表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
35/72

Phase2-11『堰が切れるとき』

Phase2-11 22/11/07 投稿

      23/01/29 誤字修正

せっかくもらった地図を頼りに街を見て回る。

 古びた石造りの建物と荒い生地の服を着た人々に否応なくここが中世であることが伝わってくる。

 そう。もしもガーデンの結界の座標が変わるものでないのであればここは十二世紀のロンドン近郊、ということになる。

 だが、明らかに『広すぎる』だろう。

 ここ数日歩いた距離だけでもロンドンの端から端まで行けるくらいはある。こんな広範囲がハイウィールドの森だけで収まるとは到底思えないが……。

 そんなことを考えながら散策し疲れた俺は、郊外の更に奥に人気ない場所を見つけ、少し休むことにした。

「……はぁ」

 ちょうどいい木陰と、緩やかに流れていく風。

 そして、空気中には俺が感じ取れる程度に濃く澄んだ魔力がある。

 絶好の休憩スポットだろう。

 あまりの穏やかさに瞼が少し重く感じてしまう。少しくらい休んだところで罰は当たらないし、休んでしまうのもいいか……。

「おや、この場所にお客さんとは。

 珍しいこともあるものだね」

 唐突な声掛けに思わずばっと上半身を起こす。

 五メートルほど離れたところから、見知らぬ白髪の中年男性が俺を見下ろして立っていた。

「あぁ、ごめんね。邪魔をするつもりはなかったんだ。

 ただここで人と会ったのは初めてでね。

 ちょっと町の方に寄ったら密会に使う場所もあるのだけど……と、それはどうでもいいか」

 男性は勝手にぺらぺらとしゃべりながら少しだけこちらに寄ってくる。

「えっと、もしかして使っちゃいけない場所だったか」

 俺が尋ねると男性は驚いた表情で首を振った。

「とんでもない、ここは私のものではないし、見ての通り空間があるだけのただの森だ。

 時間によっては鳥も囀っているから好きな時に休みに来ると言い」

 両手を広げる男性は少し楽し気だ。

「ところで君は……と、名前を聞く前に自分から名乗るのが礼儀だね。

 私の名はマクラウド。

 ブロフ=マクラウドだ。

 良ければ、君の名前を教えてくれるだろうか」

 優しい微笑み。こんな人気のないところでこのタイミング……おそらく監視か何かだろう。失礼ながら俺はこの男性を非常に胡散臭く思っている。

「俺はセイ。

 セイ=ディリブ・フロクレスだ」

 俺が名前を告げると、マクラウドは一瞬驚いたような表情をして、再び微笑んだ。

「なるほど、やはり……君がセイ君か。

 いやはや、この辺りで見ない顔だなとは思っていたんだよ」

 うんうん、と咀嚼するように頷いている。

「まて、どこで俺の事を知ったんだ」

「面白い名前だからね。

 軍の一部ではもう噂になっているんじゃないかな」

「……む」

 噂になっている、と言われて思わず顔をしかめてしまった。出来るだけこの国の人間に関わらないようにして静かにこの時代から去ろうと思っていたのだが……そうもいかないようだ。

「それにしてもここはいいところだろう。

 大気中に自然の、それも澄んだマナに満ちているから私みたいな魔力の回復が遅い人間も早く魔力が回復できるし、何よりちょうどいい木陰と時折吹く風のおかげで休憩にもってこいだ」

「ふっ」

 別に自分の場所ではないと言っていた割に自慢げに語るマクラウドの姿を見て思わず吹き出してしまった。

「む、なんだい。いきなり笑ったりして」

そんな俺を見て、マクラウドが拗ねたようにじっと睨んでくる。

 その、あまりに子供っぽく気の抜けた表情に肩の力が抜けてしまったのだろう。

「――っはは、いや、ごめん。

 俺さっき全く同じこと考えててさ。

 つい、面白くて」

 言いながら、自分の視界が揺らいでいることに気が付いた。

「あ、れ―――」

 ぽろぽろ、と涙が零れ落ちていく。

「まっ、ごめん。

 あれ、なんでだろう、俺」

 止めようとすればするほど溢れて来る涙に困惑する。泣く要素なんてどこにあったんだろうか。

「気にすることは無いよ、セイ君」

 マクラウドを見上げてみるが、視界が揺らいでいる為どういう顔をしているかわからない。

「おそらく、ずっと気を張っていたんじゃないのかい。

 泣ける時は、肩の力を抜いて思い切り泣くことだ。歳を取るとどんどん泣けなくなってしまうしなにより、涙は流したくて流すものじゃなくて、溢れた気持ちを洗い流すものなのだから」

 心に染みてくるような声、自分でも気づかないことを言い当てる言葉。頭にのせられた手はとても優しくて、気付けば両手で顔を覆って子供みたいに泣いていた。

「……お、れ……師匠が、殺され、て、友達が、刺され、て……でも、生きて、……わけ、わかんなく……て、ぇ……っ」

 とさ、と、横で音がした。おそらくマクラウドが横に腰掛けたのだろう。

「何があったのかは知らないが、頑張ったみたいだね。

 君みたいな少年がこんなところに一人で、本当は不安で仕方なかったんだろう。

 ここでは誰も見ていない、聞いていない。もちろん、責めたりもしないんだ。

 だから、大丈夫」

 ぽん、ぽん、とあやすように頭を撫でられる。

 不覚だ、こんな泣き方、ロンドンの工房でもしたことないのに。

 泣きながら、それでもぽつりぽつりと話し始める。

「お、れ……気付いたら……この国に来てて、、いきなり殺されそうになるし、四日間、食べ物も……自分で確保できなくて……」

 話しながら自分の無力さを思い出す。

「国に着いたら、死んだはずの、あいつ、に襲われて、いきなり眠らされて。

 起きたら、起きたですぐに拘束するだとか、いきなり言われて……キリアリスに口添えしてもらってようやく、出られ、て……」

 ろくに戦えず、助けてもらうだけで何もできなかった。クロード賢士との話に至っては自分が何故自由にしてもらえたのか今でも理解できていない。

「セイ君、君、歳はいくつだい」

「……十七」

 マクラウドの問いに呟くように応える。涙は止まってくれたが、今度は羞恥心がひょっこり顔を出したせいで顔を上げるに上げられない。

「たかだか……というと君に失礼かもしれないが、十七の少年が四日の間に経験するにしてはキャパシティを超えた恐怖だったろうね。

 状況もわからない状態でよく耐えたものだ」

 諭され、宥められようやく一息ついて落ち着くことができた。

「なんか、その、ごめん。

 けど、出来れば頭撫でるのは、もう、勘弁してくれ」

 撫でまわされている頭、顔を上げられないまま言うと、マクラウドは「おっとすまない」と慌てて手をひっこめた。

「多少なりとはいえ元気になったようで良かった。

私はこの辺りでお暇させてもらうが……君はもう少しゆっくりしていくといい」

 そう言うと、彼はすっと立ち上がった。

「マクラウド、悪いんだけどここでの話は……」

 慌てて呼び止める、思わず感情のままに色々と話をしてしまった。重要なところはぼかしたつもりだが。

 マクラウドは、はて、と首を傾げたがすぐに合点がいったのか。

「なるほど。

大丈夫、ここで君から聞いたことは絶対に他言しないよ。

 もちろん利用したりもしない」

 そう、笑顔で言った。

「あぁ、そうだな。代わりと言っては何だがここで私と会ったことも他言無用で頼むよ。

 この付近に居たことがバレると色々不味いから出来れば名前を出すのも控えてもらいたいところだが……」

 どうかな。と、ウインクして見せるマクラウド。おそらく彼はこんな交換条件必要ない、こちらが気を使わないように言ってくれたのだろう。

「わかった。

 師に誓うよ」

 俺が言うと、マクラウドは小さく頷いて何も言わず背を向けると、そのまま去っていった。


 ―――――背の樹に体重を預ける。

 わずか一週間に満たない間に目まぐるしいほど状況が変わった。住む場所はおろか、世界が違う。

 情報が多すぎて整理するのには時間がかかりそうだが、幸い話してすっきりしたおかげで思考はクリアだ。

 冷静に判断できるからこそ今の俺には頼れるものが驚くほど少ない。これからどうするのか、どうなるのか、想像もできない。

「……はぁ」

 ふっと息を吐いて立ち上がる。

 呼び止めるような囀りを背に、俺はそのまま森を後にした。


――――――――――†――――――――――


「えーっと、ここか」

 地図を頼りに辿り着いたところにあったのは平屋建ての大きめな施設だった。

 石造りの立派な建物、奥にはおそらく訓練に使うのであろう広場もある。施設名のところには『Round knight』(ラウンドナイツ)の文字、間違いない。

 間違いないのだが、建物の物々しい雰囲気になかなか一歩を踏み出せずにいる。

「おい、ここは見世物じゃねぇぞ」

 まごついていると施設とは逆側、後ろから唐突に声を掛けられ驚きながら振り返った。

 視線の先……より少し下、俺より一回り背の小さな少年が睨みながら見上げていた。

 ……ラウンドナイツの関係者だろうか。

「一応俺騎士なんだけど、見下ろさないでくんないかな」

「悪い、……えっと、どうしたらいいんだ」

 謝りながらも身長的に見下ろさざるを得ない状況にあたふたしてしまう。跪けとでもいうのか。というか待て、この少年今自分が騎士だと言ったのか。

「ブレイド、やめなよ。またそんな無茶言って、バーンさんに怒られるよ、もう」

 少年の後ろから女性の声がしたかと思うと、俺はいつの間にか見下ろされていた。

「ごめんね、彼、いつもこんな感じなの」

 なるほど、少年の名前はブレイドというのか。ところで見下ろしてくるこの女性は何という身長をしているのか。俺も百七十センチは超えてるはずなんだが……二メートル近いのでは。

「撫でんなシールッ」

「えー、乱暴なしゃべり方してる間はやめなーい」

 うふふ、と笑いながら少年の頭をわしわしと撫でる女性、シール。

「だーもうちくしょう。

 なんで同い歳なのにこんなに差がついたんだッ」

 ブレイド少年がくわっと目を見開きながら主張する。確かにはたから見ても同じ歳に見えない。

ぎゃあぎゃあと話を続ける二人、完全に蚊帳の外に追いやられた俺は困惑しながらも間に入れずにいる。いったい何を見せられているのだろうか。

「そのくらいにしておいてやれ、二人とも」

 今度は施設側から、漆黒の長髪を靡かせた女性が二人の話をやんわりと遮りながら歩いてきた。

「バーンさん、お疲れ様です」

「ん」

 シールが恭しく頭を下げると満足そうにうなずく女性、バーン。

「ブレイド、またシールを困らせてたのか」

「いや、そこのそいつが施設の前で突っ立ってるから注意しただけで……」

 目を泳がせながら言葉に詰まるブレイド少年。そこのそいつ、というのはまぁ俺の事だろう。

「来訪者にそいつ呼ばわりとは偉くなったな、後で褒美に説教をくれてやるから覚悟しとけブレイド。

 わかったらとっとと食堂に行って晩飯の準備してこい」

「えぇ、マジかよ……」

 渋い顔をしながらとぼとぼと施設に戻っていくブレイドとそれについていくシール。二人を見送るとバーンは俺の方に向き直った。

「で、お前か、キリアリスが言っていた新入隊員って」

 じろり、と値踏みするようにねめつけられる。

「え、新入隊員なのか、俺。

 身柄は預かるって言われたけど、えぇ……」

 視線に戸惑いながらキリアリスとクロード賢士の話を思い返す。部隊で身柄を預かる、と言っていたがあれは入隊させるということだったのか。あまりの説明不足に気が遠くなりそうだ。

「そんな風に怯えるな、取って食おうってわけじゃない。

 あいつが連れて来る連中は風変りな連中が多いからちょっと気になっただけだ。

 俺の名はバーン、お前の名前を教えてくれるか」

「俺の名前はセイ。

 セイ=ディリブ・フロクレスだ」

「ふむ、セイか。

 状況とか経緯とか全く分からないが、それはおいおいとしてよろしく頼む。

 一応教えておくとさっきのちっこいのがブレイドで、大きい方がシール。両方ともラウンドナイツのメンバーだ。

 ここはメンバー用の施設で、供用のものも多いから後から説明してやる。で、向こうは訓練所と……」

 淡々と、しかし要点を押さえて説明してくれるバーンにほっと胸を撫でおろし、自分が無意識に気を張ってしまっていたことに気が付いた。また泣き出してしまうかもしれないな、

「さて、と。それじゃあ……」

「ごめんくださいな」

 せっかく施設の中に入れそうだったところでバーンの言葉が遮られた。今度はいったい何事だろうかと思いながら声の方を見ると、驚くほどの美少女がそこにいた。

 しゃらん、と音がしそうなほど自然に髪を梳き、優しく微笑むその表情に俺は思わず見惚れてしまっていた。

「ごきげんようメリッサ。今日はまた一段と気合が入ってることで。

 先に言っておくがキリアリスなら今居ないぞ」

「あら、そうなの、残念。

 今日こそラウンドナイツに……と、バーンさんそちらの方は」

 美少女、メリッサが俺の方に視線を送りながらバーンに尋ねる。

「あぁ、コイツは今日からラウンドナイツに入隊することになったセイ……えっと、なんだっけ」

 紹介しようとして思い出せなかったのか、バーンはバツが悪そうにこちらの顔を伺ってくる。

「セイ=ディリブ・フロクレスだ」

 自分で名前を告げながらよろしく。と、会釈をして顔を上げると少女が鬼もかくや、という形相でこちらを睨んでいた。

「え」

 固まってしまった俺を見てはっと我に返った少女がぱっと表情が元に戻す。

「っと、ごめんなさい。

 私は第一防衛隊のメリッサ=アネス。よろしくね」

そう言って会釈を返してくるメリッサの表情はというと……少し眉が寄ってはいるものの、至って普通である。先ほどの顔は見間違いだったのだろうか。

「バーンさん」

「ん、どうした」

「このまま帰ろうと思ったのだけれど気が変わっちゃった。

 ちょっと訓練に付き合ってほしいのだけど駄目かしら」

「構わないけど……ブレイドもシールも晩飯の準備中だ。相手出来るのは俺くらいしかいないぞ」

 腕を組んで嘆息するバーン。

 ふむ、どうやら訓練をするらしい。全く足りていない情報集めのいい機会だ、同じ部隊に入る人物の力量、せっかくだから俺も見せてもらおう。もしかしたらこの時代、この世界の魔術が少しわかるかもしれない。

 目を伏せながらそんなことを考えていると。

「いえ、出来るなら相手は……そこのセイにしてもらいたいのだけど」

 唐突な変化球に思わずメリッサの方を見ると、彼女はにやり。と、邪悪な笑みを浮かべていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ