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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
18/72

Phase1-10『秋闇の中を駆ける』

Phase 1-10 22/7/11 投稿

――――――――――†――――――――――


 あれから早くも一週間。準備と打ち合わせをしているうちにあっという間に警備当日になってしまった。

 キリアリスと二人、初秋に似合わない冷たい風を受けながら参道を歩いていく。少し大荷物になってしまった装備袋が肩に食い込んで若干痛い。

 その間俺は考えついたあらゆる手段をずっと反芻し続けていた。

 そんな俺を見かねてか、キリアリスが不意に俺の肩を叩いた。

「セイ、少し緊張しすぎじゃないか。

 リラックスしろ、というのは少々無理があるかもしれないが、少しは肩の力を抜かないとイメージ通りに身体が動かないぞ」

「ありがとう、ございます」

 驚きで余計に固まってしまったのか、自分の口から出た言葉は想像以上にぎこちなかった。

 キリアリスの言うとおりだ。本来であれば実行が何ヶ月先になったのかわからないほどの好機。これだけ準備をして臨める機会などもう二度とこないだろう。ここで実力を発揮できなければ本末転倒だ。

「ま、あいつらもいきなり行動には移らないだろうし、それまでにしっかり呼吸を整えておくことだ」

 対するキリアリスはピクニックにでも行くかのような気軽さだ。どれだけ場数を踏めばこれだけ落ち着けるのだろうか。

「お、見えてきたぞ」

「────」

 この国、アルキリオで最も大樹『ユグドラシル』に近づけるとされている場所、そこへ至る道の唯一の関所、警備部隊の待機所だ。

 簡単に調べたがここ以外の道は無く、すべて結界に守られている。

 そのうえ最も近い、と言いながらもここから何百メートルあるのか、目測で測りきれないほど遠いうえ、ここ以降は見える所だけでもほとんど獣道。どのくらい時間がかかるのか分かったものではない。

「ダイアスレフ、今日はよろしく頼む」

 そう言って右手を出し、握手を促すキリアリス。

「こちらこそ、長時間の警備だが気を緩めずにいこう」

 対するダイアスレフはにこやかに応えながらも決して手を出そうとはしない。

 俺はと言えばとっさにキリアリスの後ろに隠れて必死で呼吸を整えていた。

「お久しぶりです、おおよそ二週間ぶり、でしょうか」

 ゆっくりと顔を出しながらダイアスレフに声をかける。心臓は相手に聞こえてしまうのではないかと思うほどうるさかったが、なんとか普段通り喋れたので心の底から安心した。

「久しぶりだな、セイ。元気そうで何よりだ。

 訓練は欠かさずやっているか」

「はい、もちろんです」

 少し大きめの声で返事をする。と、キリアリスが「ようやく本調子か」とでも言いたげな呆れ顔でこちらを見ていた。

 その顔が気に食わなかったのか、ダイアスレフの右眉がぴくりと一瞬だけ動く。

「ショートエッジは六名全員で警備に当たります。ラウンドナイツのほかのメンバーは……」

 訊かれ、思わず『うっ……』と唸ってしまう。聞かれて当然だとは思っていたが、応えるのはとても心苦しい。

「ラウンドナイツは……その、別の活動で昨日出払いまして……警備に当たるのは俺とキリアリス隊長だけです」

 すみません、と、頭を下げ誠心誠意謝る。

 顔を上げるとダイアスレフが何故かキリアリスを睨んでいたため、少したじろいだ。

「そ、その分俺が警備に当たりますのでそこはご安心いただければっ」

 どうにかならないものかと慌てて弁明すると、ダイアスレフは俺に視線を移してふっと笑って見せた。どれだけキリアリスが嫌いなんだろうかこの人は。

「大丈夫だよ、セイ。

 うちのメンバーは全員居るから余裕がある。ある程度多めに警備に当たれるようにしよう」

 いつもの優しいく気遣いにあふれた物言いにほっと胸を撫でおろす。

「ありがとうございます。

 それで、ほかのメンバーの方はどちらでしょうか」

 あたりを見回してみるがどこにも他メンバーの姿……どころか前任部隊も居ない。

「あぁ、もう一時間も前に来て待機所の方で控えているよ。交代の手続きも済ませたから前任部隊には帰ってもらった」

 それを聞いて、背筋が凍った。行動が早い人だとは思っていたが、これほどとは。もしかしたらユグドラシルへ向かう準備ももうほとんど済んでいるのかもしれない。

「さすが……抜け目がないですね。頼りになります」

 一刻の猶予もない。俺も早めに荷ほどきをして準備を済ませなければ。そう考えていると、そんな俺の心境など知ったことかと言わんばかりにキリアリスが欠伸をしながら前に出た。

「悪いんだけどもう中に入らせてもらう。

 セイ、俺は奥で休んでるからなんかあったら呼べ」

 言うなりキリアリスは俺の肩をぽんと叩いてそのままひらひらと手を振りながら待機所の方へ歩いていった。

「了解」

 内心いらっとしたが辛うじて敬礼しそれを見送る。

「どうやら、だいぶ苦労をしているようだね」

「あぁ、いえ、とんでもない。今回の警備に関しては俺が無理を言って参加させてもらったんです。

 感謝こそすれ苦労をしているなんて思っていないですよ」

 むしろ苦労をしているのはキリアリスの方なのだが、と喉元まで出ていたがぐっと堪えた。

「そうか、セイがそう言うのなら言及は控えておこう」

「心遣い、痛み入ります」

 俺が軽く頭を下げながら言うと、ダイアスレフは少し寂しそうな目でこちらをじっと見つめた。

 キリアリスのフォローをしようか、とも少し悩んだが、庇ったことで俺にまで嫌なイメージを持たれても困るので黙っておくことにする。

「セイ、とりあえず待機所へ戻ろう、君が来たことを知ればきっとみんなも喜んでくれるだろう」

「はいっ」

 言って踵を返すダイアスレフの後ろについて歩く。

 ……ここまで来たらいつ状況が動くのかわからない。ショートエッジの動向から目を離さないようにしなくては。俺はぐっと右手を握りながら皆の待つ待機所へ向かった。


――――――――――†――――――――――


 夕食が済んだのち、待機所で自分たちにあてがわれた部屋のベッドにゆっくりと腰かける。

「はぁ、よく食った」

 隣のベッドではキリアリスが満足そうに寝そべっていた。

「で、計画の準備できたか、セイ」

 こちらに一瞥もくれずキリアリスが俺に尋ねる。

「それは大丈夫です。

 ……それより、こんな話いきなりしてショートエッジのメンバーに盗み聞きされる心配とかしないんですか」

 俺が言うとはて、と首を傾げるキリアリス。

「えーっと、詳細は省くがあいつらが食堂にいるのは間違いない。

 魔力の発露も全くないから聞き耳を立てられてていることは無い」

 安心しろ、と言うキリアリス。

 何かの魔術だろうか、だが探知を使った様子もないし……詳細は省くとあえて言うあたり俺に教えたくないのか。

 ……まぁ、俺も信用されるほど情報開示をしているわけではないから何か言えた義理は無いのだが。

「それなら念のため作戦の確認をいいですか」

 俺が尋ねるとキリアリスが寝そべったままこくりと頷いた。

「まず、彼らがどう動くのかわからないので、俺が少し多めに表の警備に出ます。

 そこで何か異常があったり、彼らに動きがあった場合、行動を開始します。

 彼らの目的は大樹ユグドラシル……表では大樹と呼んでください。正式名称はあまり知られていないはずなので」

「はいはい、大樹ね」

 気のない返事に少し心配になるがさすがに大丈夫だろう、そもそもユグドラシルなんて長ったらしい名前を呼ぶ方が面倒くさいはずだ。

「彼らの目的は大樹の破壊と、この世界の結界を除去することです。

 そもそも結界の除去は個人……ショートエッジのメンバー全員が同時に取り掛かっても無理でしょうから心配していないですが、俺の目的の一つとして大樹への接触と調査があります。

 これは国の権力者でも不可能だ。

 例えば、『大樹を破壊しようとした人間を止めに入った』という理由でもなければ」

 そう、俺が期を見計らっていたのはこのためだ。ラウンドナイツや賢士の権力を持ってさえ入れない禁域。秘密裏に入って発覚した日には処刑も有りうる、と聞いて諦めていたが図書室でダイアスレフが何をしようとしているかを推測して、そして剣を購入したあの店での独白を聞いてそれは予測から確信に変わった。

 これは千載一遇のチャンスだ。おあつらえ向きに俺たちは彼らの行動に余裕をもって止められる立場にある。

 彼らを行動不能にするなりすれば目撃者を気にすることなく調査もできるというもの。

いや、実際行動不能に出来るかはキリアリス任せなところがあるのだが。

 それにもちろん、俺がユグドラシルに接触しても何もわからないかもしれない。だが、『現状では何も理解できない』ということとがわかれば一旦行動の選択肢から完全に除外できる。それだけでも十分大きい。

「へぇ、あいつらもお前も目的はユグドラシルなのか。

 さすがにアレの近くには俺も行ったことないな。確かに言われてみれば興味が湧く」

 へぇ、なるほど。と、感心したように何度か頷く。

「大樹です、キリアリス」

「悪い悪い、大樹な」

 先ほど注意したばかりの呼び名を指摘するものの平謝りで返され途方に暮れる。ショートエッジの前で誤って呼ばなければいいのだが。この調子だとだいぶ不安だ。

「ところでセイ」

「なんでしょうか、改まって」

 頭を抱えているところでキリアリスが仕切りなおしてくる。何か作戦の穴でも見つけてくれたのだろうか。

「ダイアスレフ、もうこの待機所にいないけどそれはいいのか」

「…………は」

 あまりに唐突な、しかも重要事項のカミングアウトに思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

「いつから」

「食事終わってすぐかな、もう三十分近く前だな」

 言われて思わず肩をがくりと落とす。

「なんでそういうことをすぐに言わないんですか」

「え、いや、ほら、なんかタイミングとかお前が言うって一点張りだったじゃん。

 余計な事言うべきじゃないのかって思ってたんだが、悪かったか」

 事の重大さを理解してきたのか、バツが悪そうにあはは、と頭を掻くキリアリス。

何故この人はこう……いや、逆に考えるんだ。もともとキリアリスが相手の状況を把握できることはあてにしていなかった、なら。

 首を振って頭を切り替える。

 むしろダイアスレフが出てたった三十分程度で行動に移せるのだ。これはチャンスだろう。

「では、俺は他メンバーを軽く揺さぶってきます。

 ダイアスレフの不在を聞き出したら何か音で合図を……」

「いや、わかった時点で何でもいいから魔術を使え、それで俺にはわかる」

「──了解」

 一瞬大丈夫か訝しんだが、今はキリアリスを疑っている場合じゃない。出来る言うのなら今度はあてにさせてもらおう。

「では、行きます」

「おう、行ってらっしゃい。気を付けてな」

 キリアリスに見送られながら部屋を後にする。もしかしたらこれから戦いになるかもしれない。俺は、騒ぐ胸を押さえ一度深呼吸をすると、そのまま食堂へ向かった。


――――――――――†――――――――――


「おや、みなさんこちらにいらっしゃったんですね」

 食堂に来るなりわざとらしくならないよう声をかける。

 食堂にいたのは三人。近い順にフィッキー、スワリア、クックフェトがテーブルに腰かけている。ということは消去法で外にレイアとキースがいることになる。

「おっ、セイ。どうした、寝れなかったか」

 一番近い位置に居たフィッキーが普段通りの笑顔でこちらをからかってくる。そのいつも通りの対応は本当に何事もないのではないか、と一瞬不安になってしまうほどだ。

 その少し奥でスワリアとクックフェトは特に何事もないよう二人で話をしている。

「外の警備は今どなたですか」

「あぁ、外は予定通りキース副隊長とレイアが警備に当たっているよ」

 ほぼ予想通りの回答。表情に出さないようにしながらどう話すかを思案する。

「次が俺とキリアリス隊長で、そのあとがフィッキーとフレアさんでよろしかったでしょうか」

 まずは状況整理ため順番の確認。その後がクックフェトとダイアスレフ……の予定になっているはずだ。見事に俺たちとダイアスレフが嚙み合わないような組み合わせになっている。一時間ごとの交代にしているが……さて。

「おう、合ってるぞ。さすがそう言うところはまじめだな。

 そういうとこ、隊長も褒めてたけどお前のいいところだと思うぜ」

 その笑顔に中てられて胸が痛くなる。その真面目さはショートエッジのメンバーに気に入られる為に演じていたもの。普段の俺はもっと打算的で面倒くさがりなんだ。

「ありがとうございます、フィッキー。

 それじゃあなおさら真面目に頑張らないといけないですね」

 そう言って食堂の角に歩いていく。そのまま二人分のお湯を沸かしてココアを淹れる準備をする。

「ん、何してんだ」

 一人黙々と準備を進める俺にフィッキーが近付いてきて不思議そうに首を傾げた。

「少し早めに交代しようと思いまして。

 皆さんには余分に外で警備に当たっていただくわけですから、少しでもその負担を減らせるようココアでも淹れようかと」

「なるほど、ホント気が利くねぇ……」

 怪しいことをしているわけではないと確認して安心したのか、フィッキーはそのまま元座っていた位置に戻っていった。

「ところでダイアスレフ隊長は今自室ですか」

 振り向かずに言葉だけで尋ねる。

「あぁ、部屋で寝ているんじゃないか。

 交代まで二時間くらいあるし、万全の状態で当たるつもりなんだろ」

「そうですか、少しお話をしたかったのですが、残念ですね」

 ココアを淹れ終わって振り返る。

 皆の表情を一通り眺めてみたが特に動揺している雰囲気は無い。さすがに悟られるような愚を犯す人たちではない、か。

「では、表の二人に声を掛けてきます」

「おう、行ってらっしゃい」

 特に引き留められることもなく、すんなりと表へ出ることが出来た。

 冷たい風が頬を撫でる。外には聞いていた通りキースとレイアが警備に当たっていた。

「こんばんは、少し早いですが交代をと思いまして。

 二人分ココアを淹れてますから中で温まってきて下さい」

 近寄りながら二人に声を掛ける。

「いや、本当にはやいな、交代時間までまだ一時間以上あるんじゃないか」

 やれやれと肩をすくめるキース。だが話しかけている俺の方に目もくれず、その視線は待機所の方へ向いていた。

「どうしました」

 さすがにこの状況だとキリアリスを警戒してしまうのだろう、キースは一瞬だけ目を見開くと、「あぁ、いや、別に」と、言いながらすぐにこちらに向き直った。

「キース、せっかくだから十分ほど休ませてもらいましょう」

後ろに控えていたレイアが前に出ながら言った。

「そうだな。

セイ、何かあったらすぐに声を上げるなりこれを使うなりしてくれ」

 そう言うとキースは何かを投げてよこしてきた。暗く視界が悪い中辛うじてそれを受け取る。

「おっ……と。了解です。

 魔力を流したら近隣の部隊に通知が行くアクセサリーでしたっけ」

 性能を確認しながら受け取ったアクセサリーを手首に付ける。確か警備に当たった部隊に貸し出されているもの。

「そうだ、近隣って言っても結構いい範囲に届くから俺らはもちろん直近の村や町くらいには届くんじゃないか。

 んじゃ、少し頼んだぞ」

「了解」

 返事をすると二人はすんなりと中に引き上げていった。

 ……俺は警戒する必要がないとでもいうのか、中にいるキリアリスが気になるのか、それともその両方か。

 どちらにしろ行動を起こすなら今一人の状況で起こすべきだろう。適当に封石をユグドラシル方面へ投げるなりして騒ぎを起こしてダイアスレフが出てこざるを得ない状況に陥らせればそれでいい。

 あとはダイアスレフが居ない理由を問えばいい。

「さて」

 行動する方向が決まればあとは実行するだけだ。俺は封石を魔力遮断用の袋から一つ取り出して、

 ────ドアを蹴り破る音で凍り付いた。

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