Phase3-4『おつかい(序)』
Phase3-4 22/01/01 投稿
クロード賢士の尋問から三日。ラウンドナイツに帰った俺は、バーンに子細を話し正式に聖域へ向かうことになった。メンバーは留守にしているキリアリスを除いたラウンドナイツ四人と遠征部隊から案内に騎士が一人、合計五人。
出発は明日朝から。
早々に準備を済ませた俺は図書館で調べもの……をする予定だったのだが。
「ふっ……ッ」
何故かメリッサと戦闘訓練をするハメになっていた。
「遅い……、そこぉッ」
横に薙ぐように放たれた糸を低い姿勢で躱した俺をメリッサが別の糸で追撃する。
「ぎっ……どは……っ」
あっけなく右足首をひっかけられた俺は顔面から豪快に地面に転んだ。
「いっつぅ……」
強く鼻をぶつけたせいでぽたぽたと血が零れ、口の中は血の味でいっぱいだ。
「なぁに、セイ。
あんた大概弱いのに今日は輪をかけて無力じゃない。わざわざ私が付き合ってあげてるのにやる気あるの」
しゅるしゅると糸を指に格納しながら俺を見下ろすメリッサ。てか毎度気になっているんだがどうなっているんだあの指先。
「悪い、まじめにやってたつもりなんだが」
ポケットからハンカチを出し鼻を抑える。
「いつもならあれをぎりぎり避けて追撃しようとして返り討ちにされてるくらいなのに」
はぁ、と呆れきった表情でため息をつかれる。
「わざわざ返り討ちにされるところまで説明する辺り悪意しか感じないんだが、もう少し怪我の配慮とかしないのかオマエ」
模擬戦は何度かさせられたがメリッサとやって怪我をしなかったためしがない。……他の騎士なら寸止めなりみねうちで痣程度で済むというのに。
「今のはアンタが顔からダイブしただけでしょうが。よっぽど地面が好きなのかって感心したくらいよ」
ふん。と鼻を鳴らすメリッサ。
……右足を引いたタイミングで受け身が出来ないよう木剣を持つ右手も引っ張っておいてよく言う。
それ以外にも言いたいことは色々あるが、騎士教練のノルマである模擬戦闘を最低限こなす相手になってもらっている為やむなくぐっと堪えた。
「にしてもホント、今日は上の空だったわよ貴方。
何か考え事でもしてたのかしら」
「む……」
メリッサが不服そうに詰問するが、こちらは余計なことを考える余裕はない。―――ない、のだが……確かに、頭の片隅から離れないことがある。
「明日からの遠征……それがどうしても頭の隅にある」
ぽつり、と言うとメリッサは肩を竦めた。
「あぁ、明日からだものね。
いいなぁ、私は防衛隊だから遠征なんてまずないわよ」
「そりゃ防衛隊が守り空けたらダメだろ。
有事の際に人が居ないなんて洒落にならないからな。
大体、遠征がどんなものかは知らないけど面倒くさいに決まってる。
道中の食料も心配だし、襲撃を受けることだって無いとは言えない。何より行き先がショートエッジの代役でよくわからない聖域だ。
俺は黙って調べ物が出来ていればそれでいいのに……うー……止まった、か」
ぶつくさと文句を垂れながら鼻血をふき取る。まだ違和感があるが、ようやく止まってくれたみたいだ。
「なん……ですって……」
「……んん」
何か唸っているのではて、とメリッサの方を見ると、ずい、といきなり距離を詰めてきた。
「うわ、なんだよいきなり」
思わずたじろぐ。
「聖域って、マックスウェルの聖域よね」
「あ、ああ、そうだけど」
「あそこに行くのなら買ってきてほしいものがあるのッ。
好きなアクセサリーショップがあって、そこの、綺麗な銀細工とかッ」
ずい、ずい、ずい。
過去一番の勢いで迫ってくるメリッサ。
「まてまてまて、そんなこと急に言われても困るぞ。
どれだけ自由行動が許されてるかもわからないし、はじめて行く場所で何がどこにあるかもわからないんだ。
無理だ、無理」
あまりの近さに思わず顔を逸らしながら言うと、はっと我に返ったように彼女は止まった。
「あ。そ、そうよね……」
そのまま一歩、二歩と後ろに下がり、申し訳なさそうにこちらを見る。
「ごめんなさい。
そうよね、遠征に行くわけで遊びに行くわけじゃないものね……」
メリッサはそのまましゅんとしぼんでしまったように俯いてしまった。
……いつも鬱陶しいくらいずかずかと物申してくるくせにどうしたというのだろうか。むしろ調子が狂ってしまう。
「……好きなアクセサリーショップって、お前聖域に入ったことあるのかよ」
「や、その……私は入ったことないんだ。
いつもフレア隊長に頼んでドドってショップで買ってきてもらってて。
本当はこれ他の人に言っちゃダメって言われてたんだけど、今更よね」
あはは、とはにかむその表情は少し寂しそうで、きっとダイアスレフの事を思い出しているのだろうと思うと少し胸が痛んだ。
「ドドってショップだな。
……探しとく」
「……えっ」
俺の言葉に驚いたのか、メリッサがばっと顔を上げる。
「行けるか、わからないからな。
どれがいいものかも、わからないし……」
先ほどまでの表情はどこへやら、メリッサは目を輝かせる。色が付く、というのはこのことだろう。
「大丈夫、いつも店員さんのおすすめ選んでたって言ってたからッ。
これとかもそうで、いつも軽めの装飾品でね……」
よほど嬉しかったのだろう、改造された制服を見せながら説明を始めてしまった。
「わかった、わかったから」
メリッサの説明を聞きながら俺は、いったいどんなところなのだろうかとこれから行く聖域に思いを馳せるのだった。




