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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
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Phase2-9『ヴェルスターという少年』

Phase2-9 22/10/24 投稿

 アルキリオの隣国にして敵国レダルキア。

 その二つの国境に位置する山中にその組織の住処がある。

アルキリオ、およびレダルキアへの軍事抵抗組織『サクリファイス』

 両国の犠牲者により組織されたそれは少数で編成されており、その思想からか非常に練度の高い戦闘を行い、戦場を引っ掻き回すことで有名だ。

 そんな組織に一年近く前に拾われ、ようやっと戦場に立った一人の少年が居た。

「おかえりヴェルスター。

 レダルキアの奴らはぶっ飛ばしてきたか」

 住処の奥から低い声がヴェルを迎える。

「や、駄目だった。

 思いのほか強いのがいてさ、誰も殺せなかった。まいったね」

 たはー、と額に手を当てるヴェル。

「なんだあ、口ほどにもねぇ奴だな。

 行く前は『一部隊くらい壊滅させてくるぜ』とかほざいてただろうが。

 それをなんだ、一人も殺せなかっただぁ。

 全く役に立ってねぇじゃねぇかお前、いったい何と戦ってんだよ」

 やれやれ、と、ため息を吐かれたヴェルはあはは。と、乾いた笑みを浮かべたかと思うと、ふっと闇を睨み、

「ゼイミ=キリアリスと戦ってきた」

そう、静かに言った。

「キリアリス、だと」

 先ほどまでの嘲るような口調はどこへいったのか、声には空気を揺らしそうなほどの怒りが籠っている。

「あぁ。推論通り、グングニルは持ってなかったよ。

 俺が持ってるから当たり前って言ったら当たり前だけどさ。ただ……びっくりするほど強かった。

 なにあれ、円卓の剣って。

 確かに聖剣魔剣の類だけどエクスカリバーでもなければアロンダイトでもないって意味わかんないんだけどマジで」

 もうお手上げ。と、両手を上げるヴェルに声が答える。

「さぁな、アレはまだ未知数だ。

 あいつの新しい武装については情報が足りなさすぎる。

 武器も確認できているのが三本だけだ」

 ふん、と不満げな声にヴェルがはて、と首を傾げた。

「あれ、そうなのかよ。

 俺十二本使わせたぞ、一瞬で武器の能力までは解らなかったけどよく頑張ったんじゃないかね」

「なん……」

 声の主が息を飲んだ。

 キリアリスの武装は隣国のレダルキアが躍起になってその全容を暴こうとしているほどのもの、それを一戦で十二種も確認したともなれば驚きは当然のものだろう。

「……なるほど、言うだけの事はあるな。

 いいだろう、ヴェル。次はマックスウェルに行ってこい」

「はぁ、マックスウェルっていったら、北の方にある聖域だよな、なんでそんなとこに。

 俺こう見えて忙しいんだけど」

 指示に不満があるのか、ヴェルは大げさにため息をついて見せる。すると、奥の方からてくてくと足音が響いてきた。

「おっ、クチナシじゃん」

 奥から歩いてきたのは十歳くらいの少女、クチナシ。

「―――――」

 両手を上げながら近づいてくる少女をヴェルはひょいと持ち上げてくるくると回る。

「おー、どうした、寂しかったか」

 ヴェルが尋ねると首をぶんぶんと振ってぷんぷんと怒ってみせる。

「ふふ、お前喋れないのにリアクションでかいから何考えてるかわかりやすくていいなー」

くるくると回っているうちに花でも咲いているのではないかと見間違うほど眩しい笑顔で喜びはじめる。

「これで俺の命の恩人ってんだから好感しかねぇな。どうしような」

 ひとしきり回された後すとん、と降ろされるなり満足そうに奥へ走り去っていった。

 そんな二人のやりとりを見届けてか、奥から再び不機嫌そうに声が響く。

「……で、結局行くのか、行かないのか」

「いいや、行かせてもらうよ。

 俺はサクリファイス……クチナシに恩があるからな。

 助けてもらった分は働くさ」

「ふん、素直じゃない奴だ。

 出立は他の二人が帰ってきてからだからふた月後、それまでに体調を万全にしておけ。

 特にその胸だ」

「んん……あ」

 はて、と自分の胸に目をやって思わずあちゃー、と困った表情を浮かべるヴェル。クチナシと遊んで気が緩んだのだろう、槍で貫かれた胸の傷から少し血がにじんでいた。

「なかなか塞がんねぇなぁ」

「当たり前だ、むしろ今生きている幸運を噛み締めろド阿保ゥ。

 発見したとき俺たちはもう死んでいると思っていたからな。

 クチナシが連れて帰るとゴネなければお前は今頃森の中であの世行きだ」

 心底呆れたような口調、しかしヴェルはそんな口調を意にも留めず上着の胸を空けると中指を自分の胸に当てた。

「行方を阻む、流れを阻む。

 鼓動は内へ、私の裡へ……」

 詠唱を手短に済ませ治癒の魔術を使ってみるものの、血は止まらず傷が塞がったりもしない。

「貫いた槍が槍だから傷が治らないのは仕方ないとしてもこれはどういう状況なんだろうなホント」

 塞がらない傷の上を血液が流れて体に戻っていくという、どう見てもおかしい状況。

「この魔術式、俺の魔力を吸ってるから不気味でしょうがないんだが……これ解除したら俺死ぬ気しかしないんだよな。

 刺されたけどグングニルの所有者になったから呪いと加護でせめぎ合ってるとか、なのかねぇ」

 うーんと首を傾げる。

「難しいことはよくわからんが、戦闘は大丈夫なのか、ヴェルスター」

「血がにじむ程度で痛みもないから気にならないかなぁ……とはいえそれで死んでも阿保らしいし一応気にはとどめておこうかね」

 やれやれとひとりごちながら服装を正すヴェル。

「それならいい。

 戦闘になる確率は低いが、準備を怠らないようにな」

「はいよ」

 ヴェルが返事をすると気配が洞窟の奥の方へ消えていく。

「さてと。ひと月後か、じゃあ俺は俺で情報収集とグングニルの能力把握に努めるとするかねぇ。

 セイとの決着のその時までに万全にしとかないとな」

 この世界、この時代に飛ばされたことにヴェルは絶望していた。

 なぜならセイにもう会うことが出来ないと、自分の役割はあの時終わってしまったのだと思ったからだ。

 しかし今は違う。

 何の因果か、それとも奇跡か。彼はセイと再会を果たした。

 ―――――この時代にあいつが居る。

 そう、居るのだ。

 なら絶対にまた会えるし、会いに行ける。

 それだけでヴェルの絶望は消えてなくなってしまった。

「そして、必ずあいつは」

 その言の葉には何が続くのか。仮面の下、ヴェルが口元を釣り上げる。

 彼の心の裡に、どのような目的があるのか誰も知らない。しかし、その瞳の中には常に、セイだけが映っていた。

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