Phase 2-14『ものがたりのはじまり』
Phase2-14 22/11/28 投稿
あれから早くもひと月近くが過ぎた。
中央図書館での調べ物は今も進めているがまだ成果は無い。しらみつぶしに目を通していってるが量が多すぎてまだ先は長そうだ。しいて成果を言うならこの世界のことをある程度知れた、というくらいか。
ノートの内容も未だにうまく利用が出来ないし、師匠の魔術書に至っては解読が出来る見込みすらない。
そして未来にもあり、手がかりとして有用だと思われていたユグドラシルは、と言えば。
「あそこは聖域だ、入るのは……俺でも無理だろうな」
ラウンドナイツ屯所、隊長の部屋。
キリアリスにそう、きっぱりと言い切られ俺は途方に暮れた。
「何か、入るための条件とかないのか。
たとえば神官だったり、上層部で管理していて手入れしてるとか」
「いや、あそこは禁域だ。入ったが最後この国では犯罪者として扱われる。
それは俺でも変わらない。
実際あそこに入った奴は……その場で全員処刑したよ」
言いながらキリアリスは物憂げな顔で目を伏せた。
どうしたものか、未来ではこの国すらなかったため普通に近付けたが……聞いた話によると二四時間体制で警備されているらしい。
「……まって、その場で処刑したって、キリアリスは入ったことあるのか」
「ああ、まぁな。
半年ほど前、賊が入った時にその排除の為に一度入った。
何年かに一度くらいは侵入する馬鹿が居てだいたいすぐに処刑されるんだが……その時は大樹の根元までたどり着かれ、惨事も起きた。
それからか、警備が厳しくなったのは。
それまではだいたい一人か、二人で警備に当たってたんだがそれからは一部隊、もしくは二部隊が警備に当たっている」
キリアリスは一息に説明すると、椅子に深くもたれかかり目を閉じた。
「なるほど、そんなことが」
どういう状況かは想像も出来ないが、いい思い出ではなかったのだろう。余計なことを訊いてしまったかもしれない。
「あそこに入れてやるのは無理だが、別のことならある程度融通してやれる、はずだ。
クロードにも貸しが二つほどある。
出来るかどうかは別として何か困ったら声を掛けるといい」
どうしてそこまでしてくれるのか、と、尋ねようと思ったが寂しそうに目を伏せるキリアリスに俺はそれ以上の事を訊くことが出来なかった。
「……わかった」
この場で詮索するべきではないだろう。
――――だが、どうするか。唯一目に見える目的、ユグドラシル。これの調査が出来れば何かわかるのかと思ったが、それも叶わない。
成果がないままもうひと月だ。焦りだけが募っていく。
地道に本を漁っていくにしても何年かかるか、そもそも図書館にそう言った本があるのか。
ぐるぐると考えがまとまらずにいると、こんこん、と扉を叩く音ではっと我に返った。
「入れ」
間髪入れずに言うキリアリス。
「失礼します」
扉の向こう側から眼鏡の少女が入ってきた。
「どうした」
「クロード賢士からの依頼を持ってきました。
中央図書室より指定の書籍を持ってきてほしいと」
「また、そんなつまらない雑用をなんで俺が……」
依頼が明らかに不満なのだろう、キリアリスが頭を抱える。
「キリアリス、彼女は」
「あぁ、初対面なのか。アイリ嬢、自己紹介を」
俺の質問にキリアリスが少女へ紹介を促す。いきなり失礼だったかと心配する俺を他所に、少女はスカートを軽く上げ軽くお辞儀をした。
「アイリ=クラウドです。
クラウド賢士の秘書を務めております」
「え、クラウドって」
「あぁ、クロードの娘だよ。
箱入りにされるのが嫌だったからって秘書兼中継の仕事をしてる。良く出来た娘だ」
驚く俺にキリアリスが説明してくれる。
「恐縮です。
……ところで僭越ながらそちらのお方の名前をうかがってもよろしいでしょうか」
ゆっくりと顔を上げ、俺を見ながら尋ねるアイリ。
「あ、えっと、ごめん。
俺の名前はセイ=ディリブ・フロクレス。
ひと月ほど前に入隊したラウンドナイツの隊員だ」
よろしく、と言うとアイリの視線が少しきつくなった。
「なるほど、貴方がセイ」
明らかな敵意に思わずたじろぐ。賢士からどう説明をされているのだろうか。
「……で、アイリ嬢。クロードの要件はそれだけか」
「はい。
ただ、書籍を持ってきた際二人で話をしたいとのことでしたので時間には余裕を持っていくべきかと思われます。
期限は本日中です、悪しからず」
要件を淡々と告げるとアイリは深く礼をし、一歩下がった。
「ちっ、今日中、か。
俺の行動時間を計算に入れたな……今すぐいかないと間に合わない、か。
下がっていいぞ、アイリ」
「はい、それでは失礼します」
もう一度深く礼をして部屋を後にしたアイリを見送ると、キリアリスが俺に向き直った。
「悪い、セイ。
訊いての通りだ、すぐに中央図書館に行くことになった。
お前はどうする」
立ち上がりそのまま上着を羽織るキリアリス。
「俺も行く、まだ図書館で調べることはたくさんある。なんなら一緒に探した方が早く済むと思う」
このひと月あしげく通ったのだ。図書館での探し物なら間違いなく力になれるだろう。
「そうか、じゃあ行くぞ」
俺はキリアリスについて中央図書館へ向かった。
――――――――――†――――――――――
魔術大国『アルキリオ』
中央図書館
「さて、早速探すとするか」
入口から入るなり、キリアリスが自分を鼓舞するように言った。
「キリアリス、リストはあるのか」
「あぁ、あるぞ。
ただ数が数だな……十二冊、この図書館から見つけるとしたら骨だな」
ほら、と渡されたリストを流し見る。
見覚えがないものもちらほらあるが……大体のジャンルの場所は覚えている、これならそう時間が掛からないかもしれない。
「俺も手伝うから二手に分かれて本を探そう」
かりかりとリストを写してキリアリスに返した。
「助かる。じゃあ頼んだ」
キリアリスはリストを受け取ると早速本棚の奥へと消えていった。
俺は心あたりのある本から先に探すことにした。魔術書、地方地図、武装と価格、歴史書。
何だこのリストは、物騒だな。などと思いながら本棚を流し見る。
このひとつき本の虫になっていた為、目にしたことのある本も数冊あった。
「――――あった」
順調に本を見つけていく。
……こうやって作業をしているときは余計な心配事を忘れられるからいい。
黙々と本を探し、半分ほど見つけたころ、俺はキリアリスと合流した。
「…………お前見つけるの早いな」
その間、キリアリスが見つけていたのはたった二冊。しかも今探そうとしていたのは全然別の棚にあったような気が。
「真面目に探そう、キリアリス」
「いや、俺だって真面目だっ、て――――」
話している途中、何かを見つけたかと思うと、キリアリスはふっと顔を背けて眉を寄せた。
「どうしたんです、
A face that seems to bite a bitter worm(苦虫を噛み潰したような顔をして)」
顔を顰めたまま手を休めているキリアリスに半ば呆れながら言い放つ。
「え、苦虫なんか食べないぞ、俺は」
書籍探しをサボるなと遠回しに言ったつもりだったのだが、素っ頓狂な回答をしてくるキリアリスに思わずため息をつく。
「失礼、今のは俺の国の諺で、そのくらい渋い顔をしていたという例えなんだよ」
「お前それ仮にも隊長相手にする例えか」
嫌味を言っていることがやっと伝わったのか、キリアリスがむっと睨みつけてくる。が、毎度ながら威圧感が足りていない。
「馬鹿にされたくないのなら早くと手を動かしてほしい、でなければ賢士に言いつけるよ」
やれやれ、と残りのリストに目をやった。うん、これなら順調にいけばあと数分程度で見つけられるだろう。
「いや、それは勘弁してほしいけどさぁ……」
しゅん、と落ち込むキリアリス。正直他の騎士のイメージが下がるのでもう少し堂々としてほしいところだが。
「けど、なに、忙しいんだから要件があるなら早く言ってほしいんだけど」
何か言いたげなので回答を急かす。物事はスムーズに効率よく、が基本だ。
「いや、その。
あそこにいる男、いるだろう。第三遠征隊の隊長なんだけどさ、あいつの実兄を……殺してるんだよ、俺」
だから少し気まずくて、と続けるキリアリス。
確かにそれは気まずいだろうな……と言いたいところだが少し気まずいくらいで流せるこの人は大概大物だなとむしろ感心した。
「それなら謝るか何か行動を……ん」
変な感傷で時間を潰されるのも嫌だな、と、その相手をちらりと盗み見て興味深いものを見つけた。
「大樹の本……ユグドラシルの事か。それと、結界への対策についての書籍……」
ふむ、と、少し思案する。
/結界対策、つまりは結界を破壊する、もしくは除去しようとしているのか。
そして『ユグドラシルが結界の起点』になっていることをもしかして知っている、そして結界を破壊する方法を探している。
まて、俺はなんでユグドラシルが結界の起点になっていることを知っている、駄目だ、自分の思考を一部阻害する。これは関連付けてはいけない。/
「なんだよ、お前も手が止まってんじゃねぇか」
「ちょっと黙って」
「────」
ぴしゃりと言い放ち、少し思い出す。
「第三遠征隊、確かショートエッジの……フレア=ダイアスレフ。
名前が似ているけれどダインスレイヴと何か関係が……いや、今はいい」
すっと本棚からリストにあった書籍を引き抜く。
/大丈夫、思考はクリアだ。今なら『思い出せる』はず。第三遠征隊、ショートエッジ。ユグドラシルの封印を解こうと謀反を試み、失敗した部隊。これは、利用できる。/
「キリアリス、ちょっと思いついたことがあるからいったん帰ろう」
/不安でいっぱいだった心の中が期待と高揚に満ちて早く行動にと身体を駆り立てる/
「え、待てよ、賢士に言われた本は」
ひらひらと依頼された本を振って見せる。
「成功は……しないかもしれないけれど、試す価値はある……」
ユグドラシル、結界、第三遠征部隊、とりあえずキーワードが三つ。特に目的が果たせなくても最悪小さなコネと材料を手に入れられる/そして手順さえ間違えなければ俺はユグドラシルに辿り着くことが出来る/。
―――――そう、普通の少年が相手の本を数冊見ただけで謀反に気付くわけがない。
だが俺はこの時既に確信していたのだ。本来は知り得ない情報、ノートの記録を引き出すことによって。
そう、ものがたりのはじまりは、ノートのによって、決定づけられた……のだ。




