破棄してしまいたいところだが、胸の疵の状況がまだ何も判明していない為そういうわけにもいかない。
だが、疵と魔術の事を調べる余裕がない。
何故ならガーデンの調査が忙しいからだ。
―――――今のガーデンは明らかにおかしい。結論から言ってしまえば、レダルキアが戦争の流れを握っているこの状況が異様すぎる。
科学がそれほど進んでいないこの世界で魔術を忌避しているレダルキアが魔術大国であるアルキリオを相手取って対等に戦えるわけがない。事実両国の間にあったアバートとマギウス、そしてクスフェルトは喧嘩を売った結果数か月持たず滅ぼされた。
だというのにレダルキアはアルキリオに善戦している。何の助けか第一親衛隊フリーカウンターは壊滅し、最後まで戦い続けたと言われるゼイミ=キリアリスは槍を喪う体たらく。
だがそれはほんの些細なこと。何よりおかしいのは――――――魔を忌避し滅ぼそうとしている国が魔術を計画的に使用しているということだ。
まだ少数だと思っているのか、アルキリオの人間たちはレダルキアを未だ危険視していない。攻め入らないのがその証拠。
このまま猶予を与え続ければ戦況が悪化する……いや、ともすればもう手遅れかもしれない。
「ま、俺には関係のない話だけど」
結論付けてひとり呟く。
何故なら彼はアルキリオが滅びることについて特に何も思うところは無い。むしろその騒動に乗じてユグドラシルを簒奪、調査することも視野に入れている。
そういった意味では今のサクリファイスの立場は非常に好ましい。行動の自由度が非常に高く ―――――。
「いかん、思考が散ったな、さてと。
私は理、原則、その在り方を阻害する。
遮るものは避け、その眼光に道を開ける」
残り数キロ、というところで自身の先に阻害の魔術を使用する。
視界を遮るものが無くなり目標があらわになる。レダルキアの城門、その全容。
例に漏れず強固な二重の城壁、遠目に見ただけでも警護に当たっているのが六名。立った二人しかいなかったアルキリオとはえらい違いだ。
強化の出力を落としゆっくりと着地する。
「空から……、だとッ」
「何者だ、貴様ッ」
大声で威嚇してくる相手を他所に戦力分析。
「槍二、剣二、弓二と、バランスがいいな。
ちょっと用事があって来たんだけど、入れてくれね」
ポケットに手を入れてにっと笑って見せる。敵意をなるべく捨てて警戒されないように。
「冗談をぬかすな、これ以上近づくなら切り捨てるぞ」
ずい、と前衛の剣士二人が前に出る。残りの四人もそれをサポートする陣形に構える。訓練してきたのだろう、とてもいい動きだ。
「まぁまぁ、穏便に。
俺は王様に会いに来ただけだから会えたらすぐ帰るよ。
嘘は吐かないから入れてくれ」
そう言って一歩、二歩と前に進む。
「止まれ、止まらないのなら―――。
『この腕に剛力を、この足に駿速を、そして切り開くこの剣を与えたもう』
拘束させてもらうッ」
前衛二人が『同じ詠唱』を唱えた。
なるほど、強化の魔術であれば誰でも使える、それを大衆用に簡易化して、広めたというわけか。
個別に作成する詠唱と違い没入度と効力は落ちるが……即席の軍を作るのであればこれでも上等すぎるだろう。
「きな臭いな。
ま、どうでもいいか」
無詠唱で足だけ強化し斬りつけてくる相手から距離を取る。
「私は理、その在り方を阻害する。
外れる者、孤独に落ちゆきながら世界を拒絶する。
故に―――――抵抗は無く、劣化を知らず、制限は存在しない。
外れる者、虚空、深淵、世界から外れた者は時間の流れを知らず独り歩む」
全身へ強化を施していく。槍は使わない。
「少しやりすぎたかな。ま、六対一だしいっか」
相手が振ってくる剣を右手の甲で弾くように叩いた。
「―――――なっ」
ぐにゃりと、まるで飴細工のように曲がる剣にレダルキアの兵が驚愕する。
すかさず援護と矢を打ち込むがヴェルスターは既におらず、放ったはずの弓兵二人の首が地面に落ちた。
「とと、久しぶりに全強化したからか加減が効かないな……」
「このっ……ぎ、ぁ」
慌てて槍兵二人が迎撃に入るが手の甲で弾かれそのまま胸を叩かれ倒れ込んだ。
「おい、大丈夫かッ。
くっそ、このォ」
槍兵を心配しながらもヴェルスターに向き合い、斬りかかる剣士。
「あぁ、かっこいいね。
でも俺そういう無駄なの嫌いなんだよ」
先ほど剣を弾いた時と同じように剣士の頬を手の甲で叩く。
瞬間、はじけ飛んだ。
トマトを潰したようなその光景を見て最初に剣を曲げられた剣士が恐怖にへたり込む。
「ひっ、ばけ、もの……」
その怯えようにヴェルスターは気分を良くしたのかくつくつと笑う。
「そうだ、化け物だぞ。
お前達とは違う次元の生き物なんだ。
最後にきちんと理解できてえらいなぁ」
首を振りながら命乞いをする兵士にゆっくりと手を伸ばす。
「待てッ」
制止する言葉。
ヴェルはため息を吐くと声の主の方へ振り返った。
「なに、今度はアンタが相手してくれるのか」
指揮官クラスの兵士だろう男性は死体を見回すと奥歯を噛んだ。
「チッ、酷いことを……。
君を成敗したいのはやまやまだが私では勝てないらしい。
……総帥がお呼びだ、行け」
名乗ることもなく、城門の方へ指さしヴェルスターを案内する男性。
「ふぅん、通してくれるならそれでいいけど。
命拾いしたな、アンタ」
ヴェルスターがつまらなさげに手に掛けようとしていた兵士を見る。
「ひ、ひいぃぃ……」
兵士はヴェルスターと目が合うなり死体を踏み越えてレダルキアの城門内へと全速力で逃げて行った。
「あらら、いっちゃったか。
まいっか、俺も行くかな、じゃあなー」
ひらひらと手を振ってレダルキアへ入っていくヴェルスターを、男性は仇を見る目で最後まで睨んでいた。
―――――†―――――
レダルキア城内、王の間。
「―――――お前が」
通されるまま最奥に辿り着いたヴェルは正面に座っている人物を見て呟いた。
敵対しているヴェルスターにすら優しいまなざしを向ける相手は。
「初めまして、ヴェル。
私がレダルキアの総帥、ブロフ=マクラウドだ」
正装を身にまとい、一対一で堂々と名前を告げてみせるマクラウド。
真っすぐ見つめるそのまなざしからヴェルスターは目を逸らしながらため息を吐いた。
「はぁ、そう。
俺王様に会いに来たんだけど居ないの」
きょろきょろとわざとらしく周りを見回して見せる。
「王は五年前に崩御してね。
今は私が全権を預からせてもらっている」
その言葉にヴェルスターは思案するように顎に手を当てた。
「その崩御もどうせ事故だろ。誤魔化さずに殺したって言えばいいのに。ま、出来ることをすることはいいことだ。
ついでにこの国に魔術を浸透させたのもお前か」
その問いかけにマクラウドは驚いたように目を見開く。
「さすが、お見通しか。
あぁ、そうだとも。すべてはアルキリオを滅ぼし、ユグドラシルを解放する為だ」
そこまで言うとマクラウドは一度目を閉じ、ゆっくりと開くと真っすぐヴェルスターの方を見た。
「唐突だが、レダルキアに来ないか。
君の協力しているサクリファイスも悪いようにはしないし、飲める要求があれば……」
「―――――リリース」
それはわずか三秒に満たなかった。
言い切る直前にヴェルスターはグングニルを取り出しマクラウドの側頭部……の数ミリ左に槍を投げつけた。反応すらできなかったマクラウドはなお笑顔で飄々としている。
「悪い、手が滑った」
それはもちろん嘘だ。グングニルは狙いに必ず命中する。
「それは悪い冗談だ」
マクラウドもそれを判っているのかいないのか、困ったように眉を顰めると玉座に深く腰掛け直した。
「サクリファイスの要求はこの国の解体だ。
別に要求を飲まなくても解体させるし」
かつ、かつと一歩々々マクラウドに歩み寄るヴェルスター。
「お前相手じゃ確かにアルキリオも分が悪いんだろうけど、早々思い通りにはならないからな。
第一……お前は違う」
ずい、とマクラウドに顔に自分の顔を近づけながら威嚇するよう言い放つ。
その距離を以てしてもマクラウドは表情一つ変えることは無い。
ヴェルスターはその表情を見て気に食わなかったのか舌打ちをすると雑に槍を引き抜き踵を返した。
「私は理、原則、その在り方を阻害する。
遮るものは避け、縛るものは解け、翼無くとも空を駆ける。
―――――今回は見逃すけど、次会ったら問答は無用だ。目が合った時点で殺す」
振り返ることは無く、ヴェルスターはそれだけ言うと窓を開けそこから飛び出していった。
一人取り残されたマクラウドはため息を吐くと天を仰いだ。
「やれやれ、さすがに生きた心地がしなかったな。
……ゲイル、聞こえているかい」
「――――は、ここに」
王の間の前で待機していたのだろう、先ほどヴェルスターを止めた男性、ゲイル=シザーフラッグがマクラウドの前に傅く。
「今後彼、ヴェルスター=ハイルロードを発見した際の戦闘行為は禁止だ。
いや、戦闘をしてもかまわないけど蟻のように踏みつぶされてしまうからね。
ただ、あの様子だと手を出さない相手には手を出せないようだ。
全軍に通達しておいてくれ」
「はっ」
返事をするなり手配の為すぐに王の間を出ていくゲイル。
「それにしても何故阻害の魔術しか使わないのかな。十一も属性を持っていて何を考えているのやら。
余裕か、強制の魔術でも掛かっているのか。それは今は置いといて。
時期尚早かとも思ったがそろそろ動かないとね」
マクラウドは玉座からゆっくりと立ち上がるとゲイルに続いて王の間を後にした。




