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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
27/72

Phase2-3『ガーデン・侵入』

Phase 2-3 22/9/12 投稿

「朝っぱらから何をしとんじゃお前らは。

 騒がしいと思ったら他所の魔術師に迷惑かけおって、しかも相手はあの名門。

 怪我なんぞさせた日にはこの一帯で戦争が起きてたかもしれんのじゃぞ、わかっとんのか」

 冷静に、しかしはっきりと怒りを顕わにする師匠。

「いやぁ、だって師匠。あいつが喧嘩吹っ掛けてきたんだぜ、俺は悪くねぇ」

 ふん。と鼻を鳴らすヴェル。俺はというと、怪我がひどかったので師匠から魔術で治療を受けている。

「ヴェル、お前のことだ。なんで行動に出たか想像に難くないが、どんな理由が有れ傷つけてはいけないものはあるんじゃよ。

 たとえ蔑ろにされたものがお前にとって大切なものだとしても。覚えておきなさい」

 反論するヴェルに対し、呆れたように諭す師匠。

「知らねぇよ、そんなこと」

 しかしヴェルは納得できないと言わんばかりに不服そうに目を逸らした。

「さて、セイ。身体の調子はどうだ、もう少し戻すか」

「いや、このくらいで大丈夫。

 ありがと師匠」

 腕を回しながら調子を確認してみる。先ほどの傷はまるで嘘だったかのように消えている。

「それなら良かったわい。

 あとお前もね、セイ。普段大人しいくせに変なところで火が付く。

 行動を起こす前に一拍置くことを覚えなさい」

「……はい」

 おまけで注意されしゅんと肩を落とす。心当たりが多すぎてぐうの音も出ない。

「さてと、ワシは研究に戻る。セイ、今日こそ頼んだぞ」

「はい」

 そう言い残して工房に消えていく師匠を見送り、ほっと胸を撫でおろす。

 よほど研究の続きをしたかったのか、今日の説教はとても短かった。

 ヴェルと二人取り残され、ほっと一息つきながら今日の戦いを思い出す。

「ティス、だっけ。強かったな」

 ぽつりと、呟くように言った。

「確かに強かった。けどお前の方が強かったじゃん」

「いや、あれは俺が強かったというより手加減してくれてたんだよ。

 極力人を傷つけたくなかったんだと思う」

 言いながらティスの戦力を思い返してみる。

 初撃、虚を突いたあの最大火力をいなせる魔力があるのであれば俺を殺すなんて簡単だっただろう。

 むしろ俺が弱すぎてうっかり殺してしまわないよう力をセーブしていたのもわかっている。攻撃手段をバラの花弁だけにしていたこともそうだ。

「人を傷つけられないなんて弱点以外のなんでもないだろ」

「辛辣だな、いやまぁ、それはそうなんだけど」

 あとは相性がただひたすらに悪かった。魔術師はどうしても詠唱に時間をかけがちだ。詠唱……というか魔術を多用しない俺と接近した状態で戦闘をする時点で分が悪い。

「根はやさしい子なんだよ、きっと」

 ふぅ、とため息をつきながら言った。なんとも、そういう弱みに付け込むような戦い方しかできない自分が情けなくなる。

「なに、やたらとあいつの肩持つじゃん。もしかしてセイああいう子が好みなのか」

 なぜそういう話になるのか、にやつきながらなるほどねぇと勝手に納得しているヴェル。

「はぁ、ああいう自分の意見をはっきり言える子は好みだけどね。

 多分お前の思っているのと違うよ、だからその目をやめろ」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ」

 俺の反応が面白くなかったのか。早々に話を切り上げるヴェル。魔術と戦闘訓練しかしないようなこいつも色恋沙汰に興味とかあったのだな、驚きだ。

「そういや話は変わるけど今朝話したガーデン、この辺の森にも入口が顕れるらしいんだよなぁ、心当たりないか」

 いやに唐突な話題転換だな、とも思ったがちょうど心当たりがある。

「それなら知ってる。ロンドン南東ハイウィールドの森だな。

 月光の弱い日、新月に近いと稀に顕れるらしい」

 言い切って、何か注意事項があったような気がするな、と思っていると。

「それもノートに書いてあったのか」

 ヴェルが、そう尋ねた瞬間に頭が真っ白になった。

「…………ぁ」

 転びそうになって思わずテーブルに手を着く。

「ふぅん、やっぱりか」

 何かに納得したようにヴェルが目を伏せる。

「おま、ヴェル、人をなんだと思ってんだ」

 靄が掛かった思考でかろうじて発言する。

「いや、ごめんな。悪いとは思ってるけど数少ないガーデンの情報……しかも想起阻害を使うほど信憑性が高いものなんだからどうにか引き出したくてさ。

 一時的に気分が悪くなるだけなのは確認済みだし、ちょっとくらい無茶してもいいかなって」

「ったく……」

 頭を押さえながらため息を吐く。こいつ他人事だと思って簡単に思いやがって。それに今の発言、ノートの事についてもう条件に察しがついているというのか。

「ま、お詫びと言ってはなんだけどさ、一緒にガーデンに連れてってやるよ」

「お前それどや顔で言ってるけど情報の出所俺だろうが」

「まぁなー」

 はっはっは、と上機嫌に笑うヴェル。

「やれやれ……。

 まぁ、師匠のお使い終わったら付いていくよ。

 お前ひとりだと何やらかすかわかったもんじゃないからな」

 そう言って席を立つ。

「おう、出発は三時頃な」

「ん、三時は少し早くないか、入口が顕れるのは夜中だぞ」

 はて、と首を傾げると、どこから取り出したのか、ヴェルが周辺マップをを差し出しながら言ってくる。

「それ、地図見て言えるか、ハイウィールドに着くまでにどんだけかかるか分かったもんじゃない、着いてからも入口探さないといけないんだから」

「……結構遠いんだな」

 差し出された地図を見る。確かに距離こそそう遠くないが交通の便が悪い。片道何時間かかるかちょっと予想がつかない。

「最悪タクシー使うからな」

 タクシー、と言われて思わず固まる。

「悪い、ヴェル、もしタクシー使うならその……」

「なんだよ、突然言い淀んで」

 非常に言い難いがこれを逃せばガーデンに入る機会を永遠に失うかもしれない。恥ずかしがっている場合ではない、か。

「金を貸してくれ、俺の小遣い程度じゃタクシーになんて乗れない」

 絶対に笑われるだろうなぁ、と思いながら恐る恐るヴェルの顔を見てみる。が、ヴェルは一度目を伏せると、

「……そうだったな。

 いざとなったらタクシー代くらい俺が出してやるよ、セイがついてきてくれるだけで十分だ」

 そう、困ったように笑った。

 その何とも言えない表情に何を言えばいいかわからなかった俺は、

「わかった、ありがと。じゃあ行ってくる」

 と、そのまま工房を後にした。


――――――――――†――――――――――


 師匠のお使いを無事済ませ、合流した俺たちは無事、ロンドン南東部に位置するハイウィールドの森に到着した。

 到着した時点ですでに日が落ちきってしまっていた為、すぐに二手に分かれ広い森を探すこと数時間。

「見つかったか、セイ」

「いや、全く。魔力の残滓なんかも感じない」

 手がかりはこれと言ってないまま日付を跨ごうとしていた。

「何か条件でもあるのか……それとも単に今日は入口が開かない、だけか」

 ヴェルが静かに闇を睨む。光源もほとんどなく少し気を抜けば自分の存在さえわからなくなる、まるで迷宮のよう。

「……あっ」

 魔術の灯りが消えヴェルが声を上げる。

「ん、どうした」

「いや、加減ミスったみたいで……あれ」

 灯りを点けなおそうとしているのか、ヴェルがぱちん、ぱちんと指を鳴らしているが何度やっても何も起こらない。

「なんか魔術に干渉されているのか。

 ちょっと待てヴェル、確か……」

 こんなこともあろうかと持ってきていたジッポをポーチから取り出し、そのまま着火する。

「えっ」

 瞬間、一気に視界が開けた。

 先ほどまで数メートル先すら見えなかったというのに、透き通った光で森の奥まで見渡せる。

 いや、それ以前に雰囲気が違う。鬼火のような蛍のような淡い光が周囲を飛び交い、あたりの木の種類も先ほどまであったものと違う、いや、きっとここは既に。

「あれ、は……」

 ヴェルが呆然と見上げた先を釣られて見上げると自分が今まで見たこともないほど巨大な樹がそこにあった。

「ユグドラシル……ってことは、ここは既にガーデンか。

 だが、どうして辿り着けた。何がトリガーだ……直前に魔術が使えなくなったことか、まさかジッポが……それはないか。いや、今はそんなことより」

 ぶつぶつと呟き始めたかと思うと唐突に歩き出したヴェル。

「おい、ヴェル、ちょっと待て」

「悪い、待つ余裕はない。

 説明は歩きながらするから、ついてきてくれ」

 いろいろ言いたいことがあったが説明をするということなので黙って付いていく。

 実際に宣言通り、ヴェルは数メートル歩いたところで説明を始めた。

「わかってると思うがここはガーデンだ。

 どういう原理かはわからないけど飛ばされた。

 あとは、普通ここに入ってこられたら基本出られないはずなんだが、今回は多分制限時間がある……」

 早足のまま淡々と説明される。

「なるほど……それなら確かに急がないといけないか。

 でも入ったばかりの世界なのになんでそんなことまでわかるんだ」

 俺が尋ねるとヴェルは人差し指をぴっと立てて説明を続ける。

「ハイウィールドの森を探索してる時からいつ飛ばされてもいいように魔術で糸を紡いでいたんだけどさ、飛ばされた直後ハイウィールドの森からの糸は切れていなかったうえに距離として数センチも移動していなかったんだよ。

 おそらく入口が開いた、というより森とこの世界の位相が合ったんだろうな。

 で、その糸が今も外の世界側に引っ張られている、物理的にじゃなくて魔術的に。俺たちをこの世界から追い出そうとしているわけだ。

 しかもその引っ張る力は刻一刻と大きくなっている……つまり」

「時間制限がある、と……」

 あの数秒でそれだけのことを思考したのか、と感心する。普段すっとぼけているくせにこういう有事の際のコイツの起点や思考の速さは本当に頼りになる。

「……いでっ」

 歩いているところで何やら見えない壁にぶち当たった。

「なんだこれ」

 ぺたぺたと目の前にある何かを触って確かめる。まるでガラスのような感じの壁だが……強い魔力を感じるから多分結界の類だろう。

「──────」

 振り返ってヴェルがぱくぱくと口を動かすが何も聞こえない。

 首を傾げてみせるとヴェルがこちらに駆け寄ってきた。

「どうしたセイ」

「いや、ここに見えない壁みたいなものが有ってさ」

「壁……」

 俺が触っている結界をヴェルも同じように触ろうと試みるものの何も触れないようで結界のこちら側と向こう側を行ったり来たりして見せる。しかも結界の向こう側だと音も通さないようだ。

「んー、俺は問題なく通れるみたいだな。

 俺はユグドラシルを調べたいからこの先に行くけど……どうしたもんか」

 数秒考えたのち、ぽんと手を合わせて何やら糸のようなものを渡してくるヴェル。

「さっき言ってた糸だ、先端を可視化できるようにしといたからコレ持っておいてくれ」

「……ってことは俺ここで待つのか」

 俺が言うが早いかヴェルが駆け出すのが早いか。

「──────」

 結界の向こう側に走っていったヴェルは手を振りながら何かを言っている。おそらく悪いな、とかそんな感じだろう。

「まぁ、どうしようもないし、待つか」

 あんなに生き生きとしているヴェルを見るのはいったい何年ぶりだろうか。俺と出会ってからすぐ彼は魔術に興味がなくなってしまったかのように黙々と自己研鑽とガーデンの調査ばかりをするようになってしまった。

 あんなにきらきらとした目で走り出されたら咎めることなんてできやしない。

やれやれと肩を竦め願わくば彼の目的が果たせますようにと、小さくなるヴェルの背中を見送りながら一人祈りを送った。

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