第07話 サイクロプス討伐
レティアが討伐対象を探していると、不意に聞こえた雄叫び、振り向いた先にいたのは、まさに探していた魔物サイクロプスだった。
サイクロプスは、簡潔に言うと一つ目の巨人。
その体長は4メートルから5メートルはあろうかという巨体で、巨人というからには人型だ。といっても、その知性は低く、ただ本能のみで生きているといってもいいだろう。
しかし、その巨体から出る力は絶大で、脅威度はBとなる。
この脅威度というのは、冒険者のランクと対応しており、HからSまであり、Hとなると、一般人ですら倒せるほど弱く、もはや脅威度とは呼べないだろう。
つまり、この脅威度Bとなると、ランクBの冒険者なら単独でも何とか倒せるという意味となる。
また、Cランクパーティーであれば何とか倒すことができる。実際、もしレティアがいなかったら、ランクCのパーティーに依頼が出されるはずであった。
といっても、Cランクだと、かなり厳しい戦いとなるのは言うまでもなく、よほどの連中でなければこれを受けることはない。
では、ギルドがどうしたかというと、放置、ではもちろんなく、少し遠くの街にいるBランク冒険者に依頼を出す形となるだろう。そうなると報酬が上がってしまい、ギルドとしてはあまりやりたくないことであるのは事実だ。
だからこそ、レイチェルは、レティアがこれを引き受けたことに感謝していた。
「そっちから来てくれるなんてね。手間が省けたわ」
レティアはその姿を見ても恐れるどころか、これで早く帰れるとそう思っていた。
「それじゃ、悪いけど、さっそく討伐させてもらうわね」
そういって、腰に下げていた剣を抜き放った。
この剣は、レティアが冒険者として愛用しているもので、魔鋼を芯として、刃の部分にミスリルを使っているかなりの名剣といっても差支えない。
ちなみに、魔鋼というのは、魔力の濃い場所にある鋼が変化した金属で、通常の鋼より硬く魔力伝導率が高い、そのため剣に魔力を通すという技術が使いやすい。
また、ミスリルは、言わずと知れた金属で、魔力を通せばその切れ味が増していくという性質を持っており、その加工は難しく高度な技術が必要になるために、ドワーフ族の鍛冶屋しか加工できないと言われている。
それほどの剣を愛用している時点で、レティアがいかに優れた冒険者であることがうかがえるだろう。
「グォォォォォ」
レティアが剣を抜いたのを見たサイクロプスはレティアを脅威な敵とみなし、咆哮をあげた。
それを受けたレティアは恐れることもなく、距離を詰める。
そんなレティアに対して、サイクロプスは持っていた棍棒を無造作に振り下ろした。
「ぬるいわよ」
レティアはブランクを感じさせない動きで素早く横に飛び棍棒をよける。
そして、すかさずに剣を横一閃。
それをサイクロプスはその巨体とは思えない速度で後方に1歩下がってよける。
それを見たレティアは嬉しそうにニヤリとしてから、構えなおして再び距離を詰めた。
ここで、サイクロプスも迎え撃つために棍棒を振り下ろしてきた。レティアはそれを剣で受け止めた。
「ガァ?」
サイクロプスとしてもまさか自分の攻撃が受け止められるとは思っていなかったのか驚いていた。
それもそのはず、サイクロプスはその巨体からわかる通りすさまじい膂力を持つ、それに対してレティアは女性であり体格も比較的やせている。
にもかかわらず、サイクロプスと互角に、いや、むしろ勝った力を発揮しているのだ。
これは、レティアの膂力が元々人並外れているというものもあるが、それプラスで魔力を体内に循環させることで身体強化を行っていることで、この膂力を手に入れているというわけだ。
「はぁぁぁ」
その驚きはサイクロプスのスキとなる。その瞬間レティアは気合とともに剣を振りぬいた。
「グワァァ」
その勢いで、サイクロプスは吹き飛んだ。
『風よ、汝は刃、鋭き刃、その刃にて、我が敵を切り裂け……風刃』
吹き飛ばしたことで距離と時間ができたことで、レティアは素早く魔力を練り込み風魔法を詠唱、放つ魔法は’風刃’、これは読んで字のごとく風の刃。
風魔法でも初級に相当する魔法だ。といっても、練り込む魔力の量でその威力はピンからキリまである。
「ガァァッ」
吹き飛ばされたことで体勢を崩していたサイクロプスは風刃をよけることができずに体が切り裂かれた。
といっても、サイクロプスは巨体、少し体を切り裂かれてもそこまでのダメージはない。
「まだまだよ」
そこにすかさず、サイクロプスに接近していたレティアが高く飛び上がり一気に切り上げた。
「ガワァァッ」
サイクロプスはそれをよけることが出来ずまともに受けてしまった。
それによってついに動かなくなった。
「ふぅ、討伐は久しぶりだけど、結構手間取ったわね。これもブランクかしら」
レティアとしてはこの戦いは不満だった。現役で活躍していたころであったら、もっと簡単に倒せていたはずだっからだ。
「まぁ、でも、倒せたからいいか、それで、後はさっそく討伐証明部位を切り取らないとね」
レティアとしては、今は冒険者というより食堂の女将という自覚なのでたとえ戦闘に手間取っても気にしていない。
それより、サイクロプスの討伐証明部位の切り取りの必要があった。
討伐証明部位というのは、今回のような討伐依頼を受けた場合、ちゃんと討伐対象を討伐したという証明をするための部位のことで、これをギルドに提出しないと討伐したということにならない。
サイクロプスのような人型の場合は耳となる。
「よし、これでいいわね。思ったよりも早く見つけることができたから、これなら今日中に帰れるわ。はやく帰って、子供たちの顔を見たいし」
レティアは1秒でも惜しむように手早く帰り支度を済ませるとさっさとバイドルに戻っていった。
速足で帰ってきたためにレティアは日が暮れる前にはバイドルにたどり着いていた。
「帰って来たわね。早くギルドに行って報告して帰りましょう」
それから、レティアはギルドに行きサイクロプス討伐の報告を受付嬢にして、受付嬢から魔封じの腕輪がバイドルに向かっているという情報をもらってから家路についた。
「ただいま」
「おかえり、レティア」
レティアが帰るとファルコが笑顔で迎えた。
「おかーり」
「りー」
続いてエミルとオルクがレティアに飛びつきながら出迎えた。
「ただいま、2人ともいい子にしてた」
レティアはそういいながら子供たちに慈愛の笑顔を向けている。
「あうー、あー」
ベッドで寝かされていたキルスもレティアの気配を感じて、レティアにおかえりと行ったようだ。
(確か、サイクロプスを討伐しに行くって行ってたけど、どうやら無事に帰ったみたいだな。そう考えると、もしかして俺の母さんは強いのだろうか)
キルスは帰ってきたレティアに抱きかかえらえれながらそんなことを考えていた。
そんな日からしばらくが経って、キルスのもとに魔封じの腕輪が届いた。
(まさか、生まれ変わっても、これを付ける羽目になるとはな。しばらくは魔法は使えないらしいな)
そう思ったキルスではあったが、前世に付けられた物とたとえ同じ効果の、同じ名前の魔道具でも今回のは両親の愛情を感じられ、嫌な気は一切しなかった。