第87話 異世界転移
「大丈夫か……えっ」
キルスは助けた少女を確認しようと振り向いたがその少女を見た瞬間固まった。
というのも、この少女少し茶色がかってはいるが黒髪と黒目、ここまでだったらこの世界でもいないことはない、むしろ黒髪はそれなりの数いるし、黒目も少ないがいることは居るからだ。
なら、なぜここまで衝撃を受けたのかというと、それはその服装であった。
首元の赤いリボン、わずかな隙間から見える薄いブルーのブラウス、胸元に丁寧な刺繍により描かれた何らかの模様があしらわれている濃紺のブレザーに、プリーツの入ったスカートを身に付けていたのだ。
それは、まさに、キルスにはものすごく見覚えがあった。
(なんで、こんなところに女子高生がいるんだよ)
そう、明らかに日本で見た女子高生そのものであった。
「あ、ありがとう、助かったよ。あれっ、ああ、そっか、言葉通じないよね」
女子高生は少し落ち着いたのか自身の状況を素早くつかみ、キルスにお礼を告げたが、キルスが固まったままだったのを言葉が通じないとして、困っていた。
一方キルスはますます混乱していた。それはそうだろう、女子高生から聞こえた言葉はやはりというべきか、日本語だったのだから。
「なっ……」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
「えっ、な、なに、悲鳴」
キルスが女子高生になぜここにいるのかを聞こうとして口を開いたその瞬間再び悲鳴が聞こえてきた。
(今度はなんだ)
立て続けに響く悲鳴、キルスは嫌な予感がした。というのも、この場所は街はおろか村もない場所、だからこそキルス達は夜営をしたわけだ。
そんな場所に立て続けに女性の悲鳴が響くというkとはありえない。
となると、この女子高生のこといい、おそらくと、ある予感がしてならなかった。
「ちっ、動けるか」
「えっ、う、うん」
言葉が通じないと思っていたキルスが自身がわかる言葉を発したことに戸惑いつつ、今はそれどころではないと思い返事をして立ち上がった。
「じゃぁ、いくぞ、ついてきてくれ」
「わ、わかったわ」
そうして、2人は悲鳴が聞けた場所に向かって走り出した。
といっても、キルスだけならまだしも普通の女子高生が一緒にいる以上本気で走るということは出来なかった。
だからといって、この女子高生をあの場所においていくという選択はキルスには当然なかった。
それでも、悲鳴が聞こえた場所は幸いというか、そこまで離れていなかったこともあり、すぐにたどり着くことができた。
「えっ」
「まじかよ。くそっ」
再びキラーボアに襲われている少女、しかし、その少女を見た2人は一瞬驚愕した。
「まずはあっちか」
戸惑っている場合ではないと今見た光景を一瞬忘れると、すぐにキラーボアに肉薄し、再びエスプリールを持ってキラーボアを瞬殺して、すぐにその死体をマジックストレージに収納し、少女を見た。
(今度は、着物かよ。しかも、どう見ても、江戸時代って感じだよな)
改めて少女を見ると、少女は先ほどの女子高生に声を駆けられていたが、キルスはその少女の姿を見て嘆息した。
というのも、この少女、やはり漆黒とまで言えそうな黒髪で黒目、さらにその服装は着物であった。しかも、その着物は正月などで着るような物ではなく、明らかに普段着として来ているとしか思えない物であった。
「どうなってるんだ。意味が分からないんだが」
キルスはもう一度ため息を着くと、ゆっくりと2人の少女に近づいていった。
「えっと、2人とも大丈夫か」
「うん、大丈夫、あなたは」
「だ、大丈夫です」
「そうか、なら、よかったけど、なんで、ここに」
「さぁ、わからない、あたしは家に帰る途中だったから、住宅街にいたはずなんだけど」
こんな森の中ではなかったと女子高生がそういった。
「私は、その、お使いでお届けものをした帰りでした。このような森は知りません」
女子高生の方はこういうことが理解できているのか、そこまで戸惑っていないが、着物少女の方は意味が分からないとかなり戸惑っていた。
「なるほどね。転移か」
「だよね。ここ、異世界だよね。ねぇ、ここってどこ?」
キルスがそうつぶやくと女子高生が嬉しそうにそう尋ねてきた。
「転移、転移とは何でしょうか、それに、ここは? 早く奉公先に戻らないと、いけないのですが、どう行けばよろしいのですか」
着物少女はますます混乱して早く戻りたいとキルスに告げる。
「ああ、ここはエリエルって神様が管理している世界でアーベイン、そこのトラベイン大陸の南東に位置しているキリエルン王国って国だよ。あと、残念だけど、多分元の世界には帰れないと思う」
「アーベイン? すごっ、ほんとに異世界なんだ」
「異世界、異世界とは何でしょうか、それに、帰れないとはどういう、困ります」
女子高生は嬉しそうに興奮し、着物少女は混乱の極みとなっている。
まさに、両者全く違う反応だ。
女子高生の反応は、やはり彼女の周りでも異世界物の小説がはやっていたり、憧れみたいなものがあったのが理由で、着物少女の方はそもそも異世界という言葉自体が存在しない、日々生きることに必死なところから来たことが原因だ。
「そういわれても、俺も困るが、これはエリエル様本人? 本神か、まぁ、とにかく聞いた話だからなぁ。俺には何とも……」
「そ、そうですか、すみません」
「いや、謝ることじゃないって」
「そうだよね。確かに帰れないのはきついけど、けど、せっかくの異世界だものに楽しまなくっちゃ、あれっ、そういえば、あなたはなんで、そんなことを知ってるの」
ここで、女子高生が今更ながらそのことに気が付いた。
「ああ、そのことか、簡単な話だよ。俺は、この世界に異世界転生したからな。元の名は蓮山護人、今はキルスって名前で、冒険者をやってる」
ここで、キルスは自己紹介をしたわけだが、冒険者と聞き女子高生だけが興奮した。
「冒険者、まじで、すごっ、ほんとにいるんだ。ああ、ごめん、あたしは、美堂玲奈、見ての通り女子高生」
玲奈はそういって自己紹介をしたわけだが、キルスの思っていた通り女子高生であった。
「わ、私は、幸と申します」
着物少女、幸も自己紹介をしたのであった。
「そっか、玲奈と幸だな、よろしくな」
「うん、よろしくー」
「よろしくお願いします」
「えっと、それで、詳しい話は後でするとして、今は場所を移動しないか、向こうに俺の家族が待ってるから」
「家族、ああ、そっか、キルスは転生なんだよね」
「そういうこと」
そうして、キルス達はフェブロたちが待つ野営地に向かって歩き出した。
 




