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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase3-17『すれ違い』

Phase3-17 23/4/2 投稿

 Original perspective by Sei


「ふぅ、あっつ……」

 ドドの手伝いを済ませ汗を拭く。

 テーブルの端に置かれた銀細工はようやく人の目に居れてもよさそうな出来になってきた。

 膨らむような、特徴的な形をしている名前も知らない花。

「そういえばこの花の名前って何て言うんだ」

 気付けば思ったっままドドに質問していた。

「あァ。花の名前じゃと。

 そりゃレモンバーム。メリッサの花じゃよ」

「へ、えッ」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 メリッサ。メリッサの花って言ったのか。

「なんじゃびっくりさせおって」

「あ、いや、ごめん。なんでもない」

 目を泳がせながらそそくさと片づけを始めた。俺は知らないうちにあいつと同じ名前の花を彫っていたのか。

……言いようもない恥ずかしさを覚える。

「あのさ、今から作るものを変えるってできたりするのか」

 俺が尋ねるとドドは眉を顰めた。

「おまえさんがあと二日でモノにできる自信があるんじゃったら何でも教えてやるが」

 言葉とは裏腹に目が『そんなことできるわけないだろう馬鹿者』と言っている。

「だよなぁ……」

 はぁ、とため息と一緒に力が抜けていく。

 なんなら今から断るのも手だろうが、それはそれで悔しい気がする。

 これは腹を括って最後まで教わるしかないか。

「それより、昨日はどうじゃった。

 あの若造と会ったんじゃろ」

「え、あぁ、プライムヴァルドなら会ったよ」

 若造と言われて一瞬戸惑ったがすぐに納得した。ドドから見たらあいつも若造になるらしい。

「ふん、あいつは丁寧じゃが口が悪くていけすかん。

 ……いけすかんが大切なものを護れなかった無念は見て取れるからの。

 どれだけ戦い抜いたかも……一目瞭然じゃ」

 ふぅ、と机に腰かけるドド。片づけを終えた俺もその向かいに座るとそのまま茶を淹れ、差し出した。

「あぁ、ありがとう。

 あいつも、あいつを運んできた者も酷い怪我での。

 あいつは治療の末に一命をとりとめたが、運んできた者は翌日に亡くなってしもうた」

「そうなのか……」

 右腕を喪った、ということはこちらでも炎熱の魔術を使ったうえで……敗北したのだろう。キリアリスが生きているということは彼に使ったわけではない……のだろうか。

「昨日話したじゃろ、少し酷い言い方になるがの、あいつを見て腕があってよかったと思ったもんじゃ……と、すまんの。余計なことを話してもうた。

 歳を取るとどうもいかんのう」

 からからと笑うドド。

「で、あいつとは何を話したんじゃ」

 悪気のないその質問に思わず口を結んでしまう。

「なんじゃ、なんか痛いことでもあいつに言われたんかいの。

 どれ、ゆっくりでいいから話してみぃ」

 茶を啜りながら尋ねて来るドドに昨日話した内容を全て伝えた。

 自分の魔術が暗殺術だと言われたこと、誇りがないと詰られたこと。プライムヴァルドに言い放った言葉も、全部。

 普通に考えれば俺の方がおかしい、俺だってわかっている。

 ただ、それでも自分が努力をしてきた道を、誇りがないとか意味がないと切って捨てられるのは我慢ならなくて。

 いや、違う。本当は……。

「ふむ、そりゃあいつは何も知らんからの」

「……え」

「才能がある者、行き止まりを知らない者、生活に不自由した事が無い者にはわからん。

 幸せで、平和を謳歌してきた者達にこればかりは絶対に理解できんのじゃよ、セイ=フロクレス」

 ドドはそう言って物思いに耽るように目を閉じた。

 てっきりお説教が飛んでくると思った俺はあっけに取られてぽかんとしてしまった。

「ああいった人間が劣る者を理解することが出来はしないのじゃよ、どう頑張っても困難ではなく不可能。

 だから良かれと思ってかけるべき言葉を間違える。良かれと思っているから反省することも無ければ改めることも無い。

 そんな言葉に付き合ってやる必要は無いのじゃよ」

 そう言ってドドはからからと笑った。

「かく言うワシも、子供らにさんざ言われてきたわい。

 こんな仕事辞めて聖域をさっさと出よう、隠居して楽したらいいんじゃっての。

 ワシがこれを……銀細工を辞めてしまったら生きる意味などなくなってしまうというのにの」

「―――――」

 何も言葉を掛けられなかった。

 そんなことは無い、なんて俺には言えない。

 俺とドドはやっていることが違うだけで考え方が同じなのだ。自分が生きるために何かするのではなく、目的の為に生きている。

「さて、セイ=フロクレス。ワシとしては必要ないと思うんじゃが、師としては言わんといかんことがあるのう。

 別に志を変える必要はない、だが。みっともなく嚙みついたことは謝っておいで」

「―――――はい」

 優しいドドの笑顔に、唇を噛み締めた。相手の言葉はあくまで善意であって、俺はただ煽るための悪意だ。

 俺は確かにそれに激昂した。が、そもそもそんな言葉の相手をしてやる必要はない。だとすれば、残るのは俺からの侮辱だけ。

 俺が顔を上げるとドドはふっと呆れたように笑って、追い払うように手を振った。

 それに一度礼をするとそのままショップを後にしてプライムヴァルドのいる聖域のはずれに向かった。


―――――†―――――

 another prespective Dodo…


「やれやれ、世話の焼ける弟子じゃ」

 椅子に深く腰掛け、ドドはふぅと、ため息を吐いた。

 そのまま目をゆっくりと閉じると物思いに耽る。

 考えるのは今しがたセイに言った言葉と、子供たちが自分に言い続けてきた言葉、そして―――――今は遠い、彼の師匠の言葉である。

『ドド、アンタはこの技術に思い入れることなんて何もない。アンタは幸せになるためにこれを使って、満足いく人生を送ってほしい』

 涙ながらに言われたそれは、目を閉じるだけで今も鮮明に思い出せる。たった数日であったが、師匠が何故自分にここまでの事をしてくれたのかはわからない。

 この工房も、師匠と英雄で準備してくれたもので、その言葉一つ一つが今の自分を形作っている。

『のうのうの暮らしてきた奴にアンタの事がわかるわけないだろ、俺にもわからない。

 そんな奴らの相手なんて真面目にしなくていいんだよ、今まで必死に生きてきたアンタはもう変えられないんだから』

 何十人と殺した殺人鬼、その一人。自分をそれだと理解したうえでなお、師匠は根気強く銀加工を教えてくれた。

 ……レモンバーム、メリッサの花。師匠に教わったのはこれだけだ。

 花言葉は『共感』や『同情』など。師匠はお前のことなどわからないと何度も言ってきたくせにずっと理解しようとしてくれていた。

 ドドは思う。大切なのは何を言うかではない、誰が言うかだ。

 きっとああやって親身に理解しようとしてくれた師匠だからこそ、自分はその言葉に動かされたのだと。

 師匠に教わって数年後、涙を流しながら生まれた我が子を抱いたあの日。思い入れることなんてないと言われた技術と工房は自分にとって命より大切にするものに変わった。

 息子は大きくなり、自分の技術に追いついて国外へ行った。

『父さんもこんな古びた工房捨てて一緒に国外に行こう。

 金も生活も俺が何とかする、隠居して孫の世話でもしてりゃいいじゃないか』

 ―――――あぁ、涙が出るほど嬉しかった。心からの言葉。

 だが、自分を理解するには遠い、あまりにも遠い。

 目を開けて振り返る。自分の血で滲んだ加工用のピックとハンマー。もう朽ちかけて寿命を迎えようとしている暖炉と工具の数々。

 それら一つ一つが自分の魂で、道なのだ。

 子供の言葉に従って国外へ行く選択も確かにあったろう。

『ドド、君はこの聖域に残れば間違いなく死ぬ』

 英雄の言葉に驚いたが何も変える気は起きなかった。結局自分がやるのは死ぬまで銀を触り続けることだけだ。

 最後に飲み込みの早い素晴らしい弟子も出来た。明日にはきちんと仕上がることだろう。

 だがはて、何か大切なことを忘れている気がする。

「まぁいい、忘れる程度の事、たいしたものでもないんじゃろ。

 さて、それでは明日の仕上げの準備をしてやるとしようかのう」

 ひとりごちて寂しくなった工房で茶を啜ると、ドドは口元を緩め最後の準備を始めるのだった。


―――――†―――――


 another prespective Primewald…


 遡ること数時間。

 プライムヴァルドは昨日のセイとの言い合いを思い出していた。

 冷静になって思い返せばもう少し言葉を選ぶべきだったと自省の念に駆られる。

 間違ったことは確かに言ってはいない、だが……そう言うのならばセイの言葉もあながち間違いではなかった。

 俺は正道に拘りすぎるあまり、失敗した。

 ……セイがいったいどこまで自分の事を知っているかはわからないが、この右腕もそういった拘りのせいで無駄に終わった。

 キリアリスは殺せず、アバートが一方的に滅ぼされた。その結果に俺は世界に絶望し、聖域へと逃げ込んだ。

 それもこれも魔術を忌避したからだ。

 魔を使う者、須らく悪と断じられる者――――魔術師。

 そんな教えがある国で育った俺は、自分が魔術を使えることをずっと隠して生きてきた。きっとそのせいでキリアリスを殺すことが出来なかったのだろう。

 護るためにもっと魔術の訓練をしていれば、もしかしたら右腕を引き換えにあの神を殺せたかもしれない。

 そういった意味ではまだセイの方が強かだ。

 何を為そうとしているのかは聞けなかったが彼はきっと自分よりずっと強大なものと対峙しようとしている。

 そのために自分の忌避することも迷わずおこなってきたのだろう。

「何が誇りが欠けている、だ」

 きっと彼の剣には自分の人生より大切なものが乗っているのだろう。

 左手をぎゅっと握りしめる。

 自分に何が出来るのか、これからどこまで出来るのかはわからない、だが。

「今一度、神殺しを成すためにこの剣を振るおう」

 プライムヴァルドは手紙をしたためると机に投げ、そのまま―――――聖域を後にした。



―――――†―――――


 Original perspective by Sei


 結論から言うと、プライムヴァルドはもう聖域内に居なかった。

 もぬけの殻となった家のテーブルには手紙が一通。

『成すべきことを成すために聖域を後にすることに決めた。

 英雄には感謝を。

 セイ、戦場にて君を討つ』

 とだけ綴られていた。

 俺がその手紙を手に持っているところで食事を運んできたのであろう老人に事情を説明、手紙を英雄に渡してもらった。

 俺はそのまま宿に戻ったのだが、プライムヴァルドの手紙の最期の一文に胸騒ぎが消えなかった。

 ―――――いつか、彼と戦場で会うことがあるのだろうか。もしあるのであれば、きちんと謝れるのだろうか。

 どちらにしろ、俺にはそのために割くリソースは無い。

 だがもし、もし叶うのであれば、もう一度彼と面と向かって話をしたいと、そう思った。

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