第82話 兄妹たち
キルスが兄妹たちからの手紙を取り出すと、フェブロとアメリアはその数に絶句した。
この世界において兄弟の数の平均は王侯貴族だと多いが、平民だと大体多くてもも3人程度、ほとんどが1人となる。
その理由は、簡単で経済的なもので、あまり子供が多いと生活が出来なくなるからだ。
それを考えると、王侯貴族でもないのに13人は多すぎる。
というか、王侯貴族でも13人も子供がいるなんてことはめったにいないが……。
「大丈夫なの」
アメリアは絶句した後、キルス達家族がちゃんと生活できているのかが心配になった。
「それなら、問題ないよ。母さんが元Bランクという高ランクだったこともあって、かなり稼いでいたし、それに家の店、食堂やってるけど、評判が良くてけっこう繁盛しているんだ」
「そうか、繁盛しているのか」
それを聞いたフェブロとアメリアはほっとしていた。
2人ともなんだかんだでファルコが成功していることに喜んでいるようだ。
「それにしても、ほんとに多いわね。どんな子たちなのかしら」
話を切り替えアメリアはキルスに兄弟たちのことを尋ねた。
「そうだなぁ、まず一番上のエミル姉さんだけど……」
キルスは手紙の中からエミルの手紙を取り出してエミルのことを話し始めた。
「姉さんは母さんとそっくりで、弟の俺から見ても美人で、性格が父さん譲りなもんだから、穏やかというかしとやかなんだよ。だから、街でもすげぇ人気で……」
キルスはエミルについて話を始めた。
「ほぉ、そんなに人気があるのか」
見たことがないとはいえ孫娘が街の人気者と聞いて、少しまなじりを上げるフェブロであった。
「姉さんも19だから、そろそろ考えてもいいと思うんだけどね」
エミルの年齢だとすでに結婚している者もいたりする。実際エミルの同い年の友人のうち数人がすでに結婚していた。
「でも、姉さんは俺たちの面倒を見るのが好きらしくて、考えられないみたいだよ」
「あらあら」
アメリアはそういって微笑んでいた。
「それで、次がオルク兄さん、兄さんは姉さんと同じで見た目母さん、中身父さんってところかな、だから兄さんも街では人気があるし、初めて兄さんを見た女性は大体が見とれているよ」
「あら、そんなにかっこいいのかしら」
「みたいだね。弟の俺にはよくわからないけど……」
キルスのこれは負け惜しみである。
「まぁ、そんな兄さんだけど、ついこの間まで、料理人になるための修行に出ていたんだ。その先が父さんの修業時代の先輩の店でさ、そこで婚約者見つけて、今うちで一緒に住んでる」
「ほぉ、婚約者か、となるとひ孫も近そうだな」
「そうね。楽しみだわ」
オルクに婚約者がいると知り、近々ひ孫が出来るかもしれないと、期待に胸を膨らませるフェブロとアメリアである。
(そういえば、バイエルンの、なんだっけ、ああ、そうそうアクレイド商会ってどうなったんだろうな)
オルクの話をしていてふとそんなことを思い出していたキルスである。
キルスは思っただけですぐにどうでもよくなったが、ここで、少しアクレイド商会のその後について語っておこう。
まず、アクレイド商会が行ったトルレイジ亭に届くはずだった商品の買い占めや営業妨害とも言える誹謗中傷。
これについては、この国にそれらを裁く法律がないためにおとがめなし、しかし、なんの証拠もなしにカテリアーナに語ったことはさすがに問題となる。
だが、これについてもカテリアーナ自身が問題としなかったためにとがめられることはなかった。
では、アクレイド商会はなんのダメージも受けていないのかというと、そうは問屋が卸さなかった。
というのも、カテリアーナがトルレイジ亭のハンバーグを食べたという事実が変化して、絶賛したという噂となり流れた。
それにより、トルレイジ亭でハンバーグを食べたいという者が続出。
それは当然それまでアクレツ亭に通っていた客も混じっていた。
また、アクレツ亭がアクレイド商会が経営している店であることは知られており、今回の件で信用を失ったことで、この際にと同じ客層をターゲットにしているトルレイジ亭に流れる客もまた出たことで、アクレツ亭は経営が成り立たなくなり閉店となった。
さらに、他の店も信用を失っていることもあり、ほとんどの客が来なくなり立ち行かなくなってしまったことで、縮小せざるを得なくなってしまった。
それを受けた経営陣もさすがにこれはまずいと成り、商会長であるザンゲフに責任を取らせ、早期に引退させた。
ということで、今現在アクレイド商会は別の経営者により細々とやり直している状態である。
閑話休題。
「3番目が俺で、次がロイタ」
オルクの話を終えたキルスは兄弟の順番に話を続けた。
「ロイタ君、ロイタ君はどんな子かしら」
「ロイタは、父さんの気が小さいところを色濃く受け継いだみたいでね。ちょっと人見知りとかもあって、俺たちもそこはちょっと心配なんだけどね。ただ、気が小さいからなのか、物事を一歩引いたところから見ていることもあって、例えば、家族のことで何かあった場合、ロイタに聞けば状況を説明してくれるんだよ」
「なるほどな。確かに、その性格は心配になるが、よく言えば大局を見ることができるというわけか」
「そういうこと。それで、次がキレル、キレルは目が父さんにそっくりなんだ」
「!!」
キルスがそういうとフェブロとアメリアが真っ青になった。
「だ、大丈夫なの」
「ほ、ほんとうなのか」
ファルコの目を知っているだけにかなり動揺している2人であった。
「あははっ、父さんもキレルが生まれたときあまりのショックで寝込んでたよ」
「そ、それはそうよ、だって、キレルちゃん女の子でしょ、女の子で、あの目は……」
ファルコが生まれたときあまりの凶悪な顔で同じくショックを受けたアメリアだからこそ、まだ見ぬキレルが心配でしかなかった。
「大丈夫だよ祖母ちゃん。確かに目は父さんにそっくりだけど、全体的には母さんの血が上手く仕事をしているから、あの目が逆にきりっとした印象になって、姉さんとは違う人気になってるよ。まぁ、主に同性にだけどね」
キレルの人気は主に同年代の同性からの物である。
「そうか」
それを聞いたフェブロはほっとしてそうつぶやいた。
その後、キルスは手紙を見せながら兄弟を1人1人紹介していくのであった。




