第86話 帰路とまさかの出会い
キルス達が祖父母であるフェブロとアメリアに出会って一週間が過ぎた。
この一週間キルスはというと、予定通り冒険者ギルドの仕事をこなしていた。
といっても、その内容はどぶ川の掃除や、ごみ屋敷などの掃除などといった誰も受けないようないわゆる消化依頼であった。
というのも、ここコロッセロンは小さい街であり、周囲も弱い魔物しかいないような平和な街であるためにCランク向けとなるような依頼が存在しなかったのが理由だ。
普通の冒険者ならこの時点で別の街に移動するか、仕事自体をしなくなる。
だが、キルスはBランクに早くなりたいという思いがあり、ニーナからその方法として消化依頼をこなすことで実績を作ることができるようになると聞いていたために実践していた。
一方、キャシアとミレアはとにかくフェブロとアメリアに甘えた。
そんな孫娘たちに対してフェブロとアメリアもまた甘やかしまくった。
それを見たキルスはさすがに甘え過ぎではと思って少し注意したが、あまり改善しなかったのはある意味で仕方ないことだろう。
キャシアとミレアは生まれて初めての祖父母であり、大家族ゆえに両親に甘えるということがあまり出来ないからだ。
また、フェブロとアメリアにとっては、子供がファルコしかおらず、そのファルコが家を飛び出していたこともあり、孫という存在をあきらめていたところにやってきた孫娘。
2人にとって、キルスを含め可愛くて仕方なかった。
そんな一週間を過ごしたキルス達であったが、現在は街の外に出ていた。
「それじゃ、シルヴァ―頼む」
「バウン」
キルスの合図でシルヴァ―は縮小化のスキルを解き本来の大きさになった。
「わぁ、おっきー」
「シル、おおきいね」
「ほぉ、これが、フェンリル本来の大きさというわけか、確かにでかいな」
「ほんとね。まるで、山ね」
そんなシルヴァ―の大きさに一度見ているにもかかわらずキャシアとミレアが驚き。
フェブロがフェンリルの本来の大きさに感心し、アメリアが微笑んでいる。
ここはコロッセロンの外、近くの草原である。
そんなところにキルスとフェブロだけならまだしも、キャシアとミレア、アメリアがいる理由だが、それはキルス達がバイドルに帰るからだ。
そして、フェブロとアメリアは見送り、ではなく、実は2人もまたバイドルに行くことになったのだ。
というのも、先ほども言った通りフェブロとアメリアにとって子供はファルコ1人のみ、となると今後2人で静かに余生を暮らすのも悪くはないが、せっかく13人もいるのだから孫に囲まれた余生も悪くないと考えたのである。
しかし、そう考えた2人であったが、13人の子供とファルコとレティアに加え、シルヴァ―もいる。
また、オルクの婚約者であるラナまで一緒に住んでいるというその中に自分たちまで加わっていいのかということである。
そんな2人の懸念はキルス達によって払しょくされた。
キルスの家は確かに全部で16人と一頭、また週1で帰ってくるニーナを入れると17人と大家族だが、家はかつて冒険者であったレティアの稼ぎによりかなり大きい、さすがに全員が自身の部屋を持っているというわけではないが、余裕のある生活をしているのは事実である。
さらに、食堂も繁盛している上にキルスのマジックストレージにより食料も大量にある為にフェブロとアメリアという家族が増えたところで全く問題なかった。
それを聞いた2人はそれならと、意気揚々とバイドルに引っ越す準備を進めたのである。
そうして、今日は引っ越しの当日、シルヴァ―に乗りバイドルを目指すことになった。
「それじゃ、みんな乗ってくれ、キャシアとミレアは俺に捕まって」
「うん」
「つかまるー」
「爺ちゃんは婆ちゃんを頼む」
「うむ、任せろ、アメリア、しっかり捕まっておくんだぞ」
「ええ、お願いしますね」
それから、キルス達はシルヴァ―の背に飛び乗った。
その布陣はまず先頭にキャシア、その後ろに落ちないように支えるためにキルスが乗り、そのキルスの背中に掴まるのはミレア。
ミレアの後ろにミレアを支えるアメリアが座り、最後にそんなアメリアを支えるフェブロというものだ。
こうして、キルス達はコロッセロンを旅立った。
空を駆けるシルヴァ―の背に乗りキャシアとミレアはその高さにはしゃぎ、アメリアは最初こそびくびくとしていたがはしゃぐ子供たちに微笑みを浮かべている。
「これはまた、ここまでの速さであったとは、さすがはフェンリルといったところか、これならばすぐにでもバイドルに着けるわけか」
「ああ、このペースなら明日には着けると思うよ」
こうして、空の旅を楽しんでいるとあっという間に日が落ち始めてきた。
「ここらで、夜営にしようと思うけどいいか」
「そうだな。あそこあたりならいいだろう」
キルスの言葉にフェブロが賛同して、夜営地の提案をしてきた。
「そうだな。じゃぁ、シルヴァ―あそこに降りてくれ」
「バウン」
キルスの指示によりシルヴァ―が目的の草原に降り立った。
その後、キルスとフェブロによりテントが組まれた、テントは普段からキルスが使っている物とフェブロが所有している物の2つだ。
キルスが使っているものは1人用と小さいが、フェブロのテントは2人用で少々大きかった。
そこで、キルスのテントはキルスとミレアが使い、フェブロのテントをフェブロとアメリアとキャシアが使うこととなった。
その後、簡易で作った竈でアメリアが簡単な料理を作り、キルスがマジックストレージからファルコが作った料理を出すことで夕食とした。
そうして、5人はのんびりと夜営を楽しんでいた。
「夜営だというのに見張りがいらぬとはな、シルヴァ―には感謝だな」
「ほんとにね。シルヴァ―がいなかったら俺と爺ちゃんで交代で見張りをしなければならないところだったよ」
キルスはそういいつつシルヴァ―を撫でた。
「アウン」
キルスの撫でられてシルヴァ―は嬉しそうに吠えた。
「きゃぁぁあぁぁぁぁ」
その時だった、不意にあたり一帯にそんな悲鳴が響いたのだ。
「えっ、なに」
「悲鳴だと
「キルにーちゃ」
「な、なに、なに」
悲鳴を聞いたアメリアは動揺し、フェブロはすぐに臨戦態勢を取った。
キャシアはキルスにしがみつき、ミレアはアメリアにしがみつきながらびくびくしていた。
「大丈夫だ。爺ちゃん、2人と婆ちゃんを頼む、俺は見てくるよ。シルヴァ―もここを頼む」
「うむ、気を付けていけ」
「バウン」
キルスがシルヴァ―を置いていった理由は、悲鳴の声が明らかに女性だったからだ、そこにシルヴァ―のような大きな狼を連れて行ったらますます悲鳴を上げてしまうと考えたからだ。
ということで、悲鳴の聞こえた場所に向かったキルスが見たものはイノシシ型の魔物であるキラーボア、殺人イノシシとして普通の人間には最悪な魔物だが、危険度でいえばDであるためにキルスには余裕で倒せる相手である。
「まずいな」
キルスがたどり着いた時、キラーボアはすでによだれをたらしながら1人の少女に向かおうとしていた。
それを見たキルスは少女を確認する暇もなくキラーボアの前にエスプリートを構えて立った。
そして、突っ込んでくるキラーボアに対して、一閃、あっという間にキラーボアは真っ二つになった。
「あっ、あっ」
「ふぅ、大丈夫か……」
今だおびえている少女に無事を確かめるように振り向いた時、キルスはあまりの衝撃に固まってしまった。




