第93話 歓迎
「さぁ、みんな並んで」
オルクを見たことで石化した玲奈と幸であったが、少しして復活した。
その後、帰ってきたキルスの兄弟たちも揃ったとして、現在リビングにてキルスを含む兄弟13人と祖父母たるフェブロとアメリアの2人が集まっていた。
そうしたなかエミルの号令のもとキルス達兄弟が生まれた順に並んだ。
「まずは、おじいさん、おばあさん、初めまして」
そういってエミルが頭を下げると、他の兄弟たちも一斉に頭を下げた。
「あらあら」
「うむ」
孫たちが一斉に頭を下げた様子を見てアメリアとフェブロの2人は笑みを浮かべている。
「私は長女のエミルです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく、それにしても、エミルちゃん、本当に綺麗ね」
「ああ、ワシの孫とは思えん」
エミルの美しさにため息を1つこぼすアメリアと、自分の血を引き継いでいるとは思えないというフェブロであった。
その後、兄弟が順々にエミルの紹介を受けて祖父母に挨拶をしていった。
「最後が、末っ子のサーランです。ほら、サーラン、おじいちゃんとおばあちゃんよ」
エミルは最後に自身が抱えていた末っ子のサーランをアメリアに手渡しながら紹介した。
「まぁ、まぁ、可愛いわ。こんにちは、サーランちゃん、あら、笑っているわ。ほら、見て、あなた」
「うむ、笑っておるな。おお、そうかそうか」
孫たちを相好を崩していたフェブロとアメリアであったが、最後のサーランを見てさらに崩した。
もし、その顔をフェブロのかつての部下や、息子たるファルコが見たら同一人物だと特定は出来ないだろう。
「まぁ、確かに、サーランちゃん可愛いよね」
「はい、かわいいです」
これまでの様子を見ていた玲奈と幸もサーランの可愛さにすでに参っていた。
その後祖父母と戯れる弟妹達を見つつキルスは玲奈と幸のもとに向かった。
「もう少ししたら2人にも紹介するよ」
「うん、ありがと」
それから、少ししてからキルスが兄弟たちに玲奈と幸の2人を紹介した。
それを受けたキルスの兄弟たちは当然の如く2人を新たな家族として受けいれた。
その日の夜は歓迎会が催された。
その主役はもちろん祖父母たるフェブロとアメリアであるが、そこに玲奈と幸も含まれていたことは言うまでもない。
その際ついに玲奈と幸はキルスの父ファルコと対面したのだが、2人は驚いたものの悲鳴を上げることはなかった。
それというのも、玲奈は現代日本とほぼ同じ世界から来たために、テレビや映画などを通して強面と呼ばれる俳優を幾度となく幼いころより見てきた。
そして、彼らは顔が怖いだけで実際は優しいということを聞いていたし、バラエティ番組などを通して見てきた。
そのために、キルスからファルコは超強面だが、小心者で優しいことを聞いていたこともあり一切怖いという感情が出なかったのだ。
また、幸は、キルスがいた世界でいう江戸時代の少女テレビなどないのでそういったところはこの世界の人々と同じといってもいいだろう。
しかし、お世話になっているキルスの父親ということもあり、怖いからと悲鳴を上げるのは失礼に当たるとして、何とかこらえたのである。
そんな2人の様子に当のファルコは驚きつつも大いに喜んだ。
そんな新たな家族を迎えたキルス達であったが、その翌日はキルス達の休日である。
キルス達はいつもの如く朝から教会に向かいエリエルに感謝の祈りをささげると同時に、教会の掃除などの手伝いをして過ごしていた。
「これって、毎週やってるんだよね」
ほうきを片手に玲奈がキルスに尋ねた。
「ああ、昨日も言ったけど、俺が魔王や邪神にならなかったのはエリエル様のおかげだからな。それを感謝するってんで、昔から来てるんだよ」
「へぇ、そうなんだね。あたしたちもエリエル様には感謝してるしね」
「はい、翻訳スキルというものを頂いたおかげで、こうして皆さんとお話も出来ますから」
玲奈も幸もこれについては本当に感謝していた。
だからこそ、今もこうして教会の掃除を行っているのだ。
「そういえば、こうして教会に来てるのってあたしたちだけだよね」
「ああ、それはな……」
玲奈と幸はあたりを見渡して、教会に来ているのがキルス一家だけであることを不思議に思っていたので、キルスはこの世界での宗教観を話した。
そうして過ごした午後、キルスは玲奈と幸、エミルとニーナ後はラナと街に繰り出していた。
「それじゃ、まずは服かしらね」
エミルがそういった。というのも玲奈と幸は着の身着のままでこの世界に転移してきた。そのため衣服はもちろん生活必需品の類も一切持っていない。
そういう理由もありエミルを筆頭に年長女性陣が玲奈と幸の買い物に出かけることになったのだ。
そして、キルスはというと、荷物持ちとして駆り出された。
とはいえ、実はエミルもキルスからマジックバックを受け取っており、キルスがいなくとも問題なく荷物を持つことができる。
しかし、だからといって玲奈と幸という自分たちとは別の世界から来た少女たち、そしてその少女達とキルスは別とはいえ、よく似た世界ということで彼女たちとの齟齬を埋めるために連れられてきた。
「はい、お願いします」
玲奈は元気よくエミルに返事をした。
「よ、よろしくお願いいたします」
幸は少々委縮しながらエミルたちに頭を下げたのであった。
「ふふっ、任せて、それと、さっちゃん硬いよー」
丁寧に頭を下げた幸を見てニーナがあまりの硬さに背後から抱きしめながらそういった。
こうして、唯一の男であるキルスをよそに女性陣の買い物行脚が始まったわけだが、キルスにとっては大いに疲れる日となったのであった。
それというのも、服屋に入ればことごとくキルスに似合うかどうか聞いてきたというのがあるだろう。
おかげで、キルスはその日『いいんじゃないか』という言葉を数えきれないほどいう羽目となった。




