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第74話 きれい、きれい

 キルス達が家に帰ったその日の夜、ファルコ食堂ではパーティーが行われていた。

 その主役はもちろん料理修行を終え、帰ってきたオルクとその婚約者であるラナである。

 余談だが、オルクの父親ということで緊張しながら紹介された、ファルコを初めて見たラナが悲鳴を上げたのは愛嬌というものであろう。


「おかえりオルク、それと、ようこそラナちゃん」


 それからまた、主役はもう1人、いやもう1体か。


「シルヴァ―も、ようこそわが家へ」


 そう、シルヴァ―である。シルヴァ―はキルスの従魔であり、前世のペット、それを聞いたキルス家族はもろ手を上げてシルヴァ―を歓迎した。


「バウ、バウン」


 シルヴァ―も歓迎されたことに喜び尻尾を振っている。

 といっても、さすがにこの場で思いっきり振れば大惨事になることが予測されるために、シルヴァ―もそこを理解し抑えていた。


「はははっ、偉いぞシルヴァ―」


 そんなシルヴァ―を見たキルスはシルヴァ―を褒めた。


 それから、キルス達は大いに騒ぎ飲み食った。



 そんな日の翌日はファルコ食堂は定休日、キルス達はいつも通り教会に行きエリエルへの感謝の祈りをささげるとともに、教会の手伝いと掃除をしたのであった。


 その後、自宅に戻ったキルスは庭でシルヴァ―と戯れる弟妹達を見ていた。

 ちなみに、オルクとラナはバイドルの街を案内という名のデートである。


 そんな休日を楽しんでいると、家の中から大きなたらいをを抱えたエミルが庭に出てきた。


「姉さん、なにそれ?」


 エミルの存在に気が付いたキルスが何を持っているのかを尋ねた。


「これは、シルヴァ―を洗うためよ」

「洗う?」

「そうよ。だってシルヴァ―ってずっと野生だったんでしょ。撫でたときもちょっとごわついていたし、綺麗に洗ってあげればキットふさふさよ」


 エミルはそういって嬉しそうにたらいを地面に置いた。


「あぁー、そういえば、忘れていたな。ていうか、シルヴァ―を洗うって、大変じゃね」


 縮小化スキルによって小さくなっているとはいえ、シルヴァ―は今だ体長3mはある巨体だ。

 それを洗うのだから、どう考えてもかなりの労力が必要になるだろう。


「だから、今日やるのよ、今日ならみんないるしね」


 エミルとしては昨日のうちにやってしまい、綺麗になったシルヴァ―をモフりたかったが、昨日はキルスやオルクも帰って来たばかり、そんな時にこのような重労働をさせるわけにはいかないと自重していたのである。


「さぁ、みんな、これからシルヴァ―ちゃんを洗うから手伝ってー」


 とここで、エミル同様たらいを手に持ったニーナがやってきてそういった。


「やるー」

「ぼくもー」

「はいはいはい、わたしもー」

「やりたーい」


 シルヴァ―と戯れていた弟妹達も一斉にやるやると手を上げた。


「それで、どうやって洗うんだ。姉さん」


 キルスは弟妹たちのやる気を見て、観念したようにエミルの指示を仰いだ。


「そうね。まずは」

『水よ 炎よ 合わさりて混じれ 熱水』


 エミルが唱えた呪文は水魔法と炎の魔法の複合魔法だ。これは、通常高熱の湯を作りそれを敵にぶつけるという物だが、魔力を調整すればちょうどいい温度の湯を作ることができる。


「これをたらいの中と、シルヴァ―にかけるのよ。シルヴァ―熱くない?」


 エミルは熱水をシルヴァ―に浴びせながら尋ねた。


「アウ」


 シルヴァ―は熱くないと首を振りながら気持ちよさそうにしていた。


「そういえば、シルヴァ―は前世でも風呂が好きだったなぁ」


 キルスは前世の記憶をたどり、シルヴァ―が風呂好きであったことを思い出していた。


「そうなの、それはいいことね」


 そういいながら、エミルは微笑んでいた。


「ほら、キルスも、黙ってみてないで、シルヴァ―にお湯をかけてあげなさい」

「わかったよ」


 その後、キルスもまた熱水の魔法でシルヴァ―にお湯をかけていった。

 そうして、シルヴァ―が全身お湯に濡れると、今度はたらいの湯に一緒にもってきていた石鹸を投入した。

 この石鹸だが、実はこの世界で石鹸はないこともないが、高級で主に大商人や貴族などが用いるもので、本来キルス達一般庶民では手が出せない物だ。

 だが、キルスが以前石鹸の作り方を教えたところ、エミルが石鹸作りにはまった。

 それ以降キルス達はエミル作の石鹸を日々使っていたのであった。


「みんな、これで、シルヴァ―を綺麗にしてあげましょう」

「うん」

「ルニヤ、シル、きれいにする」

「ぼくも」

「あっ、まってよー」


 キルスの弟妹達はエミルから受け取った石鹸付きのタオルを手に取り一斉にシルヴァ―に群がっていった。


「キー君も」

「あっ、ああ」


 キルスもニーナからタオルを受け取り、弟妹達では手の届かない頭の上などを洗っていったのであった。

 その間シルヴァ―はおとなしくしており、時に洗いやすいようにかがんだりしながら気持ちよさそうにしていた。

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