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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase2-10 『知る者、知らない者』

Phase2-10 22/10/31投稿

Phase2-10 『知る者、知らない者』


 俺には、残念ながら魔術の才能が無い。

 いや、そもそも本来魔術とは何らかかわりのない一般家庭の子供だったのだから当たり前と言えば当たり前だ。

 そんな俺が魔術に触れる機会があったのはただの偶然で、幼いながらその理から外れた知識に魅了されていった。

 その後自分でもなんとか魔術を使えるレベルになった頃、ある事件をきっかけにヴェルに見初められ、俺は本格的に魔術の世界に足を踏み入れることになる。

『無茶するなあ、お前。

 でも、最高だったぜ』

 困ったような、でも眩しい笑顔で差し伸べられた手を今もはっきりと覚えている。

 その後才能のない俺にヴェルは根気強く魔術を教えた。魔力の上限を上げるための訓練、総量の上限が低いことを知ってからは出力の調節。出力も凡才程度であることがわかってからも様々な工夫をして俺に魔術を教えてくれた。

 結局、阻害の魔術師しかろくに使えなかったものの、その応用方法と知識だけは同年代の魔術師より遥かに優れていたと思う。

 まぁ、そもそも阻害などという使いにくい魔術は俺みたいに自分の属性でもなければ使う魔術師などまずいないだろうが。

 そんな才能のない俺だが、魔術を学ぶのは楽しかった。出来ることが劇的に増えることこそなかったものの、小さな知識の積み重ねで力がついていくことに、言いようのない高揚感を覚えていた。

 もちろん挫折がなかったわけではない。

 何度もヴェルや師匠との実力の乖離に悩まされたし、ヴェルの付き添いとして通わせてもらっていたハイスクールでも底辺魔術師として扱われたため苦労もした。

 だが、魔術師をやめようとは思わなかった。

 それもこれも、ヴェルの一言が悪い。

『お前はいつか絶対俺に勝つよ』

 おおよそ敗北を知らず、誰もが憧れ、師匠すら一目置く魔術師、ヴェルスター=ハイルロード。

 その彼が誰よりも確信を持って言うのだ。

 誰よりも彼の言葉を信じている俺は幾度となくその言葉で奮い立った、立てたんだ。

 そんな生きる指針であったあいつが、あっさり胸を貫かれて……俺は死んだと思っていた。思っていたのに数日後再会して、再会したかと思えば。

『悪いな、セイ。ちょっと寝ててもらうことになった』

 いろんなことが数日の間に起きて頭の中が全然まとまらずにいる。

 意識を失う直前のヴェルの顔が思い浮かぶ。

 敵意こそ感じなかったものの、あしらうようなその所作が俺は悔しかった。

 いや、簡単にあしらわれる俺の弱さが原因なのはもちろんわかっている。あいつに俺の理想を押し付けるのも、間違っている。

 だがそれでも……。

 俺の思考は終着することなく、同じところをぐるぐると回り続けていた。


 Original perspective by Sei


「んん……」

 ぼやけた視界が輪郭を帯びていく。どうやら夢を見ていたようだ。

 柔らかいベッドからゆっくりと身体を起こし、あたりを見回す。

「ここは、どこだ」

 独りで使うにはやや広めの部屋、綺麗に整えられた色調の家具と整頓された書物。誰かの私室だろうか。

 なぜこんなところに寝ているのだろうと記憶を呼び覚まして約三秒。

「――――――ヴェル」

 気を失う直前の事を思い出し、一気に胸がざわついた。

 あのあと、いったいどうなったのだろうか。

 俺が室内にいるということは一応戦闘は終わったということなのだろうが、決着は……。

 ぐるぐると考えを巡らせていると外からかつかつと靴音が近付いて、部屋の前で止まった。

 思わず身構えると、間を置かずにノックの音。

「ど、どうぞ……」

 俺が言うと扉が開き、知らない男性が入ってくる。

 男性はそのままベッドの横まで歩いてくると恭しく礼をした。

「無事起きられたようで何より。

 初めまして、私の名はクロード=クラウド。

 クロード賢士、で通っている。

 君の名を……教えてくれるだろうか」

 ベッドの上から相手を見上げる。

 眼鏡の位置を整え、襟元を正す男性。一目見て一般人ではないと理解できる整容。

「俺は、セイ。セイ=ディリブ・フロクレス」

 俺が緊張しながら名前を告げると、困ったように眉を顰めた。

「フロクレス、とはまた面白い名前をしている。

 失礼だがそれは……本名かね」

 尋ねられてはっと思い出す。ずっと使っていた為意識していなかったがこの名前は……。

「間違いなく本名だよ。

 師匠から賜った、俺の今の魔術師銘だ」

 言って、師匠の事を思い出してしまう。色々と中途半端な状態で投げ出してしまっていたが、あちらは大丈夫なのだろうか。

「ふむ」

 俺の説明に頷いて見せるものの、納得していない様子。

「その名前の意味は知っているかね」

 尋ねられ、思わず首を傾げてしまう。

「意味……いや、知らない、けど」

 言われてふと思い出す。フードの少年も俺の名前を聞いたときふざけた名前だと言っていた気がする。この言い方だと俺の名前には何か意味があるのだろう。

「そうか。

 知らないのであれば知らない方がいいかもしれないね」

 気になったが、教えてくれる気は無さそうだ。

 クロード賢士は無造作に本を手に取るとそのまま何やら書き始めた。会話の記録をつけているのだろうか。

「魔術師と言ったが、君はどのような魔術を得意としているんだい」

 自分の手の内を晒せと言われているようで一瞬戸惑ったが、俺の魔術なんて知られたところでたかが知れているし、嘘を見抜ける魔術でも使用されていた日には猶更状況が悪くなりかねない。

 正しいかはわからないが……ここは素直に話しておこう。

「俺が使える魔術は阻害の魔術。

 と言っても魔術師には使っても効かないレベルだし、物理的にも投げられたものが若干失速する程度だけど」

 言っていて少し悲しくなる。実際直接戦闘ではほとんど役に立たない、補助レベルのものなので仕方ないが。

「ほう、レベルはともかく希少な魔術だな。

次に、よければ君がここに来た目的を教えてくれるか」

 くるりとペンを回し、次の質問が飛んでくる。

 この国へ来た目的、と言われて困ってしまう。

「俺はそもそもこの国に来るつもりは無くて。

 信じてもらえるかはわからないけど、俺は未来の、しかもこの世界の外側から飛ばされて来たんだ」

「ほう」

 口元にペンを当てながら訝し気にこちらを見る。当然だろう、逆の立場なら俄かには信じがたい。

「自分の時代、自分の国に帰りたい。

 そのためにも目下の目的は帰る方法を探すこと……かな」

 自分の目的。キリアリスが眠っているときにも考えていたが、まずは正しい形に収まるよう、自分の居た場所に帰るのが一番だろう。

「なるほど帰りたい、そのために帰る方法を探す、か」

 正直な気持ちと目的を伝えたからか、今度は納得してくれたらしい。

 表情も少し軽くなった気がする。

「では次に私の希望を述べさせてもらう。

 執政者としては君をこのまま拘束、諜報員である疑いが晴れるまで監禁させてもらいたい」

「な……」

 安心したのもつかの間、まるで今日の献立でも伝えるような気軽さでとんでもないことを言い出した。

「なんで、そんな疑いが」

「何でも何も、君は怪しすぎるだろう。

 国境付近でうろついていたことと言い、城門で襲撃してきた少年と知り合いだという」

 痛いところを突かれて言葉を失ってしまう。

「この国の人間なら周知の事なのだが……今この国は隣国との関係が非常に芳しくなくてね。

 ほんのわずかなことでパワーバランスが崩れかねない。

 もしも君が何某かの情報を持ち帰った日には即日開戦……もあり得るというわけだ。

 例えば……」

「俺がグングニルをもう所持していない、とかかクロード」

 クロード賢士が言いかけていたところ、キリアリスが計ったかのようなタイミングで入ってきた。

「……そうだ。

 ところでキリアリス、ほかに人がいるときはクロード賢士と呼べと言ったはずだが」

「待ってくれ、俺はそんなこと……」

 言いふらすつもりはない、と言いかけたところでクロード賢士に手で制される。

「言わないという保証、どこにもないだろう。

 極端な話、他国に君が帰る手段があったら、キリアリスの情報でそれを手に入れられるとしたらどうする」

「それ、は……」

 思わず言い淀んでしまう。そこまでの条件が揃っていたとしたら……俺は黙っていられるだろうか。

 この国に何かする義理は無いし、未来に帰ってしまえば何も関係がなくなる、なら……。

「いじめるのはその辺にしておいてやれ。

 そんな都合のいい話も無いだろうし、何よりグングニルは別の人間の手に渡っているんだ。

 もう隠していられる時間は幾ばくも無いだろうよ」

 嘆息しながら言うキリアリス。

「……その話はあとにしよう、キリアリス。

 今はセイ君の話だ」

 その話題には出来るだけ触れたくないのだろう、早々に俺の話題に戻される。

 ここは駄目元でこの国に協力する姿勢だけでも見せるべきだろう。

「俺は……」

「あぁ、コイツの身柄ならラウンドナイツで預かる」

 決心して口を開いたところで思い切り言葉を遮られる。

「……は」

「……え」

 キリアリスの口から飛び出したとんでもない提案。ラウンドナイツ、と言えば確かアルキリオの上位……第一親衛隊の騎士達だ。そこで俺を匿う、と言ったのか。

「何を言っている、私の話を聞いていたんだろう、キリアリス。

 未だ彼が何者なのか、確証がないんだぞ」

 慌てた様子のクロード賢士にキリアリスは困ったような顔で俺に視線を向けた。

「言ってただろ、未来から来たって。

 俺は信じるぞ、なんてったって俺はこいつに会ったことがあるからな」

 会ったことがある、と言われて困惑する。俺の記憶ではつい先日のあれが初対面のはずだが……と、考えたところで一つの可能性を思いついた。初対面でのキリアリスの言葉。


『――――あの日何故俺を止めた』


 明らかに俺が何かをしたような発言。もしかしたらまた俺は過去に飛ぶ、のだろうか。

 もし本当に俺と会ったことがあるのであれば未来から来たと言うのも確かに信用に足る。

「……なるほど、そういうことか」

 クロード賢士も遠からず同じような結論にたどり着いたのだろう、目を伏せて一瞬考え込む。

「その件は後で詳しく教えてもらうとして、キリアリス。

 私がそれを簡単に承認するとでも」

 その目が強く訴えて来る。許さない、と。

 だが、キリアリスはその視線を真っすぐ受け止めた。

「思ってない。

 けど、俺はこいつを助けないといけないんだよ、クロード」

 決して逸らそうとしないその目には、端から見た俺でもわかるくらいの悲しい感情が見て取れる。

「……はぁ」

 その視線に耐えかねたのか、クロード賢士は深くため息を吐いた。

「わかった。

 本当に、お前には敵わん。

 いいだろう、セイの入隊を許可する。次は後悔しないようやってみるがいい」

 半ば諦めたように言うクロード賢士。

「あぁ、せいぜい足掻いてみせるよ、クロード」

 言いながらキリアリスがふっと笑って見せる。それがとどめになったのか、クロード賢士は毒気を抜かれたようにやれやれと首を振った。

「一応言っておくが、これは本来あってはならない措置だ。

 他国からの人間を軍に入隊させる、あまつさえ第一親衛隊などもってのほかだ」

「わかったわかった、説教を聞く余裕はないからまた今度な。

 行くぞ、セイ」

「えっ、うわッ」

 いきなりベッドから引きずり出され転びそうになる。

「まてキリアリス、まだ話は……」

 逃げる俺たちを止めようと手を伸ばすクロード賢士。

「悪い、もう時間がない」

 その言葉にどういう意味があるのか、キリアリスが言うと、クロード賢士は手を伸ばすのをやめた。

「……明日、出直してこい」

 はいはい、と二つ返事をするキリアリスと共に部屋を出る。

「あ、あれ大丈夫なのか……」

 遠くなっていく扉を振り返る。話はほとんど半端で、クロード賢士が納得する材料などほとんどなかった気がするのだが。

「いや、大丈夫じゃないし、全く良くない」

「……え」

 キリアリスの言葉に一抹の不安を覚える。

 まさかとは思うが、翌日いきなり牢獄に放り込まれる、なんてことになったりしないだろうか。

「ちょっと理由があってな、今日はもう話していられない。

 明日改めて俺が話をつけるからとりあえずは安心していると良い」

 そう言ってキリアリスが頭を押さえる。

 昨日、一昨日と俺と国を目指している際にも何度か見せた仕草だ。

 おそらく魔力切れかなにかだろうか。俺が気絶した後も戦っていたのだろうし、休息が必要なのだろう。

 そんなことを考えているとキリアリスからポンと一枚の紙を手渡された。

「それ、とりあえずお前の仮住まいの地図だ。

 ラウンドナイツ用の施設で一番奥の部屋を空けてある。

 好きに使え。

 ……あと、友人から伝言」

 友人、と言われて思わず身を竦ませる。伝言、ということは俺が意識を失った後に受けたのだろうか。

 キリアリスは少し冷たい目をこちらに向けてきた。

「この国の周辺で戦場を引っ掻き回してる『サクリファイス』って名前のレジスタンス部隊があるんだが、そこにあいつはいるらしい。

 そこかしこで騒ぎを起こしているから早めに止めに来い、だとさ。

 しびれを切らせたらアルキリオに攻め入るとも言っていたな。

 以上、伝言おわり。いいか」

「あぁ、ありが……とう」

 お礼を言うと、にっと笑って見せてそのままキリアリスは走り去ってしまった。

「……」

 取り残され、やや途方に暮れながら地図を開く。地図には目的地だけでなく商店や主要施設などこの辺り一帯の情報が書いてある。

 地図によるとこの大きな建物はクロードの住まいらしい。執政者として、と言っていたしやはりただものではないようだ。

 建物を出て商店へ寄ろうかと思ったがすぐに思いとどまった。この世界で買い物をするための通貨を持ち合わせてない。

「何もかもが足りないな……」

 日の高さからすると時間的にまだ午前八時くらいだろうか。さすがにこのまま直接施設に向かうのも癪なので少し散策してから向かうことにした。

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