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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
16/72

Phase1-8『少年のココロを掴むモノ』

Phase 1-8 22/6/27 投稿

――――――――――†――――――――――



 アルキリオ中央区、郊外……のさらに奥。

 林になっているその区画は人の手が入っておらず誰も近づかない。ここは俺が一人でいろいろと考え事をするときに使う俺の『いつもの場所』である。

「おや、こんな時間に来るなんて。

 もう日も暮れてしまうよ、セイくん」

 そこにいたのはこの国で知り合った人間の中で最も胡散臭い人間、ブロフ=マクラウドだ。

「一人になるために来たのに貴方がいるなんて……災難だよ」

 やれやれと肩をすくめると、蹴られた胸が少し疼いた。

「おや、少し話し方が丁寧になったね。

 隊員交換の影響かな」

 ふふ、と何故か嬉しそうに言うマクラウド。その手にはいつも通りノートが一冊。

「ええ、さすがに他所の部隊に行くのに喋り方が雑だといけませんから。

 入隊初日こそ付け焼刃でしたがだいぶマシになったと思います」

 いつもの樹に腰かける。何故かはわからないがやはりここは落ち着く。この辺りの樹には何かそういう魔術でも掛かっているんだろうか。

 ともあれショートエッジに戻ったらまたしばらくここに来ることは無いだろうからしっかり休んでおこう。

「私としては前の雑なしゃべり方も嫌いではなかったけどね。

 なんというかこう、君らしかった、とでもいえばいいのかな。そういう意味では今の丁寧なしゃべり方はちょっと落ち着かないな」

 ふーむ、いいことなのに。なんでだろうねぇ。と、自分で言いながら不思議に首を傾げるマクラウド。

「どうやら語彙力が足りていないんじゃないんですか。

 ぶっきらぼうに言われるのが俺らしいって言うのでしたら猫を被る……じゃ通じないか。羊の皮を被っているように感じて落ち着かないんじゃないでしょうか」

 俺が言うとマクラウドは納得したようにポンと手を叩いた。

「なるほど、それならなんとなく合点がいくか。あぁ、あと今の猫を被るってのは君の国の言葉だね」

「あっ、えぇ。そうです」

 『君の国』と言われてどきりとした。

 そう、俺はアルキリオの人間ではない、そして彼は俺が国外から来たことを知っている数少ない人間だ。

 ちなみに、アルキリオの人間に国外来たことを教えない方がいいとアドバイスをくれたのもこの人である。

 なんでも、この国の人達は国外から色々と冷たい仕打ちを受けてきた為、外人が嫌いらしい。

「他のところではうっかり言ってしまわないように。じゃないといきなり殴られても文句は言えないよ」

 いいね、と優しく諭してくるマクラウド。

「気を付けます」

 忠告を素直に受け取る。この国のルールに俺はあまりにも無知すぎる。

「ところでその喋り方、私の前だけでも戻す気はないかい。

 どうにも落ち着かないんだが」

 そう言って居心地悪そうに視線を逸らすマクラウド。多分、自分でも変なことを言っている自覚があるのだろう。

 確かに、彼の前で肩肘を張る必要はない、か。

「いや、ありがとう。

 確かに丁寧な言葉を使っていると疲れるから、ここでは肩の力を抜かせてもらう」

 敬語をやめていつも通りの話し方に戻す。

「よかった、変なことを言ってしまってすまないね」

 言いながら大げさにほっとするマクラウド。

 もしかしたらずっと気を張っている俺へ、マクラウドなりの気遣いだったのかもしれない。

 今回は違うかもしれないが普段胡散臭いくせにこういう細やかな気遣いだけは上手いところがある。いや、気遣いが上手すぎるせいで胡散臭いのだろうか。

「なんだい、何か失礼なことを考えていないかい、セイくん」

「いや、別に。気のせいじゃないか」

 ふっと笑みを零しながらため息を一つ。

 気付けば、既に日が落ち始めていた。

「ゆっくりするつもりだったんだけど、もういい時間か……」

 夕焼けに朱く染まる空。そろそろ宿舎に戻りはじめなければさすがに心配されてしまう。

「それじゃあ、俺は帰るよマクラウド。

 ありがと、少し楽になった気がする」

 そう言って踵を返す。

「あぁ、待ってくれ」

 綺麗に話が終わったなと思っていたのに後ろからマクラウドが呼び止める。

「最後に一つだけ、いいだろうか」

 振り返ると、マクラウドは神妙な面持ちでこちらを見ていた。

「別に構わないけど、なに」

 俺が訊き返すとマクラウドは視線を一度落として、決心したようにもう一度こちらを見た。

「正道は気持ちがいいものだが、君には合わないと……私は思うよ」

「────」

 息が、止まるかと思った。いや、実際一瞬呼吸を忘れていたと思う。

 そのくらい、核心を突かれた言葉だった。

「ごめんね、今のは言うべきではなかった」

 申し訳なさそうに目を伏せるマクラウド。

 言うべきではなかった、というだけで、本心だったのだろう。あぁ、俺も、今言われて全く同じことを思ってしまった。

 訓練で汗を流して、体に力が少しだけど確実に付いてきて、技術も、ほんの少しだけ上達して、正道を歩めるような気がしていた。

 ダイアスレフに勧誘されて、いい気になってしまっていた。

「俺もそう思う。でも、少しだけ頑張ってみるよ」

 上手く、笑えているだろうかはわからないが、ふっと笑って見せた。

「そうか、ならば何も言うまい。

 ────ご武運を」

 マクラウドの言葉に送られて、いつもの場所を後にした。


――――――――――†――――――――――


「早いもんだな、もう明日か」

 キースがふぅ、とため息をつきながら呟く。

「本当ですね、一か月、あっという間でした」

 訓練漬けだった一か月に思いを馳せる。自分でもよくこれだけ長い間耐えたと思う。

 そんな俺を見てどう思ったのか、先日唐突にキースとダイアスレフから『部隊に帰ったときにも使えるものを贈るから買い物に付いてこい』と言われ、半ば無理やり連れられて今に至る。

 自分への贈り物を自分で選ぶ……なんとも難易度が高い。普通こういう贈り物は渡す側が選んだ方がいいのではないだろうか。

 大所帯になるのを避けたのか一緒に来ているのは俺を含め三人だけで残りのメンバーは宿舎の方で留守番をしている。

「おう、これなんかどうだセイ。

 ボーンメイルだってよ、薄手で……何々、乾かした軽量の骨で防御力抜群……斬撃にも強く、強い衝撃は折れることで和らげる……いいんじゃねぇか」

 キースが手に取って俺の胸に当てながらサイズもぴったりだとアピールしてくる。……確かに、これならば俺でも使えそうだ。

 しかし、ダイアスレフが横から見ながら、

「それだけ薄手なら俺は一撃で蹴り砕いてしまうが」

 と文字通り一蹴。

「隊長、そういうところ、そういうところ良くないぞ」

 雰囲気を読まないセリフをキースが叱咤する。

「む……そう、か。すまない」

 ダイアスレフが注意されるところなんて初めて見たかもしれない。本人も不服そうに眉をひそめている。それを見ながら俺も思わずあはは、と苦笑い。

 しかしそんな俺たちを他所にキースは引き続き物色を続けている。

「こっちの封石(ほうせき)とかはどうだ。

 お前魔術からっきしだったけどブーストにはなるだろうし」

「そうですね、使い捨てなのが玉に瑕ですが個人的には好みの部類です」

 差し出された石をまじまじと見つめる。

 封石とは魔力を封じ込めた使い捨ての石の事である。中に込められる魔力は石の種類によってまちまちで、魔力を使い切るとだいたい砕けてしまう。この石選びで注意するところはというと、本当に高い石は魔力がこもっていないということだ。

 今言った通り使用するとほとんどの場合割れてしまう為、中から魔力を抜き取るのは困難で、技術者の腕が必要。そしてカラの石はあたりの魔力を吸収する。

 それは人間相手でも例外ではなく、近くに置けばそれなりに魔力を吸収される。ので、魔力を遮断する布で覆ったりして保管されるのだが……。

「い、いいんじゃないか」

 目を泳がせながら言うダイアスレフに思わずはっとなる。どうやら宝石に夢中になってしまっていたようだ。

 キースはと言えばダイアスレフの挙動不審さに思わず吹き出して笑っている。

「はは、隊長いい感じ、そうそう」

 俺も俺でふふ、とつられて笑ってしまった。

「お前らが楽しいならそれでいいさ、もう」

「ふっ、ふふふ、隊長が落ち込んでら。珍しい」

 余程ツボに入ったのかキースはくっくっと笑いながら目元を抑えている。

「お前のせいだ、まったく」

 やれやれ、と、肩をすくめながらダイアスレフがあきれ果てる。ちょっと悪いことをしてしまった気がする。

 だが、キースはそんなことお構いなしと言わんばかりに息つく間もなく品物を持ってくる。

「これもよさそうだな、持ってみろ」

「これは……グリップがやや大きいですね、もう少し小さいものにしましょう」

 渡されるものをできるだけ丁寧に受けとりながら吟味するのだが、視界の端で寂しそうにこちらを見ているダイアスレフが気になって仕方がない。

 そんな目で見なくても遠慮せずにこちらに来たらいいのに、と思っていると、

「────ッ」

 ぞっとするような視線で店の外を睨み始めた。

 何事かと思い慌てて外を見ると、そこには見知った顔がいかにも間の抜け……平和そうに歩いていた。

「キリアリスか、間が悪い……」

 キースに気付かれないようキリアリスの位置を確認しながらひとりごちる。

 このまま何事もなく通り過ぎてくれればいいが……そうは問屋が卸さない、とでも言うべきか。はた、とこちらを見たキリアリスと目が合ってしまった。

 慌てて目を逸らすが……手遅れだろう。気付かないふりをしてキースと話をしてみるが、数秒しないうちに後ろから声が掛かった。

「……セイ、買い物か」

 さも今気づきました、という体を装って振り返る。

「え、なんでこんなところに」

「いや、俺も買い物なんだけど、バーンの奴にお使い頼まれてさ」

 はぁ、とため息をつくキリアリスの後ろでは「今すぐ殺そう」と言わんばかりの表情でダイアスレフが睨んでおり……その手は、俺の勘違いでなければ剣に添えられている。

 状況をどうにかしようと色々考えを巡らせてみるがいい案が浮かばない。

「隊長、怖い顔は止しましょう」

 さすが副隊長と言うべきだろう、全体の状況を見てキースがダイアスレフの肩をぽんと叩きながら優しく言った。

「あ、ああ、すまないキース」

 はっと我に返ったように剣から手を離すダイアスレフ。

「あぁ、フレア、もいたのか。今回はありがとな」

 居たのか、と言われて一瞬眉を顰めたがダイアスレフはすぐに笑顔を作ってみせた。

「いえいえ、とんでもない。

 ラウンドナイツのお役に立てたのであれば何よりです」

 その言葉にどれくらいの重みがあるのか計り知れない……が、キリアリスは「そうか」とだけ言って俺に向き直った。

 せめてどういたしまして(You're welcome)くらい言えないのだろうか、この人は。

「じゃ、俺はお使い戻るから。

 また明日な、セイ」

「……はい」

 そう言って立ち去ろうとするキリアリス。

「待ってください、キリアリス」

 その足を止めるようにダイアスレフが呼び止める。いったい何を言うつもりなのだろうかと息をのむ。

「いえ、何でもありません。詮無いことでした」

 その言葉にどれだけの葛藤があったのだろうか。ダイアスレフは嘆息すると諦めたようにそう言った。

「ん、そうか、じゃあな」

 そんな葛藤に全く気付かない様子で立ち去っていくキリアリス。この神経の太さは俺も少し見習いと思う、多分無理だろうが。

 心配なのはダイアスレフの方だ。キリアリスの姿が人込みに消えていくまでじっと睨みつけていた。

 キースが何か声をかけるかと思い、目をやると、隊長の方を見ながら俺に顎で指示をした。どうやら俺から声をかけろということらしい。

 一瞬戸惑ったものの、このままにもしておけない為決心して息を整える。

「隊長、大丈夫ですか」

 俺が声をかけるとはっとダイアスレフははっと我に返った。

「大丈夫だ、次の店に行こう」

「はい」

 すぐさま気持ちを切り替えたのか、それとも抱えたままなのか。俺にはその表情から読み取ることは出来ないが……どちらにしろ並々ならぬ精神性の持ち主だ。

 これだけの力を持ちながらそれを誇示せず部下に気遣いすら見せる。それでもキリアリスの前では心が乱れるようだが……それだけ抱えている感情が大きいということなのだろう。

「お、ここはすげぇな」

 特に何も考えずにキースに付いて店に入ると、そこはまるでこの世のものとは思えないような景色が広がっていた。

「確かに、これはすごい」

 一瞬、別世界に迷い込んだのではないかという錯覚に襲われるほど、視界の端から端まで埋め尽くす剣、剣、剣。

 きらびやかな装飾の施されたものから乱雑に立てかけられた量産剣に至るまでその情報量たるや自分の頭では全く処理が追い付かない。

 ……追いつかないというのに、その煌びやかな剣たちを見ているとそれを振っている自分の姿が脳裏に浮かんで、胸が高鳴った。

「セイはどういう剣を使いたい」

 振り返りながらにこやかに言うダイアスレフ。その優しい表情に思わず現実に引き戻される。

「隊長……さ、さすがに剣は高いのでは……」

 そうだ、俺が二人についてきたのはただ餞別を選ばせてもらっているに過ぎない。

 鋳型で造られた剣でもそれなりの金額がするのだ、そんなものをさすがに……。

「気にしなくていいぞ、好きなのを選べ。

どうせ隊長がほとんど出してくれる」

 はっはっは、と、まるで自分の事のように楽しそうにしているキース。

「店ごと、なんて言われたらさすがに困るが、いいぞ、好きなのを選ぶと良い」

 その楽しそうな空気に流されているのか、ダイアスレフもいつもより表情が柔らかく見える。

「は、はぁ……」

 俺は、と言えばさすがに気が引けて仕方がないので、適当に安くて良さそうな剣を選んで買ってもらおう。と、心静かに決心した。

 ……のだが。

「すみません、どうしても価格に目が行ってしまって選べなく……」

 どの剣を見ても顔面が青くなるような金額だった。具体的に言うと一本買えば丸半年分の食費になる程。いいものになれば……ちょっと表現に困る程の金額になる。

 そのうえ、もうここで買わせる気なのか、出ようとすると「選べ」と、キースが店の中に戻してくる。

 そうやって顔面蒼白になりながら店の中を右往左往、もう何時間経ったのかわからなくなってきていた。

「セイ、軽めの剣で良かったな」

 唐突にダイアスレフが確認してくる。何か嫌な予感がする。

「えっ、あ、はい。片手で振れるものなら使いやすいかなと思って」

 本当は軽めの剣なら安く済むと思っただけなのだが、もしかして。

「よろしい。

 店長、適当に三本剣を見繕ってくれ。値札は外してな」

 ダイアスレフが言うと、呼ばれた店長は待ってましたと言わんばかりの笑顔でカウンターの剣を三本見繕って売り場の台に並べた。

 数秒のち、ダイアスレフの言葉の意味を理解し止めようとするが、無言のキースに手で制されてしまう。

 かたん、と、並べられた剣。鞘からわずかに出ている刃がまるで鏡のように光を反射して美しい。

 全く知識のない自分でもその刃を見るだけで自分の手に負えないものだということがわかる。わかってしまう。

「あっ、ずる、隊長俺のは」

「お前も入隊の時にブーツ買ってやっただろう」

「そうだけどなぁ、あんときさっくり選んだから……俺も粘ればよかったのか……ちくしょう」

 わざとらしく悔しがるキース。止めようとした俺を制してよく言う……とも思ったがこれはきっと彼なりの気遣いと、もう逃げられないぞというメッセージなのだろう。

「あの、さすがに」

「選べない、はこの期に及んでないよな、セイ。

 お前も騎士の端くれなら腹をくくって一番いいのを選べ」

 最後の確認。これはもう腹をくくるしかないようだ。

 俺は深呼吸をすると剣に向き直って一本ずつ吟味する。こうなったら一番高い剣を選んでやろう。

 そう思って順番に手に取りながら鞘からゆっくりと引き抜き、数回振る。

 ……全く、わからない。というかすべて見た目と反して驚くほど軽く、振りやすい。

 最後の剣をぱちん、と、鞘に納める。

「この、剣にします」

 そう言って選んだのは二番目に振った剣だ。ほとんど違いが判らなかったが、しいて言うなら自分の手についてきてくれる、そんな感じがした。

「ん、いいだろう」

 ダイアスレフは俺から剣を受け取るとなんの躊躇いもなく店長に渡した。

「請求はショートエッジの方でよろしかったですか」

「頼む」

 店長が訊くなり即答するダイアスレフ。金額は確認したのだろうか。

「では、握りの調節をしますのでもう一度握っていただいてよろしいでしょうか」

「あっ、はい」

 淡々と進む作業にひどく心が浮つく。何やら握ったときの指の長さを図っているようだがどういう調整がされるのか全く予想がつかない。

「──────」

 居たたまれず、ちら、とダイアスレフ達の方に目をやると、少し話したあとキースが店の外に出て行ってしまった。

「では数分時間をいただきますね」

「はっ、はい」

 よそ見をしているときに声を掛けられ思わずまごついてしまう。聞こえていたのか、ダイアスレフはこちらを見ながら、

「さてと、待っている間少し座って話でもしよう」

 そう言って顎で店の端にある椅子を示した。

「はい、ぜひ」

 示された椅子に歩いていく。今の剣を俺が帯剣しているところを想像して少し、楽しくなってしまった。

「今日は素敵なものをありがとうございました」

 椅子に腰かけるなりすぐに頭を下げる。

「なに、これからを担う騎士に贈り物ができたと思えば大したことないさ」

 いったいどう生きればあんな高価なものをこうやって笑顔で贈れるようになるのだろうか。俺には想像もできない。

 そんなことを考えているとダイアスレフは突然悲しそうに視線を落とした。

「本当に、お前みたいな騎士ばかりならばこの世界はもう少しマシになっていくんだろうけれどね」

 言葉の含むものを知らず汲み取ってしまう。おそらく、キリアリスのことだろう。実際どの程度嫌っているかは知らなかったが、今日のやり取りを見る限り仇であることを理解しているようだ。

「ダイアスレフ隊長は……その」

「あぁ、俺はキリアリスが嫌いだ。

 そして、キリアリスに頼って奴を擁護するこの国も嫌いだ」

擁護する、と言われてクロード賢士とキリアリスの関係を真っ先に思い出した。

「────……っ」

 思わず苦い顔をしてしまう。国の権力者と国を守護するとはいえ一介の剣士。確かにあの二人はどこからどう見ても癒着がどうとか言うレベルを超えてつながっている。

 加えてキリアリスは常時あのしゃべり方に態度だ。見れば見るほどいらだちは募るばかりだろう。

「親に、兄に、生まれに恵まれた。

 上司に、部下に、友人に恵まれた。

 だが俺は決定的に生まれる国を間違えたんだよ、セイ」

 ダイアスレフが神妙な表情で続ける。

「俺は騎士団に入って慕っていた先輩がいたんだ。アルバ=カリンといって、今の俺でも到底敵わないような剣士……いや、剣聖というべき人物だった。

 そんな彼が副隊長を務める第一親衛隊ラウンドナイツを、キリアリスはあろうことか壊滅させたんだ。

 その後もトラブルを起こして、今でこそ大人しいが……ひどいものだった」

 その話は俺も小耳にはさんだことがある。

 敵対する隣国を順番に滅ぼしてアルキリオを守ったキリアリス。しかし彼と所属する親衛隊ラウンドナイツはその後壊滅、一度再編されるも数名の死者を出し、今に至る。

 その壊滅した中に親しい友人が居たともなれば当然怒りの矛先はその部隊の責任者……となる。

「そのうえなんの縁か、あいつは俺の兄も殺している。

 それを聞いた瞬間、心が真っ黒になった気がしたよ、憎しみに支配されて間違いを起こしてしまうんじゃないかって思うほどに。

 なのに今日すれ違ったあいつは、最初俺に気づきすらしなかった。眼中にすら映していなかったんだ。

 ……そしてセイ、君はそんなあいつの下でこれからも戦うというのだろう。

 それが、悔しいんだ」

 そう、口惜し気に笑うダイアスレフ。

 それがいったいどれくらいの憎しみなのか、たった一か月の付き合いしかない俺にはわかっているというのも烏滸がましいが、その憎しみの矛先が何食わぬ顔で話しかけてくるともなればそのストレスは想像に難くない。

 その独白を受けて一瞬心を揺らがせてしまったのも事実だ、しかし。

「はい、俺はこれからラウンドナイツで戦います。

 それに、隊長が憎むのも……仕方ないと思います。

 誰だって、大切な人間を害されれば……殺されればその当然原因を憎みます。

 むしろ、何も感じないなんて人間が居たらそのほうが気持ち悪いですよ」

 そう言ってふっと笑って見せる。あぁ、最初はコネだけを作ってそれで終わり、と思っていたが、想像していた以上にいい関係が出来ていたようだ。

「あぁ、でも卑怯な報復は駄目ですよ。

 もし憎い人間がいたのならそれはそれで、隊長は隊長らしく、正々堂々と正面から打ち倒すべきです。

 きっと、そうすれば……──いえ、口が過ぎました、すみません」

 言いかけて、我に返る。

 彼の、ダイアスレフの問題が解決しようと解決しまいとそれに俺が何か感情を抱く必要はないし抱いてはいけないのだ。

「そうだな。

 もしも自分が成し遂げたいものがあるのなら、俺は俺が許し得る手段で正々堂々と、だな、ありがとうセイ。

 本当に、初めて訓練場で会ったときとだいぶ変わった気がするな」

 言って、諦めたように苦笑いするダイアスレフ。

「とんでもない。俺は何も変わってなんかいないですよ。

 それと隊長、俺が初めて隊長に会ったのはもうちょっと前なんですよ」

「……なに」

 言った後でしまった、と思ったがここで話を切ってしまっては怪しまれる為、素直に言い切ってしまうことにした。

「とは言っても、訓練場で会う一週間ほど前に図書館で本を読んでいる隊長を一方的に見かけただけなんですけれど」

「ほう……」

 あえて『何を読んでいたのかを見た』のは伏せておく。さすがにこれだけで勘付くとは思えないが、念のためだ。

「なるほどな、その時から君とは縁があったわけだ」

「えぇ、そうみたいですね」

 少し照れくさそうに笑いかけるダイアスレフに俺はほっと胸を撫でおろした。さすがにこれだけでは何も思うところは無いようだ。

 と、そうこうしているうちに店長が店の奥から先ほどの剣を抱えて持ってきた。

「お待たせいたしました」

 剣を手渡され先ほどまでの緊張がぶり返す。

「い、いえ、あ、りがとうございます」

 受け取った剣をまじまじと見つめる。先ほど調整した柄の部分は巻布の量が少し減り、握りやすくなっているようだ。

「そういえば店長。この剣の銘を聞いていなかったな」

「失礼、失念しておりました」

 ダイアスレフが尋ねると店長が恭しく柄の根元の方へ手を当てる。

そこには‟Altachiara„と彫られていた。

「こちら銘はアルタキエラ・レプリカでございます。彼の名剣を準えて造られたもので、洗礼も済ませております」

「なるほど、あの聖剣のレプリカか。

 魔術付加などは無さそうだが、剣としては確かに優れているようだ」

「アルタキエラ……」

 ダイアスレフの説明を半分聞き流しながら剣を見る。

 アルタキエラ。確か覚えが間違っていなければアーサー王伝説の円卓の騎士、ランスロットの使用した剣、アロンダイトの別名だ。

 なるほど、実在したのかもわからない剣、そのさらにレプリカなんて……。

「まるで、俺みたいだ」

 俺は自嘲気味に誰にも聞こえないほどの声でひとり、呟いた。

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