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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase3-2『尋問』

Phase3-2 22/12/19 投稿

 がくん、と、落ちる感覚で目を覚ます。

 伸ばした手は机の向こう側に伸びていて、突っ伏した状態のせいで頬が潰れている。

「ひどい、夢を見た」

 ため息をつきながら顔を起こすとぐるりとあたりを見回した。いったいどのくらい眠っていたのか、日が昇りはじめている。

「つぅ……」

 変な姿勢で眠ってしまっていたからだろう、足がしびれてしまい思わず顔を顰めた。俺は痛覚阻害を足に掛けると、少し時間をおいて立ち上がった。

「こんな時間になんという場所に居るのですか、探しましたよ。

セイ=ディリブ・フロクレス」

「……ッ」

 背後からの唐突な声に思わず身を竦ませる。

「あ、アイリか、驚いた……」

 振り返るとそこには不服そうなアイリの姿。

「驚いた、ではありません。

 寮舎で聞いてみれば昨日図書館へ行って帰ってこないと言われ、半信半疑で探しに来てみれば本当に居るなんて。

 あなた、自分の置かれている状況お分かりですか。

 ショートエッジの謀反からはや十日。貴方への疑惑は何一つ解決していないのですよ。

 それだというのに独りでこんなところに居たら疑いが強まるばかりでしょうに」

 矢次早に説教をするアイリに思わずたじろいでしまう。

「あぁ、えっと、わざわざ忠告してくれてありがとう」

 一応と思い礼を言うものの、アイリは呆れたようにため息をついてしまった。

「……あなたに礼を言われる筋合いはありません。

 私はあなたを弁護したキリアリス様を慮っているだけです」

 嫌そうな態度に若干いらだちを覚える。

「そりゃ失礼。

 ……で、それなら何の用だよ。こんなとこまで来たってことはなんかあるんだろ」

「ええ、賢士より呼び出しです」

 アイリは一度頷くと懐から封書を俺に渡してきた。

「本日十時に出向するように。時間厳守です、いいですね」

「はぁ、今日十時ってまた急だな」

 しぶしぶと受け取ると、その態度が癇に障ったのかアイリが腕を組んでこちらを睨みつける。

「本来であれば昨日の夕方にはあなたの手に渡るはずだったのですが。渡す相手がこんなところで寝呆けていれば渡すのも遅くなっても仕方がないと思うのですが」

「う……」

 どうやらやぶへびをつついてしまったようだ。

「ふん、その表情ですと自覚はあるようですね。

 わかったら次回から行動と言動を慎むように。

 よろしいですか」

 じろり、と冷たい視線で睨めつけられる。

 さすがにこれ以上余計なことを言えば次はどんな責められ方をするかわからない。

「……了解」

 俺が大人しく返事をしたから満足したのか

 ―――――†―――――


「で、指示を仰ぎに帰ってきたと」

 宿舎に帰るなり事の次第を報告すると、バーンは呆れたようにため息を吐いた。

「朝帰りのくせにいいご身分だな」

 そのバーンの後ろから顔を出しながらにらみつけてくるブレイド。

「いや、本当は昨晩のうちに帰るつもりだったんだ。

 調べものについ熱が入ってさ」

「……何時まで調べてたんだよ」

「えっと、大体二時くらいまでは記憶があるけど……」

「ふざけんなッ、そんなん寝落ちるに決まってんだろうが。

 忘れたのか知らねぇがお前が帰らないせいで朝の当番もろもろ俺がやったんだからな、埋め合わせ忘れんなよな」

 がるるる、と今にも噛み付きそうな勢いでまくしたてるブレイド。

「当番はまたあとで話し合え、話が逸れる」

「え、でも片づけが残って……」

「今日はもうやっておいてやれ。こいつとはまだ話がある」

「ぐぅ……覚えてろよセイ……」

 しぶしぶと奥へ消えていくブレイド。さすがに申し訳ないのでそのうち埋め合わせはしよう。

「で、クロード賢士の話だったか。

 直接行けばいいのにここに来たってことは何かあるんだろう、セイ」

「あぁ、賢士のところに行くのならキリアリスに着いてきてもらいたいと思って」

「あいつならいないぞ、いつもみたいにどっか行ってるみたいだな」

 やれやれ、と呆れたように首を振るバーン。

「それは困ったな……」

 クロード賢士に呼び出された以上、出向する以外の選択肢は無い……としても、せめて無理難題を吹っ掛けられないよう武器を準備していきたかったのだが……そううまく事は運ばないようだ。

「居ないなら仕方ないけど、今回はどのくらい空けてるんだ」

「ん、あぁ。キリアリスなら一週間くらい帰ってこないんじゃないか。

 今回は少しだけ長いみたいだ、残念だったな」

 なんともあやふやな回答が帰ってくる。というのもラウンドナイツの他のメンバーもキリアリスが具体的にどういう任務に従事しているのか知らないらしい。

「隊長職がそれだけ不在でこの部隊は良く回る……」

 言った後で失言だったと思い慌てて口をふさぐ。

「気にするな、事実だ。だいたいの指示は俺が出してるし、決定権もほとんど俺が持っているからな。

 あいつが出す指示と言えばほとんどわがままみたいなモンだけだよ」

「わがまま。例えば」

 はて、と首を傾げるとバーンは「え……」と呆れた表情をした。

「はぁ、お前がそれ訊くのかよ。

 セイ、お前の入隊からショートエッジへ隊員交換とかまさにそれだろうが」

 そう言われて血の気が下がる。そうか、色々と精いっぱいだったから全く周りに気を回す余裕がなかったが……キリアリスが俺の為に動いてくれた皺寄せの一部は間違いなくこのラウンドナイツが被っている。

「……なるほど……ごめん」

「わかればいい。

 あと反省ついでだ、もう一つ言っておいてやる。俺も最初勘違いしてたが、お前は思慮深そうに見えて直情的すぎる。

 負けず嫌いで、自分が正しいと思ったら突っ走る、そういうところなおした方がいいと思うぞ」

「う……了解」

 心当たりしかない指摘にぐうの音も出ない。

 実際突っ走って後悔したことも多い。

 俺自身そういうところは直したいと思ってはいるが……最終的に自分が正しいと思うことするべきだと、心の根っこの部分で思ってしまっている。

 はたして、それは何故だったか。

「ほら、わかったらさっさと行ったらどうだ。

 時間に余裕はあるが、早いに越したことは無いだろう」

 バーンに言われて魔法仕掛けの時計を確認する。時刻は八時過ぎ、今から行けば一時間前には到着できるだろう。

「そうだな……行ってくるよ」

 重い腰を上げる。ショートエッジの一軒から音沙汰の無かったクロード賢士からの呼び出し。

 ……嫌な予感がする。

 言葉に表せない不吉さを感じながらも避けようのない現実を見据え、俺は賢士の下へ向かった。


―――――†―――――

 

 気付けば、いつの間にかクロード賢士の私室兼政務室の前についていた。

 質素でも派手でもなく、上品な装飾を施された扉を前に俺は一度深呼吸をしてノックをすると、賢士の「入れ」との声掛けで入室した。

 広々とした部屋にはそこかしこに書類が積まれており、壁際に設置された棚には資料のようなものが大量に並べられている。

 部屋の脇には俺も一度お世話になった仮眠用のベッド。

 そして、部屋の中央には政務者用の物々しいデスク。

 クロード賢士はそのデスクに深く腰掛け、俺を待ち受けていた。その隣には娘にして秘書のアイリが微動だにせず直立してこちらを睨んでいる。

「おはようセイ

 ここ最近は大人しくしていたようだな、感心感心」

 賢士の部屋へ入るなり嫌味をひとつ。

 まるで人がトラブルメーカーのような言い草だ。

「俺は基本的に大人しいつもりなんだけど」

 むっとして態度がそのまま口を突いて出る。

「なんだ、ここに来て反抗的だな。今からでも罪状を二、三適当にこじつけてもいいんだぞ」

「……」

 理不尽な言いように思わず口を紡ぐ。理不尽で、不条理ではあるが……この人物にはその権利があるのだ。

 なんなら立証できないだけで罪状もある。賢士自身もそれをわかっている。

「ふん、自分の状況を理解したようで何より。

 頭の回転は悪く無いようだ」

 気だるそうに言う賢士の目元には隈が浮かんでおり、前回に比べひどく疲れているように見える。

「今回呼び出した要件は二つ、一つは依頼と……もう一つはお前の友人……『サクリファイスのヴェルスター=ハイルロード』の事だ」

 ヴェルの名前を出され一瞬身体が強張る。

「ヴェルの事……って、何かあったのか」

 俺が尋ねるとクロード賢士は一瞬アイリに目配せをしたのち深くため息をついて口を開いた。

「お前がこの国にやってきた日……ヴェルスター=ハイルロードから初めて襲撃があってからひと月半。

 このたったひと月半の間に遠征部隊が三度襲撃に遭い、つい一昨日一人が殉職した」

 殉職、という言葉を聞いて息を飲んだ。

「遠征部隊は彼奴にずいぶん遊ばれたようだ。

 襲撃三回すべてが昼間から、それも正面からのもの。

 隊員は四名、全員が割と手練れだったのだがな。ヴェルスター=ハイルロードには傷一つ付けられなかったうえ、ほぼすべての武器を無力化されたうえで一騎打ちを要求され、応じた一人が為す術もなく討たれたそうだ。

 残りの隊員は精神的に憔悴してしまっており今治療の真っ最中だ」

 事の顛末を聞いてなお、何も言葉が浮かばない。

「ヴェルスター=ハイルロードはグングニルを所持していることを堂々と告げたうえで襲撃を行っている。

 襲撃があったことも含めこの件については緘口令を敷いている。

 ……が、以降遠征部隊には何某かの対抗手段が必要になるだろう。

 そこで、貴様だ。セイ=ディリブ・フロクレス」

 名前を呼ばれ、びくりと身を竦ませる。

 じろり、とこちらを睨むクロード賢士と目が合う。

「手、練れの、遠征部隊が何もできなかったのに、俺が、何を出来るって言うんだ」

 殺気交じりの視線にばくばくと心臓が鳴る。まるで蛇に睨まれた蛙だ。

「貴様は友人なのだろう。ならば知っているはずだ。

 彼奴の性格から戦闘方法、使用魔術に……弱点も」

 ……確かに。俺とヴェルは付き合いが長い分、お互いの事はお互い以上に良く知っている。だが。

「別に教えるのは構わないけど、俺が正直に……答えなかったらどうする」

 だいたい俺が伝えたことが真実なのか確かめようがないだろう。

「それについては貴様が心配する必要はない」

 クロード賢士はそう言うとアイリに向けて手を伸ばし、何かを受け取るとそのままデスクの上にのせ、俺の方に少し押した。

 置かれたのは魔法陣の台座に置かれた直径二十センチほどの水晶。

「これに右手を置いて私の質問に答えなさい。

 嘘を吐けば何が起こるかは……吐いてからのお楽しみだ」

 そう言って椅子に再び深く腰掛けるクロード賢士。

 ……いったいこれは何なのか、というのは考えるまでもないだろう。魔術による嘘発見器のようなものに違いない。しかも言葉通りに受け取るのならば嘘を吐けば何らかのペナルティを負うもの。

 最悪、思考を読んだりすることも出来るかもしれない。

 こういった正体不明のものは使用条件が厳しいためその条件をクリアさせない、条件を飲まないことがセオリーだ。今回の場合は右手さえ乗せなければ問題ないはずだが……残念ながら俺にはこれを断る権利を持っていない。

「……」

 となれば読まれてもいいように対処をしなければならないだろう。

 俺は自分の記憶から最低限隠さなければならない師匠の魔術書と未来の情報の一部、そして自分に魔術を掛けたことを思い出せないよう想起阻害の魔術を掛けると、覚悟を決め水晶にそっと右手を乗せた。

「ふん」

 クロード賢士は満足そうに鼻を鳴らすと、机の端に置いてあった羊皮紙とペンを取り書かれていることを読み上げはじめた。

「これより、セイ=ディリブ・フロクレスへ尋問を執り行う。

 私、クロード=クラウドの質問に嘘偽りの無いよう答えるよう。いいね」

「はい」

 間髪入れずに返事をする。

「まず、ヴェルスター=ハイルロードの戦闘方法を出来るだけ詳しく教えてもらおう」

 やはりそう来たか。そのことに関して別に隠すことは何もない。俺は思い出せるものを順番に口に出す。

「まず、ヴェルの能力は俺が知っている限り、五大元素と六属性、合計十一の属性と戦闘では使えないが魔眼を持ってる。

 戦闘で使用する魔術はなにに目を付けたのか俺と同じ『阻害』の魔術だけでそれ以外を使用したことを見たことは無い」

「『阻害』の魔術……とはまたマイナーな……まぁいい、続けなさい」

 淡々と説明する俺にクロード賢士が訝し気な表情をするが、真偽がわかっているからだろう、深く追及はせず続きの説明を促してきた。

「戦闘方法は周囲の抵抗力、重力……果ては慣性の法則まで阻害してからの近接が主体。

 俺とは違って強化も阻害の魔術で行う。

 距離が開いてると牽制用に魔術を使用してくることもあって、これは阻害の魔術を複雑に構成した『惑星』の魔術。

 その中で最も広範囲なのが土星、高威力なのが衛星、この二種類が最も厄介だと思う」

「それだけの魔術があって、キリアリスと打ち合えるほどの近接能力があるのか。

 逆に弱点は無いのか」

 かりかり、とメモを取りながらクロードが更に詰問する。当たり前ではあるが、遠慮をする気は無さそうだ。

「弱点……俺が思い浮かぶ限りは無い。

 しいて言うのであれば長い詠唱を好む、とか、相手の魔術は詠唱を止めに行かず全部見てから対処しようとする、くらいかな。

 あとは所詮一個人だから単純に逃げられないようにして物量で消耗させるくらいしか思いつかないけど……これは弱点でも何でもないし」

「ふむ……なるほどな」

 俺の説明を聞く限り特に対策を思いつかないのだろう、深く腰掛け、天井を仰ぐクロード賢士。仕方ない、何十年と一緒にいる俺でさえ不意打ちぐらいしか思いつかないのだから。

 まぁ、その不意打ちも成功した試しが一度もないのだが。

「先ほど五大元素と六属性と言っていたが、ヴェルスターはワープのような魔術を使用できるのか」

「ワープ……またなんで」

 突拍子もない質問にはて、と思わず首を傾げる。

「うちの遠征部隊に襲撃があった前日、レダルキア北部でも襲撃があったらしい。

 ただ襲撃地点が一五〇キロ以上離れているうえ、北部は足場もあってないような道ばかりなのだ。

 とすればヴェルスターがそう言った魔術を使用できるのではないか、と。

 ……そういった魔術について確認こそされているが、私もまだ見たことがなくてな」

 困ったように目を伏せるクロード賢士。

 実際まだ交通網などの発達をしていないこの国においてそう言った魔術があれば確かに脅威だろう。だが。

「それなら、多分ただの跳躍だと思う」

「……は、跳躍というとただ跳んでいるだけだというのか、その距離を」

 呆れたように問いかけられ、俺は頷きで返した。

「詠唱こそ長いけど強化の魔術さえ済めばそのくらいの距離二時間と掛からず跳ぶよ、あいつは」

「なんという規格外な……」

 深いため息をつき項垂れるクロード賢士。

 きっと俺が同じ話をされれば同じリアクションを取っていただろう。

 ……そんな無茶苦茶なあいつに、俺がどうやって勝てるというのだろうか。

「ヴェルスターの事はよくわかった、協力感謝するよセイ=ディリブ・フロクレス。

 では次の質問だ」

 先ほどまでメモを取っていた羊皮紙を机のわきに置き、クロードが改めてこちらに向き直る。

 眼鏡越しの眼光に気押され、目を逸らしそうになるのをぐっと堪える。

 次はいったいどんな質問をされるのだろうか、と俺が身構えているとクロード賢士はゆっくりと口を開いた。

「我が国のシンボルにして禁忌の大樹。

 これの情報を得ることは何人たりとも禁止されており、知れば問答無用で処刑される。

さて、セイ。

 君はショートエッジの謀反に際しここやむを得なく入ったわけだが……」

 背筋が凍り付く。

「大樹について、無断の調査、標本の回収……それに準ずることを、おこなったか」

 その問いかけに、息を飲んだ。

 ……その知識を得れば問答無用で処刑される、と言われてショートエッジの事件直後の事を思わず想起してしまった。

 右手は水晶の上、簡潔で誤魔化しようのない質問。

 俺は呼吸を整えるとゆっくりと口を開いた―――――。

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