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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
14/72

Phase1-6『ショートエッジ』

Phase 1-6 22/6/13 投稿

――――――――――†――――――――――


 ショートエッジに来て早くも二週間が経過した。

「────百九十九、二百ッ」

「そこまで、とりあえず今日はそこまでにしておこう」

 ぴっと手を前に出し、制止してくる。二週間もすればさすがに勝手知ったもので、訓練もだいぶスムーズになった。

「さて、木剣振り終わったら次は魔術の訓練だ。

 さぁ、準備開始ッ」

「────はいッ」

 指示が入ると同時に走り出し、木剣を仕舞うと、代わりに魔術訓練用の道具箱を引っ張り出して、隊長の前で準備を始める。

「今日はお前の魔術『阻害』によって認識の阻害が可能かと、……その前に身体の強化魔術を教えていく」

「はいっ。

 ……え、身体強化……ですか」

 返事をした後思わずどもってしまう。自分の師のスタンスではあるが、身体強化は補助的に使うもので本格的に使うものではない、という感覚があるためだ。

「そうだ、おそらく認識の阻害も意識してかかりに来てくれるような奴でもない限りセイの魔術には掛からない。

 それならばと、誰にでも使える身体強化を改めて伸ばしていこうと思ってな」

 ダイアスレフの言うことはもっともなのだが、魔術師として自分の魔術が役に立たない言い方をされるのは非常に心苦しい。

「そう渋い顔をするな。

 この二週間、セイが頑張ってきたのは知っている、けどな。物理阻害も石ころ一つ減速する程度、しかもほんの少しだけ、意識の阻害は町の人にすら掛からないレベルなんだから。

 それなら多少でもお前の力になる方がいいだろう」

 そう、俺の阻害は基本的に役に立たない。というより俺自身の魔力が少なすぎる為、実戦で出力が足りなすぎるのだ。

「前回は無詠唱で強化していたが、今回は詠唱を付け加えるようにしよう。

 詠唱に依る効果は知っているな」

 問われて、詠唱のメリットを思い出す。

「はい。自分自身への暗示による強化の増強、それと詠唱内容によっては大気中や自然の魔力との接続により他からの魔力使用が可能になります」

 そう、詠唱を用いれば場合によっては他方からの魔力供給を得られる場合がある。例えば空気に満ちるもの、例えば太陽から降り注ぐもの、例えば宝石に封じ込められたもの。

「よろしい、そのあたりは俺よりも詳しいな。

 魔術ってのはまぁ、俺も良くはわかっていないが簡単に言えば『究極の思い込み』だ。

 想いが強ければ効果はおのずと高くなるし、魔力を通しての火力も上がる。

 それで、だ。お前は身体強化にあたって詠唱を定めていないな」

「……はい」

 ダイアスレフはどうしても俺に詠唱させたいらしい。とはいえ唐突に言われても詠唱なんて思いつかないのだが。

「そこでだ、俺の詠唱を試しに使わせてみようと思う」

「……それは、また、なぜ」

 まるで思っていたことを言い当てたような発言に戸惑いながらも首を傾げる。

「セイは詠唱込みだとまだろくに自分を強化したことがないだろう。

それなら『俺が身体強化をしている』イメージをセイが自分自身と重ねれば……つまり俺と同じ詠唱にすればイメージのすり合わせがし易く一定の効果があるのではと、そう思ったんだ。

 もちろん、無理にとは言わないが」

 なるほど、理に適っている。それならば反論をする理由もない。

「……やってみます」

 ゆっくりと呼吸しながらダイアスレフが強化をしているイメージを作り、自分に重ねる。

「───Physical effect───」(身体強化)

 いつも部分的におこなっている強化の感覚が全身を覆っている、どうやら上手くいったようだ。

「ふむ」

 見ていて判るものなのだろうか、ダイアスレフが納得したように一度頷いた。

「吹っ飛ばしてしまった前例もあるからな、打ち合いはよしておこう。

 ───Physical effect/flat───。(身体強化/起動)

 木剣を構えていてやるから思いっきり打ち込んでみろ」

 強化を済ませ、仁王立ちしながら木剣を横に構えるダイアスレフ。

「───はい」

 自分の打ち込むべきところを見つめて、思い切り一歩を踏み切った。

「────ッ」

 自分の想像を少しだけ超えた加速に、踏み込みが深くなる。

「……っと」

 かこん、と、甲高い音で木剣が鳴る。

「ふん。どうだ、強化されている実感はあったか」

 結果がなんとなくわかっているのだろう、ダイアスレフがにっと笑いながら訊いてくる。

「──えっと、はい。身体がいつもより軽く感じました。たぶん受け止めてもらえなかったら転んでいたかもしれ……ないです」

 実際のところ、想像していた以上の効果があった。自分の偏見が少し、恥ずかしい。

「ふむ、そうか」

「ただ、受けた木剣がびくともしなかったところを見ると、強化はされていてもここの隊員の方々と比べるまでもないかなと、思います」

 そして同時に思い知った。本気で構えたこの人を揺らがせるのは……やはり、俺には到底届かないものなのだと。

「ほう、驚いた。

 そのあたりの自己評価はきちんとできているようだ。

 まぁ、今回は初めてだし、鍛えていけば強くなれる、とまではいかなくても多少マシになるだろう。これからも訓練を怠らないようにな」

「はい」

 きっとフォローを入れてくれたのだろうが、まったくフォローになっていない。多少マシ……か、これから先は長い。

「ダイアスレフ隊長、セイばかり構ってないでそろそろ俺たちの相手もしてくれませんかね。

 なんか熱い展開見たせいで体がうずいて仕方ないんですけど」

 後ろから副隊長のキースと、他のメンバーも連なってやってきた。

「あぁ、すまないキース。

 セイが素直で吸収も速いからつい夢中になって入れ込んでしまっていたよ」

 言って肩をすくめて見せるダイアスレフ。

 キースはやれやれと呆れた表情でこちらに歩いてきたかと思うと、俺の肩に手を置いた。

「はぁ、俺らだって頑張ってんだから勘弁してくださいよ隊長。

 セイも、そろそろ俺らとも訓練するぞ。全員の名前くらい覚えただろもう」

 そう言ってほかのメンバーに手招きすると何やら顎で合図してきた。なるほど、名前をきちんと呼べということだろう。

 大丈夫、名前はここに来る前からフルネームを暗記してきている。

 まず、熟練の使い手、手慣れた強化手順、戦闘において無類の強さに裏付けされた高いカリスマ性を持つ隊長。

「フレア=ダイアスレフ隊長」

 次に面倒くさがりのわりに面倒見と非常に高い観察眼の持ち主、戦闘面では炎系の魔術を得意として使う、ひげの似合う副隊長。

「キース=レヴェリー副隊長」

 軽薄そうな微笑みの下、ダイアスレフを目標に自己研鑽を積む努力の天才にして、剣と盾のオールラウンダー。

「フィッキー=アン」

 弓と剣の両方を使える上、非常に広範囲の探知魔術を行使し、非常に高い瞬発力を持つ笑顔を絶やさない青年。

「クックフェト=テイリック」

 存在感の薄さとは裏腹に、剣技においてダイアスレフに勝るとも劣らない腕前を持つ、アームレットと長い前髪が特徴。

「スワリア=ポストネクト」

 指示とあれば迷わず遂行し、遠征時には非常に有用な水系魔術や遠距離魔術を使う、ポニーテールの似合う姉御肌。

「レイア=カルスウェルタ。

 そして、交換隊員の自分を含め、第三遠征隊ショートエッジメンバーです」

 そう言って、胸を張った。

「上出来上出来。姓まで覚えてるとは思わなかったぜ。……そんじゃま、続けて訓練をするとしようか。

 しばらくは俺が相手してやるから構えろ、セイ」

 訓練場の端の少し開けたところをキースが指さす。

「はいッ」

 その後ろにつくように歩いていく。

「では、こちらも訓練を開始するか」

『はいッ』

 広い訓練場、背中から残りのメンバーの気合が入った返事が聞こえていた。


――――――――――†――――――――――


「よっと、ここ貰い」

「ぐッ……」

 ぱしっと、小手を叩かれ痛みで木剣を落とす。キースと打ち合いをして数分、もうすでに何本とられたかわからないくらい簡単にあしらわれている。

「おっ、なんだよ隊長が手合わせしてんじゃねぇか珍しい」

 甲高く響く音にはっとなって先ほどまでいた空間に視線をやると、隊長対他メンバーで非常に高度な打ち合いをしているところだった。

「相変わらず手心がねぇな。

 お、一本入ったな、ありゃキツいぞ」

 肩口に一撃を入れられたフィッキーが思わず剣を落とし、その隙にフレアが木剣をフィッキーの首元に突き付けた。

「ありゃりゃ、やっぱ勝負あったな」

 楽し気に解説するキース。見れば見るほど力の差を感じ、悔しさが湧いてくる。

「ダイアスレフ隊長の魔術属性って、なんなんですか」

 ようやっと息を整えて発言する。感知魔術を使える、くらいのことは知っているが、どの程度の腕前かまではよく理解できていない為だ。

「なんだ、知らなかったのか。

 ダイアスレフ隊長の魔術特性は感知と探知だよ。

神経を研ぎ澄ませて、音や振動に敏感になるんだと」

「感知……」

 キースの言葉に、思わず言葉を失った。それは、俺が知っている魔術の範疇を超えている。

「そうだ。技量の高さも上位でうちの国ですら一対一で勝てる奴がほとんどいない……ってのに、不意打ちで仕留めたくても仕留められない。

 戦いの強さってのは千差万別あるかもしれねぇが、こと倒されないってことならあの人の右に出る人間はそうそういないんじゃないか」

 自慢げに語るキース。

 ダイアスレフの方へ視線をやる。探知や、感知の魔術というのは俺が知る限り把握に時間を要するものだ。おおよそ戦闘に使えるものではなはずなのだが……戦い方を気を付けてみてみると確かに視界外からの攻撃にも反応しているように見える。

 ……なるほど、確かに強い。戦闘においてあれだけの強さを誇るにも関わらず、感知魔術の展開中は不意打ちすら許さない。

「……It'like a hero.」(まるで主人公みたいだ)

 ため息を零すかのように呟く。これで性格もいいというのだからもう粗が見つからない。

「ま、焦らないことだ、新人。

 あんな人間なんてそうそういないし、あの人でさえ全く歯が立たなかった人がいるんだから」

 キースはそう言ってにっと笑いかけてくる。

「ダイアスレフ隊長が歯が立たない……」

「そうさ、お前んとこの元副隊長……たしかアルバって言ったかな。

 もう死んじまったけどその人に今の身体強化や体術を習ったらしい」

「そうなん……ですか」

 確かその人物の事もある程度調べたが……今はとりあえずどうでもいい。

 俺がやるべきことは、負けることがわかっていてもどの程度力の差があるのかきちんと理解することだ。

「自分も手合わせをしてもらってきます」

 言うなりそのまま駆け出した。

「おいおい────」

 後ろでキースが何か言っていたが、俺には振り返るだけの心の余裕が全くなかった。


――――――――――†――――――――――


「ダイアスレフ隊長、手合わせよろしいでしょうか」

 ダイアスレフの下へたどり着くなり、すぐに声をかける。

「おっと、びっくりした」

 戦いで魔力を消耗していたのか、それとも解除していたのか、ダイアスレフは俺に気付かなかったようだ。

「あ、すみません。驚かせるつもりはなかったのですが」

 慌てて頭を下げる。しかしダイアスレフは気にしない様子で微笑んだ。

「いや、構わないよ。でもセイもキースとさんざん打ち合ったんだろう、体力大丈夫なのか」

「はい、あと一戦でしたら身体強化も……効果は無いでしょうが認識阻害も使えそうです」

 ぐっ、と木剣を握りしめる。

「そうか、俺もあと一戦くらいならいけそうだ。

 正面からなら探知も不要だろう」

 やはり、魔術を使えるほどの魔力が残っていないようだ。なら、単純な文字通り身体強化の差が見られる、ということ。

「ま、さっきやったばかりだ、いきなり強くなることはないだろうからしっかり身体強化を掛けられるようにな」

「はいっ」

 そう言って、数歩離れたところで木剣を構えるダイアスレフ。それに倣って俺も木剣を構えた。

「───Physical effect/flat───」(身体強化/起動)

「───Physical effect───」(身体強化)

 俺とダイアスレフの詠唱が重なる。

「────ッ」

 実力差は明白、膠着する意味はない。足に魔力をやや多めに回して浅めに地面を蹴る。

 どこから見ても相手に隙は無い、切り返されるのは目に見えているので初撃ではなく、連携で、どうせなら……勝つつもりで。

 ダイアスレフの剣先が揺れている。これはよく知っている、こちら注意を剣先に引くための……格下用の指導技だ。

 悔しさに歯を食いしばりながら剣の中ほどで相手の剣先を軽く弾き、剣の軌道を絞る。

「ふむ」

 若干感心したような表情。わかってはいたが焦る様子は微塵もない。

 そのまま懐に入ろうとしたところ、弾いたはずの剣がぐっと押し返してきた。

「────ぁ」

 だめだ、膂力の差がありすぎる。剣先で押されただけで体が左に流されすれ違う。こちらはバランスを取るため振り返る余裕はない。

 これだけの隙があるのだ、絶対一本取りに来る。

「…………」

 それならそれでいい。‟練習試合だ、本気では打ち込んでこない„だろう。

 俺は思い切り足に魔力を流し、前に踏み込んだ。

「────え」

 かこん、と、木剣が地面を打つ音、そしてダイアスレフの驚いた声が聞こえる。

 おそらく振り下ろした木剣が空を切ったのだろう。あとは、がら空きになったダイアスレフの背中めがけて木剣を振りぬけばいい。

 冷静に、冷静にと言い聞かせながら右足を軸にして体を回転させる。

「────ぅぅぁぁぁああッ」

 いったいどこからそんな声が出たのか、冷静さとはかけ離れたそれに、自分でも驚く。

「しま……っ」

 木剣が当たる直前、ダイアスレフの声が聞こえた。

「が……ッ、は」

 みしり、と、鈍い音。視界の位置がおかしい。

 さっきまで後ろにいたのに、なぜ俺は今、ダイアスレフを見下ろしているのだろうか。

「────」

 あぁ、飛んでいるのか。と、気付いてから遅れて来る胸の痛み。

「うぉぉおいッ、なんだぁあ」

 歪んだ視界、自分がいったいどういう状態になっているのかわからない。

「び、びっくりしたァ、セイ、おいセイ、大丈夫か、おいっ」

 心配そうなキースの声が聞こえる。

「あ、……こ、ひゅ……」

 大丈夫だよ、と、言おうとしたのだが、言葉はおろか、息もうまく吐けない。息ができないからか、頭ももやがかかったように白んでいく。

 そうして。俺は遠くで誰かが叫んでいるのを聞きながら、そのまま意識を失った。

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