Phase3-11『Hero say~英雄は云った~(中編)』
Phase3-11 23/02/20 投稿
一月一日
あんなことがあったからか、年が明けたというのに陰鬱な空気が国中を覆っている。
信頼に厚いと言われる遠征隊の彼らを良く知る人々にしてみれば蒼天の霹靂……どころの話ではなかっただろう。実際、良く知らない俺でも楽しむような気にはなれなかった。
ヴェルは俺に『やりたいことが出来たら声を掛けろ』とだけ言って日がな一日楽しんでいた。さすが、神経の太い奴だ。
一月五日
今日は少し面白い発見をした。いつかノートに掛けた阻害の魔術、あれの応用で結界が作れた。
街のはずれ、俺がいつも昼寝に使っている林に作ったのだが、ヴェルも意識しなければ見つけられないとお墨付きをもらった。
俺が作った通常の結界だとこの国の人間が通るだけでほぼ無効化されてしまうのだが、俺自身の魔力を阻害してかつ林に満ちる魔力に俺の魔力を霧散させることによって感知に引っかからなくなる、というものだ。
ついでに魔法陣を利用して林の魔力で進行阻害の魔術を重ねて掛けている為林に入っても郊外の奥まで人が迷い込んでくる、ということもない。林の魔力は一定水準まで自動で満ちる為結界が消えるということもない。
俺以外が迷い込むことがない結界の出来上がりだ。自分で作っておいてなんだが、何に使うんだろうか。
一月十二日
武器の流通がとても多い。そろそろ戦争が激化する、とのうわさで町中はもちきりだ。
兵の動きを見てもそれは明らかで、武装の準備はもちろん進軍等の打ち合わせも多くなっている……とヴェルが言っていた。
俺はほとんど戦えない為、巻き込まれてしまえば自分の命すら守れない。
ヴェルと同じくらい……とまでは欲張らないから自分の身くらい守れるようになりたい。
一月二十日
とうとう予測していた最悪、隣国マデウスおよびクスフェルトへ宣戦布告が行われた。
隣の両国は待っていたとばかりにこれに応じ、戦力を送り込んできているらしい。実際のところまだ実感はわかないが、町中が浮足立っているのがわかる。
近所の少年は父親が志願して戦いに行ったと胸を張って言っていた。
俺はと言えば、ヴェルを見送るだけ見送って何も出来ずにいる。戦争に巻き込まれる前にどうにか未来に帰る方法を探さなくては。
一月二十二日
初陣を勝利したフリーカウンター他部隊が凱旋して帰ってきた。
ヴェルも後詰めとして出撃したらしいが出番は無かったらしい。聞くところによるとマデウスの兵は竜を召喚したとのこと。
説明を受けたが全く意味が解らなかった。おおよそ四メートル程度の巨大な竜が火を噴きながらフリーカウンターのメンバーを数名薙ぎ払ったというのだ。だが死者はわずか二名、竜ごと敵軍を壊滅させたのはあのゼイミ=キリアリス。
竜に神槍で一撃を見舞って処理したあとは後ろに控えていた兵を一人一人丁寧に殺していったらしい。
この二日間でマデウスの軍機能はほぼ壊滅、協力していたクスフェルトも大打撃を負ったという。報告が真実ならば戦争はそう時間を掛けずに勝利で終わってしまうのではないだろうか。
近所の少年も父親が戦果を挙げたとはしゃいでいた、その笑顔は俺には少し眩しかった。
一月三十一日
ヴェルから恐ろしい報告を受けた。
先日戦闘を行ったマデウスが滅亡したそうだ。降伏でもなく、壊滅でもなく、滅亡。
一体どういうことか詳しく聞くと、兵士を掃討したのちキリアリスが一週間かけ国中の人間を丁寧に殺して回ったそうだ。
その魔術で誰一人として逃がさず、戦闘の意志も、老若男女すら関係なく王城まで攻め入りその命を全て奪って回ったらしい。ヴェル曰くクロード賢士の指示らしいが、見せしめにしても少々やりすぎではないだろうか。
二月一日
マデウスの滅亡を受け、クスフェルトは降伏を表明、しかしアルキリオはそれを受け入れることなく戦争を継続することを決めた……らしい。
それが事実だというのなら何のためにマデウスを滅亡させたのだろうか。降伏を断るということは見せしめではない、ということか。
ヴェルから教えてもらった情報だが、国民には公表されている内容ではないようで町の人たちはついつも通りの生活を続けている。
近所の少年も帰ってきた父親と遊んでるほど。
俺が何か行動を起こせるわけではないが、なぜかずっと胸がざわついていた。
二月十日
クスフェルトの滅亡の報告を受けた。
この国は近隣諸国を全て葬り去るつもりなんだろうか。
調べたところマギウス、クスフェルトの人口は合わせて五千万少々、それをやったのがあのゼイミ=キリアリスだ。後詰めの人間が十人前後ついているらしいが、戦闘は完全に一人らしい。
今日は報告に来たヴェルにまた『やりたいことは見つかったか』と聞かれた。
やりたいことは解らないがやるべきことは決まっている、俺は未来に帰るんだ。この国がどうなろうと関係ない、帰ってしまえば何も関係ないのだから。
二月十八日
アルキリオは、とうとうレダルキアに宣戦を布告した。
明日には早速ゼイミ=キリアリスと第一親衛隊他三部隊で進軍するらしい。
また敵兵を倒した後は民間人まで皆殺しにするんだろうか。
近所の少年はまた父親が戦闘に参加するのだと自慢していた。どうやらまだ民間人をどうのということは国民には伝わっていないらしい。
いずれバレることだろうが、その前にケリをつけてしまおうという算段なのだろうか。
二月二十四日
今朝、奇妙な光を目撃した。
朝早く、日の上り方から見て六時半くらいだろうか、まだ日も登り切っていないときに東側の空が煌々と輝くのが見えた。
方角的にレダルキアのある方だ。戦闘中になにか大規模な魔術でも発動したのだろうか、とも思ったがレダルキアは四百キロ以上も離れている。その手前で戦闘してるとしても遠すぎる、ここまで光が届くことなんてないだろう。
問題はむしろ今日もなんの進展も無かったことだ。当たり前と言えば当たり前だろう、時間旅行なんて成功した例今まで聞いたことがない。
だが、時間は無い。終わりの刻が近付いている、そんな気がしてならない。
二月二十五日
ヴェルから、ゼイミ=キリアリスが戦死したことを伝えられた。
一瞬耳を疑ったが、詳細を聞いて納得した。
昨日の光、あれは敵国の魔術師の大魔術だったらしい。範囲にして半径千二百メートル、温度は二千度を超える炎熱での薙ぎ払うような攻撃。
回避することは困難で、防げたのはゼイミ=キリアリスだけ。その彼も完全には防ぎきれず重傷を負いながらもその場にいた敵国の兵数百人を全員道連れにして戦死したのだとか。
その後ヴェルは彼を回収するよう言われすぐに向かったらしい、ただ回収できたのは死体だけで槍はどこにもなかったと言った。
言ったが、俺は言われた瞬間にわかった。槍はヴェルが持っている。
何故そう言ったのかはわからない、わからないがヴェルにも考えがあるのだろう。とりあえず俺は知らないふりをすることにする。
―――――†―――――
―――――目を閉じる。
ゼイミ=キリアリスが死んだ、という記述にもう一度目を向ける。
回避・防御不能の大規模魔術での攻撃。それもキリアリスは死なない程度には相殺したというのだから驚きだろう。確かに物理魔術を無効化するような相手にはその上限を超えた攻撃くらいしか対処方法はない。
「―――――はぁ」
自分が書いたものであるから、だろう。まるでもう一つの人生を追体験するような感覚に胸が締め付けられる。
このノートを入手した日もこうだった。読んでいるうちにあっという間に時間が過ぎてしまった。
想起できないとわかってからも何度も読み直してしまうほど、如実に必死さが伝わってくる……まるで実体験のように。
「自分の言葉なんだ、当たり前か」
丁寧に書いているようで変なところでぶっきらぼうになる。
「この世界でも、ヴェルは強いんだよな」
ノートのどこを読んでも危なげな描写は全くない。だが、決定的に俺が知っているヴェルとは全く違う。その思考も、目的も。
ページをめくる。とうとう最後だ、もう一人の自分の終わり。何度読んでも納得のいかないそれに俺は再び目を通し始めた。




