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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
17/72

Phase1-9『剣を執る少年』

Phase 1-9 22/7/4 投稿

――――――――――†――――――――――


「なるほど、現実とは小説より奇なり、か」

 キリアリスから二週間後のユグドラシルの警護の日程を聞かされ、あまりの偶然に頭を抱えながら深くため息をついた。

 確かに、本来の目的の為に次はは『第三遠征部隊ショートエッジがいつユグドラシルの警護に当たるか』が必要だったが、まさか調べる間もなく自分の下へ情報が転がり込んでくるとは思ってもみなかった。

 最悪、一日おきにどの部隊が当たるか確認しようかとまで思っていた為、非常に助かった。

「何言ってんだ、セイ」

「あぁ、いえ、こっちの話です。お構いなく」

 括られた長い髪を揺らしながらバーンがはてな、と首を傾げる。実際説明の仕方がわからないのでどうしようもない。

「そう言えばセイ、だいぶ敬語上手くなったね。もうそのままにしてたら、話し方」

 俺の返事を聞いたシールがぽんと手を鳴らしながら言った。

「あぁ、もう少しだけこのままでいます。

 とりあえずユグドラシルの警護が終わるまではこのままで」

 当日ボロが出てもいけないので。と思ったが口にはあえて出さなかった。

「なぁんだ、期限付きかぁ。せっかく大人びたしゃべり方で素敵なのに」

 ちぇ、と、唇を尖らせるシール。するとブレイドが眉を顰めながら食いついてきた。

「しゃべり方だけで大人びて見えるんなら苦労しないぜ。

 もっと男ならこう、力強く大剣担ぐとかさ」

 そう言って肩に担ぐジェスチャーをして見せるブレイド。

「あのなブレイド、普通の大剣ならいざ知らずお前の持つような巨大な剣は実戦でふつう取り回しがきかないからな。

 あとお前は身長伸ばさないとどちらにしろ様にならないぞ」

「身長は気にしてるんだから言わないでくれよォッ」

 はっはっは、と笑いながら言うバーンにブレイドが悔しそうな顔で食らいつく。いつ見てもこの二人は仲がいい。

「あー、報告も終わったし、稼働時間が終わりそうだから俺は部屋に戻って……いいか」

 わいわいと統率無く騒ぐメンバーに呆れながらキリアリスが言う。これが本当に騎士団頂点の第一親衛隊なのか……俺は未だに信じられない。

「セイ、なんか失礼なこと考えてないか」

「いえ、そんなことは。

 ……それより、キリアリスは護衛に参加するのですか」

 図星を突かれ一瞬戸惑ったところを、とっさの質問で誤魔化した。キリアリスはそれになんとなく気付いたようで一瞬冷めた目でこちらを見たが、ふんと鼻を鳴らしただけで特に咎めようとせず、

「お前は参加するのか」

 と、質問を返してきた。

「はい、俺は参加します。もしかしたら、目的に一つ近付けるかもしれない」

 一瞬戸惑ったが真っすぐに答える。するとキリアリスは「ふぅん、そうか」と、わざとらしく思案するふりをして、

「なるほど、じゃあ俺も行くか」

 そう、あっさりと参加を表明した。

「じゃあって……」

 呆れる俺に「それじゃ、おやすみ」と告げてそのまま部屋へ帰っていくキリアリス。

 まだ午後六時だが……本当に寝る気なのだろうか。いや、実際夜に会ったことがないから本気で寝ているかもしれない。

「とりあえず、二週間後の護衛の件なのですが、三人はどうします。参加するんですか」

 俺が尋ねると会話をやめてはた、とこちらを見た後三人で顔を見合わせた。

「えっと、俺は個人的に行きたくねぇなぁ、この時期、虫が多そうだし」

 先ほどの男前発言はどこに行ったのか、目を逸らすブレイド。

「えっ、虫が出るなら私もヤダなぁ……やっぱ参加しなきゃダメなのかな」

 見た目通り虫が苦手なのだろう、シールは苦い顔をしている。

「俺はパス、めんどくさいからな」

 はっきりきっぱりと断るバーン。これはこれで潔い。とはいえ一応騎士としてそれはどうなのだろう。

「なるほど」

 ともあれ、警備任務に就く人間はキリアリスと二人だけということ。ショートエッジの面々と事を構える可能性がある以上少々戦力に心許ないが、本来俺にとってはキリアリスだけでも過ぎた戦力だ。彼が参加してくれるだけでも良しとしよう。

「何か言いたげだな、セイ」

 考え事をしていた俺に思うところがあったのか、バーンがじろりとねめつけながら言う。

「あぁ、割とあっさり断るのだなと思いまして。

 大樹の警備と言えば名誉な任務でしょうし」

 俺が尋ねると三人はまたも三様に顔を見合わせる。

「セイ、残念ながらこの部隊には名誉とか名声目的で戦ってる奴は居ないんだよ。

 昔はそういう奴も居たらしいんだけど、今じゃそんな大層な志を持つ余裕を持ってるやつが一人もいないんだ」

 悪いな。と、バーンが寂しそうに目を伏せながら言った。こんな現状を彼なりに何か思うところがあるのだろうか。

「もう少し人が増えればそういう考えをもつ人も出てくるんだろうけど……クロード賢士が口を酸っぱくして『部隊を拡充しろ』って色々部隊の斡旋をてくれているのに、隊長がなかなか頷かなくて」

 はぁ、と、憂鬱そうにため息をつくシール。彼女が言いたいことも良くわかる。本来これだけの人員で部隊を動かせという方が無理なのだ。

 それもこれも隊長であるキリアリスが一人で無理をして面倒ごとをほとんど一人で片づけてしまうからややこしい。そのおかげで決定権が彼から動くことはなく、人員もひっ迫こそしているものの絶対的に足りていない、という状況までには陥っていない。

 さらに言うならその面倒ごとというのがクロード賢士の勅命なせいで誰も彼に文句を言うことが出来ず、関与も容易ではない。

 先日ダイアスレフが漏らしていた不満や不信感もそういった事実から来ている。

 そういう意味ではこの国も十分歪んでいるのだろう。

「─────」

 首を振って変な考えを振り払う。この国の事について俺が何か言える義理も筋合いもない。どうやら、一か月の間にだいぶショートエッジの影響を受けてしまっていたようだ。

「どうしたんだ、セイ。顔色が悪いぞ」

「あぁ、ありがとうブレイド。

 ちょっと疲れているみたいだ、少し休むよ」

「そっか。

 お前よわっちぃんだから、無理するなよ」

 弱い、と言われて少しむっと、心が揺らいだ。

 おかしい、言われ慣れているはずの言葉のはずなのに。

『お前は、いつか俺に勝つよ。必ず』

 唐突に、親友の言葉が脳裏を掠める。今まで信じてこなかったはずの言葉を、俺は少しだけ、真に受けてしまっているとでものだろうか。

 部屋に立ててあるあの剣に、相応しくなれると。

「本当に、大丈夫か」

「あぁ、うん。悪い、……もう、部屋に戻る」

 乱れた心を深呼吸で押さえつける。心配そうにこちらを見る三人をしり目に、俺は部屋に戻った。


――――――――――†――――――――――


 警備任務も一週間後に控えたある日、俺は剣を買ってもらったこの商店街へ、道具を色々そろえるべく再度立ち寄っていた。

 なぜここなのかというと、キースにあれこれと説明を聞きながら回ったためある程度購入したいものが売っている場所がわかっているから、である。

 必要なものはきちんと羊皮紙にまとめてある。ちなみに割と高級なこれはショートエッジから帰る際に別で貰ったものだ。本当に、何から何まで手厚い部隊である。

「本当に、どうしようもない人たちだ」

 ……ショートエッジから戻ってきて様々なことを考えた。自分の力量、ショートエッジの戦力、ダイアスレフとキリアリスの力量差。

 俺はキリアリスの魔術……あれが魔術と言えるのだろうか……について数回見ただけでわずかしか情報を持っていない。

 前回俺が見たときは剣を二本操って戦っていた。

 あれが彼の武装だとすれば少々心許ない。

相手は六人、俺が一人相手できたとしても五人、物量差で押されれば二本でどうにかできるものではない。もし操れる本数を増やせるとしても操る本人が五人全員を把握できるかと言えばそんなことは無いだろう。

 特にショートエッジは連携の練度も非常に高いことを俺は知っている。もはや不安要素しかないのだが……それでも先日キリアリスに相談した際に彼は『問題ないだろ、なんなら全員相手をしてやるからお前はお前の目的の為に動くといい』と、断言した。

 この国に来て出会いがしらの戦いで殺されかけたキリアリスをどこまで信じていいものか。

「それでも、あてにするしかないのだけれど」

 実際、俺一人では一番弱いであろうレイアですら相手にならない。

 ……ただし、アドバンテージはある。俺は一人一人に対して専用の戦い方と装備を準備していくが、相手はわざわざ俺の為に何か対策をしてくることは無い。

 勝機があるとすれば、そこだけだ。

『君に正道は似合わない』

 俺を制止するために言ったのであろう、マクラウドの言葉が脳裏によぎる。

 ────わかっている、俺は弱い。俺も簡単に勝てるとは思っていない。彼もそう思って身の程を知って行動しろと言ってくれたのだ。

 それに、万が一彼らに勝ったとして俺の目的とは何の関係もない、余分なことだ。

「それでも」

 腰に吊ったアルタキエラの柄を指先でなぞる。自分用に誂えられたそれは今にも手に吸い付いてくるのではと感じるほど、繊細な調整が為されいてる。

 おそらく、今まで生きてきた人生の中で、俺は一番……強い。

 ここからあと一週間、対策用の調整をすればもしかしたら、一矢報いることが出来るかもしれない。

 弱い自分にも何かできるのかもしれない。

 もしかしたら、勝てる、かもしれない。

 そう、烏滸がましくも思って、試してみたくなってしまった。

 ため息をつきながら、黄昏時の空を見上げる。もう、じきに夜が来る。

 次の明けは遠く、街灯りは消えゆく一方、この胸には静かに決心が灯っている。

「悪いな、マクラウド」

 装備を揃え終えた俺は独り、帰路につきながら呟いた。

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