第72話 久々のバイドル
オルクの料理修行を終え、キルス達はともにバイドルに帰ってきた。
その際に、キルスの従魔となったシルヴァ―に乗って帰ってきたこともあり、あっという間にバイドルが見えてきた。
「帰ってきたね」
「ほんと、早いね」
「……」
「さすが、シルヴァ―だな」
「バウン」
キレルが上空からバイドルを見て感動しつつ帰ってきたことを喜び、オルクがシルヴァ―の早さに驚き、ラナはあまりの早さと、高さに何も言えなくなっていた。
「シルヴァ―、あそこに降りてくれ」
「アウン」
キルスが指示した場所はバイドルから少し離れたところにある草原だった。
さすがに、いきなり門の前に降りればバイドルがパニックになると考えたからだ。
「ここからは歩いていくけど、距離もあるしキレルとラナは乗っていてもいいぞ。2人ぐらいなら問題ないし」
キルスは歩くのに問題ない距離だが、旅に慣れていないキレルとラナには少々遠いと考えての発言であった。
ちなみにオルクはというと、キルスのように旅慣れているわけではないが、キルスの家族だけあって、かなりの体力を有しているために問題ないことをキルスが知っているからであった。
そうなるとキレルはどうだとなるが、キレルはまだ11歳という年齢のためにまだキルスやオルクほどの体力がない。
「そうだね。2人はシルヴァ―に乗っているといいよ」
「うん、乗ってる」
「えっと、いいの」
「バウン」
キレルは嬉しそうにシルヴァ―の首にしがみつきながら返事をして、ラナは申し訳なさそうにシルヴァ―に尋ねた。
最初は、恐れていたラナも今ではすっかりシルヴァ―を受け入れていた。
それに対して、シルヴァ―は元気よくいいよと返事をした。
それから、4人と1頭は歩き出し街道に出て、バイドルの街に向かったのだった。
「うおぅ、って、キルスか」
キルス達が街につくと門番をしていたドーラフが、シルヴァ―を見て驚愕して危うく腰の剣を抜こうとしたところで、隣にキルスがいることに気が付き、手を離した。
「よう、ドーラフ、久しぶりだな」
「お、おう、そうだけどよぉ、お前、なんだよそれ?」
ドーラフは挨拶もほどほどにして何より気になったシルヴァ―について尋ねた。
「ああ、ちょっとあってな。俺の従魔にしたんだよ」
「従魔って、はぁ、まぁ、お前なら、アリか」
ドーラフはキルスだからということで納得した。
「それじゃ、そいつも街に入るんだよな。登録はしたのか」
この世界にいて従魔を持つにはその魔物を従魔登録しなければ街中に連れて行けない。
「いや、まだだ、あとでニーナ姉さんに頼もうと思ってな」
「そうか、それじゃ、これを着けとけ」
そういってドーラフが差し出したのは紐のついたカードだった。
「これは?」
「仮登録証だ。これを着けておけば街の中に入れる。本登録したら返しに来い」
「なるほどな。わかった」
キルスはそれを受け取り自身やオルクたちの手続きをしてからバイドルに入ったのだった。
「はぁ、帰ってきたぁ」
「そうだね。うーん、変わらないね。ここも」
「ここが、バイドル」
久しぶりのバイドルにそれぞれが一息ついた。
「あっ、キー君、キレルちゃん、オルク君、おかえり」
そこに声をかけてきた人物がいる。
「ニーナおねえちゃんだ。ただいまぁ」
「ニーナさん、ただいま」
「ただいま、ニーナ姉さん」
「おかえり、えっと、その子が、ラナちゃん」
「は、はい、初めまして、ラナと言います」
ラナはニーナがキルス達兄妹にとっては姉と同じだと聞いていたこともあり、緊張していた。
「ええ、はじめまして、ニーナよ。オルク君のことお願いね」
ニーナはキレルからの報告でラナの人柄もわかっていたこともあり、オルクの婚約者として申し分ないと判断しているために笑顔で迎え入れた。
「それで、キー君、その子が、例のシルヴァ―ちゃん」
最後にニーナはキルスの隣にいるシルヴァ―を見て尋ねた。
「ああ、そうだよ。シルヴァ―、この人はニーナ姉さん、俺の姉さんみたいなものだ」
「アウン」
シルヴァ―はフェンリルだけあり頭がいい、そのためキルスの言葉を理解し、ニーナがキルスの姉と同様であると正確にわかったようで、返事をしつつニーナに頭をこすりつけた。
「あら、ふふふっ、可愛いわね」
そんな、シルヴァ―の行動に大きさなんて関係ないと言わんばかりにニーナも可愛がった。
「それじゃ、ギルドに行きましょうか、まずはシルヴァ―ちゃんの登録をしないといけないし、キー君も報告があるでしょ」
「ああ、そうだね。それじゃ、俺はギルドに行くから、兄さんたちは先に帰っていてよ」
「わかった。先に帰っているよ」
こうして、キルスとニーナ、シルヴァ―、オルクとキレル、ラナに別れて、キルス達は冒険者ギルドに、オルクたちはファルコ食堂へと帰っていた。
 




