Phase1-Ep-B『結末の真相』
Phase-Ep-B 22/8/8 投稿
そのあとはひたすら忙しかった。
ユグドラシル周りの現場検証から聴取という名の尋問。
息つく間もなく続けられる調査から俺が解放されたのは丸三日経った後の事だった。
「貴様は限りなく黒だ。本来ならここで釈放されるようなことは無いと肝に銘じておけ」
最後、クロード賢士に部屋に部屋へ呼び出され、警告を受けている。
彼の言い分はもっともだ。俺がショートエッジへ部隊交換に参加したいと言ったひと月後にこの騒ぎだ。疑うなという方が無理だろう。
だいたい、原因の一部は俺なのだ。反論の余地もない。
「ただ、彼らが謀反を企てていたのは事実のようだし、それを止めたこともまた事実だ。
今回不問に伏されるのはその功績と……何度も言うが、何よりキリアリスが現場にいたということが大きい。努々忘れることのないように」
「……はい」
おそらく本当は他にも言いたいことがあったのだろうが、今回の事件の事後処理でそれどころではないのだろう。それだけ言うとクロード賢士は作業に戻っていった。
……そうして俺は長い拘留から釈放され、今に至る。
「……なるほど」
あらかた話し終えると、マクラウドは納得したように何度も頷いた。
「たった二か月の間に本当に色々あったんだね、セイくん」
訊かれてショートエッジでの思い出が逡巡する。短かったようで、とても長かったような、不思議な感覚。
「あぁ、色々あったよ。
訓練はかなりきつかったけど楽しいことも確かに、あったし」
事件から三日も経ったというのに、自分がこの手に掛けたというのに、彼らの笑顔がまだ脳裏に浮かぶ。
もっとうまいやり方があったはずなのに、俺が分不相応な考えをしたばかりに、死んでいった人たち。
俺が思い返していると、マクラウドは申し訳なさそうに視線を落とした。
「すまないセイくん。
君にそんな顔をさせるために言ったわけではなかった。いや、むしろそんな顔をしてほしくなかったからこそ忠告したつもりだったんだ」
マクラウドの言葉にはっと我に返る。
「いや、なんで謝るんだ。
俺がもっと他の人に相談するなり、ダイアスレフ自身を止めるなりすればよかっただけの話で……せっかくマクラウドも止めてくれたのに、俺が突っ走ったから、だから、もっと上手くやっていれば彼らは」
死ななくて済んだのに、と、言おうとして頬に違和感を感じた。慌てて触ってみると濡れていて、そこでやっと自分が泣いていることに気が付いた。
「矢次早に話してしまうほど思考が渋滞しているみたいだね。一度落ち着きたまえ」
指摘されて、思考が錯綜していることに気付く。後悔、負い目、罪悪感。
「まぁ、仕方ない。
人を手に掛けたのも初めてだろうし、感情の整理がつかないのも当然だ」
ぽん、と肩に手を置かれ、俺は力なくすぐそばの樹の根元にすとん、と座り込んだ。
「君の心が楽になるかは知らないが二つ。
ひとつ、君は暴走したダイアスレフを止めただけ。
そもそも論になるが、ユグドラシルの詳細を教えたのは私だ。
もちろん破壊を教唆したわけではないし、彼に破壊できるとは思っていなかった……とはいえ、彼がこの国のつくりを疎ましく思っていたことは知っていたし、そのうえで教えたという意味では謀反のきっかけを作ったのは間違いなく私だ」
「ぁ……」
マクラウドが独白した内容に驚き、何か言おうと口を開くものの、考えがまとまらずに魚のように口をぱくぱくとするだけで言葉が全く出てこない。
「ふたつ、結果的にセイ君を私が煽ってしまった。
止めるつもりだった、と言い訳をしてしまったが、君の性格を考慮出来ていなかった。
君は、その言動に依らず負けず嫌いだ、もっと別の言い方をすべきだった」
彼は何を言っているのだろう。なんで、こんなことを言わせてしまっているのだろう。
「ダイアスレフが死んだのは確かに残念だった、だが、殺すのが偶然君だったというだけで、彼の謀反も粛清もどちらにしろ免れないものだったんだよ、セイ君」
もたらされた免罪符と独白。
確かに疑問ではあった。なぜダイアスレフがユグドラシルに詳しかったのか、そこまで思い至ったのか。その理由を唐突に明かされ、混沌としていた頭の中が考察を進めようとまとまっていく。
「また難しい顔をして。
だが先ほどよりはマシになったか、だいぶ落ち着いたみたいだね。君のその切り替えの早さは長所だ、大切にするといい」
見上げるといつも以上に慈しむような表情でこちらを見るマクラウド。
「今、のは」
俺を元気付ける為の方便だろうか、と聞く前にマクラウドが再び口を開く。
「心配しなくても事実だよ。
信じるかは別として、私はここでは嘘を吐かないことにしているんだ。まぁ、隠し事はいくらでもするけどね」
ウインクされ、思わずふっと笑ってしまった。それで全部が楽になるのかと言われればそんなことは無い。
「そうそう、落ち込んでるよりきちんと前を向いている君の方が『らしい』よ。
まぁ、更に言うなら笑顔よりも不愛想な顔で、憎まれ口を叩いていた方がなおさら『らしい』けどね」
口元に手を当てながらくつくつと笑うマクラウド。毒気を抜かれてしまった俺はため息をついて木に背を預けた。
「ありがとう、いつもながら気を使わせてばかりな気がする」
「とんでもない。
セイ君も元気になったことだし、私はこの辺でお暇させてもらうよ。
君はもう少しゆっくりしていくといい、なにせ今日はいい天気だ」
そう言って背を向けると、そのまま立ち去るマクラウド。
「あぁ、そうさせてもらう」
一人残された俺は澄み渡った空を見上げてゆっくりと息を吐いた。
「まったく、何者なんだろうな、あの人」
優しい風が頬を撫でる。
誰もがこうやって穏やかな時間を送ることが出来たなら争うこともないのにな。などと独り考えて苦笑した。
中にはこうやって風に身を任せるだけに苦痛を感じる人もいるのだ。
俺が平穏を捨てて魔術師になったように、この世界ではどんなことにも気に食わない人間が必ずいる。
「────EndllessWAR(争いは終わらない)」
誰もが望むのは自分の都合のいい世界だ。自分が求めるものが有る世界だ。
別にそれを否定するつもりも、どうにかできるとも思っていない。
ただ、自分なりに自分の周りが、多少なりとも自分の理想に近づけばいいなと、木陰の中で微睡ながら考えていた




