Phase3-14『救いたい人』
Phase 3-14 23/3/12 投稿
「は――――ぁ」
もはや日課になった銀加工を終わらせ崩れるように壁に背を預けた。額からぽた、ぽたと汗が零れ落ちる。
服もしっとりとする程度に汗を吸っているが別に気持ち悪かったりはしない。
「お疲れさんじゃったの、ほれ、茶を持ってきたぞ」
「ありがとう」
コップを受け取り、そのまま中のお茶を一気に飲み干した。
「まだまだとはいえ、だいぶ良くなってきたの。
もともとこういう細かい作業は得意だったのかの」
「得意……ではないけど楽しい、かな、確かに。
やりたいことって言ったら魔術くらいだったから、新鮮なのかな」
言いながら道具を片づけ始める。
「こりゃ、それは冷めてから仕舞うよう何度も言っとるじゃろうがっ」
「いて」
もう何度目か。ぺし、と指導用の棒でひっぱたかれた。
「じいさん、細工の腕については褒めるくせに片づけだけは全然手を緩めてくれないな」
ぶつくさと文句を言いながら手を引っ込める。
「師匠がその辺厳しい人じゃったからの」
「ふぅん。
どんな人だったんだ」
仕方なくいつも通り散った銀や細かなごみを掃除しながら尋ねた。すると、ドドはふっと優しい表情をしながら答える。
「当時、ワシと同い年か少し若いくらいだったんだがの。愚痴ばかり言って真面目にやらないワシを、それでも根気強く声を掛けてくださったんじゃ。
お前の手は銀細工で怪我をするためにあるんじゃない、いつかできる大切な人を受け止める為の手なんじゃ、ってな。
どんなに仕事の効率が落ちても絶対に危険なことはさせてもらえなんだ。
実際子供を授かってからその大切さを知った。他国から来る人間は手足が無いこともままあっての。子供を支える腕があること、撫でる指があること、そういうことを伝えたかったんじゃろうな、と」
ずずず、と茶を啜るドド。
懐かしそうに細めるその視線の先にはきっとその師匠が映っているのだろう。
「もうこの技術を揮うこともことも無いと思っておったんじゃが。人生何があるか分かったもんじゃないのう。
セイ=フロクレス、お前の姿を見たとき師匠が帰ってきたのかと思ったんじゃ」
「え……っと、それはまたなんで」
名前を……訂正しようとかと逡巡したが話を遮るのも悪い気がしたのでそのまま促した。
「師匠もお前さんと同じ銀髪でな。
それもあってお前には師匠に教わった花の銀細工を教えようと思ったんじゃよ」
「へぇ、そういうことだったのか」
ふむ、と納得する。言われてみれば確かに何の理由もなくこんなに丁寧にものを教えてくれるなんてなかなか出来ることじゃない。
「じゃが……そうじゃな。きっかけはそんなもんじゃったがなに。
お前さん想像以上に飲み込みが早いもんでつい熱が入ってしまったわい」
はっはっは、と楽し気に笑うドドについこちらも口元が緩んでしまう。
「俺も思いのほか面白かった。
まさか、銀細工がこんなに楽しいと思わなくてさ。
また会いに来るからもっといろいろ教えてほしい」
俺が言うと、ドドは一瞬寂しそうな表情をした。
「……あぁ、もちろん。
いくらでも教えてやるとも」
今の反応。やはり、ドドはこの聖域が四日後に無くなることを知っている。さらに言うのであればドド自身死を覚悟しているのだろう。
……だが、神父は言っていた。俺は聖域の人間を一人救うと。どういう経緯でそうなるのかは皆目見当もつかないがきっと救うというのはドドの事なのだろう。
「じゃあ、とりあえず国に帰るまでしっかり学ばんとじゃな。
今のままじゃ十年はかかる、しっかりしごいてやるから覚悟するんじゃな」
「お、お手柔らかに……」
張り切るドドに思わず苦笑いしてしまう。
やることが決まっているのなら、それまでの少しの間くらい、この時間を楽しむのは悪いことではないだろう――――。




