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第88話 次元の歪

「あっ、キルにーちゃ」

「おかえりー」

「おう、ただいま」


 キルスが野営地に戻ると、それを見つけたキャシアとミレアがキルスに向かって走ってきた。


「? このおねえちゃんたち、だーれ」


 とそこでキルスの隣にいる見慣れない2人に首を傾げながら誰か尋ねてきた。


「先ほどの悲鳴の主か、ずいぶんと珍妙な恰好をしているようだが」


 そこにゆっくりと歩いてきたフェブロがそういいつつキルスに尋ねた。


「ああ、この2人はなんていうか、異世界からやって来たんだ」

「異世界? それって、キルス、お前が元にいたという場所か」


 キルスは祖父母にも自身が転生者であることを話していた。

 というのも、フェブロのところにいた1週間の間にまだちゃんと理由がわかっていないキャシアとミレアがいつものように教会に行こうとした。

 それを受けたフェブロとアメリアが不思議に思うキルスに尋ねたのだ。

 そこで、キルスは自分が前世の記憶を持ってきていること、エリエルに助けられなかったら魔王、もしくは邪神として誕生していた可能性があることを話したのだ。

 それを聞いた、2人は当然我が孫のこと、ということでハエリンカン王国に対しての怒りとエリエルに対する感謝を覚えたのであった。


「そうだよ。この2人は俺が元にいた、召喚される前にいた世界から転移してきたんだと思う」


 キルスが確信を持ってそういえなかったのは、ここに来る最中の話しの際に、通じない部分があったことが原因だ。


(ここら辺はエリエル様に確認を取る必要がありそうだよな。ていうか、もし地球からの転移者だとしても、無理なはずなんだけどなぁ)


 地球はエリエルとは別の神が管理している世界だ。その違う神が管理している世界間の移動には魂そのものにとんでもない負荷がかかる、そのため通常転移するなんてことはありえない、キルスはエリエルからそう聞いていた。

 ちなみに、キルスとシルヴァ―は無理やりの召喚と神同士が行っている魂の交換により地球からエリエルの世界にやって来たのだった。


「やぁ、キルス君久しぶり」

「うぉう、エリエル様!」


 キルスがエリエルのことを考えていたからか、木の陰からそんな陽気な挨拶とともにエリエルが降臨した。


「なに、エリエル様、はっ」


 そんなキルスの言葉とエリエル本人、本神を見たフェブロはすかさず片膝を付いて跪いた。

 そして、そんなフェブロを見てアメリアも同じく跪いた。


「えっ、誰?」


 その様子を見てただ事じゃないと思った玲奈はキルスに小声で尋ねた。


「エリエル様、この世界を管理している神様だよ」

「えっ、神様、まじで」

「かっ!!」


 神と聞いて玲奈は驚愕しつつわずかに興奮した。

 その気持ちはキルスにはよくわかった。

 一方で、幸は神と聞き、真っ青にしつつ土下座状態に入った。

 まるで大名行列を見た町人のような姿であった。


「ああ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。そもそも、玲奈ちゃんとさっちゃんには僕が謝らなきゃいけないしね」

「謝る? 何をですか、もしかして、転移のことですか」

「うん、そうだよ。正確には転移とは違うんだけどね。君たちの転移は僕たち神にとっても想定外のことなんだ」

「想定外、ですか」

「そう、僕たち神が世界を構築するとき、まず空間を作るんだ。そこに時間の概念を生み出すことでその空間の時が動き出す訳なんだけど、そうして生み出された空間には、時たま次元の歪と呼ばれるものが出来てしまうことがあるんだ」

「次元の歪、何ですかそれ」


 玲奈が尋ねた。今現在エリエルと話しが出来るのは元からエリエルと知り合いであるキルスと、現代人である玲奈だけであった。


「うん、これの説明はすごく難しいから今回は省くけど、これに人が巻き込まれると、次元の間に囚われてしまうんだ。といっても、滅多に起きることじゃないよ。1つ世界の生涯において数度有るか無いかといったところかな。それに起きたとしてもそれに生き物が巻き込まれること自体が普通は起きないからね。だから、僕としても想定外ってわけ」

「ということは、あたしたちはそれに巻き込まれたということですか」

「そういうことになるかな。だから、君たちのことは想定できなかったとは言え僕たち神の管理責任なんだ。だから、こうして、直接謝りに来たんだ。ごめんなさい」


 そういってエリエルは玲奈と幸に対して頭を下げた。


「いえ、そんな、頭を上げてください」


 神が頭を下げたものだから玲奈もさすがに戸惑った。


「あれっ、でも、エリエル様、次元の間に囚われるのに、なんで2人ともここにいるんですか」


 ここで、キルスがそんな疑問を投げかけた。


「ああ、それはね、キルス君とシルヴァ―君のおかげなんだ」

「俺たちの、どういうことですか」


 玲奈と幸がここにいるのがキルスとシルヴァ―のおかげ、一体どういうことなのか、キルスには意味が分からなかった。


「前にも言ったけれど、キルス君とシルヴァ―君の再会は僕たちにとっても奇跡的な物だった。その奇跡がよく似た世界の住人だった玲奈ちゃんとさっちゃんの魂の目印になって僕のこの世界に偶然出てくることが出来たんだ」


 普通なら次元の間に囚われて救出は神であっても不可能という、つまり、玲奈と幸はキルスとシルヴァ―の再会という奇跡が起きたからこそ、次元の間から出てくることができたという。


「……」


 話を聞いた玲奈は絶句した。


「まさか、俺たちの出会いがなぁ。んっ、ちょっと待った」


 ここにきてキルスがあることに気が付いた。


「エリエル様、今、よく似た世界って、もしかして、俺たちって別の世界なんですか」

「えっ、そうなの」


 玲奈も驚いていた。


「そうだよ。ほら、これも前にキルス君には話したと思うけど、僕たち神っていうのは無数にいるんだ。それこそ僕も把握していないほどにね。ほんとに無数なんだ。そして、その神々がそれぞれ僕もそうだけど複数の世界を管理している。となると、どうしても、偶然よく似た世界というものが出来てしまうんだ」


 エリエルによるとそれは、ほんの些細なちがいしかないような世界がそれこそ複数存在している。だから、地球とよく似た世界というものも複数あるのだという。


「それに、中にはわざと自分が管理している世界をすべて同じような世界にする神もいたりするしね。ほら、僕もやってるでしょ」


 エリエルはそういってキルスを向いた。


(言われてみれば、俺を召喚したあの世界とこの世界って似てるよな。まぁ、この世界には召喚はないし魔王もいないけど、魔法体系は同じだしな)


 キルスは内心そう納得していた。


「あ、あの、あたしたちって元に世界に帰れたりは……」


 玲奈は無理だろうと思いながらもそう尋ねなければならないと思った。


「うーん、ごめんだけど、無理かな。僕としても返してあげたいけど、魂に負荷がかかり過ぎて、消滅してしまう可能性があるからね」

「そうですか」


 それを聞いて玲奈と幸はがっかりした。

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