Phase1-5『メリッサ=アネスⅠ』
Phase 1-5 22/6/6 投稿
訓練を初めておおよそ一週間程度。効率のいいトレーニングなどは知らなかったのでとりあえず誰もが知る腕立て、腹筋、スクワットに素振りなどの基本的なものをまんべんなくこなしていた。
……のだが。
「あら、誰かと思えばセイじゃない」
「……げっ」
思わぬ来訪者の登場に思わず表情を歪ませる。
「なによ、『げっ』て、いきなり失礼じゃないのかしら」
ふん、と、長髪を揺らしながら不満そうな表情でこちらを睨んでくるこの女性はメリッサ=アネス。なんとこの礼儀の無さで自分より年上だ。いや、敬語もろくに使えなかった俺が言うのもなんなのだが。
「あぁ、不快にさせてしまったのであれば申し訳ございません、メリッサ。
今訓練中なのですが、急ぎですか」
さっさと帰れ。と追い返したいところだがぐっと堪えて出来るだけ平静を装い、かつ丁寧に言う。
ただでさえコイツはすぐ突っかかってくるのだ、それこそ帰れなんて言った日には殴り掛かってきかねない。何より、俺は敬語の練習中だ。丁寧な言葉遣いを心掛けなくては。
しかし何か納得いかないのか、メリッサは訝し気な表情でこちらを見ている。
「え、誰。あなたセイよね」
「何か、おかしいところでも」
はて、とわざとらしく首を傾げてみせる。
しかしそれで何か納得がいったのか、
「はっ、ここに来るなり喧嘩売ってボコボコにされた生意気コゾーが敬語しゃべってたから驚いたけれど、やっぱセイはセイだわ」
青筋を立てながらまくしたてる。
「いや、喧嘩売ってきたのお前だからな、メリッサ。言いがかりはよせよ」
あまりの横暴に思わず素が出てしまった。
ラウンドナイツに入っていろいろな人に異議申し立てされたがコイツは次元が違う。
喧嘩を売ってきた上に『ラウンドナイツにお前みたいな雑魚が入れるくらいなら私が入れないとおかしい。私も入れろ』と駄々をこねてきたのだ。
最終的にコイツの部隊長が回収に来て事なきを得たのだが……あれは大変だった。
「俺は入りたかったんじゃなくて入れられたんだ。
文句があるなら隊長に言ってくれ」
実際キリアリスも文句を言われたら堪らないだろうし、あまりうるさいようだったらめんどくさがって入隊させる可能性もあるのでやめてほしいが。
「はん、どんな手を使ったのかわからないけれど私も絶対第一親衛隊に入るからね」
べー、っと舌を出してくるメリッサ。本当に年上か、コイツ。
「だいたい、なんで第一親衛隊がいいんだよ。
戦時下では真っ先に最前線送りだし、楽するなら今の第一防衛隊の方がいいんじゃないか」
この国にある騎士団の大きな括り。国の直轄部隊で様々な戦場に送られる『親衛隊』ラウンドナイツがそうだ。その次が基本国で常駐しており、防衛の要でで最後の砦と言える『防衛隊』これがメリッサのいるところ。そして、今俺がいるショートエッジが国の国境付近の防衛と偵察を行う非常に戦う頻度が高い『遠征隊』である。遠征隊は任務も多く戦闘能力もそうだが、どちらかと言えば忠誠心寄りで選ばれることが多い。
逆に防衛隊は戦時中でもない限り戦闘が無いため、補欠要因的な役割が多くなっている。
どっちかっていうと俺は戦いたくないなぁ、なんて思いながら呟いていると、メリッサはちっちっと人差し指を立てた。
「第一親衛隊は服装が自由なのよ」
「はぁ、服装が自由なのか」
理由が想像以上にどうでもいいことだったため呆れながら復唱すると、メリッサは「そう、自由なのッ」と、どや顔で言った。確かに女性だし、身だしなみに気を使いたい気持ちはよくわかる。そういう意味では服装が自由な部隊はメリットだろう。しかし。
「メリッサ、制服思いっきり改造してるじゃないか」
そう、彼女の制服は一般の騎士に支給されているそれとは違い、腰に外套のようなものをヒラつかせたり、肩や腕周りに小物が付いている。
「いっ、こっ、これはその、とりあえず第一親衛隊に入ったときの為の予行練習というか、その……」
だんだんと声が小さくなっていくメリッサ。どうやら痛いところを突かれたらしい。
「はぁ、だいたいなんでラウンドナイツは服装が自由なんだろうな。そのあたりも良くわからないし、そんな規則良く見つけたな」
その執着は本当に感心する。というか、そもそもそこまで服装を気にするなら軍隊なんてやめておけばいいのに、とも思う。
「正確には服装が自由、って言うわけではなくて『国のシンボルとしての部隊』というところかしらね。
前親衛隊長は女性だったんだけどまさしく国のシンボルだったわ。かっこよくて、強くて、誰にも有無を言わせないほどのカリスマ性。この外套もその人のを真似て造ったのよ、似合うでしょ」
ひらひらと布を揺らしながら自慢げに語るメリッサ。
「あぁ、似合ってる似合ってる」
まぁ、この布はどうでもいいとして、確かにその部隊だけ服装が違えば目立つだろうし、シンボルにはなる、か。
せっかく自由なのだから性能の出るデザインも確かに面白いかもしれない。
顎に手を当て、ふむ。と考え込んでいると、メリッサの後ろから見覚えのある顔が近付いてきていた。が、ここはあえて気付かないふりをする。
「ところでメリッサ。
第一親衛隊の事はわかったけど第一防衛隊はどうなんだよ。
別に不満があるわけじゃないんだろ」
俺が尋ねると、ふっと呆れ笑いするメリッサ。
「いいわけないでしょ、毎日毎日防衛訓練ばっかりだし、さて訓練が終わったと思ったら基本国にいるせいで奉仕活動が次から次に回ってくるのよ、たまったもんじゃないわよ」
俺は内心ほくそ笑んでいたが、表情に出さないように耐えてさらに問いかける。
「でも、隊長いい人そうだったじゃん。
確かに厳しそうだけど、義に厚そうで、面倒見もよさそうだし」
「アレのどこがいい人よ。
スパルタだし、規則にうるさいし、私の服すぐ捨てるし、どっこもいいとこないわよあんなゴリラ」
はっ、と、眉を顰めながら淡々と語るメリッサ。
その後ろから、カチン。と、音が聞こえたような気がした。
「ほう、誰がゴリラだって、クソミジンコ」
「ひ……ッ」
一瞬固まったのち、ぎぎぎ、と後ろを振り返るメリッサを見ながらくすくすと笑う。
その視線の先にはまさに部隊長ですと言わんばかりの豪傑が仁王立ちしていた。
「ひゃ、隊ちょ……」
「訓練すっぽかしたと思えばてめェ、人様の訓練の邪魔までしやがってッ」
いったいどこから出ているのだろうと思えるほどの怒声にこちらまで身を竦ませる。
「んなヅラとっとと外してさっさと訓練に戻るぞクソミジンコッ」
「キャーッ」
ばさっ、と、メリッサのウィッグを取り上げ、そのまま引き摺っていく。
「ウィッグの下、坊主だったのか」
俺やキリアリス以上に短い髪にちょっとだけ同情を覚えながらも、俺は訓練に戻ることにした。




