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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
32/72

Phase2-8『早すぎる再会』

Phase2-8 22/10/16 投稿

「なるほど、親友を救いたくて、ね」

 あれから約十二時間。何事も無く目を覚ましたキリアリスに俺は問われるままここまでの経緯を話している。

 時間遡行をしてきたことを伝えた際もキリアリスは最初一瞬だけ驚いた表情を見せたがなるほど、と、すぐに納得してその後はただずっと俺の話を聞いていた。

「俺は未来に帰りたい。帰って何が出来るかはわからないけど、少なくともここに居るよりは正しい、と思う」

 俺が力なく言うとキリアリスは壁に背を預けて少し考え、

「なら俺の国に来い。

 そこでならある程度力を貸せる。必要なものが有るなら揃えてやれるだろう」

 そう、信じられないことを口にした。

「えっ」

 言われたことを自分の中で反芻する。力を貸すと、必要なものを揃えてくれると彼は言ったのか。

「その、交換条件なんかは、何か、あるのか」

 破格の条件に不安になる。つい昨日まで見ず知らずだった人間にここまでする人間などそうそう居ない。

 そもそも最初に彼は、俺に剣を振りかざすくらい警戒していなかったか。

「別に無い。強いて言うなら敵対しなければ文句は無いけどな。

 とりあえず俺の協力できることはするから好きにするといい」

 思わず、言葉を失ってしまう。

 そんなことをして彼になんのメリットがあるのだろうか。これならまだ未来の情報を寄越せと言われた方が安心できるかもしれない。

「どうした、まだ何かあるのか」

 難しい顔をしている俺を見てキリアリスが尋ねる。

「いや、べつ、に……」

「そうか、なら早々にアルキリオに向かうか」

 キリアリスはそう言って立ち上がりすたすたと出口へと向かうと、そのまま外に出ていった。

 出入口がばれてはいけないのならもう少し慎重に出たほうがいいのではないだろうか……。

「どうした、早くいくぞ」

 呼ばれ、覚悟を決め出口に向かう。

 どうせほかに行く当てもないのだ。ここはあてにさせてもらおう。俺はそのまま洞窟を後にした。


―――――†―――――


 それから歩いて丸二日。遠めに見えてきたユグドラシルに、アルキリオが近付いてきたことを実感する。

「あと一時間ほどだ、だいぶ日が落ちてきてる、足元に気を付けてな」

「……はい」

 力なく返事をする。

 この三日で俺はキリアリスへの発言権が全くなくなってしまっていた。

 理由は食糧問題。

 初日に貴重な携帯食料の干し肉を恵んでもらったことをはじめ、水の確保からその後の食料の確保まですべてキリアリスがやってくれた。

 特に昨夜のウサギの狩猟は見事なものだった。いきなり弓を取り出すから何事かと思ったが、その後数矢で仕留めてすぐに血抜きから調理までしてしまう手際の良さは筆舌に尽くしがたいものがある。

 ちなみに、俺が出来たことと言えばさりげなく持ってきていたジッポで火を起こすくらいだった。

 自分のあまりのお荷物さに胸が痛くなってくる。

「どうした、腹でも壊したか」

 無力さに打ちひしがれる俺を見てキリアリスが心配そうに顔色を窺ってくる。

「いや、体調は問題ないから行こう」

 余計気を使わせても余計立つ瀬がなくなるだけだ。俺はぐっと背筋を伸ばすと、少し気になっていたことを聞いてみることにした。

「ところでキリアリス。

十二時間おきに十二時間睡眠を取ってるけどそれはやはり魔力の為なのか」

 俺が質問するとキリアリスはあー、と、少し考え、

「そうだなぁ、そんなとこだ。

 詳しい説明は省くが、今索敵に魔力を回していてな、そのせいで消費が激しいんだよ。

 だから休憩もしっかり摂らせてもらってる」

 両手の人差し指をくるくると回す仕草をしながら……索敵のつもりだろうか、何か言い難そうに説明している。実際感知を常時使っているのだとすれば消費は凄まじいものになるだろう。

 言い難そうにしているのは一応……弱みになるから俺に知られたくなかった、というところだろうか。

「なるほど」

 休息の時間こそあれだが、感知を十二時間続けて使っていられるということは相当量の魔力を貯蓄していられるのだろう。

 むしろ食料のほかにそこまで手間をかけていたと思うとさらに胃が痛い。

「……待て」

 また考え込みそうになったとき、キリアリスが俺の進行を手で制してきた。

 何事かと思い立ち止まると、彼はユグドラシルの方を睨みつけ、敵だ。と呟いた。

 俺は無言のまま思わず一歩あとじさる。

 周囲を警戒してみるが……俺にはそれらしい反応が全く感知できない。

 キリアリスが目を瞑り神経を研ぎ澄ませる。

「城門前で誰か戦ってる。

 急ぎ足で行く、引き離されないようについてこい」

 そう言ってゆっくりと目を開けると、キリアリスはそのまま走り出した。

 俺はそれについていきながら、だんだんと体が強張っていくのを感じる。

 ……原因はわかっている。言うまでもない、三日前の戦闘だ。

 剣がなければ何もできなかった。正直あのレベルの戦いになれば援護どころか足手まといにしかならない。

 胸に湧いてくる恐怖をぎゅっと抑えて顔を上げる。

 視界にはもう城壁が見えてきている。

「あれか」

 キリアリスの言葉に目を凝らすと城壁前で倒れている兵士と、それを庇うように立ちはだかる兵士が一人ずつ、それと見覚えのある槍を携えた人影が一つ。

「―――――グングニル」

 キリアリスが眉を顰めながら呟く。あの槍の事を知っているのか、俺は耳を疑ったが信じざるをえまい。あの時と同じ槍……やはり神槍だったのか。

 だが、所有者の体格が明らかに違う、何者なのか。

 様々な考察が逡巡しては消えていく。

「負傷者を連れて城門内に退避しろッ

 ここは俺が抑えるッ」

 キリアリスが大声を出しながら駆け寄る。

 城門側の兵はその言葉を受け、負傷者に肩を貸すとそそくさと中に消えていく。

 おおよそ三十メートルほどの間合いになったころ、キリアリスは足を止めた。

 槍を持った人物はこちらに背中を向けたまま、城壁内に避難していく兵士を何もせずに見送った。

「優しいんだな」

 キリアリスは城門脇の扉が閉まったことを確認すると、『アーサー』と、蒼い剣を喚び出した。

「いや、別に。

 俺は力試しがしたかっただけだからさ。

 あんたを殺してから殺しに行く、順番が変わっただけだよ」

 そう言ってゆっくりと振り返る少年。腰のあたりまで伸びた三つ編みが楽し気に踊る。

 聞き覚えのある声、舞踏会用の仮面……だろうか。鼻元まで隠されたその顔を見て、息を飲んだ。

「ぁ――――――」

 その口元だけではっきりわかる。

 だって彼はずっと一緒にいた、ずっと一緒にいたんだ。俺の大切な家族で、最強の超えるべき壁……何者にも変えられない、ただ一人の親友。


 ヴェルスター=ハイルロード



 ヴェルは一瞬驚いたように口を開いてすぐに口角を上げると、俺が今にも叫び出しそうなのを察したのか、口元に人差し指を当て、しっとジェスチャーをして見せた。

「―――――ッ」

 何のつもりなのかはわからないが、考えがあるのだろう。辛うじて言葉をぐっと飲みこんでヴェルを見る。

 無事だったのか、なんでそこにいるのか、その槍は何なのか。

 訊きたいことだらけで思考が全くまとまらない。

「殺すだけ、とはまた大雑把な。

 何が目的だ」

「言った通りだよ。

 一年前にこの国に来たんだけどさ、ちょーっと怪我しててさ。

 こないだやっと快復したからどのくらい戦えるのかなって力試しに来たんだよ。

 あー、でも。赤い髪のあんた……キリアリスだっけ。

 あんたとは戦うなっておっさんに言われてんだけど、やっぱ力試しなら強い奴がいいよな」

 饒舌に、楽し気に。ぶんぶん、と、槍を振るヴェル。

 仮面の下で全く見えないのに、その視線が『前に出て来るなよ』と言っている気がする。

「――――行くぞ、ランスロット。

 後悔するなよ、少年」

 三十メートルもの距離はしかし、一呼吸する間もなくゼロになる。二本の剣が躍る、輪唱する鳥のように、お互いの呼吸を合わせて襲い掛かる。

 それに応じて槍が舞う。まるで水を分かつように、滑るように剣戟を受け流す。

「はっ、名称指定だけで、詠唱無しでこの強化かよ。ふっざけてんなぁッ。

 ――私は理、原則、その在り方を阻害する――」

「こいつ、魔術師か」

 詠唱に気付いて妨害すべくキリアリスが剣を振る。しかしヴェルは後退しながら難なくそれをいなしていく。

「――遮るものは我を避け、縛るものは解けてゆく」

 ヴェルが加速する。今の詠唱は慣性と重力の阻害。

「――しかして私は拒絶する、その敵意、その意思を――」

「―――――ッ」

 キリアリスが一瞬硬直する。今のは相手の周囲の空気の動きと……敵意そのものを阻害するヴェルの奥の手の一つ。

「――――ランスロット」

 ぱちん、弾ける音。キリアリスはヴェルの魔術を空気ごと切り捨てた。

「ひゅぅ、やるッ」

 自分の魔術を破られたというのにヴェルは楽し気だ。

「でもなぁ、ちょっとパワーが足りてねぇんじゃねぇかッ、おっらァッ」

「チッ」

 キリアリスが剣ごと押され、あとじさる。

「力押しとは脳がないな」

「なら頭を使った戦い方を見せてくれよッ、噂に名高い英雄さんッ」

 キリアリスが押されている。

 彼は銀の剣が攻撃を受け流し、蒼の剣で隙を突くスタイル……だと思うのだが、そもそも攻撃を受け流しきれていない。

「……」

 一瞬キリアリスと目が合う。何か言いたそうな顔をしているが……どうすればいいか俺にはわからない。

「なるほどな」

 その一瞬のやり取りで何かを理解したのか、ヴェルは槍を引き、キリアリスと距離を取ると、

「――――なッ、いっつ、」

 一瞬で俺の目の前まで飛んできた。

 そのまま近場の樹に叩きつけられる。

「悪いな、セイ。ちょっと寝ててもらうことになった」

 ヴェルは耳元でそうささやいたかと思うと、

「えっ……」

「暮れゆく明星、瞬きは静かに消える……」

 一瞬で俺の『意識を阻害』した。


―――――†―――――


another prespective by Killalice…


「何をした」

 少年……セイがずるりと力なく倒れる。

「や、コイツが邪魔そうだったから少し寝ててもらったんだよ」

 ゆらり、と仮面の少年が振り返る。

「こいつに見られたら都合が悪いものがあるんだろ、そんな顔をしてたと思ったんだけど。

 ……違ったかな」

 仮面の少年がくるくると槍を回しながら楽し気に訊いてくる。

 ……その通りだ。俺はまだセイが敵か味方か測りかねている。協力するのはあくまで自分の目的の為で、少年の言う通り手の内も見せたくなかった。

 ―――――右腕を上げる。

「The knight of round(円卓の剣)…」

 詠唱。そのまま指を鳴らすと円卓の武器が宙に顕れる。

 蒼の聖剣『アーサー』

 赤の聖剣『ガウェイン』

 黒の槍『ベイリン』

 銀の十字剣『ランスロット』

 爽翠の弓剣『トリスタン』

 金の柄の剣『ジェレイント』

「なるほど、『手に持たないのが正解』なのか、その武器。

 にしてもアーサー王伝説になぞらえた名前とは。またケレン味に溢れてまぁまぁまぁ」

 仮面の少年がセイから離れながら槍を構える。

 彼の言うことはおおむね正しい。

 俺が武器を揮うより剣自身が戦った方が遥かに強いし速い。手に持つのはあくまで魔力の消費を抑える目的だけだ。

 もっとも、これだけやっても奴の槍の前に通じるかと言えば、微妙なところなのだが。

「で、それ。まだストックがあるんだろ。

 天下のナイツオブラウンドと言えば、一番有名なのは十三騎士だもんな。

 出さないのか、出せないのか……まいっか。

 殴ってみりゃわかるだろッ」

 先ほどよりもさらに早い踏み込み。反射的に放った矢を何事もなかったかのようにはたき落としながら少年が距離を詰めて来る。

「行け、目標はあの黒い旋風だ」

 武器に迎撃を命じる。

 すると少年はざっと足を止め、降りかかる武器を迎撃する態勢に入った。

 はじめは蒼と赤の剣、両側から弧を描くように切りつけたそれを両方とも槍の柄で弾き、黒い槍の刺突を踏み込みながらかわす。

「―――――おっと、」

 踏み込んだ位置に落ちて来る六つの矢を一歩下がってかわし――――金の柄の剣に首を撥ねられそうになりながら辛うじて弾き後退。

 ――――息を飲む。

 今まで多くの人間と戦ってきたが、これほど器用に立ち回る人間を見たのは初めてだ。

 何より知ってか知らずか、彼は槍の力をまだ使っていない。

 少年の口元が楽し気に吊り上がる。

「回れ、回れ、回れ。

 眷属は異なる使いを排除する。

 回れ、回れ、回れ。

 眷属は同じく全てを排除する。

 六番目の君よ、血統はここに。愛すべきものと共に喰らい尽くせ」

 詠唱が聞こえ、反射的に後退する。そうだ、いまだに信じられないがこれだけの斬戟を捌ききる彼は騎士などではなく――――魔術師なのだ。

「Satar's ring.(切り開け、六番目の円環)」

 がりがりがり、と、地面を削るような音が聞こえ、数秒後にはそれが竜巻となって自分の周りを取り囲んでいた。

「これは不味い、か。

 戻れ、ランスロットッ」

 だんだんと包囲を狭める土くれに、慌てて守りの要を呼び寄せる。

「―――っは、さすがにセオリー通り過ぎるだろそれはさァッ」

 俺の剣の包囲をどうやって抜けてきたというのか、少年は自分の竜巻をものともせず突っ切って一直線に飛んできた。

「――――ッ」

 慌ててランスロットを防御に回し、少年の一撃を辛うじて防ぐ。他の武器は……さすがに呼び戻している時間は無さそうだ。

「悪いが、セオリー通りの戦いしかしたことがないんだ、俺は」

 右手を掲げる。

「させるかッ」

 俺が反撃に出ると察したのだろう、少年がさらに早い一撃でランスロットを弾き飛ばす。

 だが、一瞬遅かった。俺は既に、『詠唱を済ませている』のだから。

 少年の槍が届く直前、俺の指が鳴ると同時に新たに六本の武器が顕れ、その攻撃の悉くを防いだ。

「すげぇな、合計十二本かッ」

「円卓の剣だからな……」

 今まで使ったことのない剣まで動員した。

 包囲は必要なくなったのか、それともそれだけ余裕がなくなったということか。竜巻が消え、少年は至近距離でほぼ同時の攻撃を受けきれずに体勢を崩す。

 魔力はもう残り少ない。これで決めなければ死ぬのは間違いなく―――――。

 右手を振り下ろし、剣に号令をする。

「―――――いけ」

 降り注ぐ六本の武器。

 少年は体勢を崩したまま距離を取り、轟音の中に消えていった。

 中に大剣があったからか、派手に土煙が上がる。

 追撃をしたいところだが、視界が悪い中で不意打ちを食らえば次こそ終わりなので武器を自分の周りに呼び戻し、待機させた。

 最初に喚んだ六本は……新しい剣を喚んだせいで繋がりが切れ地面に転がってしまっている。

 そう、俺が扱える上限は六本、それを超えると先に喚んだ武器から接続が切れてしまうのだが……さて、これで仕留められていなければ正真正銘後がない。


 ――――――まぁ、ここまでやったところであの槍を突破できないことは、俺がこの世で一番知っているのだが。


 土煙が消えていく。

「あぁ、これはずるい……面白くないなぁ、この槍」

 そこには傷一つない少年が自嘲気味に笑っていた。

「なるほど、これ持ってたら確かに英雄にでもなれる気がする。

 ホント、つまんねぇな」

 先ほどまでの不敵な笑みはどこへやら、言葉通りつまらなそうに言いぱたぱたと膝の埃をはたくと、少年はなんと槍……グングニルを裡に仕舞った。

「何のつもりだ」

 無防備に立ち尽くす少年に剣を向ける。

「いやね、帰ろうと思って。

 もともと魔力を半分くらい消費したら撤退する予定だったんだけど今のでほとんど空になっちゃってさ。

ちょっと興が乗って無茶しすぎたよ。

 あくまで力試し、今日は割といい戦い出来たからこの辺でもういいかなって」

 少年がやれやれとわざとらしく肩を竦める。

「逃がすとでも思って……」

「見逃してやるんだよ英雄」

 ぴり、と空気が張り詰める。

「そこで寝てるそいつに伝言を頼むために俺が、あんたを、見逃すんだ」

 殺意に満ちた眼光。

「――――――彼は何者だ」

 その視線に気おされることなく訊き返す。

 その質問が意外だったのか、少年はきょとん、と目を見開くとふっと笑った。

 無邪気にはにかむ顔は年相応で、先ほどまで殺気立てて槍を振るっていたようには到底見えない。

「もっと他に訊くことあるだろうに、まぁいいや。

 ……セイはセイだよ。

 どこにでもいるような、でもここにしかいない高みを目指すたくさんの魔術師の少年。

 そして―――――」

 まるで眩しいものを見るかのように目を細めてセイを見る。

「―――――俺を打倒し得る魔術師だ」

 ……何をどう拗らせたらこうなるのだろうか。

 セイ、彼がどれほどの実力者かは知らないが、この数日見ていた限りではそれほど脅威は感じなかったが……。

 いや、それよりも今は目の前の少だ。彼がグングニルの能力を使えた以上、万全ならまだしも現状の俺には勝ち目がない。

「伝言とやらはなんだ」

睨みながら訊くと、少年が満足そうに頷く。

「俺は今レジスタンス『サクリファイス』で拾ってもらってそのまま雇われてる。一応恩返しがてらそこかしこで騒ぎ起こしてるから早めに止めに来い。

 あんま長く来なかったらこっちからしびれ切らせてアルキリオを潰しに来るからそのつもりで。んじゃ、そゆことでよろしく」

 要件を言い終わると早々に手を振って去ろうとする少年。

「待て」

 俺の制止を受け、少年が気だるそうに振り返る。

「今度は何」

 止められたことが不愉快だったのか、こちらを一瞥したその眼には先ほどと同様の殺意がこもっている。

 もしかしたら発言次第でまた戦闘になってしまうかもしれない。だが、このまま何も訊かずに帰すわけにもいかない。

「お前はいったい何者だ」

 まずは正体。素直に教えてくれるかは別として何某かの情報が得たい。アルキリオの国宝、俺が失った槍を持っている謎の少年。

「あっ、そっか。俺が誰かわからなかったら誰からの伝言かわからないもんな。

あんたなら見ればわかると思うんだけどまぁいいや」

 そう言うとこちらに向き直り、佇まいを直すと少年は胸を張った。

「俺はヴェルスター。

 今代のグングニルのオーディン、

 ヴェルスター=ハイルロードだ」

「ヴェルスター……」

 心当たりを思い出してみるが、聞き覚えがない。

 先ほど槍を使えていたのでわかっていたことではあるが……この言いよう、どうやって手に入れたかは別として彼は正式に槍の所有権を持っている。

「あんま長居すると怒られるから今度こそお暇させてもらうよ。

 じゃあなぁ」

 そう言うとヴェルスターはぴょんと跳ね、木々を飛び越えてどこかへ消えてしまった。

 ……あの高さ、ともすれば城壁くらい飛び越えてしまうかもしれない。

「と、そんなことより」

 考え込んでいる場合じゃない、気持ちを切り替える。

ぱちんと指を鳴らし、浮いている剣を裡に仕舞うと、落ちている剣も順番に回収していく。

「俺が考えうる限り最善の布陣だったんだが……」

 最後に蒼い剣、アーサーを回収し、寝ているセイに向き直る。こっちはこれだけ苦労させられたというのにすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

「はぁ……さすがに疲れた」

 考えることは色々とあるが、さすがにキャパシティオーバーだ。

 俺はセイを担ぎ、とぼとぼと城門へと向かった。


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