第08話 新たな隣人
5年が経過した。
キルスは5歳となり、日々忙しい毎日を送っていた。
「キルス、キレルのおむつ替えて」
「わかった」
「オルクはこっち手伝って」
「うん」
キレルというのは、1歳になったばかりの妹だ。
その他にも現在2歳となった弟、ロイタもいる。
そう、この5年でキルスたち姉弟は5人となっていた。
また、現在レティアが妊娠中でありもうすぐ弟か妹が生まれる(この世界の技術では生まれる前に男女が分からない)予定だ。
そのため、お腹の大きなレティアを助けるためにエミルを中心にオルクとキルスが、店に出て接客をしながらキレルとロイタの面倒を見ているというわけだ。
そんな中、エミルが店に出ていると、食堂の客ではない訪問者がやって来た。
「ごめんなさい、ご両親はいるかな」
訪問者は優しそうで美しい容姿をした獣人である猫人族の美女とその娘と思われる同じく猫人族の美少女の2人だった。
「えっと、ちょっと待ってください、お母さーん、お客さん」
エミルは、身重とはいえ、いきなりファルコを出すわけにはいかないと考えレティアを呼んだ。
「なーに、あら」
「初めまして、私、今日隣に引っ越してきたミーナと言います。こっちは娘のニーナです。ほら、ニーナも挨拶して」
「……」
ミーナに挨拶を促されたニーナだったが、黙ったまま頭をこくんと下げただけだった。
レティアとエミルはその反応に首をかしげながらも笑顔で応じた。
「そう、はじめまして、私はレティアよ。それで、こっちが……」
「娘のエミルです。初めまして」
「それと、ちょっと待ってくれる。みんなー、ちょっと来てくれる」
レティアはまだ家の中にいる子供たちを呼んだ。
「なに、お母さん」
レティアの呼び声にオルク、キルス、ロイタと、オルクに抱かれたキレルが顔を出し、オルクが代表して応えた。
「隣に引っ越してきたミーナさんとニーナちゃん親子よ、挨拶して」
レティアは出てきた子供たちにそういってミーナとニーナを紹介した。
「はじめまして、オルクです」
「キルスです。はじめまして」
オルクに続いてキルスが挨拶をした。
「ロイだお」
ロイタも真似をして挨拶をしたが、まだ上手く話せず、ちゃんとは出来なかった。
「この子はロイタで、オルクが抱いているのがキレルです」
「はじめまして、みんなかわいらしいわね。ミーナよ、よろしくね」
5人の子供たちが出てきたことでその多さに驚きながらも、ミーナは笑みを浮かべながらそう返事をした。
「……」
そんな中ニーナは未だしゃべらずにいた。
「ニーナちゃん?」
そんなニーナにエミルが首をかしげながら声をかけた。
「ごめんなさい、この子、本来は明るい子なんだけど、事情があって気を落としているの」
ミーナがそう説明した。
レティア達もその事情が気になったが、ここでそのことを追及するのもどうかと思ったのでそれ以上何も聞かないことにした。
「そう、えっと、ご主人は?」
レティアは、話を変えようとそういってからしまったと思った。
もし、ニーナが沈んでいる理由が父親にあった可能性があったからだ。
「主人は、仕事に行ってしまって、帰ってきたら改めて紹介するわ」
ミーナがそういったことにレティアは心底ほっとした。
「そう、ああ、そうそう、家の主人だけど……」
レティアは少し言いよどんだ。
「えっと……」
レティアが言いよどんだことで、今度はミーナが戸惑った。
「主人は、この奥にいることはいるんだけど、驚かないでね」
レティアはそういってから、厨房に向かった。
「?」
ミーナは、意味が分からなかった。
「えっと、家のお父さん、顔が怖いから」
「ああ、そういう、大丈夫よ、これでも元冒険者ギルドの受付だったからね」
レティア達の心配をよそにミーナは問題なかった。
実際、レティアに連れられてやって来たファルコを見てミーナは驚きはしたものの、すぐに普通に挨拶をしていた。
一方で、ニーナはびくっとしてミーナにしがみついたが……。
それからしばらくレティアとミーナは話し込み、ニーナはというと、エミルから話しかけられながらも所在なさげにしていた。




