Phase1-11『蹴破られた静寂』
Phase 1-11 22/7/18 投稿
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another prespective by killalice…
遡ること十数分前、セイが部屋を出た後。
「…………」
キリアリスは部屋で一人ベッドに寝そべりながら天井を見上げていた。
「さて、どのタイミングで呼ばれるやら」
はぁ、と一人ため息をつきながらキリアリスは目をゆっくりと閉じて自分の状態を確認する。魔力は九割程度、おそらくこの後の戦闘程度であれば問題ないだろう、そう結論付け瞼を上げた。
「全く、面倒だ」
ひとり呟いて、笑ってしまった。手を貸すと言い出したのは自分だというのに面倒だとはまた自分勝手な話だ。
やれやれ、と再び深いため息をついた時だった。キリアリスは微量な魔力を感じ取る。
「────いまのは」
セイのものではない。
方向からして、食堂にいるショートエッジの一人だろう。こちらを探るような感覚、このタイミングで感知系の魔術を行使するということは……。
「俺の状態でも確認したかったか」
キリアリスはやれやれ、とため息をつきながら体を起こし、そのまま肩を少し回して部屋を出た。
「今、感知の魔術を感じたんだが、何かあったのか」
キリアリスが食堂に入るなり尋ねるとショートエッジメンバーは一瞬身体をこわばらせた。
「あぁ、えっと、セイが少し休憩をって気を使ってくれたから待機所に入ってきたんだが近隣に敵がいたらいけないと思って、念のためにな」
不意を突いて出てきたというのに落ち着いて言葉を掛けられる、優れた副官にキリアリスは感心した。
「あぁ、なるほど。それなら確かに辻褄が合うな。
となると外のはセイか。さて……」
どうするか、と数秒考えたのち、キリアリスは先ほどのセイの言葉を思い出していた。
「なんでそういうことをすぐに言わないんですか───」確かに、その通りである。
異変に気付いたのであればきちんと知らせるべきだし、知らせられない状況なら自分が正しいと思った行動をするべきだ。
そう結論付けて入口の方へ何事もなかったかのように歩いていくキリアリス。
異変に気付いた様子もない為、ショートエッジのメンバーもほっと安心したような表情をしている。
そんな彼らの表情をキリアリスは内心ほくそ笑みながらゆっくりとドアノブに手をかけ、
「それならなぜ、ダイアスレフの魔力がこの付近にないんだろう────なッ」
言うと同時にドアを蹴破って外に飛び出した。外ではセイが豆鉄砲を食らったような表情でこちらを見ている。
なんだ、そんな表情も出来るんじゃないか。キリアリスはくすりと笑みをこぼすとそのままセイの下へ走っていった。
「やれやれ、ここからどうしたものかな」
キリアリスがセイの隣に到着するなり、ざりざりと地面慣らしながら肩をすくめる。
「えっと、みなさん、何を……」
「セイ、ダイアスレフがいない」
キリアリスが小声で「あいつらが感知魔術を使った、動きがあるかもしれんから先に動いた」と、早口で伝えると、セイは一瞬戸惑った後、「助かりました」と、小声で返した。
「居ないって、また、なんでですかキリアリス隊長」
普段呼ばれていない呼び方に背筋がぞわりと毛羽立つ。非常に気色悪い。
「あー、えーっと、このタイミングならユグドラシルに何かしているんじゃないか」
とっさに話を合わせてみるものの、セイは俯きながら不服そうにじろりと睨みつけてくる。
「大樹に……ですか」
「あ、あぁ。そう、大樹に」
セイに『大樹』と言われてキリアリスはしまった。と、目を泳がせる。これは後から小言を言われるパターンだろうなぁ、と小さくため息をついた。
「いったい、何をしようっていうんですか」
セイは軽く唇を噛みながら悔しそうにショートエッジを睨みつける。その表情はキリアリスの目から見ても真剣で、とてもではないが騙している側とは思えないものだった。
しかし相手もさる者、キースは冷静に状況を見ながら両手を上げて落ち着くようなだめようとする。
「まてまて、何か勘違いをしているぞ。
隊長が居ないのは少し村の方へ戻っているだけだから……」
「時間稼ぎはいい、もう構えろ」
説明をぶった切ってキリアリスが冷たく言い放つ。その鋭い視線を受け、ショートエッジのメンバーはやむなく各自武器を構える。
応じるようにセイも武器を構えた。
「なんで……。
キリアリス隊長、アクセサリーを使います、確実に止めるならこれが……」
隊長と呼ばれキリアリスは眉を顰めるが、すぐに首を振って気を取り直すと、セイを手で制した。
「まて、いい。ほかの部隊を呼ぶまでもないだろ、今から準備して向かってきたところで後の祭りだ。
それに、他を呼んだら、それこそ取り返しがつかなくなるだろうが」
セイがはっと気づいたような顔をしたが……これも真剣さを出すための演技なのだろうな、と、キリアリスは感心しつつも呆れてため息をついた。
「それは、つまり……」
「セイッ」
キリアリスとセイの会話にしびれを切らせてクックフェトが声を上げる。
「あなたは大樹に向かいなさいッ」
まるで木々を揺らすような怒声に全員が一瞬固まってしまう。
「なに、を」
さすがにこの提案は予想外だったのか、セイが言葉に詰まっている。
「あなただけは通す、だから隊長と話してその真意を聞きなさいッ
セイには、その資格があるはずだッ」
その言葉にキースとレイアが一瞬困惑したものの、すぐに頷いて同意を示した。
「行け、セイッ」
「────ッ」
追い打ちをかけるキースの言葉に、セイが不安な表情でキリアリスの方を見た。
セイもさすがに五人相手は分が悪いと思っているのだろう、キリアリスは呆れたようにため息をついて自分の表情がほかの人間に見えないよう空を見上げる。
キリアリスは『確かに、去年までなら五人と言わずセイ相手でも勝てるか怪しかったなぁ』と、考えながら眉を顰めた。
「行け、こいつらは俺が相手する。
すぐに追いついてやるから話とやらを聞いてこい」
ぐっと顎を引いてセイを見据える。一瞬の静寂、セイは一度頷くと剣を納めそのまま真っすぐ大樹方面の闇に消えていった。
その後ろ姿を完全に見送ってからキースがキリアリスに向き直る。キリアリスはというとセイの方へ目もくれずに五人をずっとにやけ顔で見ていた。
「構えろ
『グングニルのオーディン』
ゼイミ=キリアリス。
そのくらいの時間はくれてやる」
武器の無い相手には切りかかってはならない、みたいな制約でも背負っているのだろうか。キリアリスは嘲笑する。
「あぁ、優しいな、お前たちは────」
実におかしい。彼らにとって自分は格上の存在ではなかったのか。有無を言わさず切りかかっていればもう少し……簡単に殺せたのに。と、キリアリスはこみあげてくる様々な感情を沈めながらポケットに入れていた左手をゆっくり天に掲げた。
「The knighet of a round…」
突如キリアリスの目の前に現れる蒼い剣と黒い槍。背中には弓も浮かんでいる。
「まさか、それは……」
驚愕するショートエッジのメンバーを楽し気に見下しながらキリアリスは口元を釣り上げ、くつくつと笑うと、ゆっくりと両腕を広げた。
「さぁ、はじめよう。
短剣と円卓の剣の戦いを」
闇に舞う剣と槍。
終わりへの前奏が、今始まった。




