Phase2-4『即身物/邂逅』
Phase 2-4 22/9/19 投稿
another prespective by Vellstar…
「はぁ、これはまたデカくて立派な樹だな」
大樹の前にたどり着き、そのまんまの感想が口から出る。いや、これは大きい以外の感想が出ないだろ、絶対。
つぅ、と地面から出っ張った大樹の根を撫でながら大樹の構成を確認する。
自分の身長以上の高さの根とはまた、スケールが異世界だ。
「へぇ、これ自体が魔法陣なのか、そりゃこんだけ立派な結界を維持するならそうもなるわなぁ」
周囲に生物が居ないことは確認し、結界の起点も発見した。ざっと調査を終え、根から根へ飛び移りながら魔力の濃い部分へ。
この世界が自分を反発する力は刻一刻と強くなっている、もう、時間はそう残されていないだろう。
「――――――」
とんとんと幹に近づくにつれ視点が高くなる。淡い光に照らされた広大な世界。夜のはずなのに遠方が見えるほど明るいのは結界内にあふれた濃い魔力がぶつかっているからだろう。
比較的魔力が濃いロンドンでもこんな光景はまずお目にかかれない。
「そろそろかな」
強大な魔力に近付いているのがわかる。感知魔術を使っていないにも関わらず自分が感じ取れる限界値を遥かに超えた魔力量は身の危険を覚えるほどだが、たとえ死ぬことになったとしてもここで止まることは出来ない。
そうして、息を切らせながら進むと、視界に何やら墓標のようなものがいくつかと、その中央にヒトが見えた。
「なんだありゃ」
墓標に見えていたものは無数の武器だった。数にしておおよそ二十ほどだろうか、槍や剣。どれも新品同様に磨き上げられている。その中心に干からびたような老人が一人、ユグドラシルの幹から生えてきたような状態になっていた。
具体的に言うと下半身と両腕の肘から先がが幹に完全に埋まっており、上半身だけが出ているような状態。さながら脱皮途中の蝶のような……とでもいえばいいのだろうか。
身体は衣類も身に着けておらず、俯いた顔は長い白髪に隠れてしまってはっきりと見えない。
「即身仏か何か、か」
セイに聞いたことがある。東方ではなんでも自分からミイラ……聖遺物になる人間がいるのだとか。
仏教の一つとか言っていたが、もう少し詳しく聞けばよかった。
「とはいえ、ここで終着か」
もっといろいろ調べたいところだが、反発する魔力的にもう間もなく元の世界にはじき出されるだろう。
「まぁ、調査としては上々か。
また来れるかわからないし、最後にこの爺さんの顔を拝ませてもら……」
言いながら老人の方を改めて見て、凍り付いた。
「──────」
眼が、合っている。先ほどまで俯いていた顔がやや持ち上がり、老人の銀の右目がはっきりと見える。
左目のあるはずの場所は虚ろに抉れて不吉な闇が覗いている。
「─────」
まずい、と本能が告げている。明らかな殺意がこちらに向いている。逃げ出さなければならないのに最初の一歩が出ない。
この世で俺を殺せるものなんて存在しないと自信を持って言える、そんな俺を、今から殺すぞとその目が告げている。
ミシミシと老人の方から聞こえる。何の音か、そんなの考えるまでもない。老人が、ユグドラシルの幹から抜けようとしているのだ。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
動け動け動け動け。
一歩でも前に出れば勢いで逃げられる、走り出せるというのに何故その一歩が出ないのか。
ずるり、と、血まみれの老人の腕がユグドラシルから抜け出た。ぽたぽたと命を零しながら俺の頬にその指先が触れる。ひたり、と生暖かい血が一筋、頬から顎に垂れる。
「ぁ…………」
かちかちと歯が鳴っている。気付けば老人の顔はもう、すぐ、近くで、俺を────。
――――――――――†――――――――――
Original perspective by Sei
「……────ヴェル、ヴェルッ」
呆然と立ち尽くすヴェルの肩を揺らしながら必死に名前を呼ぶ。
ガーデンでヴェルに取り残されたその数分後、俺はひとりハイウィールドの森に戻されていた。
ひとりでどうしたものかと数分思案していると、唐突に立ったまま意識を失ったヴェルが目の前に現れ、今に至る。
「……俺、は……」
「よかった、意識が戻ったか。立ったまま気絶するとかお前は弁慶か何かかよ……」
安堵にほっと胸を撫でおろす。
「夢……でも見てたのか」
ヴェルの顔は真っ青だ。彼は震える手でゆっくりと頬に、そこに付着した血に、触れた。
右眉がぴくりと揺れる。
「……夢じゃ、ない、よな、そりゃ」
ぬるり、と、その血を確かめるように撫でた後、ごし、とふき取った。
「何があったんだ」
はじめて見るヴェルのおびえたような表情。
「帰りながら話す……」
そうぽつりとつぶやくと力なく歩き出す。その頼りない背中に追従しながら、空を見上げると、いつの間にか空が白み始めていた。
――――――――――†――――――――――
「で、触れられた瞬間戻ってきた、と」
「あぁ」
森を抜ける。
しんどそうな顔で話し始めたヴェルは見ていて心配だったが話し終えて少し気が楽になったのか、幾分かマシに見える。
「武器の中央に、干からびた老人か。
何者なんだろうな」
いろいろと記憶を探ってみるが全く心当たりがない。そもそもガーデンでの出来事だ、俺の常識が通用するのかもわからない。
「一応心当たりはある。
ユグドラシルに隻眼と来たらオーディンだ」
「オーディンって、北欧神話のか」
「そう、そのオーディン。
まぁ、さすがにオーディンそのものではないだろうが、類似点の多さは無視できないレベルだ。
ユグドラシルで自分を生贄にした、って伝説もある。それを模して力を得たのか、力を得たから隻眼になったのかは知らないが無関係とは思えない。
とりあえず……」
ヴェルが唐突に指を指示したので思わずそちら側に視線を向ける。
「カプセルホテル」
はて、と俺が首を傾げると、ヴェルが頭を押さえて深くため息を吐いた。
「疲れた、帰る前に少し休もう」
……なるほど、昨晩からぶっ続けで調査していたんだからそりゃそうなる。俺は待ちぼうけ食らったりでほとんど動かなかったが、ヴェルはあのユグドラシル周辺で走り回っていたらしいし。
「そうだな、少し仮眠してから帰ろう」
時刻は午前五時を回ったところ。朝早くから犬の散歩をする住民とすれ違い、俺たちはそろってカプセルホテルに入っていった。




