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終末ぼっちは生き残り少女と話したい  作者: ヒトのフレンズ
第1章 終末ぼっちは殺したい
13/77

第12話 名前のない終末

また少年パートに入ります。

10~11話と関連するので比較していただければと。


 



 少年は、店舗が居並ぶ通りを歩いていた。


 今日の目的は書店の探索。

 暇潰しと情報収集のために書籍を回収する。

 一見馬鹿らしい理由だが、この世界では侮れない。

 有り余る時間を潰すことは、案外難しいのだ。


 住宅地に程近い店舗街。

 目的の書店はもちろん、スーパーやファストフード店もある。

 そのスーパーは、前回の探索で保有者相手に大立ち回りを演じたところだ。


 放置された車が多く、中には機動隊の車両もあった。

 それだけ混乱が激しかった地帯だ。

 この通りには比較的多くの保有者が潜伏している。


 少年の握る斧は血に汚れていた。

 家を出てから既に四体の保有者を殺している。

 乗ってきたマウンテンバイクは通りの向こうに置いてあった。

 自転車は速いが、咄嗟に現れた保有者に対応できない。


 書店に向かって歩いていると、トラックが見えた。

 足音に反応したのか、車体の下から手が伸びている。

 遅れて保有者が顔を覗かせた。


 足首を掴もうとしてくる。

 少年は左足を上げてそれを避け、力一杯踏み付けた。

 保有者の手首が音を立てて曲がる。


 そのまま膝を付き、保有者を引きずり出した。

 髪を掴み、斧を叩き込む。

 側頭への一撃が致命傷となり、動かなくなった。


 這っている保有者は危険だ。

 特に車の下に潜んでいる場合は、気付きにくい。

 不意に足を掴まれたり、噛まれたりしてしまう。


 近くには乗り捨てられた自転車が転がっていた。

 この自転車の持ち主もこの屍に襲われたのだろうか。

 少年はそんなことを想像しながら、書店に向かった。


 書店の正面入口は封鎖されていた。

 倒された商品棚と台車で、内側から塞がれている。

 何者かが保有者の侵入を防ごうとしたのだろう。


 バリケードの隙間から、死体が見えた。

 床に身を投げ出した機動隊員。

 広がった血はそれほど固まっていない。


 ――生存者。

 心臓が一回、どくんと高鳴った。

 今も生存者が潜伏している可能性がある。

 可能性は低いと分かっていても心に動揺が走る。

 この感情は期待か、恐怖か。


 斧を仕舞い、腰のホルスターに手を掛ける。

 乾いた唇を舐めながらP228を抜いた。

 素早くチャンバーチェックを済ませ、侵入経路の探索に入る。


 拳銃を握りながら裏手に回った。

 従業員用の入口。

 銃口を上げながらドアノブに触れる。

 鍵は掛かっていない。


 そっと息を吐く。

 緩やかな緊張が身体を包んだ。


 生存者は保有者以上に危険な要素がある。

 まずは知能だ。

 保有者には僅かな記憶しか残っておらず、大した知能はない。

 しかし、生存者にはそれがあり、戦略を練ることができる。


 また、武器が使えるというのも大きな問題だ。

 保有者は武器を使うことができない。

 そのため、攻撃は近接格闘に限られる。

 しかし、生存者は遠距離から銃器を用いることが可能だ。


 ――行くぞ。

 ドアを開き、流れるように突入した。

 銃口を上げ、素早く確認する。

 人影はない。


 店舗の端から着実に検索(クリアリング)していく。

 通路の広さや商品棚の位置に応じてP228を巧みに操る。

 拳銃の構え方は一つではない。

 状況に応じてスタンスを変えるのだ。


 結局、店内に生存者はいなかった。

 残っていたのは、一体の亡骸と足跡だけ。

 生存者は既にここを出たようだ。


 拳銃を仕舞い、死体の様子を窺う。

 ヘルメットや防護衣を身に着けた機動隊員。

 顔面は傷だらけで面貌すら分からない状態だ。


「刃物か……」

 傷口を見て呟いた。

 その証拠に、傍らには刃の曲がった包丁が残されている。


 ――素人だな。

 明らかに殺しに慣れていない。

 我を忘れて何度も繰り返し刺したのだろう。

 刺創や切創の数が過剰だった。


 また、死体の脇に溜まった黄色い液体もそれを裏付けている。

 胃液だ。

 殺した後、死体の惨状を見て吐いたことが想像できた。


「つい最近だな」

 死体は一切腐敗の様子がない。

 血液も乾ききっていなかった。


 つまり、この街に”誰か”がいる。

 心臓がどくんと鳴った。

 得体の知れない高揚感が押し寄せる。


 相手が素人なのは、ある意味でプラスの要素になる。

 万が一敵対することになっても、熟練者よりはましだ。

 しかし、大きな懸念事項が、死体のホルスターだった。


 死体の脇に放られたベルト。

 いわゆる帯革というもので、警察官の装備が吊られている。

 そのホルスターに拳銃が収まっていないのだ。


 この生存者が拳銃を持ち去った蓋然性が高い。

 拳銃は素人がそう簡単に扱える物ではない。

 しかし、閉所での戦闘では危険度が格段に高くなる。

 距離が近いため、“撃てば当たる”という状況が生起されやすいのだ。


 その他に、興味深い点が二つ。

 一つは床に残された血の足跡だ。

 従業員入口の方に続いている。


 人間が歩いたならば、靴の痕があるのは当然だ。

 しかし、その脇に付き従うように、猫の足跡があった。

 つまり、この生存者は猫を連れている。


 もう一つは脱ぎ捨てられたパーカーだ。

 死体から少し離れたところに置かれていた。

 返り血に染まって不快な匂いが漂う。


 パーカーからは人物像を推測することはできなかった。

 性別も年齢層も分からない。

 吐いた痕跡と猫の足跡が推測材料だ。


 ――どんな奴なんだ。

 吐くほど戦闘に不慣れ。

 そして、猫を帯同。

 とてもこの世界に似つかわしくない。


 少年は、胸がざわつくのをはっきりと感じた。

 脅威に対する不安だけではない。

 言葉にできない感情が湧いていた。


 仲間に関心はない。

 しかし、久し振りに見た生存者の痕跡は、確かに心を揺さぶっている。

 認めたくはなかったが。


 ポーチから地図を取り出す。

 この書店を探し出し、印を付けた。

『生存者。拳銃所持、猫』

 更に書き記し、ポーチに仕舞った。


「どうしようもないな……」

 少年は呟いて立ち上がった。

 これ以上考えても仕方のないことだ。


 本来の目的である書籍の回収に入る。

 見たところ、本が持ち去られた様子はない。

 まずは漫画のコーナーに向かった。


 ルール5『ゾンビ作品に学べ』

 ゾンビや終末に関する作品には、“一定のお約束”が存在する。

 それらを現実に応用することができるのだ。

 また、生活や戦闘に関する新たな知見を得られるかもしれない。


『しゅうまつぐらし!』の十巻を手に取る。

 近所の書店には十巻以降がなかった。


 少年が一番気に入っているシリーズだ。

 女子高校生たちが協力して、歩く屍の闊歩する世界を生き残るというストーリー。

 心理描写に厚く、思わず今の状況と重ねることもあった。


 そもそもは、かつての仲間であり幼馴染の三笠莉沙から薦められた作品だ。

 懐かしい思い出が詰まったものである。

 十巻から最終巻までを取り、リュックに仕舞った。


 続いて『アンデッド・バット』を取った。

 これは最近知ったばかりの作品だ。

 歩く屍や死生観に関して異なる価値観を持つ登場人物たちの葛藤を描いている。

 まだ持っていなかった二巻と最終巻を回収した。


 それから、漫画コーナーを後にし、特設コーナーに向かう。

『防災・感染防止特集』と記されたボードが掲示されていた。


 変異型狂犬病の存在が発覚してから、それに関する様々な書籍が発売された。

 有名な大学教授が書いた専門的なものから胡散臭い新書まで。

 また、防災やサバイバルに関する本も注目を集めた。

 ここでは、そういったものを集めてあった。


『しゅうまつぐらし!』の一巻が置かれているのを見て苦笑しつつ、専門書を取った。

『変異型狂犬病の基礎と対策』

 国立大の教授が書いたものだ。


 開いて簡単に流し読みする。

 欧米の事例を基に比較的分かりやすい言葉で書かれていた。

 保有者の生態に関する記述も見られる。


 ――これはいいな。

 これもリュックに詰めた。


 最後に小説のコーナーに向かった。

 そこでも、何冊か回収した。


 ――こんなもんでいいか。

 リュックはかなり重くなっていた。

 収穫は申し分ない。


 生存者の存在を知ることができたことも大きな利益だ。

 まさか、身近なところにいるとは……。

 今後、情報収集を進めなければならない。


 しかし、当分は読書をしたかった。

 この数日、保有者との戦闘が多かった。

 いくらその義務があるとはいえ、休息は重要だ。


「今日明日はのんびり読書だな」

 少年はそう呟き、死体が残された書店を後にした――。







少年が見付けた死体とパーカーは11話に登場した少女によるものです。

また、架空の書籍が登場しましたが、元ネタがあったりなかったりするので知ってる方はニヤニヤして下さい。

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