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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase2-12『糸を使う少女』

Phase2-12 22/11/13 投稿

「ん、調子よし、と」

 自分の指先を見ながら上機嫌なメリッサ。

 対する俺は訓練場に半ば無理やり連れてこられて少しやさぐれている。

 なんかつい最近同じような場面がなかったか。

 ため息をつきながら状況把握もかねて辺りを見回す。俺たちが立っている中央は狭めのグラウンド、という感じで端の方には基礎訓練用だろうか、鉄棒のようなものと傷だらけの丸太、引き摺る用の鉄塊に……よくわからないものがごろごろと転がっている。

 なお、バーンはこちらを観察してこそいるものの戦闘を止める様子もなく、好きにさせている。

 仲裁に入ってもらうのは無理そうだ。

「……ルールとか、あるのか」

 恐る恐る聞くとメリッサは一度鼻で笑う。

「ルールなんてないわよ、初心者じゃあるまいし。

 相手に参ったって言わせれば勝ち、それ以外基本的に何もないわ」

 実際初心者どころか軍人になった覚えもないんだが。

「気絶させたりとか、戦闘不能判定は」

「あくまで訓練だから気絶するまではやらないわよ。

 戦闘不能にして動けなくなって次の作戦に支障をきたしたら意味ないし。

 ……さて、それじゃあさっそくお手並み拝見と行きましょうか」

 そう言って両手をこちらにかざすメリッサ。どうやら武器は持たないようだ。

 ティスといい、俺の周りの女子達はなんでこう、みんなアグレッシブなのだろうか。

 別に悪いとは言わないが、もう少しおしとやかでもいいと思うが……今考えることではないか。

 バーンに借りた木剣に魔力を流しながら正眼に構える。

「―――――行くぞ」

 ぽつりと言うと、俺はそのまま足を強化して思い切り踏み込んだ。

 距離はおおよそ二十メートル。徒手空拳のメリッサがどういう攻撃をしてくるかはわからないが、もし遠距離攻撃が出来るのであれば距離を詰めなければ話にならない。

「思い切りがいいのね。

 そういうのは悪くないと思うわ。

婉麗(えんれい)たる指先、(ぜん)を以て(なぞら)え綴る。

 ほら、貴方の手はもう、届かない。

 ――――designer's hand.(被服妖精の指先)』

 ……止まりなさい」

 詠唱しながら空気を優しく撫でるように、メリッサが指を送る。何が起きるのか予測が出来ない俺は、速度を緩め、周囲を警戒する。

「――――ぎッ」

 最初に異常を感じたのは木剣を持つ右手首、外側へ引っ張られる感覚は思いのほか強く、肩が外れたかと思うほど。

 ―――――糸か。

 痛みに耐えかね、引っ張られる方に身を流しながら糸の出所を探る。

 いつの間に設置したのかメリッサの居る方向と真逆、先ほど見た丸太の向こう側から糸が数本伸びてきている。

「折れたと思ったのだけど、良く止まれたわね。

 でもほら、次よ」

 折れたと思ったって……戦闘不能になるほどの攻撃はしないのではなかったのか。

 強い。当たり前だが彼女も騎士だ。一般人の俺が勝てるような相手ではない……が、俺にとってそういう強者相手との戦いであれば、さんざやってきたこと、である。

 右腕の糸を解こうと左手を伸ばす。おそらく追撃が来る。これで左手まで拘束された日には為す術がなくなる。もちろんそれはメリッサもわかっているだろう。

 ―――つまり、俺が付け入る隙ががあるとすればそこくらいだ。

「―――――ッ」

 左手を止めると、間髪入れずに糸が手首に絡まってくる。予測範囲内。

 目を閉じ、自分の裡に意識を向ける。引き出すのは、ジッポと癇癪球。

「――――なにそれ」

 俺の左手に顕れたものを見てきょとんとするメリッサ。ジッポを知らないのだろう。そりゃそうだ、これはこれから七百年も後に登場する道具なのだから。

 まぁ、使うのはフリントだけなのだが。


 ぱちん。

 ヴェルの真似をして縛られている右手の指を鳴らしてみる。なるほど、これは意識を切り替えるのにとてもいいスイッチになりそうだ。

 裡から引っ張り出してきた癇癪球を左手の薬指と小指で握り潰し、目の前に振り撒いた。


 ―――――阻害。

 俺は生物、多少なりとも反魔力を持つものに阻害魔術を掛けることが出来ない致命的な欠陥を持つ魔術師だ。使えるのは主に自分と、無機物だけ。


 ―――――窒素、二酸化炭素、水素を阻害。自己の痛覚と衝撃、熱を阻害。


 それでも俺は魔術師だ。使えるものは何でも使って自分の得意に引きずり込めばいい。

 

 かちん、とフリントを鳴らした瞬間、俺の周りを爆炎が包み込んだ。

 両腕を縛っていた糸の感覚がなくなる。どうやら上手に焼き切れたらしい。木剣は……熱を阻害していたからか、先端がやや焦げ付いていてる程度で済んだようだ。俺自身の肌は……若干赤いが火傷まではしていない。

 あとは相手だけ武器を失っているこのタイミングに畳みかければ……。

「はぁっ」

 視界を覆っていた煙を木剣で払ってメリッサの方へ駆け、振りかぶる。

 ここ数日で嫌というほど力不足は痛感した、ここらへんで一度くらい勝たせてくれてもいだろう。

 そう思って剣を振りかぶる、が。

「Temporary sewing.(身体強化/装飾)」

 距離が思っていた以上に開いていた。

 許してしまった一節の詠唱、仮縫いという意味のそれは、単純な強化の魔術だったようで。

「ご、ぉ」

 鋭い踏み込みと同時に放たれ拳は俺の左頬に深く刺さった。

 みしり、と鈍い音が頭の中に響き、無様に転げた。

 その間わずか三秒ほど。

「ぁ……、っ……か、は……」

 切ってしまったのか、口元と鼻からぼたぼたと血が滴っている。辛うじて身を起こしたものの、膝が躍って立ち上がることが出来ず激痛で頭も回らない。

「よくもまぁ、私の作品を……燃やしてくれたわね」

 頭上からぎり、と、歯が軋む音がする。見上げたそこにはせっかくの綺麗な顔を歪めるメリッサの姿。

「はっ、笑えるな。燃やされて困るもんで戦ってたのかよ、ぐっ……」

 言い切る前に胸倉を掴まれ持ち上げられる。

 何か打開できる方法は無いかと横を見るが、これだけの状況になってもバーンは助けようとしてこない。何やら明後日の方を見ながら呆れたように首を振るだけだ。

「減らず口を叩く余裕はあるのね。

 降参しないなら身の程を知らせる必要がありそうね」

 ぐっと右拳を握り込むメリッサ。

 あぁ、そう言えば降参したらすぐ終わりだったのを忘れていた。

 こんなことなら腕取られた時点で早々に参ったと言っておけば良かったなぁ。

 容赦なく振り下ろされる拳、俺は諦めて静かに瞼を落とした。

 視界が閉じてから一秒とせずに聞こえる鈍い打撃音。

 メリッサに支えられていた身体は力なく地面に崩れ落ち、

「いて」

 俺は地面に落ちた衝撃で思わず声を上げた。

「いぃったぁああああいっ」

 見上げるとメリッサの後ろにさらに巨大な影が一つ。

「こんのクソミジンコッ、他所様に迷惑かけるなってあれほど言っただろうがッ」

 あたり一帯に怒声が響き渡る。

「いいじゃない、いつも隊長が推奨してる訓練してただけでしょっ。

 だいたい女の子相手にいきなりげんこつ入れるって何様のつもりよッ」

「うるっさいわクソミジンコ。

 こんな弱いものいじめみたいなことしてる奴に女も男も関係あるかッ」

 耳鳴りがするほどの声量が頭上で行きかう。

 力が入らず耳をふさぐことも出来ない俺はその声量をまともに浴びて今度は耳鳴りと戦いながらぐっと瞼を閉じた。

「ぎゃーっ、髪、髪は引っ張らないで、あやまる、謝るからぁーーーーッ」

「うっせぇ、どうせ偽もんだろうが、うっとうしいからとっとと外せ。

 それにまた制服改造しやがって、部隊に帰ったらきっちりしごきあげてやるからなッ」

「鬼ッ、悪魔ッ、ゴリラぁーーーーあっ、あっ、ごめ、ごめんなさい、謝りますから髪は、だめ、だめぇえええッ」

 メリッサの絶叫が遠のいていく。

「どうやら部下は無事回収できたみたいだねバークス」

 遠のいていく声の中にひときわ優しい声色がまじっている。メリッサとその上司と……どうやらもう一人いるようだ。

「すまんな、ダイアスレフ。

 早めにうちの寮舎に着いたら一緒にお茶でもと思っていたんだがなぁ。

 さすがにこれは、見過ごせなかった」

 これ以上面倒に巻き込まれるのも御免被りたい。ここはこのまま狸寝入りしておいた方がいいだろうか。

「大丈夫だよ、ともあれ……そうだね。早く立ち去ってあげたほうがいいみたいだ」

「立ち去った方がいいってどういう……こら、暴れるなメリッサ」

「うるさい、おーろせぇ、いったい淑女をなんだと思っ……きゃーっ、それ取らないで、返してぇッ」

「うっせぇ、これはもう没収だ。

 わるかったなバーン。んじゃお暇するぜ」

「おーう、気を付けて帰れよー」

 ぎゃあぎゃあとわめく声がだんだんと遠くなっていく。やれやれ、ひどい目に遭ったがとりあえずこれ以上の追撃は無さそうである。

「……やれやれ」

 声が完全になくなったころを見計らってゆっくりと瞼を上げると、バーンが丸太の上に腰かけてこちらを見ていた。

「おう、お疲れ」

 にっと笑って何やら楽し気な表情に思わずむっとなる。

「なんで助けに入ってくれなかったんだよ」

「いやぁ、途中でバークス……メリッサのとこの部隊長の姿が見えたんでね。

 何もしなくても止めに入るだろうって思ってな。

 それにしてもお前、ボロボロのくせにいい啖呵切ったじゃん。根性あるな」

 くつくつと笑われ、思わずため息を零す。

「あれじゃどうせ勝てないし、謝ったところで殴られてただろうから言いたいこと言った方がいいだろ」

 半ばいじけながら言い、口の中の血だまりをペッと吐く。歯は折れていないようだ。

 するとバーンははて、と口元に手を当てた。

「どうせ勝てないってセイ、お前火の方向いじってただろう。

 メリッサの方にあまり向かないように。

 あれ直撃させてたら……まぁ勝てないとしても勝負くらい出来たんじゃあないのか」

「む……」

 指摘され言葉に詰まる。俯瞰していたからわかったのだろうが……良く観察しているものだ。

「なんだ、黙秘か。部隊に来て早々副隊長に対して生意気な奴だな」

 副隊長、と聞いて眉を顰める。色々と成り行きで決まって困惑することだらけだが、これから上司になる相手なのなら良好な関係を気付いておかなければ、と観念して口を開く。

「あの火力をメリッサに向けても少し火傷するくらいで戦闘力を奪うほどにはならないだろ。

 ……それに服とか、せっかく綺麗なのに万が一焦がしてしまったらもったいないじゃんか」

 少し照れながらもメリッサの姿を思い出す。

 手入れされ整えられた髪と、芸術に疎い俺でもわかるくらい丁寧な作りの制服。悔しいが見事な装飾品だった。

 よく見ていなかったがもしかしたら俺が燃やしてしまった糸も何かこだわっていたのかもしれない。

「ふぅん」

 俺の答えに満足したのか、バーンはにっと笑った。

「なるほど、そりゃ可愛い子は燃やしたくないよな。

 苦労すると思うが頑張れよ」

 何を頑張れと言うのだろうか、バーンの言っていることがいまいちよくわからないが、納得してくれたようなので一安心だ。

「で、お前いつまでそこで寝てるつもりだ」

 起き上がろうとしない俺にしびれを切らせたのか、バーンが訊いてくる。

「……いや、その。立たないんじゃなくて、立てないんだ。

 悪いんだけど手を貸してほしい」

 そう言って力なく手を伸ばす。そう、顎にヒットしたメリッサの拳のせいでまだ体にうまく力が入らない。

「あぁ……マジか……。

 それは悪かったな」

 バーンは申し訳なさそうに俺に歩み寄るとゆっくりと俺を担ぎ上げてくれた。

 俺は運ばれながら、もう二度とメリッサといざこざは起こすまいと胸に固く誓った。

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