第06話 久々の冒険
ギルドから帰ってきたレティアはさっそくファルコにギルドであったことの報告をした。
「……というわけで、明日から、久しぶりに討伐依頼を受けてくるわ。帰るのは明後日になると思うけど、あとお願いできる」
「いいけど、大丈夫?」
ファルコは心配そうにそういったが、その表情は知らない人がいたら、レティアを脅迫しているようにしか見えない。
まぁ、それはともかくファルコとしては、レティアが凄腕の冒険者であることは知っているが、かといって、心配でもあった。
「大丈夫よ、訓練は欠かしていないし、今回の討伐はランクBでも下位の方だからね。まぁ、油断しなければ問題ないわ」
「そう、まぁ、頑張って」
「ええ、任せて」
こうして、翌日、ファルコが心配する中、レティアは久しぶりに冒険者時代の装備を身に付け、店を出て行った。
レティアがやって来たのは街から出るための門、この世界は魔物がうごめく世界、だからこそ街はもちろん、小さな村ですら必ず防壁が存在する。
「おはよう」
「おはようございます。身分証の提示をお願いします」
それを受けたレティアは身分証として冒険者ギルドカードを取り出して門番に渡した。
(これ出すの、久しぶりね)
この世界の身分証というものはいくつか種類がある。まず一般的なものは市民証だ。この市民証というものは、どこの街の住人であるということを証明するもので、街の住人ならすべての人が持っている。
しかし、この市民証は、一般住人であるという証明となるので、これを提示した場合、単独で街の外に出ることはできず、出る場合は駅馬車や、商隊などの護衛付きの集団でなければ出れないという制限がある。
これは、戦闘能力を持たない一般住人を守る目的のものだ。
それに対して、レティアが提示した冒険者ギルドカードは、冒険者に登録した際に発行されるもので、当然ランクもかかれている。最低ランクのHとなると市民証と同じ扱いとなるが、G以降だと、単独でも街の外に出ることができる。
まぁ、最も、Gランクでも街によっては出してもらえない街もあったりするが、これもまた、その地域の魔物が強くGランクでは太刀打ち出来ないからである。
その他にも、各ギルドが発行しているギルドカードもあるが、まぁ、ここでは省略とする。
「はい、これね」
「拝見します。……!?」
レティアが提示したギルドカードを見て門番は驚愕した。
それはそうだろう、ここバイドルは小さな街だ、そのため冒険者のランクもせいぜいがCランク、レティアのBランクなんてものはそうそう見ない物だからだ。
「し、失礼しました。問題ありません。どうか、お気を付けて」
「ありがとう」
門番が急にかしこまったことに少し微笑みながらレティアは門をくぐっていった。
レティアが門を抜けたあと、先ほどの門番の肩に手を置いたものがいた。
「どうした?」
声をかけてきたのは、彼の上司だった。
「隊長、えっと、その、先ほどの女性ですが……」
「ああ、ファルコ食堂のレティアさんか?」
「ファルコ食堂? ですか」
「ああ、大通りから少し路地に入ったところでな……ああ、そうか、そういえば、今日は冒険者の格好だったからな。ランクを見たわけか」
隊長はこの街で長いこと警備兵をしている。そのため当然レティアの冒険者時代を知っていた。
「まさか、この街にBランクの人がいるとは思わなかったです」
「まぁ、そうだろうな。でも、彼女は冒険者を引退したはずだけどな」
ここにきて隊長としては疑問が浮かんだ。
「まぁ、ギルドに頼まれたとかだろ、俺たちが気にすることじゃないさ」
実際には、Bランクが動くような依頼は警備兵としては気にしなければならない事態だろうが、レティアが動いた時点で問題ないと隊長は経験から知っていたのだった。
「はぁ、そうですか」
「そういうことだ、ほら、次の仕事をしろ」
こうして、いまいち釈然としないまま、門番は仕事を再開したのだった。
そんな門でのやり取りを知らないレティアはというと、街道をひたすらに歩いていると、だんだんと日が落ち始めてきた。
「そろそろ、日が暮れそうね。野営の準備をしましょ」
レティアは慣れた様子で、背嚢からテントなどを取り出し、これまた慣れた様子で設置を始めた。
ちなみに、レティアがテントを広げた場所は、街道の脇にところどころ設置されている野営地と呼ばれる場所だ。
これは、街道を行きかう人たちのために設置されたもので、誰でも無料で野営を行うことができる。
「これ、食べるの久しぶりね。こうして、食べると、ほんとおいしくないわよね」
レティアが食べているのは硬く焼き上げた堅パンと簡単に作ったスープだった。冒険者というものは通常このようにあまり美味くはない保存食を食べるのが一般的だ。
レティアとしては冒険者として活動していた時期によく食べていたものだが、最近はもっぱらファルコが作った物を食べていた。
そのため、久しぶりの保存食をまずく感じているのは当然だった。
もっとも、レティアが食べている保存食もファルコ特製であり、他の冒険者たちのに比べればかなりうまい。
「さてと、後は寝るだけだけど、その前に、見張りをどうするかね」
レティアはそうつぶやくと周囲を見渡してみた。
実は、この野営地、レティア以外にも数人が利用していた。
この場合、夜中の見張りは話し合いの末の持ち回りとなる。
もちろん、見張りにつくのは冒険者や傭兵など戦闘技術を持った者に限るが。
「なぁ、あんた、冒険者だろ、見張りについてだけど」
レティアが動こうとすると不意に冒険者の男に話しかけれらた。
(ランクはDあたりかしらね)
レティアは、男のランクを大体のあたりを付けた。
「そうね。私は1人でもいいから、あなたたちは2人1組みでいいわよ」
レティアがそういったのは、ここにいる見張りができる者が数人しかいなかったからだ。
「いや、何を言っているんだ。あんたこそ、誰かと組んだ方がいいだろ」
男としては、レティアのような女性が1人で見張りは無理だろうと思ったからだ。
「大丈夫よ、これでもBランクだからね」
「Bランク!」
その場にいた誰もが驚いた。Bランクというものはそれほど高ランクということだろう。
「そういうこと、ほらギルドカードよ」
レティアはそういって、ギルドカードを出して見せた。
「……ほんと、いや、すまない」
「いいわよ。それで、どうする」
「いや、えっと、そうだな。確かに、Bランクなら、見張りも1人で問題ないな。俺たちのランクだと1人はきついが……」
男は少し気恥ずかしそうにそういった。
それから、1晩その場にいた冒険者たちによって見張りを行ったが、特に敵などは現れず、平和な夜を過ごしていた。
もっとも、街道の野営地で襲撃を受けることは滅多にないが。
翌朝、冒険者たちと別れたレティアは(ちゃっかりファルコ食堂を宣伝)、少し進んだところで街道を外れた。
「確か、このあたりに目撃情報があったはずだけど……」
レティアはそうつぶやきながら、討伐目標を探していた。
「グォォォォゥゥゥゥ」
その時そんな雄叫びが聞こえてきた。