表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ぼっちは生き残り少女と話したい  作者: ヒトのフレンズ
第1章 終末ぼっちは殺したい
4/77

第3話 終末農場へようこそ

 



 家から数十メートル離れた畑。

 そこで少年は野菜を収穫していた。


 終末では誰も食料を作ってくれない。

 スーパーやコンビニに行っても傷んだ食品や保存食があるばかりで、新鮮な食事など望めない。

 それは当然のこと。


 ないなら自分で用意するしかない。

 そう考えた少年は、三か月前から近所の畑で野菜を育てていた。

 店を漁って缶詰や乾パンを集めることも大切だが、それではいずれ尽きる。

 長期的に考えても、農作物の栽培は必要なことだ。


 汚れることを気にすることもなく膝を付き、野菜を抜く。

 収穫した野菜は軽く土を払ってからカゴに入れていく。

 水菜にリーフレタス、チンゲン菜。

 葉物野菜が多いのは少年の好みだった。


 カゴが一杯になったのを確認した少年は、収穫を止めた。

 まだ収穫できる野菜は残っているが、急いで抜いても食べきれなければ傷んでしまう。

 それ以上に、重い荷物を持って帰るのが億劫だった。


 少年はカゴを脇に置き、シャベルを手に取った。

 気紛れに両手で構え、素早く振り回す。


「懐かしいな・・・・・・」

 このシャベルはかつての仲間が臨時の武器として使っていたものだ。


 シャベルはフィクションの世界でもしはしば武器として使用される。

 とりわけ、ゾンビを殺す時に。

 少年が愛読している漫画でも、とあるキャラクターが戦闘に使っている。


 確かにシャベルは武器として有効だ。

 扱い易く、何より入手が簡単。

 材質によってはかなりの重量があり、威力もそれなりに期待できる。


 少年は振り回すのを止め、腐葉土を混ぜた土にシャベルを突き立てた。

 畝作りを始めるのだ。

 畝とは、作物を栽培するために土を盛り上げた所を意味する。


 ざくざくと掘り起こし、それを何度も繰り返していく。

 こうすることによって土が柔らかくなり、腐葉土や石灰を混ぜ合わせることができる。

 それからシャベルの裏を使って土を均す。


 次に四本の支柱を四角形を書くように立て、畝の大まかな形を作る。

 最後にシャベルを使って土を盛り上げるようにして畝作りを完了した。


 少年はシャベルを置き、袋を手に取った。

 袋から種を出し、等間隔で蒔く。


 保有者と対峙している時の手付きとはまるで違い、繊細そのもの。

 まるで親が子を慈しんでいるような。

 それもそのはず、少年にとっては自分の生活に関わる大事な存在なのだ。


 野菜がなければ、保存食だけを一日三回食べる羽目になる。

 そんな生活など考えたくもなかった――。



 野菜を持ち帰った少年は、自宅の台所で昼食の用意を始めていた。


 洗った野菜を切り、皿に盛り付けていく。

 切り口は決して綺麗とは言えないが、これでも最初よりは段違いだ。

 世界がこうなるまで刃物を使うことがほとんどなく、最初は怪我だらけだった。


 ――慣れれば何とかなるもんだ。

 指に残った傷跡を見ながら少年は微笑んだ。


 塩をかけただけのサラダと焼き鳥の缶詰、そして缶詰のパン。

 これが今回のメニューだ。

 簡素極まりないが、野菜があるだけましであり、あまり贅沢は言えない。

 屍のように人肉を食い漁るよりはずっといい。


「いただきます」

 少年の朗らかな声が響いた。


 まずは缶詰のパン。

 キャラメル味で、見た目はパンというよりも稲荷寿司のようだ。

 元は民間用として発売されたが、自衛隊で演習時の食事に用いられるようになった。

 自衛隊の車両から回収したものだ。


 口に入れると、柔らかい食感が広がる。

 お世辞にも美味いとは言えないが、この種の食品としては良い部類だろう。


 次に焼き鳥。

 今回のはタレだ。

 百円で売っていた安価な商品だけあって肉も安っぽい雰囲気である。

 しかし、その安っぽさがかえって少年の好みだった。


 そして、最後にサラダ。

 葉物野菜ばかりを集めた。

 シャキシャキした食感とみずみずしさが少年の口を癒す。

 世界がこうなるまで野菜のありがたみというものを知らなかった。


 少年は食事を終え、サラダに使っていた紙皿をティッシュで入念に拭いた。

 使えるものは何度も再利用する。

 野菜を盛り付けた程度ではそこまで汚れることもない。


 食事も終わり、落ち着いたところに尿意を催した。

 “トイレ”に行かなくてはならない。


 斧を手に取り、家を出る。

 家の向かい側には、公園が広がっていた。

 二台の車がすれ違うのもやっとの道を渡り、公園の柵を超える。


 数十秒歩き、植え込みで隠された一帯に入る。

 排泄は公園の一角で行うことにしていた。

 大の場合は土に埋める。

 貴重な水をトイレに使うのはもったいない。

 土に埋めて済むならその方がいいのだ。


 チャックを開けて放尿する。

 排泄のタイミングは人間にとって弱点となり得る。

 今この時、保有者に襲われても迅速に対応できない。

 こういう時に仲間がいたらと、ふと思うのだ。


 独りでできないことは沢山ある。

 それは事実だ。

 しかし、仲間が欲しいと心から思うことはなかった。

 独りのほうが気楽だ。

 そして、失った時に悲しむこともない。


 放尿を終え、家に戻る。

 今日も肌寒かった。

 十二月を目前にし、寒さが本格的になりつつある。

 寒いのは嫌いだった。


 とはいえ、夏の暑さも考えものだ。

 太陽光発電で賄うとはいえ、無尽蔵にクーラーは使えない。

 生命維持に肝心な水分補給も思うようにはできない。

 いずれにせよ、この世界で楽に生きることは諦めねばならなかった。


 そんなことを考えながら階段を上がり、自室に戻る。

 飲みかけのペットボトルの茶を流し込み、椅子に座った。


 机の上には街の地図が広がっていた。


 この街は四つの地区で構成されている。

 東部は市街地で、官庁や大規模商業施設が並ぶ街の中心部。

 西部はいわゆる郊外で、田畑や大きな公民館があるのどかな地域。

 北部は住宅街や店舗が並ぶ生活区。

 南部はかつて都市開発の対象で、新設の小学校や病院がある途上区。


 少年の家は北部の住宅街に位置する。

 生活区というだけあり、多くの店舗が並び、駅やバスターミナルといった交通網も充実していた。

 それも今では歩く屍と死体に支配された廃虚と化している。

 電車やバスが動くこともなく、ただ荒れた姿を晒すだけ。


 少年は地図にいくつか印を付けた。

 一度も探索していない地域や保有者が多く存在する地域、設営した予備拠点。

 それぞれを分かりやすく分類していく。


 少年の活動範囲は主に北部に限られ、その他の地域に行くことは稀だ。

 しかし、いずれは探索の必要性が出てくるかもしれない。

 こまめに情報を整理しておく必要がある。

 そのことから、週に一度は地図を確認し、記入を行っていた。


 いわば、今後の活動の指標となるものだ。

 情報は更新しなければならない。

 古い地図を使い続けているようでは駄目なのだ。


 地図を見る限り、未探索の地は多い。

 物資の在り処や敵性生存者の有無を確認するという意味でもやることは山ほどある。


 ――退屈するよりはいいか。

 少年は静かに地図を畳んだ――。







シャベルと言えば胡桃ちゃんですね。

次回からもう一人の重要キャラメインの話になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ