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第66話 ハンバーガの中身

 コントラル祭り2日目となったが、なぜか前日と違い客がまばらだった。

 どういうことかと思っていたら、どうやらアクレイド商会がトルレイジ亭の真似をしてハンバーガを出していた。

 その際に、まるでトルレイジ亭で使っている肉が新鮮ではないくず肉であるかのようにふるまい、また別のところではトルレイジ亭にハンバーガーのアイデアを盗まれたと謳っている紙がばらまかれていた。


 さてどうするとデイケスをはじめとして面々で悩んでいると、不意に声をかけられた。


「あら、どうかされたのですか」


 その声に振り返ると、そこには一輪の花が不思議そうな表情でキルス達を見ていた。


「で、殿下?」


 最初に正体を看破したのは前日に出会ったキルスだった。


!!!


 それを聞いた周囲の者たちが一斉に驚愕し、その場で跪いた。


「キルスさん、昨日ぶりですね」

「はい、そうですが、殿下、なぜ、ここに?」


 キリエルン王国第二王女たるカテリアーナがなぜ、こんな祭りの屋台の前にいるのか、キルスには訳が分からなかった。


「ふふっ、今日は、キルスさんが考案されたというハンバーガーというものを頂きに参りました」


 確かに昨日カテリアーナと話をしていた際に、トルレイジ亭で自身が考案したハンバーガーを売り出していることを話していた。


「えっと、確かに、話はしましたが……」

「王女殿下!」


 キルスが応えようとしたところ、突然カテリアーナを呼ぶ声とともに1人の男がやって来た。


「王女殿下におかれましては、ご機嫌も麗しく、その美しさはまさに大輪の華、我が国の至宝にございましょう」

「そうですか。ところで、あなたは?」


 褒められ慣れているカテリアーナはこの人物は一体誰だろうと尋ねた。


「申し遅れました。わたくしはバイエルンに居を構える商会、アクレイド商会長である、ゴーザスと申します。以後お見知りおきを頂ければ幸い似て存じます」

「それで、ゴーザス殿、わたしに何か御用でしょうか」


 カテリアーナは突然キルスとの会話を邪魔されたことに、若干不機嫌ではあったが、それを一切出さずにゴーザスに尋ねた。


「はい、そちらの店で扱っているもの肉は鮮度もないくず肉でありますれば、殿下のお口には合いませんので、僭越ながらお止しに参りました」


 こともあろうか、ゴーザスはトルレイジ亭の肉がくず肉だという根拠もなく言いに来たのであった。


「なんだと、貴様、そのようなものを殿下に……」


 ここまで黙っていたシュレックがここぞとばかりにキルスをにらみつけて、腰の剣に手をかけながら憤慨した。


「おやめなさい、シュレック、キルスさん、今のお話は?」


 カテリアーナは違うと考えながらも一応キルスに尋ねた。


「当然違いますよ。まぁ、確かに、直前になって突然頼んでいた食材が買い占められて、店に届かなかったことがありましたが、そこは俺が用意しましたので」


 キルスは、買い占められたという時にゴーザスをちらっと見た。

 それだけで、カテリアーナは何となく事情を悟った。

 実は、この騒動は、前日カテリアーナの占いスキルによって何かが起きるとわかっていた。もちろん簡易的な占いであったために何があるのかはわからなかったが、キルスを信じるようにと出ていたのであった。


「用意しただと、馬鹿な、あんな短時間で用意など出来るはずがない」

「そういわれてもな、用意できたものは出来たんだよ。ですので、殿下トルレイジ亭で使っている食材はどれも新鮮な物ですよ」

「それを、信用しろというのか」


 ここで、シュレックがここぞとばかりに食って掛かった。


「兄さん」

「うん、待ってて、今持ってくる」


 キルスの指示にオルクが店に走った。


 それから、少しの時間もかけずにオルクはブロック肉を手にもって来た。


「王女殿下、僕はキルスの兄、オルクと申します。こちらが今回使用しているオーク肉です」


 オルクは王女が相手でだというのに少しも緊張せずに応対していた。


「まぁ、立派なお肉ですね。ですが、キルスさん、なぜ、彼はこれを鮮度のないくず肉と?」


 これは純粋な疑問であった。


「そうですね。まずは、これをご覧ください」


 そういいつつキルスは屋台からハンバーガーを1つ手に取った。


「それが、ハンバーガーですか、パンで挟んでいるのですね」

「はい、そのパン、バンズというのですが、これで挟んだ食材がこれなんです」


 そういいつつキルスはバンズの上を手に取ると剥がして中を見せた。


「くず肉と揶揄される理由がこれです。御覧の通り、これは肉を細かくした物をまとめて焼いたものです」

「ええ、確かに、そう見えますね。ですが、なぜ、そのようなことを?」


 これはこの世界の人間共通の疑問であった、いい肉をわざわざ細かくするという考えがわからないのだ。


「それは、歯触りをよくするためです」

「歯ざわりですか、確かに、柔らかくなりそうですね」

「ふん、軟弱な平民では、硬い肉すら噛み切れんとはな」


 ここで、シュレックがまたキルスにけんかを売ってきた。


「そりゃぁ、お前や、俺たちのように若いなら、硬い肉を噛み切ることは容易だろう、だが、歯の弱った年寄りや幼い子供はどうだ」

「そうですね。お年寄りや幼い子供は硬いお肉より、こちらがいいかもしれませんね」

「ええ、そういうことです。まぁ、今回はハンバーガーのパテということで、細かくしたんですがね」

「そうなのですか。それで、それはどのようにして食べるのでしょうか」


 カテリアーナは話を聞いてますます食べてみたくなった。


「ああ、えっと、ですね。昨日も申した上げた通り、これはこう手にもって、かぶりつくという物ですので、殿下には少々合わないかと」


 王族としていきてきたカテリアーナにとって食べ物を直接手に取り、かぶりつくなど出来ようはずもなかった。


「そうですか、それは、困りました」


 カテリアーナはどうしても食べてみたいが、さすがにかぶりつくことはできない、どうしたものかと悩み始めた。

 それを見た、キルスはある提案をすることにした。


「でしたら、殿下このパテですが、これと似た料理がございます。それならば殿下でもお召し上がれるかと思います」

「まぁ、それは本当ですか。では、ぜひ、それを食べさせて頂けませんか」

「わかりました」

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[一言] 「王女殿下におかれましては、ご機嫌も麗しく、その美しさはまさに大輪の華、我が国の至宝にございましょう」「そうですか。ところで、あなたは?」 王女と知っていて、地位の低い者から声を掛けて大丈…
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