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聖女死すべし

神官様は聖女の素行に頭を痛めていた。光教団も苦労しとんのやで・・・頑張れ神官。

聖女をしない聖女なんていらない。

@短編97

聖女の地位が低下している・・・


「リァイアス・・由々しき事態である」


聖女をお祀りしている光教団の大神官、我が上司ククリス様はコメカミを抑えてゆっくりと頭を左右に振った。


そうなのだ・・・

最近の聖女様は『欲深』な方が多いのだ・・

主に殿方に対して・・肉食系と言うか。

高位貴族の若様に、剣聖の騎士殿に、宰相様の嫡男に、恐れ多くも王太子様にと・・

もう『獲物を狙う狼』のような目ですよ・・・いいんですか、聖女がそれで。

まあ仕方がないかもしれないです。

聖女と崇め立てられ、敬われていれば、調子に乗っていくのも分かります。

でもそれは『聖女』として活躍してくれることを期待しているからであって、あなた自身に好意を持っているわけではないのです。そこが分かっていない・・・!!なんで分からないんでしょかね・・?

その上、仕事どころか修行や勉強もなおざり。

おまけに、そんな出来る殿方の婚約者様達に無礼千万な態度・・謝るのは私ですよ!

あああ、胃が痛いぃ・・・大神官ククリス様も頭痛が酷いそうだ。でしょうねー。


「くうっ・・聖女達(彼奴等)の不祥事のお陰で、我が光教団は・・・口惜しい・・・」

「ククリス様・・・」

「リァイアス!其方に命じます!!あの、あの・・あの聖女の面汚しを!なんとか聖女として成すのですっ!!」

「ええええええ・・私がですか?!む、無理無理!!」

「勿論タダではありません!!報奨で報いましょう!!五倍増しで!!」


ククリス様の本気来たーーー!!右手のひらを突き出してバァーーーーン!!五倍と書いてあるように見えました!!

お、落ち着いて!!ククリス様、貴方は御年70歳ですから!!脳溢血になっちゃいますよーーー!!



で。

仕方なく行きましたよ・・はるばる来ましたよ。王都から5日掛かりました。

王国最高峰の山にある光教団の神殿に。

ここには『やらかし聖女』が謹慎、いや幽閉されています。

『神官殿・・ここから出したら分かっているだろうな』と、王子様に圧のある笑顔で言われましたよ。

ええ、私だってそうしますよ。こんな厄介な・・はぁ。

あの麗しの正妃を守るためですものね。本当、なにしてくれやがりました。あ、口が悪くなってしまった・・

その時やらかした聖女の件で、平謝りしたのは私です・・・


神殿の奥にある聖女の部屋に向かうと、何か雑音が・・人の声?

ああーー・・聖女が何か喚いていますね。反省の欠片も無しですか・・

彼女の発言に、ついついツッコミを入れたくなってしまいます。


「なんでこんなところに閉じ込められてるワケぇ?(本当反省無しですか)隣国の王子様と結ばれるのはあたし(ひえっ?)でしょ!!サリィム(この国の王子の妃を呼び捨て!)とダムールを殺したら(な、なんですとぉ?!)、隣国王子ルート(ルート?)になってあたしは王子様に愛されるはずなのに(やめてくれぇ!)!!どうして会えないのよぉ!!」


ひ、ひええええ!!

なんかあの女、いや聖女が物凄い事言ってる!虚言癖あったのか?

隣の大国、マジェスティ王国の王子様と結ばれる、だと・・?

そんな戯言、王子様の耳に入ったら今度こそ我が光教団は壊滅されてしまう・・・!!

マジェスティ王国は、100年おきに聖女様を独自にお呼びして妃に迎えている歴史を持つ大国。

去年召喚してお越しいただいた聖女様と、王子殿下は先月婚姻を結んだばかり。

聖女とはかくあるべきを体現する嫁御殿は、国民にも敬われているし、王子殿下の溺愛ぶりは然もありなんとか。

ああ、あの方が我が教団の聖女様であったなら・・・

何故我が教団には碌でもない聖女ばかりが来るのでしょうね・・・


200年ほど前でしたら、良い感じの聖女様が教団のため、民のために頑張ってくださったのです。

純朴な方が多かったそうです・・・

最近の聖女たちは、どうしたわけか『攻略』とか『フラグ』とか謎の言葉を呟いています。

どう言うことでしょうね?

ま、まさか・・・高位貴族や剣聖騎士、そして王子様を・・攻略・・・?

ひとりではなく、全員自分の虜にする・・・と?!不敬罪ーーーーっ!!

無理ですっ!!無理難題ですククリス様っ!!!

完全に無理です、もうこの聖女更生なんか出来ませんっ!!

私、泣いちゃいそう・・・辛い修行でさえ、泣いたことないのに・・うううっ・・・

こんなのが聖女なんて許しません!多分この世界の誰も許さないでしょう、私もです!!


・・・殺すか。

本気で思いました。

私、シリアスモードのスイッチが入りました・・


更生するのも無理なら・・聖女として役にも立たないなら・・

我が教団にも、この世界にも、必要が無い・・害悪でしか無いのなら・・

聖女召喚出来るマジェスティ王国に頼んで、元の世界に還してもらえれば・・

いや、大国の王子様にわざわざお手を煩わすことなど・・・こんな聖女のために。


殺そう・・・

神官にあるまじき発想、だが!この世にのさばらせて良い生き物では無い。

さて、どうやって殺す?

私・・・こういう生業もしています故。

大神官様や王家の方の露払いも・・ね。


ここは山の中だ。

シナリオとしては・・・

『ここでの暮らしが嫌で、神殿から逃げ出したが山慣れしていないから崖から落ちて・・・』

と言う所か。

こういう『作業』は久しぶりだが、役に立たない聖女など赤子の手を捻るよりも心痛まない。

さあ、さっさと消してしまおう。



「はーーー!!空気がきれーーい!!」


聖女は呑気に笑っている。

ここは神殿の裏庭だ。少し歩けば、断崖絶壁の崖がある。

なあに、ちょっと強く押せば良いだけだ。なんと手軽な始末方法だろうか。


「ずっと部屋に閉じ込められてたから、なんか体も鈍っちゃってる感じ。う〜〜〜ん」


そして体を伸ばしたりの柔軟体操。

それ、自分のせいですよね。閉じ込められてるのは。

なに自分は悪く無いって、いや悪いとさえ感じてないって・・・

最近現れる聖女はどうしてこうも・・・

こんな役立たずの聖女ばかりが顕れるようになったのは・・いつからだった・・?


「ねえ、王子様ってもう結婚しちゃった?」

「はい。婚約者様と」

「じゃあ、隣国の王子様は?」

「少し前に」

「えええーーー!!!じゃ、全然ダメだったんじゃん!!なんでよ・・おっかしいなぁ」


イラッ・・

この小娘は・・・


「最初から無理だったのかぁ・・ゲームと同じ世界と思ってたんだけど、やっぱり違ったんだぁ・・がっかり」


なにを言っているのか。ゲーム?まあどうでもいいか。

聖女はのろのろとしゃがんで、大きくため息をついている。


「期待してたんだけどなぁ・・・今度の人生では、幸せになれるって・・ぐすっ・・」


そこには・・

可哀想な少女がいた。

自分の幸せを信じて、追い求めて、そして・・しくじった。可哀想な、哀れな少女。

後ろ盾を自分で潰し、自分を磨こうともしなかった、自分本位の少女。

どれだけ周りをかきまわし、迷惑を掛けたかさえ理解していない・・・

頭の中が、本当に・・・


()()()

「ふふっ、ありがと神官さん」


いや、慰めたわけでは無い。馬鹿にしているんだが。本当、この小娘は馬鹿だ。

顔が綺麗で仕草が可愛く男心を唆る姿体を持っているのだから、相応の適当な貴族や商人の妻にでもなれば良かったのだ

それを王子、だと?身の程知らずが。ガワが素晴らしくてもお頭(おつむ)がこれでは・・

聖女として励んでいればいいものを・・良いものを持って生まれたのに。

その能力があれば・・・光教をさらに強く出来ると言うのに・・・


丸まっていた小娘は、何か思いついたとばかりに突然飛び起きた。


「そうだ!もう一度やり直せば良いんだわ!そうよ、そうしましょう!」


先程まで落胆してしょんぼりとしていた小娘は、嬉々として手を叩いてうんうんと頷いている。

そして私の方を輝かんばかりの笑顔で振り向いて。


「あたしを殺してくれない?もう一度やり直すから」

「えっ」


なにを言っているのだろう?

確かに小娘を殺してやろうとは思っていたが、自分から言ってくるとは・・・


「・・頭がおかしいのか?」

「えーー?本気よ本気!まあ、驚くわよね。ちょっといきなりだったね!でもあたしがしあわせを掴むにはこれしか無いの!あたし一度死んでいるから大丈夫!ちょっと怖いけど、やり直しができると思えば頑張れるから!」


一度死んでいる・・?

この小娘、ここまで気狂いだったとは・・・

早い所消した方が・・・


いや。

()()()は殺してはいけない。

死んだら何かをする気だ。それは正しい人の道では無いだろう。

死なせたら、この世界が混乱する・・そんな予感がして、背筋がぞくぞくとした。


「さあ。殺して!」

「なにを言っているのだ、君は」


笑顔で言ってくる小娘は、得体の知れない生き物・・理解を超える。


「もー。そうよね。貴方神官さんだもん。人を殺すなんて出来ないか〜。じゃああたし、自分で死ぬわ」


そして崖の方を向く・・


「おい、死んでどうなるというのだ?」


私は思わず聞いた。すると小娘は呆れたような顔をした。


「どうって。生まれ変わるのよ〜〜。もう一度、この世界に」

「生まれ変わる・・?」

「そうよ。人生をもう一度やり直すの!今回失敗しちゃったからね。今度こそ、隣国の王子様エンドを攻略するわ!」

「・・は?やり直すだと?人生を?これは傑作だ!!」


私は・・・思わず笑った。

笑いが込み上げ、大笑い状態だ。

あっはっは!!と、初めて笑った。笑いすぎて腹が痛いなんて、初めての経験だ。

小娘はそんな私を呆然と見ている。


「いや君!本当に笑わせてくれる!死んだらやり直しだって?初めて聞いた!そんな教え、この世界には無いよ?」


ぷぷ、と笑いを堪えながら小娘に近寄った。


「この世界で生を受け、死んだら魂は消える。無垢の魂が生を受け、生きて、死ぬ。この繰り返しだ。そして自分で死した者は暗黒に落ち、二度と這い出る事は出来ない。生まれ変わるなんて考え、どこで思いついたのだ?そんな都合のいい生を、神は許さない。精一杯頑張って生きる者には祝福するが」


そして、小娘の眉間を人差し指で突く。


「生きる努力をしない者に、神は恩恵など与えない。それでも死にたかったら死ぬがいい」


なんとこの小娘は、神を冒涜する愚か者だったのだ。

生死を軽んじるだけでなく、神の教えも自分勝手に改竄しているのだ!!

神職に携わるものとして、許す事は出来ない。

再教育など、はなっから無理だったのだ。


「え・・・えっ、ええ?だって、あたしの世界では、輪廻転生で、生まれ変わって、その」

「りんねてんせいって何です?植物の名前ですか?聞いた事無いですね」

「うそ・・神官さん、聞いた事無いの?」

「りんねてんせい、ですか?それはなんですか?」


おかしなことを聞いてくる。知らない言葉だ。

小娘は急にガタガタと震え出して、


「いやああああああ!!なんで?なんで!!やり直せるはず!やり直せる!死ねば、死んで初めから」

「死んだら暗黒に飲み込まれますよ。夢夢自死しようとは思わない事です」


・・・・・・。

はぁ、疲れたぁ。

シリアスモードは長くは続かない。

それにしても、ここ最近現れる聖女の質が悪すぎる。

聖女認定するのが早いのでは無いか?

2〜3年はしっかりと勉強と修行をさせて、認定試験に受かってからにするべきだ。

ちょっと片鱗見せた程度で、聖女だと言ってしまうのがそもそもの間違いだ。

まあ『聖女を見つけた』者は出世出来るから、つい報告したくなるのも分かるが。

この辺り改革していただこう。ククリス様はきっと賛成してくださるに違いない。

これ以上頭痛の種となる『なんちゃって聖女』に振り回されたくは無いだろうから。

目の前の小娘は喚き散らしている。

私が『りんねてんせい』を知らないのが、そんなに取り乱す事だったんだろうか?





「もーー。騎士様の婚約者にはしてやられたぁ〜〜」


また厄介な聖女が、今度は剣聖の騎士団長に猛求愛、彼の婚約者は公爵家の御令嬢だ。

父親である公爵様の逆鱗に触れ、聖女はこの山の神殿に送られたわけだ。

以前の聖女の身分は王族と同等と言われたが、今は貴族程度となっている。

光教では、最近聖女に対して『光教団認定(お墨付き)』を与えるようになっていて、彼女は合格・認定されていない。

地方の教団が勝手に『聖女』と言っているだけだが、聖女の()()()はやはり我が光教団に委ねるのか。

まあ、結界で囲う神殿を持つのが我が教団だけだからだろう。

聖女の力は野放しには出来ないからな。

こうして連れてこられた聖女・・小娘も、前のと同じような言葉を呟いている。


「ゲームでは・・・攻略・・・フラグ・・・」


私はやれやれと頭を左右に振る。

またか。


「君。聖女の力の認定試験を受けなさい」


といえば、


「私は聖女よ!間違いなく聖女なんだから!!」


食って掛かるように返事してくる。なにが聖女だ。何を持って聖女などと・・・

神官だって、イラっとするんだ。


「君。この世界では、死んでもやり直しは利かないからな。『りんねてんせい』とやらをしない世界だ。死んでしまえばそこでお終いだ。都合良くやり直せるとは思うなよ。ここに来たという事は、もう人生詰んだも同然だからな。下界(げかい)には一生戻る事は出来ない」


キッパリと言ってやると、初めはポカーンと口を開けていた小娘は、言葉の意味を理解して・・

悲鳴のような声で喚き散らして、錯乱状態になる。

まあ2日ほど喚き散らせば落ち着くだろう。その後廃人のようになるけど知ったことか。

これでなんちゃって聖女は4人目だ。

今からでもいいので、修行して役に立ってはくれませんかねぇ・・

しないんですよねぇ・・はぁ。




ああ・・・

マトモな聖女様、早くいらして下さい・・・

光教、切実な願いです。



あの光教団の苦悩。

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