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俺の辞書に『優しい』という言葉はないっ!!

作者: 作花 恋凪

太陽系から何億光年も遠く、遠く離れたある銀河に、地球と似たような環境の星があった。


そこには、〝人間〟は存在していないが、限りなく人間に近い容姿をした生物が暮らしていた。


地球だと〝異世界〟といわれる、魔法や魔術が当たり前の世界。数百年前にそこでは、1人の魔王が世界征服を成し遂げたそうな。


名を〝アグドゥ・シス・ドルマ〟といい、今の政権は孫の〝アグドゥ・ミル・アギン〟が担っていた。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


──今日も、最悪な1日が始まる。

世界征服を成し遂げて、先の未来に希望を描いたあの頃が懐かしい。

もしタイムマシンがあるなら、あの頃の自分に、俺はこう言うだろう。


『悪いことは言わないから、世界征服だけは絶対にするな。』


ガッシャアァ~ンッ!!


城のどこかで、なにかが割れる音がした。

いつものことながら、嫌な予感がする。というか、嫌な予感しかしない。


音のした方に行くと、案の定。花瓶の割れた残骸と、花瓶の中の水と花びらを被ったメイドがいた。


「ごっ、御隠居様!!申し訳ありません、御隠居様の大事な花瓶を……」


俺を見たメイドは、即座に俺に謝ってくる。


「……下がれ。」


俺は一言言い残すと、花瓶の残骸を片付け始めた。……あぁ、よりによって、俺が1番大切にしていた花瓶じゃないか。


メイドは、俺に声をかけられると、一瞬何かを言いかけたが、申し訳なさそうにしながら、頭を下げて下がっていった。


こうなる可能性があるなら、もともと花瓶なんて触らなければいいものを。てか、まずメイドなんて雇わずに暮らしていければいいんだよな。……はぁ。せっかくの朝が、台無しだ。


~*~*~*~


昼。城の中が嫌になった俺は、城下町に出掛けた。まぁ、嫌になるのも、昼に城下町に出掛けるのも、いつものことだが。


魔王の座から降りたというのに、城下町に出掛ける、というだけでも馬車に乗り、護衛が必要だなんて、意味がわからない。それも今日は、現魔王である俺の孫、アギンも一緒で、一層護衛が厚い。


馬車の外では、城下町に住んでいる人たちが馬車に向かって手を振っている。祖父である私から見ても、アギンの人気はすごいものだ。まぁ、俺と違って性格がよく、人懐っこいからな。


護衛なんていなくても、なにかあったときは1人でなんとかできる強さが十分にあるというのに。本当にイライラする。


そう思いながら外の景色を見ていると、女子供2人組が、馬車の近くを通り過ぎようとした。


……おいおいおい、こっち見えてんのか?いや、見てねぇな。……ちっ。


「おい……お前ら、止まれ」


俺が馬車の中から声をかけると、女子供2人組が止まり、こちらを見る。そこでようやく、馬車の存在に気づいたらしい。


俺の顔を見た2人組のうちの1人は、漫画のように顔を一瞬で青ざめさせると、


「御隠居様!?もっ、申し訳ありませんでしたっ!!」


そう言い残して、足早に去っていった。


「おじいちゃん、今日も優しかったねぇ!」


子供が、何か変なことを言っているのが聞こえる。……今日"も"?アギンのことか?


これだから、女子供は嫌いなんだよ……なに考えてんのかわかんねぇし。俺を見ると、すぐに俺から離れようとする。俺は、お化けじゃねぇんだぞ?


ほんと……城でも、城の外でも。世界征服を成し遂げてから、俺が落ち着いて過ごせる場所なんて、ありゃしない。


だから、俺は世界征服したことを、全力で後悔してるんだ。


~*~*~*~


夜。城に戻ってきた俺は、自分の部屋で本を読みながらまったり過ごしていた。

どこにも俺が落ち着いて過ごせる場所はないが、俺の部屋は1番マシに過ごせる場所だと思う。


そんな、俺の唯一の至福の時間を邪魔するノックの音が聞こえた。


コンッコンッコンッ


このノックの仕方は……


「アギンだな。……入れ。」


俺がそう言うと、「失礼します」と言いながら、アギンが部屋に入ってきた。俺なんかといて何が楽しいのかわからんが、こいつはしょっちゅう、夜に俺の部屋へ来る。


アギンは俺の前のソファに座ると、少し笑いながら俺に声をかけてきた。


「ドル様。今日もまた、ドル様にとっては最悪の1日だったんですか?」


「……当たり前だ。俺は逆に、こんな環境で平気で暮らせるお前の神経がわからないよ。というか、なぜお前はいつも、俺の部屋へ来る?お前だって本当は、自己中で、冷徹で、無情な俺のことが嫌いなんだろう。……お前の父親に、何か言われているのか?」


俺がそう聞くと、アギンは口を大きく開けて笑いだした。なんなんだ?急に。


「自己中で、冷徹で、無情?ドル様、何をおっしゃってるんですか?ドル様は、ただ優しさが不器用すぎるだけでしょう?」


……はっ?こいつ、何を言ってるんだ?


「アギン……お前、正気か?」


「……今日の朝、メイドが花瓶を割ったそうですね。メイドから聞きましたよ。『御隠居様は〝下がれ〟と一言だけ言って、花瓶の残骸を片付けておいででした』って。」


俺は朝の出来事を思い返しながら、聞いた。……そういや、そんなこともあったな。


「メイドが花瓶の残骸でケガをしないように、『下がれ』って言ったのではないですか?あのメイドは、『直接は言えないですが、優しい方ですよね!』って言ってましたよ?」


「いや、だが」

「それに」


「城下町で女性2人に声をかけたときは、彼女たちが馬車に気づかず、轢かれそうだったからですよね?『おじいちゃん、今日"も"優しかったねぇ!』って、聞いてなかったんですか?」


んなわけねぇだろ。そんなの全部、お前の妄想だ。


そう言おうとしているのに、口が開かない。……アギン、俺に口を開かせない魔法でもかけたか?


「ほら。……ドル様は、とてもとても、お優しい方なんです。そろそろ、自分に正直になったらどうですか?」


「……うるせぇよ。ほら、もう出ていけ。」


そう返すので、精一杯だった。


俺が、〝優しい〟──?そんなの、絶対認めないからな。


あぁ、イライラする。本当に、世界征服なんて、しなければよかったよ。

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