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第61話 出会いと模擬戦

 キレルを含むトルレイジ亭の面々が忙しくコントラル祭りを楽しんでいる一方、キルスは貴族街を歩いていた。

 それというのも、今朝宿にタニヤが突然やって来た。

 何の用かと思ったら、どうやら領主が呼んでいるという。

 こんな時に一体何だろうと思いながらも、領主からの呼び出しに応じないわけにはいかないということで、さっそく向かうことになった。


 ということで、朝から貴族街に出向くことになったキルスだったが、どこか雰囲気が違うことに気が付いた。


「なんか、警備が以前より厳しい感じがするな。ということは、タニヤが言っていたことは本当だったのかな」


 ここに来る前、タニヤからある噂を聞いていた。

 その噂は、ここキリエルン王国の第二王女がなぜかバイエルンにやってきているというものだった。

 実は、アクレイド商会が、トルレイジ亭に対してあそこまでの嫌がらせをしてきた理由がまさに、この第二王女の来訪を噂で知っていたからであった。


「まぁ、行ってみればわかるだろ」


 キルスは、そう思いながら貴族街を歩き続ける。

 そうして歩いていると領主の屋敷が見えてきた。


「何者だ。ここは領主様のお屋敷だぞ」


 門の前にいた衛兵がキルスを威圧しながら止めた。


「俺はDランク冒険者のキルスだ、領主様に呼ばれてきたんだけど」


 キルスはそう名乗りながら、冒険者カードを提示した。


「……失礼しました。少々お待ちください」


 冒険者カードを確認した衛兵の1人が急いで屋敷の中に入っていった。

 すると、先ほどの衛兵とこの屋敷の執事セライスがやって来た。


「これはこれは、キルス様、わざわざご足労頂きましてありがとう存じます」

「いや、構わないさ、それで、一体なんの用なんだ」

「はい、伯爵様は直接お話したいと申しておりますので、どうぞ中へ、お入りください」

「わかった」


 というわけで、セライスについてキルスは屋敷の中に入っていった。


 そうして、キルスが連れていかれた場所は、前回とは違った部屋であった。


「こちらでございます。キルス様」


 ここにきてセライスが若干緊張しているように見えたキルスは噂を考えて、間違いないと確信した。


 そうして、案の定部屋の中に入ると領主であるバラエルオン伯爵の対面に美しい少女と背後に立つ1人の騎士が目に入った。


(噂は本当だったみたいだな。それで、あの子が第二王女ってところか)


「おおっ、キルスか、よく来たな、まぁ、座れ」


 キルスを認めるや否や、伯爵はキルスに自分の隣に座るように言った。


「ご無沙汰しています、伯爵様」


 キルスは、まず伯爵に頭を下げて挨拶をして、ふと少女の方を見た。


「うむ、そうだな。まずは、紹介しよう」


 キルスの視線を見た伯爵は思い出したように紹介をした。


「こちらは、我が国の第二王女であらせられるカテリアーナ・ド・ラーシェフ・キリエルン殿下だ」


 それを聞いてキルスは噂が本当であったと、事前にこの噂を知らせてくれたタニヤに感謝した。


「そして、殿下、この者が冒険者のキルスです」

「そうですか、初めまして、キルスさん、お噂は伯爵殿より伺っています。なんでも、エンシェントドラゴンを討伐されたとか、見たところ、まだお若いのに素晴らしいですわ」

「いえ、運がよかっただけです」


 これは謙遜ではなく事実である。


「そうでしょうな、このような小僧がドラゴン討伐など、出来ようはずがありません、大方、すでに死に掛けであったのでしょう」


 一方、第二王女の背後に控える騎士はキルスの実力を疑っている。

 まぁ、実際問題、騎士の方が正しいのかもしれない、キルスは現在15歳、そのキルスがエンシェントドラゴンを討伐したなどと信じられないからだ。


「シュレック、失礼ですよ」


 そんな騎士、シュレックに王女はたしなめた。


「失礼いたしました、しかし、先ほども申した通り、このような、幼い者が、ドラゴンを討伐したなど、わたしには信じられないのです」


 たしなめられてもなお、騎士はキルスの実力を信じられなかった。


「ふむ、ならばシュレック殿、キルスと模擬戦をしてはどうかな」


 ここで、伯爵がとんでもないことを言い出した。


「模擬戦? ですか、いいでしょう、私が、この小僧の化けの皮を剥いでやりましょう」


(まじで?)


 こうして、なぜか、キルスとシュレックの模擬戦を急遽行うことになってしまった。



 そうして、庭にある訓練場にやって来たキルスたちは、第二王女と伯爵が見守る中、対峙していた。

 伯爵は、楽しそうに、第二王女は心配そうに見ているのを見て、やはり第二王女もキルスの実力を信じてはいないようであったが、伯爵はキルスの母レティアを知っていたためにキルスが負けるはずがないと確信していた。


「それでは、はじめ」


 伯爵の号令の元、騎士は抜剣したが、キルスは剣を抜かなかった。


「貴様、抜かんか」


 一向に剣を抜かないキルスにシュレックはいらだちを見せてそういった。


「必要ない。どこからでもいいぞ」


 キルスは、少々やる気を見せずにそういった。

 実際、キルスにはやる気はないが……。


「貴様~」


 それを挑発と感じたシュレックは、殺気を帯びつつキルスに斬りかかった。


 シュレックの剣が迫ってくる。それをキルスは特に構えるわけでもなくじっと見ている。


「っ!」


 そんな様子を見た第二王女は、キルスが動けないと見て、息を飲んだ。

 そんな王女の心配をよそにキルスはシュレックの剣が当たる瞬間文字通り紙一重でよけ、シュレックの手をつかみ手前に思いっきり引き、その勢いのまま右ひじを腹部に入れ、ひるんだところを投げた。


「!!?」


 この世界では投げ技が使われることはほぼない、そのためこの場にいた王女、伯爵、シュレックともに何が起きたのかわからなかった。

 そんな中、キルスはいまだ持っていたシュレックの手をそのまま背中に押し当てて固めた。


「しょ、勝負あり、勝者キルス」


 無手で挑んだキルスの圧勝であった。

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