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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase3-12『Hero say~英雄は云った~(後編)』

Phase3-12 23/2/27 投稿

 

 三月四日

 ゼイミ=キリアリスが死んだことによって戦況は多少悪くなったものの、前線を維持するフリーカウンター他親衛隊のおかげで有利な立場を保っているようだ。

 この国の戦闘能力の高さにはつくづく驚かされる。優れた魔具や呪具、戦闘向けの魔術とそれに適した土地。この力があったからこそ他国も政治的圧力のみで戦いを挑んでくることは無かったのだろう。

 だが敵もさる者、あのゼイミ=キリアリスを殺してみせたのだから驚きだ。

 そういえば必要ないとは思うがヴェルから殺した人物の情報を聞いたので記録としてつけておく。

 名前はプライムヴァルド=シュレイドヒルト

 アバートの出身で騎士隊長を務めていた人物。

 アバートは本来魔術を忌避する風習のある国で彼も魔術を使えることを隠し、禁じていたのだが相手が国を滅ぼしたゼイミ=キリアリスだった為、禁を破り使用したようだ。

 属性は熱、大気の魔力を吸い上げ熱に変換するという単純なもの。

 先の戦闘の際にはアルキリオの兵が大量にいたせいで森に魔力が満ちており、詠唱を交えた大魔術を行使することが出来てしまった。結果彼の前方一キロは焼け野原、彼自身も右肩から先を失い、そのまま最後の力で襲ってくるゼイミ=キリアリスに討たれた。

 したためてみたがこの記録は不要だったかもしれない。


 三月五日

 近所の少年が肩を落としながら歩いていた。

 声を掛けようとしたらやたら姦しい女性騎士から止められ事情を話された。どうやら父親が戦死してしまったらしい。

 悪化する戦況の被害者と言うわけだ。

 この国はゼイミ=キリアリスのおかげで被害が少なく済んでいたが、他国にはもっと多くの悲劇が広がっているのだろう。魔術師に数で圧倒する戦争。

 一人の魔術師を殺すために何人の犠牲を払うのか。想像しただけで胸が苦しくなった。


 三月二十日

 戦況が日に日に悪化していく。親衛隊や防衛隊が頑張っているらしいが物量で押されるとさすがに厳しいのかぽつぽつと近場まで戦場が広がってきたようだ。国境が近いこの辺りももう危ないかもしれない。

 ヴェルはといえば相変わらず戦場をのらりくらりと立ち回りながら情報を集めている。とりあえず今はやりたいことも特に無いようだ。俺の為にしてくれている、と言うのは解るのだが肝心なその先の目的が見えてこない。

 安全を確保する為、未来に帰る為、考えられるとしたらその辺だが確証はない。


 三月三十一日

 敵兵が町に侵入した。

 どうやらアルキリオの進軍タイミングを見計らっての事らしく、迎撃する兵も少なかった為町は大打撃を受けた。

 俺の泊っていた宿も焼き払われ寝泊まりするのも困る状況だ。

 いや、そんなことはどうでもいい、肝心なのは俺が何もできなかったということだ。

 街の人が大勢死んだ。商店街のおばちゃんも、あの姦しい女騎士も、みんな死んでしまった。

 挙句の果てに迷って逃げ損ねた俺を庇って、近所の少年が死んだ。俺は辛うじて兵士の足を切ると少年を抱えて逃げた。逃げ切った。冗談みたいだった。

 少年の今際の際の言葉が未だに耳に残っている。『お父さん、助けに来てくれたんだね』『俺、頑張ったよ、かっこよかったでしょ』と、定まらない視線で笑いかける少年に何も言えなかった。

 息を殺して嵐が過ぎるのを隠れて、肩を抱きながら、震えながら待っていた。

 ほどなくしてヴェルが来て、安堵で気を失ったらしい。夜起きてこれを書いているが、未だに現実感がない。


 四月一日

 エイプリルフールだ。実は昨日の事は全てうそだったのだ。

 そう、なればいいのにと本気で思った。

 死体を数えきれないほど片づけた。少年の遺体もあった。

 襲われたのは昼だったというのに、夜が怖い。闇が怖い。一人でいるのが、怖い。


 四月三日

 やりたいことが一つできた。

 この戦争を終わらせたい。この落ち着かない奥歯をどうにかしたい。

 この三日間、眠れないのに、意識を失うたび、目が覚めるたびに地獄を思い出す。これを、どうにかしたい。

 ふがいない、自分をどうにかしたい。こんな戦いの世界、消してしまいたい。

 ヴェルは待ちくたびれたという顔で、わかったと言った。


 四月四日

 魔術が使えないほど憔悴していた俺に、ヴェルが精神を安定させる魔術を使用してくれた。

 薬と同じで中毒、依存度が高い為多用は禁物らしいが今はありがたい。昨日書いた記録も酷いくらい文字が歪んでいた。

 改めてヴェルと話した。この戦争を止めたい。

 ヴェルは戦う奴らを片っ端から殺せば出来るよ、と簡単に言った。協力は惜しまない、とも。

 もちろんそれではただ死体の山を築くだけなのと、肝心なところで手を下すのは俺でありたかったので俺はヴェルに提案をした。

 ただ守ってほしい、と。そのうえで戦争をしようと画策するリーダーの役を俺が一人一人殺していく、というものだ。堂々と、昼間から乗り込んで殺していく。

 俺がそう言うとヴェルは羊皮紙を数枚渡してきた。どうやら現在殺さなければならない人間のリストのようだ。なるほど、これを準備していたのか。と、納得した。

 明日から早速、行動を開始することにした。


 四月五日

 アルキリオの戦闘指揮隊長四人とリーダーであるクロード賢士を殺した。

 一応すべての戦闘行為を停止すれば手を出さない旨を伝えたのだがもちろん拒否され戦闘なった。

 ヴェルは相手の魔術を一つずつ丁寧に無効化し、俺の身を護ってくれた。

 空気の壁を作ったり、氷で足止めしたりととても器用だ。クロード=クラウドにもほぼ無詠唱で完全に無力化してみせた。最後にグングニルを取り出していたが、パフォーマンスのつもりだろうか。

 明日は、レダルキアだ。

 

 四月六日

 驚くほどの倦怠感で朝、起きられなかった。

 歯が鳴る俺にヴェルは魔術を使用して落ち着かせると今日はやめるかと提案してくれたが、猶予は言うほどない。俺は魔術が効いているうちに済ませる為すぐにレダルキアへ。

 レダルキアでは現在警戒すべき魔術師が数人しかいなかった為、指揮系統を潰しに行った。

 今回は少し多くなった。おおよそ二十人ばかり殺して回る羽目になった。嘘でも戦わないと言ってくれればそれで終わりなのだが。

 あぁ、もう少しで魔術が切れる。切れてしまえば記録も会話もままならなくなるのが本当に面倒だ。この鬱陶しい記憶に早く心が慣れてくれればいいのだが。


 四月十一日

 計画は順調に進んでいる。

 各国の戦う意見を悉く潰し、戦争は間もなく終結する。戦争が終結すれば次の攻撃目標は俺たちになるだろう。ここからは簡単だ、一時的に力で圧制して各国の戦力を終結させる。俺たちが共通の敵になるということだ。

 その事態に備えて俺は少しずつ精神安定魔術(トランキライズ)に頼らない生活に戻るようリハビリを本格的に始めた。

 同時にどうしようも無くなった時用に自分で掛ける方法を学んだ。

 時間との勝負だ、ヴェルが俺に魔術を掛ける手間を無くせばあいつはそれだけの時間でもっといろいろなことが出来る。

 俺は決心しただけなのだ。ならせめて、出来るだけのことはしたいと思う。


 五月十日

 アルキリオとレダルキアの間で終戦協定が結ばれた。

 歪な形ではあるが俺たちの大きな目的の一つが達成されたことになる。

 軍の動きは俺たちに気付かれないよう両国が戦いの準備を進めているようだ。もちろん、ターゲットは俺達。と言っても戦うのはヴェルだけだが。もしこの戦いにヴェルが負けたとして、すぐに両国が戦争に陥ることは無いだろう。

 今回の戦いだけで済ませるような連携ならばグングニルを手にしたヴェルとは戦いにすらならないからだ。

 もし俺たちが勝ってしまうことになれば。俺たちはこの世界の抑止力の一つとして戦いを監視する役割に立つことになる。

 奇しくも戦の神とも言われたオーディンの本来の役割を果たすわけだ。

 どちらにせよこの箱庭の歴史が大きく動くことになるのは間違いない。


 五月十五日

 ヴェルと俺はユグドラシルの麓に陣取ることとなった。

 どんな相手が来たとしても迎え撃てる場所、ここならばゼイミ=キリアリスを倒したような広域破壊の大魔術は使いづらいだろうから、という理由。

 そしてユグドラシルの守護国アルキリオはこの状況を放ってはおけないだろうという事実。

 あとは単純に戦いが終わったのち、俺たちが未来に帰る為。その手がかりがあるのではと思ったからだ。

 侵入に当たってヴェルはものの数秒で警備に当たっていた騎士を昏倒させると、麓に魔法陣敷いて状態を整えた。

 その手際の良さを見ながらもっと早く頼んでいればユグドラシルの調査ももっと簡単に終わっていたのになと思った。


 五月二十六日

 朝一番、両国が俺たち二人に向け宣戦布告を行った。

 本日昼から攻撃を行うと丁寧に伝えてきた。相手は一人なのだから不意を突けばいいものを。

まぁ、両国の大体の動きは解っていた為、不意を突いたところで結果は変わらないのだが。

 ともあれ、あと数時間。最近手を汚していないからか俺の精神状態も落ち着いている。あとは、いつも通りの作戦で行くだけだ。


 五月二十七日

 正真正銘、戦いが終わった。

 結論から言うと、俺たちの勝利で終わった。

 両国の混成部隊はヴェルに全て無力化され、割と静かになった戦場に俺が悠々と降り立って戦いの先導者を一人一人殺していった。

 最後の力を振り絞って攻撃する者も少なからず居たものの、全てヴェルに防がれ、最終的に俺の凶刃を

止められた者は誰一人としていなかった。

 人々の怨嗟の声を後目に、俺たち二人はユグドラシルへ帰るとこれからの事を話した。

 抑止力としての動き方、視察、戦いが起きた場合の対処など。

 中間位置にある『聖域』は手つかずだがとりあえず現状害は無さそうなので手が空いた時に対処すると言っていた。

 ただそれ以外の戦力は文字通りすべて潰した、圧倒的な力で。明日一日くらい休む時間はあるだろう。

それと後から教えてもらったことなのだが、驚くべきことにヴェルはこの戦いまでで誰一人として殺すことは無かったらしい。

 よかった。なんだかんだあいつの手が汚れていないのなら、俺が殺した甲斐があったというものだ。今回の戦いの最中、耐えられず精神抑制魔術(トランキライズ)を使ってしまったが……これから多少使用頻度も落ちるだろう。

 やることは山積みだが、今日はとりあえず休むようにとヴェルが言ったため俺はゆっくり休むことにした。


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 これを読んでいる君は、驚くかもしれないが落ち着いて読んでほしい。

 俺とヴェルの最期の戦いから実に四十八年が経過した。

 順を追って書いていきたいと思う。

 あの戦いの後、目を覚ました俺をヴェルは俺を箱庭の外へと追い出した。『お前が居ると気楽に人が殺せないのと、単純に足手まといに思った。あとは箱庭の外で幸せに暮らしてくれ』とのことだ。

 もちろん俺は止めようと必死に魔術を行使したがヴェルの力に為す術があるはずもなく、そのまま箱庭の外に出されたというわけだ。

 当時手元に残っていたのは一生遊んで暮らせそうな量の金と銀、そしてこのノートだけだった。

 あの後、箱庭を独自に研究し、箱庭に侵入することが出来た。

 新月に近い宵の刻、ハイウィールドの森でそれは開く。唐突に、何の前触れもなく。

 だが、侵入した先、『セイ・ディリブ=フロクレスのみを妨害する結界』があった。おそらくヴェルの仕業だろう、他の者は通過できるというのに俺だけは何百回やっても通過できなかった。

 そして今までノートは怖くて開くことが出来なかった、すまない。覚えたことを順に記していけばもっと有用な情報になったかもしれないが、未来の自分に託そうと思ったのがつい先ほどなのだ、悪く思わないでほしい。

 何故思い立ったのかと言えば、私の先が長くないからだ。予言者の言ではおおよそ三日後には肺炎で死ぬらしい。

 だから、改めて君にこれを託そうと思う。

 届くかなどまったくわからないが、君の手にこれが渡ると信じて中央図書館に封印し、司書に言伝ておこうと思う。

 悔しいが俺の人生はあれから非常に有意義なものだった。去り際にヴェルが掛けた精神安定魔術のおかげで落ち着いて行動できた為、安定した生活基盤と研究環境を得て恥ずかしながら家庭を築いた。孫の顔を見ることが出来るなんて思いもよらないだろう。

 悔しいが、ヴェルが言う通り俺は幸せになった。

 だが、ふと続く精神安定魔術(トランキライズ)を先ほど解いてしまった。ヴェルは教えてくれなかったが魔術と解術は同じもの、その魔術が使用できたのであれば必ず解術が付いてくるのだ。

 解除したとたん、押し寄せる後悔が俺の精神を焼いていく。もはや精神をむしばむほどではなかったが、俺が本当に救いたかったのはヴェルなのだと、思い出すことが出来た。

 だから、もしもこれが俺の、君の手に渡ったのであれば必ず心の芯に置いてほしい。

 俺は、君はヴェルを救うのだ。他の誰でもない、あいつを。俺の幸せを心から願ってくれたあの親友を。

 どうか、救ってくれ。

 

―――――†―――――


 深呼吸をする。

 ノートを書いているときの絶望がまじまじと伝わってくるようだ。

 この世界のヴェルは正真正銘、俺の味方だったらしい。俺の幸せを願い、危険を払いのけ、望みを叶える。きっと見えていたのだろう、このセイの『苦しみながらガーデンを救ったのち幸せに暮らす』という人生が。

 そんなヴェルをこのセイは心の底から愛していたのだろう。家族として、親友として。

 だから救いたいのだ。だが―――――。

「俺の知っているヴェルとは違う」

 決定的に違う。俺も、ヴェルも、このノートの中の二人と関係性が違いすぎる。

 ぱたん、とノートを閉じる。

 俺がこのセイと同じ立場であればもしかしたら同じことをしたかもしれないし、彼ならば今の状況でもまずヴェルを助けられる道から探すのだろう。

 だが、しかし今の俺の目的は既に真逆。

目を閉じる。心の底から理解できてしまうこのセイの無念を感謝の念と共に噛み締める。

「ごめん、俺はそれでもあいつを倒すんだ」

 脳裏によぎるヴェルの横顔ははるか遠く、早く来いよと言わんばかりだ。

 それを睨みつけ、一つずつ積み上げて必ず打ち倒す。それが例え、どんなに非道で忌み嫌われた手段だとしても―――――。



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