第80話 祖父母と孫
「はーい、どちら様」
キルスがドアをノックすると、そんな声を響かせながら扉が開いた。
そうして、出てきたのは、1人の60代の婦人であった。
「どちら、えっ」
出てきたところで、キルス達を見て訝しみ、シルヴァ―を見て固まった。
「ああ、えっと、ここはフェブロって人の家でいいかな」
「えっ、はい、フェブロは主人ですが、あなたたちは?」
フェブロというのはファルコの父親の名前、つまり祖父の名前であった。ファルコの言った通りの場所に今も住んでいたことに安堵しつつも先ほどの言葉を思い出す。
(主人ってことは、この人が俺のばあちゃんってわけか)
そう、このご婦人はフェブロの妻であり、ファルコの母親であり、キルスたち兄妹の祖母にあたるアメイラであった。
「まずは、これを、俺たちの父さんからの手紙です」
名乗る前にキルスは祖母にファルコからの手紙を取り出して渡した。
「手紙? あなたたちのお父さん? 誰かしら……えっ」
怪しみながらもアメイラは手紙を何気なく受け取り裏面に書いてある差出人の名前を確認して、再び固まった。
「これはっ、まさか、ファ、ファルコ? そんな、まさか、えっ、それじゃ、あなたたちは、えっ」
いい感じに混乱しているアメリアである。
「俺はキルス、それからこっちが妹のキャシアとミレア、初めまして、祖母ちゃん、ほら、2人とも挨拶をして」
「「うん」」
「はじめまして、キャシアです」
「ミレアです」
「あっ、あぁ」
キルス達が名を名乗り、キルスが祖母と呼ぶとアメリアの目から大粒の涙が流れてきた。
「だいじょぶ」
「おなかいたい」
その涙を見たキャシアとミレアは心配そうにアメリアを眺めた。
「いいえ、いいえ、大丈夫よ。大丈夫よ」
そういって、アメリアは心配する2人を抱きしめた。
「どうした」
とここで、玄関から帰ってこない妻を心配してフェブロがやって来た。
「あなた、ファルコが、私たちの孫が……」
アメリアはフェブロに対して、そういったがフェブロは何のことかわからず首を傾げる。
「どういうことだ」
フェブロは妻では話にならないとして、話になりそうなキルスに尋ねた。
「それは、その手紙を見れば大体わかると思う」
そういって、キルスはアメリアに渡した手紙を指さした。
「手紙だと、どれ」
フェブロはアメリアの手から手紙をとりそれを見た。
「なにっ、ふむ、あやつ、生きておったか、それに、まさか孫とはな、まぁ、入りなさい」
手紙をさらっと読んだフェブロは妻が何を言っているのかをすぐに理解し、嬉しそうに笑いながらそういった。
「その前に、俺の従魔であるシルヴァ―を庭に入れてもいいかな」
「ああ、構わん、そのなりでは迷惑だろう」
ということで、キルスはシルヴァ―に庭に向かうように指示して家の中に入っていった。
家の中にはいったキルス達はリビングに通され、キルスとキャシア、ミレアの3人は長椅子に対面にフェブロとアメリアがそれぞれ1人用のソファに座った。
「さて、色々聞きたいことはあるが、まずは、あやつ、ファルコの話を聞かせてくれ」
座ったところでフェブロがそういった。やはりなんだかんだで息子のことが気になるのだろう。
「わかった、父さんは今バラエルオン伯爵領のバイドルという小さな街で食堂を開いてる。料理も美味いってことで結構繁盛してるよ」
キルスがそういうと2人は安堵していた。
それを見たキルスは現在のファルコ食堂の話をしていった。
「上手くやっているというわけか」
「それで、あなたたちのお母さんはどんな人?」
ファルコ食堂の話を聞いた後、やはり気になるのか、レティアのことを聞いてきた。
「母さんについては、多分爺ちゃんも聞いたことあるんじゃないかな。殲滅のレティアって聞いたことない」
フェブロは元国軍兵士だった。それも結構な役職だったという話をファルコから聞いていたので、冒険者でも二つ名を持つレティアのことを知っていてもおかしくないと考えた。
「殲滅だと、おい、まさか、あの殲滅がお前たちの母親なのか」
やはり知っていたようで、フェブロは目を見開いて驚愕した。
それに対して、キルスはうなずいた。
「はははっ、まさか、あいつと殲滅がなぁ」
「あなた、レティアさんってどんな人なの、何か、物騒な名前だけど」
殲滅と聞いてアメリアは不安になった。
「えっとね、おかあさん、やさしいよ」
「あとね、ものすごくつよいんだよ」
そこにキャシアとミレアが続けざまにそういった。
「そう、お母さん優しいのね」
2人の孫の言葉にほっとしたアメリアである。
それでは足りないだろうと、キルスはレティアについて色々話したことでアメリアの不安は払しょくされたのであった。
 




